片翼を失ったピアニスト

喜島 塔

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第四章

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 あの動画を観せられてからというもの、俺の心の奥底に封印し忘れたフリをしていた忌々しい思い出や感情が一気に溢れ出し、兄や母、ピアノへの呪縛に再び翻弄され苦しんだ。運命の出逢いと信じて疑わなかったロックは、俺の中で、ピアノを忘れるためのつまらない遊戯という位置に成り下がっていた。ライブ活動はその後も続けた。暇だったからだ。相変わらず会場はいつも満員だったが、ファンの大半はバンドの、特に俺のルックスのみを愛するミーハーな女たちばかりで、真にバンドを愛してくれていたファンたちは、俺が心からライブパフォーマンスを楽しんでいないことを敏感に察知し去っていってしまった。

 高校3年になる頃には、バンドのメンバーたちも大学進学を意識するようになり、バンドを解散しようという話が持ち上がった。ギターのスバルだけはこれに猛反対したが、ベースのタケヒコとドラムのユウキの意志は強かった。

「なんだよっ! 俺たちプロのなるんじゃなかったのかよ? 大学なんか行って一般企業に就職して、サラリーマンになって、会社の歯車になって、ボロボロになって、つまんねえ女と結婚して、ガキが生まれて、俺には守るべき愛しい妻と子がいるから頑張れるなんて綺麗事ぬかして、毎日会社と家との往復で、周りを蹴落として出世して憎まれて、酒呑んで愚痴言ってゲロ吐いて、気付いたら中年太りで成人病で、ハゲ散らかして、加齢臭醸し出して、女房にいいようにこき使われて、ガキには、パパ臭いとか言われて、やさぐれてキャバクラ行って、若い女にモテてると勘違いして、金貢いで……そんな、くだらねえ糞みてえな一生でいいのかよっ? くだらねえ、つまんねえ、くだらねえ、くだらねえよっ!」

 スバルは、一気にまくし立てると、すがるような目で俺に訊いた。

「舜、オマエはどう思っているんだ?」
「ごめん、スバル……俺には無理だ」
「この! 過去に囚われた、ちんかす野郎!」

 スバルのこの言葉は、迂闊にも俺の心に突き刺さった。図星だったからだ。この言葉を最後に『Halcion』は、事実上、解散した。
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