うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

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6話

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 アシン・ラシール 
 日記より抜粋

 帝国歴702年4月14日

 今日も僕のリーシャはとっても可愛かった。明日も明後日も、きっと可愛いに違いない。

 王宮へ出向く為、ハーフアップ結い上げられ、毛先を軽く巻いた髪も、良く似合っていた。

 僕としては、カールなんかしないで、真っ直ぐに伸びた髪の方が、好みだけれど、宮廷の流行りは取り入ないと、周りが煩いから我慢することにしよう。

 王宮に通うようになって知った事なのだけれど、最近の御婦人たちの流行りは、第一側室マリー妃の影響が強いらしい。

 高く結い上げた髪に、クリクリのカール。

 鳥の羽や長いリボンのついた小さな帽子を、ゴテゴテと頭にのせている姿を、初めて目にした時は、びっくりしたのだけれど、派手好きなマリー妃の影響なら納得だ。

 しかし、王宮に出入りしている御令嬢、御婦人達に、これだけ影響を与えられるという事は、マリー妃の王宮での力が、増している証拠だろう。

 昨年あたりから、陛下の跡目争いが激しくなって来て、王宮内でも、きな臭い話をよく耳にする様になった。

 表だった攻撃をし合っている訳では無いけれど、裏で何が行われているか、想像しただけでも、身震いがしてくる。臣下の身としては、王家に皆さんには仲良くしてもらいたいものだ。

 現在王太子に封じられているのは、王妃殿下のお子であられる、第一王子のレオパルド殿下。

 血統的にも、能力的にも問題ないのだから、次代の王はレオパルド殿下で良いと、僕は思うのだけれど、他の人達の、特にマリー妃の利害は一致しないらしい。

 元々王妃殿下エリザベート様とマリー妃は、大変仲が悪く、何かと衝突を繰り返して来た事が、現在の状況を創り出したとも言えるな。

 強大な帝国内で、小さな領土しか持たない僕達の国が、自治権を持って居られるのは、建国に由来する、特殊な能力を持った者が多いから。

 特に王家に受け継がれている能力は、非常に強力、且つ特殊だからだ。

 第一王子レオパルド様と、第二皇子ウルリッヒ様。

 何方も甲乙つけがたい能力をお持ちで、どちらが王になっても、おかしくはない。

 裏を返せば、強力ではあるけれど、突出した能力では無い、とも言える。

 何方の派閥にも属さず、蚊帳の外に置かれている第三王子との婚約(内定)が結ばれている我が家としては、火の粉が飛んでこない事を祈るしかない。

 第三王子ゼフィール殿下が、蚊帳の外である理由は、母親である第二側室アニタ様が、亡くなられていることが大きい。

 元々アニタ妃は、隣国ザイドリッツの王家出身。友好の証としてローゼライトに輿入れをした方で、代わりに陛下の妹君が、アニタ妃の母国へ輿入れをされて居る。

 他国からの輿入れという事も有り、アニタ様は、国内の貴族達との縁が薄いお方だったそうで、唯一の後ろ盾となるアニタ妃が亡くなられ、ゼフィール殿下の継承の可能性は、皆無と言われている。

 そうで無くとも、気難しく、人間嫌いな殿下は、王の資質を持っているとは思えない。

 リーシャは自分だけが、殿下から嫌われている様に感じて居るけれど、それは全くの思い違いだ。

 7年前リーシャと殿下の婚約(内定)・・。

 大事な事だからもう一度書くけど、リーシャと殿下はまだ婚約していない。まだ内定の段階で、一般的には縁談話がある、というだけだ。

 とにかく7年前に、陛下が二人の婚約話を持ち出した時、既に殿下の気難しい性格と、人間嫌いは有名だった。

 うんと幼い頃には、アニタ妃と一緒に、人前に出て来られた事も有ったらしいけど、ある時期を境に、殿下が人前に姿を見せる事は、なくなってしまった。

 第一、第二皇子がそうであったように、王家の子供は、遊び相手として同年代の貴族の子供を、複数傍に置くものだけれど、ゼフィール殿下には、そんな相手がいるとは聞いた事が無い。

 大体同い年の僕の所へ、そういうお誘いの話が、回って来ない事自体がおかしいんだ。

 そんな人間嫌いな殿下が、毎年黙って姿絵を画かせるとも思えない。もし毎年贈られてくる姿絵の人物が、別人だったとしても、今の僕たちには確認のしょうがない。

 殿下は本当に、謎に包まれた人物なんだ。

 殿下のお住まいは、後宮の奥深くに有る。

 そこは、陛下からアニタ妃に与えられた離宮なのだけれど。殿下はこの離宮に籠りきりで、極少人数の、身の回りの世話をする者達と暮らしているらしい。

 仮にも王族なのだから、教育は受けている筈だ。しかし、じゃあ誰が殿下の教師の役をやって居るのか、それすらも分からないなんて、そんな事ある?

 殿下に関する事は、全て~らしい。という話しか聞いたことが無い。

 アニタ妃が御存命の頃は、殿下が人前に出て来ないのは、顔が醜いから、だとか、御頭おつむりがおかしいからだとか、色々な噂が流れていた。

 けれど、アニタ妃が亡くなられてから、その手の噂話をピタリと聞かなくなった。
 それは噂の元が王妃殿下かマリー様だったからなのじゃないか。後ろ盾を失くし、継承の脅威とならなくなったから、ゼフィール殿下は、嫌がらせを受ける事が、無くなったのではないか、と思って居るのは、僕だけじゃない筈だ。

 そもそもの話しだけれど、陛下はゼフィール殿下に、後を継がせようなんて、考えた事も無いんじゃないか?

 なにかと軍閥ばかりが、優遇されるこの国で。うちのような学者家系に縁談を持ち掛けた事もそうだし、上の皇子二人にはレオパルドとウルリッヒなんて、如何にも厳めしく強そうな名を与えたのに、第三王子だけが異国の菓子を連想する名前だなんて、異色すぎるよ。

 まあ。殿下が跡目争いの蚊帳の外に居るお陰で、陛下がリーシャを可愛がっていても、二人の妃から攻撃される事も無く、今まで過ごせてきたのだから、それに関してどうこう言う積りはない。

 でも、陛下がこんな縁談なんかを持ち出さなかったら、僕もリーシャも、もっと気楽な人生を送れたわけだし?

 今頃僕らは婚約してた。

 そうすればリーシャだって、無駄に悲しい思いをする事だって無かったんだ。

 それなのに、散々リーシャを無視してきたくせに、今になって結婚するのならリーシャが良い。なんて、言うに事欠いてどういう事?

 仮にも縁談相手に、手紙の一通も送ってこず、顔合わせさえしていないのに、余りにも非常識だ。 

 殿下も僕と同い年なら、そのくらいの分別は在っていいと思う。

 それに陛下も陛下だ。
 リーシャが16歳になったら、二人を結婚させたい?

 冗談じゃない。

 リーシャは、顔も見た事がない、どんな性格かも分からない相手とは、怖くて結婚したくないと言ったんだぞ?リーシャに、結婚を無理強いしないって約束は、どこに行った?

 幾ら陛下と伯父上が幼馴染だからって、遣っていい事と悪い事があるだろう?

 本当に、馬鹿も休み休み言って欲しい。
 
 リーシャは僕のものだ。
 ゼフィールなんかに、絶対渡すかよ!


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