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5話
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「それで話って?」
王宮からの帰りの馬車が走り出して早々、アシンが切り出すと、リーシャは長いドレスの袖飾りをもじもじと、弄り出した。
「リーシャ?」
「あのね。こんな事を言ったら、パパ、お父様に叱られちゃうかもしれないの」
「そうなの?でも僕は叱ったりしないから、なんでも話してごらん」
俯いて袖を弄り続けるリーシャが口を開くのを、アシンは辛抱強く見守っている。
フワフワした見た目とは裏腹に、しっかりした芯を持つリーシャは、一度口にした事は、最後までやり遂げる強さをもっているし、言い難い事が有っても、養父や義兄に隠し事をしたり、嘘をついたりしたことが無い。
こんな時のリーシャに必要なのは、口を開く勇気が湧くまで待ってやる事だ、とアシンは理解していた。
「あのね・・・今日陛下に、殿下と婚約の事をどう思うかって、聞かれたの」
「うん。それで?」
「・・・姿絵でお顔は存じ上げて居るけれど、会った事は無いし、お手紙のやり取りもしたことが無い。殿下がどんな方なのか、私は全然分からないの。それに会いたくないって思う程、私は殿下に嫌われているでしょ?」
「う~~ん。嫌うも何も、会ったことが無いから、嫌う理由は無いと思うよ?」
「うん。陛下も同じような事を仰っていたの。でも嫌ってなくても、お会いできないって事は、私に興味がないって事よね?」
「それは、そうかもしれないね」
「殿下とお兄様は、同い年だから。私はうんと年下の子供よね?だから殿下が、私に興味ないのは、仕方ない事だと思うの」
「う~~ん」
僕の興味の全ては、リーシャにあるんだよ?
「陛下はそんな事ない、って仰るのだけど」
「それでリーシャは、陛下に何と答えたんだ?」
「・・・お兄様は、私の部屋に飾ってある、本当のお父様とお母様の絵を、見た事が有るでしょ?」
「うん、何度も見た」
リーシャによく似た、線の細い優し気な父親と、リーシャと同じ銀糸の混ざった黒髪と、エメラルドの瞳を持つ母親に抱かれた赤ん坊。
それは幸せな時間を切り取った、家族の肖像画だった。
「お父様は、毎日朝と寝る前に、あの絵のお母様に、愛していると告げていたの。そしてあの絵のお母様に、色々な事を話しかけていた事を、今でもよく覚えていて」
「そうだったんだ」
伯父上はリリーという女性を、心から愛していたんだな。
「私はお母様の事を全然覚えていないけど、お父様がお母様の事を話してくれる時の、優しいお顔と声は、今もちゃんと覚えているのね。だから二人とも死んじゃったけど、二人は私の理想の夫婦で、結婚するなら、お父様みたいな人が良いって、お返事したの」
「そうか、そうだよな」
会ってもくれない男となんて、結婚したいと思わないよな!
「陛下は難しいお顔で黙ってしまって。でも殿下だって、興味もない相手と結婚するのは可哀そうでしょ?だから、私との婚約の内定を取り消してください、ってお願いしたの。殿下の好きな人と、結婚させてあげてくださいって」
「リーシャ?本当にそんな事を、陛下に言ったの?!」
「うん。私もどんな性格の人かも分からない、男の人と結婚するのは怖いし・・・そんなの良くないと思ったから・・・」
ヨシッ!!
ヨシヨシヨシヨシッ!!
リーシャでかしたっ!!
ざまあ見ろ、ゼフィール!!
逃がした魚は、デカいと知れッ!!
