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第9章『300年前の真実』
8話※閲覧注意
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首から下げたペンダントを触りながら、アスカはじっとイズミを見た。
「どう?」
嬉しそうな顔をしてこちらを見ているアスカに釣られるように、イズミもまた柔らかく笑いながら答える。
「うん。いいんじゃない? アスカの目の色とよく合ってるよ。良かったな」
「えへへ。すっごく嬉しい。カオルさんにも何かお礼しなくちゃ」
アスカは満面に笑みを浮かべながら軽やかに歩く。
「別にカオルには何もしなくたっていいよ」
「えー、なんで? イズミって、どうしてカオルさんには冷たいの?」
冷めた表情でさらりと答えるイズミを、アスカは口を尖らせながら覗き込む。
「……まぁ、育ててもらった恩はあるけど。あいつって、いまいち信用がないっていうか。嘘つきだし。冗談ばっかで、何が本当なのか分かんないんだよね」
イズミは一瞬困った顔をするが、すぐに無表情になると淡々と答える。
「そうかなぁ。カオルさんはイズミのこと大事に思ってると思うんだけど……。でも、本当のところは僕にも分かんない。でも悪い人じゃないと思うよ?」
うーんと腕を組み、アスカは納得いかない顔で考え込み、そしてもう一度イズミを覗き込む。
「どうなんだろう。俺もよく分かんね。俺はアスカがいればいいよ。アスカのことは凄く好き。アスカは絶対信用できる」
首を傾げながら答えるが、ふとアスカを見ると真剣な目でじっと見つめ、立ち止まった。
「僕も、イズミのこと大好き。双子だからとかじゃなくって、イズミのこと本当に好きだよ。ずっと一緒にいたい」
そしてアスカも立ち止まると、曇りのない瞳で真剣にイズミを見つめ返す。
「うん、ずっと一緒にいような」
にこりと笑うとイズミはアスカの右手をしっかりと握り締める。
「絶対だよ」
そしてアスカもまたしっかりと握り返し、ふたりは手を繋いでアスカの村がある方向へと歩いていった。
森の出口に辿り着き、ふたりは足を止める。
なんだかここで別れるのが名残惜しい。じっと村の方を見つめたまま黙り込んでしまった。
「今日は本当に楽しかった。カオルさんにもお礼言っといてね。それじゃあ……またね」
しかしアスカはイズミの手を離すと、にっこりと笑って手を振る。そして村に向かって歩き始めた。
「またなっ」
少しだけ寂しい気持ちを残しつつ、イズミも笑顔を作るとアスカの背中に向かって手を振った。
その声に反応してアスカが振り返る。そしてもう一度手を振った後、ふと自分の胸元を見た。
「あっ!」
声を上げながらアスカの顔が真っ青になる。
「どうしたっ?」
イズミはアスカの様子を心配して慌てて駆け寄る。
「ないっ! ペンダントがっ! いつ落としたんだろう……」
泣きそうな顔でアスカは自分の周りをきょろきょろと見回す。しかし、ペンダントはどこにも見当たらない。
「ほんとだ。俺も全然気付かなかった。……そうだっ。俺、家戻る時に探しといてやるよ。もう遅いし、アスカは帰りなよ。大丈夫、絶対に探し出すから。心配しないで」
おろおろとしているアスカの胸元を見ると、確かに先程まであったペンダントがない。鎖もないところを見ると恐らく鎖が切れて落ちてしまったのだろう。
イズミはアスカを元気付けようとにこりと笑って話した。
「でもっ」
「大丈夫だって。任せてよ」
それでも心配そうなアスカを見て、イズミは自分の胸をばんっと叩きピースしてみせる。
「うん……ごめんね。でも、遅くならないうちに帰ってね。いくらイズミでも危ないから」