ニヤつく口元を手で隠したアシンは、取り繕った真面目な視線を、しょんぼりと俯く義妹へと向けた。
「リーシャは間違ってない。だから元気を出して」
「お兄様。お義父様は、陛下に𠮟られちゃう?」
アシンは座席の向かい側で、心配そうな顔で見上げて来る、義妹の隣に座り直し、その肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫だよ。悪いのは殿下の方なんだから。この事はボクから父上に話して置く。リーシャは、何も気にしなくていい」
「ほんとう?」
「あぁ、本当だ。リーシャには僕が付いて居るからね。心配しなくていいんだよ」
優しい兄を演じながら、内心で喝采を叫び、ほくそ笑むアシンだった。
侯爵邸に帰宅したアシンは、侍女長のファッジ夫人にリーシャを預けると、その足で父がこもっている研究室に足を運んだ。
「どうしたんだ?そんなに血相を変えて。もしや、王宮でリーシャに何かあったのか?」
ノックの返事を待つのももどかしく、勢いよく扉を開いた息子に、一瞬でエドモンドの顔色が青褪めた。
「父上。ご報告があります!」
アシンの勢いに、研究助手達はそそくさと部屋を出て行った。
人払いが済んだ侯爵は、研究机に陣取り、早く話せとアシンに催促をして来る。
そこでリーシャとの、馬車での会話を語って聞かせると・・・。
「でかしたッ!!リーシャッ!!」
僕と全く同じ反応じゃないか・・・。
やだな。
こんな処で、血の繋がりを感じちゃったよ。
「陛下からのお叱りが有るのではないかと、リーシャが心配しています」
「でも。悪いのは殿下だからねぇ。陛下も強くは言えないでしょ」
「その通りです。リーシャの意思確認は出来ました。この機に破婚を願い出た方が良いと思います」
息子の下心が透けて見える、熱のこもった言い分に、エドモンドは顔を引き攣らせながら諾と答えた。
数日後、国王との面会を許され、破婚が叶う!とウキウキと王宮へ向かったエドモンドが、屋敷へ戻って来たのは、日付も変ろうかという深夜の事だった。
「アシン、起きてたのか」
「お帰りが遅いので、リーシャも心配していました」
そうかと呟いたエドモンドは、暖炉の前に座り込むと、執事に酒を持ってくるように告げている。
エドモンドが持ってくように命じた酒は、吐き出した呼気に、火が点くほどの強い酒だった。
これは交渉決裂だな。
父の話しを聞くまでも無く、全てを察したアシンだったが、会談での話の内容を聞くにつれ、怒りが湧き上がって来た。
「どうゆう事です?!」
「どうもこうも、さっきも言ったように、殿下は結婚するなら、リーシャが良いと仰っているそうだ」
「おかしいでしょう?!リーシャを馬鹿にするにも程があるっ!!」
「声を落とせ。何時だと思っている」
「ですが父上!!」
「話は最後まで聞きなさい」
疲れた顔で、チビチビと酒を舐めるエドモンドが語る王の言葉に、エドモンドが納得した様子はなく、アシンにも到底受け入れられないものだった。
王宮からの帰りの馬車が走り出して早々、アシンが切り出すと、リーシャは長いドレスの袖飾りをもじもじと、弄り出した。
「リーシャ?」
「あのね。こんな事を言ったら、パパ、お父様に叱られちゃうかもしれないの」
「そうなの?でも僕は叱ったりしないから、なんでも話してごらん」
俯いて袖を弄り続けるリーシャが口を開くのを、アシンは辛抱強く見守っている。
フワフワした見た目とは裏腹に、しっかりした芯を持つリーシャは、一度口にした事は、最後までやり遂げる強さをもっているし、言い難い事が有っても、養父や義兄に隠し事をしたり、嘘をついたりしたことが無い。
こんな時のリーシャに必要なのは、口を開く勇気が湧くまで待ってやる事だ、とアシンは理解していた。
「あのね・・・今日陛下に、殿下と婚約の事をどう思うかって、聞かれたの」
「うん。それで?」
「・・・姿絵でお顔は存じ上げて居るけれど、会った事は無いし、お手紙のやり取りもしたことが無い。殿下がどんな方なのか、私は全然分からないの。それに会いたくないって思う程、私は殿下に嫌われているでしょ?」
「う~~ん。嫌うも何も、会ったことが無いから、嫌う理由は無いと思うよ?」
「うん。陛下も同じような事を仰っていたの。でも嫌ってなくても、お会いできないって事は、私に興味がないって事よね?」
「それは、そうかもしれないね」
「殿下とお兄様は、同い年だから。私はうんと年下の子供よね?だから殿下が、私に興味ないのは、仕方ない事だと思うの」
「う~~ん」
僕の興味の全ては、リーシャにあるんだよ?
「陛下はそんな事ない、って仰るのだけど」
「それでリーシャは、陛下に何と答えたんだ?」
「・・・お兄様は、私の部屋に飾ってある、本当のお父様とお母様の絵を、見た事が有るでしょ?」
「うん、何度も見た」
リーシャによく似た、線の細い優し気な父親と、リーシャと同じ銀糸の混ざった黒髪と、エメラルドの瞳を持つ母親に抱かれた赤ん坊。
それは幸せな時間を切り取った、家族の肖像画だった。
「お父様は、毎日朝と寝る前に、あの絵のお母様に、愛していると告げていたの。そしてあの絵のお母様に、色々な事を話しかけていた事を、今でもよく覚えていて」
「そうだったんだ」
伯父上はリリーという女性を、心から愛していたんだな。
「私はお母様の事を全然覚えていないけど、お父様がお母様の事を話してくれる時の、優しいお顔と声は、今もちゃんと覚えているのね。だから二人とも死んじゃったけど、二人は私の理想の夫婦で、結婚するなら、お父様みたいな人が良いって、お返事したの」
「そうか、そうだよな」
会ってもくれない男となんて、結婚したいと思わないよな!
「陛下は難しいお顔で黙ってしまって。でも殿下だって、興味もない相手と結婚するのは可哀そうでしょ?だから、私との婚約の内定を取り消してください、ってお願いしたの。殿下の好きな人と、結婚させてあげてくださいって」
「リーシャ?本当にそんな事を、陛下に言ったの?!」
「うん。私もどんな性格の人かも分からない、男の人と結婚するのは怖いし・・・そんなの良くないと思ったから・・・」
ヨシッ!!
ヨシヨシヨシヨシッ!!
リーシャでかしたっ!!
ざまあ見ろ、ゼフィール!!
逃がした魚は、デカいと知れッ!!
ニヤつく口元を手で隠したアシンは、取り繕った真面目な視線を、しょんぼりと俯く義妹へと向けた。
「リーシャは間違ってない。だから元気を出して」
「お兄様。お義父様は、陛下に𠮟られちゃう?」
アシンは座席の向かい側で、心配そうな顔で見上げて来る、義妹の隣に座り直し、その肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫だよ。悪いのは殿下の方なんだから。この事はボクから父上に話して置く。リーシャは、何も気にしなくていい」
「ほんとう?」
「あぁ、本当だ。リーシャには僕が付いて居るからね。心配しなくていいんだよ」
優しい兄を演じながら、内心で喝采を叫び、ほくそ笑むアシンだった。
侯爵邸に帰宅したアシンは、侍女長のファッジ夫人にリーシャを預けると、その足で父がこもっている研究室に足を運んだ。
「どうしたんだ?そんなに血相を変えて。もしや、王宮でリーシャに何かあったのか?」
ノックの返事を待つのももどかしく、勢いよく扉を開いた息子に、一瞬でエドモンドの顔色が青褪めた。
「父上。ご報告があります!」
アシンの勢いに、研究助手達はそそくさと部屋を出て行った。
人払いが済んだ侯爵は、研究机に陣取り、早く話せとアシンに催促をして来る。
そこでリーシャとの、馬車での会話を語って聞かせると・・・。
「でかしたッ!!リーシャッ!!」
僕と全く同じ反応じゃないか・・・。
やだな。
こんな処で、血の繋がりを感じちゃったよ。
「陛下からのお叱りが有るのではないかと、リーシャが心配しています」
「でも。悪いのは殿下だからねぇ。陛下も強くは言えないでしょ」
「その通りです。リーシャの意思確認は出来ました。この機に破婚を願い出た方が良いと思います」
息子の下心が透けて見える、熱のこもった言い分に、エドモンドは顔を引き攣らせながら諾と答えた。
数日後、国王との面会を許され、破婚が叶う!とウキウキと王宮へ向かったエドモンドが、屋敷へ戻って来たのは、日付も変ろうかという深夜の事だった。
「アシン、起きてたのか」
「お帰りが遅いので、リーシャも心配していました」
そうかと呟いたエドモンドは、暖炉の前に座り込むと、執事に酒を持ってくるように告げている。
エドモンドが持ってくように命じた酒は、吐き出した呼気に、火が点くほどの強い酒だった。
これは交渉決裂だな。
父の話しを聞くまでも無く、全てを察したアシンだったが、会談での話の内容を聞くにつれ、怒りが湧き上がって来た。
「どうゆう事です?!」
「どうもこうも、さっきも言ったように、殿下は結婚するなら、リーシャが良いと仰っているそうだ」
「おかしいでしょう?!リーシャを馬鹿にするにも程があるっ!!」
「声を落とせ。何時だと思っている」
「ですが父上!!」
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