目を潤ませながらアスカはじっとイズミを見つめる。
「ありがと。大丈夫だよ。きっと落ちただけなら来た道帰ればすぐに見つかるよ」
「うん、ありがとう……じゃあ、気をつけてね」
アスカはそう言うと、心配そうに何度も振り返りながらも村へと歩いていった。
「さて、と。探すかぁ……」
来た道を振り返ると、イズミは腰に手を当て独り言を呟く。
「小さいもんじゃないし、すぐ見つかるでしょ」
そしてふぅっと息を吐くと、軽い気持ちで来た道を再び歩き始めた。
☆☆☆
森の入り口からカオルとイズミの暮らす家まで歩いて15分くらいかかる。
足元をきょろきょろと見下ろしながら5分くらい歩いたが、ペンダントは見つからない。
普通に歩いているわけではないので時間はかかりそうである。
「どこら辺で落としたのかなぁ……。なんか、首とか痛めそうだな」
ぶつぶつと独り言を喋りながらペンダントを探す。
顔を上げ立ち止まり、少し先の方を見るがそれらしきものはない。
「はぁ……なんとか今日中に見つけなきゃっ」
腰に手を当て息を吐く。そして気合いを入れ直すと再び下を見ながら歩き出した。
――その時、木の間からイズミをじっと睨み付ける『何か』がいた。
それは低く唸り声を上げながら、まるで機会をうかがうようにイズミを見ている。
しかし、イズミはペンダントを探すことに夢中で全く気が付いていなかった。
辺りが少しずつ暗くなってきていた。
「ないなぁ……」
不安になりながらイズミはふぅっと溜め息を付き、その場で立ち止まった。
その時――。
「グゥルルルル……グワゥッ!!」
何か大きな動物か猛獣のような唸り声そして咆哮が聞こえ、イズミはハッとして顔を上げる。
すると、すぐ目の前には見たこともない黒く巨大な生き物がじっとイズミを見下ろしていたのだった。
黒い岩のような体、そして赤く光る瞳。「グウゥッ」と低く唸り声を上げている。
「うわぁっ!!」
目の前の巨大な生き物に思わず叫んでしまった。慌てて後ろへ後退りする。しかし、何かに躓き後ろへ倒れてしまった。どすんと尻餅をつき痛みで顔を顰めつつ、再びハッとして見上げる。
それは、イズミが初めて見た魔物の姿であった。
体長3メートル程ある魔物は、目を赤く光らせ、低く唸りながらイズミをじっと見下ろしている。鋭い牙と爪が見える。攻撃されたら間違いなく助からないだろう。
頭の中が真っ白になり、魔法で攻撃することもできない。
「あ……あ……」
恐怖で声を出すこともできなくなり、座り込んだまま足を蹴り、必死に逃げようとする。額から汗が流れ、頬を伝う。
(助けてっ!)
目に涙が溜まり、視界がぼやける。
魔物はじっとイズミを見下ろしながら低く唸っている。
(カオルっ、アスカっ!)
ガタガタと体を震わせ、心の中で必死に助けを呼ぶ。
じっと自分を見下ろしている魔物から目を逸らすこともできない。
すぐに攻撃してくる様子はないが、体が動かない。恐怖で体が硬直してしまっていた。
イズミの瞳から涙が溢れる。そして死が頭をよぎる。
(いやだっ、死にたくないっ!)
目を見開き、心の中で強く叫んだ。
「グゥワアァッッ!!!!」
その瞬間、今まで動かなかった魔物が何かに反応したかのようにピクリと体を動かし大きく咆哮する。
そして大きな右腕をバッと振り上げた。鋭い爪が見える。
「イズミっ!!」
もうダメだと思った瞬間――後ろから自分がよく知っている声が聞こえた気がした。
そして、風を切るような音と、何かが裂けるような音が同時に聞こえ、目の前が真っ赤になった。
「え…………」
一瞬何が起こったのか分からず、ぼんやりとする。
顔や体に何かがべっとりと纏わり付くように付いている。
頭が働かないまま自分の体を見る。赤い液体のようなものが付いている。
(……血?)
もう一度顔を上げる。
「あ、ああっ……」
イズミの目に、まるでイズミを守るかのように両手を広げ、立っている人影が映った。
ゆっくりと、更に、上を見る。
……首が……ない。
そして、その体は先程まで一緒だったアスカの服を着ていた――。
「うわぁあああああああっっ!!!!」
涙を流し、絶叫する。イズミの赤く長い髪の毛がゆらりと広がり逆立つ。
信じたくないその光景に、今までに感じたことのない感情が溢れ、叫び声と共にイズミの中にある『何か』が爆発する。まるで体の中から強いエネルギーが放出されたようであった。
それと同時にポケットに入れていたカオルから貰った指輪の赤い石がきらりと赤く光り、ぶわっとイズミを包み込むようにして赤い光が広がる。
その光は目の前の光景、そして森全体をも飲み込んでいく。
まるで爆弾でも落ちたかのようにイズミを中心に森の木々が爆風で吹き飛び、轟音が響く。
その『力』は更に膨らみ、周りの村や町さえも飲み込んでいった――。
「どう?」
嬉しそうな顔をしてこちらを見ているアスカに釣られるように、イズミもまた柔らかく笑いながら答える。
「うん。いいんじゃない? アスカの目の色とよく合ってるよ。良かったな」
「えへへ。すっごく嬉しい。カオルさんにも何かお礼しなくちゃ」
アスカは満面に笑みを浮かべながら軽やかに歩く。
「別にカオルには何もしなくたっていいよ」
「えー、なんで? イズミって、どうしてカオルさんには冷たいの?」
冷めた表情でさらりと答えるイズミを、アスカは口を尖らせながら覗き込む。
「……まぁ、育ててもらった恩はあるけど。あいつって、いまいち信用がないっていうか。嘘つきだし。冗談ばっかで、何が本当なのか分かんないんだよね」
イズミは一瞬困った顔をするが、すぐに無表情になると淡々と答える。
「そうかなぁ。カオルさんはイズミのこと大事に思ってると思うんだけど……。でも、本当のところは僕にも分かんない。でも悪い人じゃないと思うよ?」
うーんと腕を組み、アスカは納得いかない顔で考え込み、そしてもう一度イズミを覗き込む。
「どうなんだろう。俺もよく分かんね。俺はアスカがいればいいよ。アスカのことは凄く好き。アスカは絶対信用できる」
首を傾げながら答えるが、ふとアスカを見ると真剣な目でじっと見つめ、立ち止まった。
「僕も、イズミのこと大好き。双子だからとかじゃなくって、イズミのこと本当に好きだよ。ずっと一緒にいたい」
そしてアスカも立ち止まると、曇りのない瞳で真剣にイズミを見つめ返す。
「うん、ずっと一緒にいような」
にこりと笑うとイズミはアスカの右手をしっかりと握り締める。
「絶対だよ」
そしてアスカもまたしっかりと握り返し、ふたりは手を繋いでアスカの村がある方向へと歩いていった。
森の出口に辿り着き、ふたりは足を止める。
なんだかここで別れるのが名残惜しい。じっと村の方を見つめたまま黙り込んでしまった。
「今日は本当に楽しかった。カオルさんにもお礼言っといてね。それじゃあ……またね」
しかしアスカはイズミの手を離すと、にっこりと笑って手を振る。そして村に向かって歩き始めた。
「またなっ」
少しだけ寂しい気持ちを残しつつ、イズミも笑顔を作るとアスカの背中に向かって手を振った。
その声に反応してアスカが振り返る。そしてもう一度手を振った後、ふと自分の胸元を見た。
「あっ!」
声を上げながらアスカの顔が真っ青になる。
「どうしたっ?」
イズミはアスカの様子を心配して慌てて駆け寄る。
「ないっ! ペンダントがっ! いつ落としたんだろう……」
泣きそうな顔でアスカは自分の周りをきょろきょろと見回す。しかし、ペンダントはどこにも見当たらない。
「ほんとだ。俺も全然気付かなかった。……そうだっ。俺、家戻る時に探しといてやるよ。もう遅いし、アスカは帰りなよ。大丈夫、絶対に探し出すから。心配しないで」
おろおろとしているアスカの胸元を見ると、確かに先程まであったペンダントがない。鎖もないところを見ると恐らく鎖が切れて落ちてしまったのだろう。
イズミはアスカを元気付けようとにこりと笑って話した。
「でもっ」
「大丈夫だって。任せてよ」
それでも心配そうなアスカを見て、イズミは自分の胸をばんっと叩きピースしてみせる。
「うん……ごめんね。でも、遅くならないうちに帰ってね。いくらイズミでも危ないから」
目を潤ませながらアスカはじっとイズミを見つめる。
「ありがと。大丈夫だよ。きっと落ちただけなら来た道帰ればすぐに見つかるよ」
「うん、ありがとう……じゃあ、気をつけてね」
アスカはそう言うと、心配そうに何度も振り返りながらも村へと歩いていった。
「さて、と。探すかぁ……」
来た道を振り返ると、イズミは腰に手を当て独り言を呟く。
「小さいもんじゃないし、すぐ見つかるでしょ」
そしてふぅっと息を吐くと、軽い気持ちで来た道を再び歩き始めた。
☆☆☆
森の入り口からカオルとイズミの暮らす家まで歩いて15分くらいかかる。
足元をきょろきょろと見下ろしながら5分くらい歩いたが、ペンダントは見つからない。
普通に歩いているわけではないので時間はかかりそうである。
「どこら辺で落としたのかなぁ……。なんか、首とか痛めそうだな」
ぶつぶつと独り言を喋りながらペンダントを探す。
顔を上げ立ち止まり、少し先の方を見るがそれらしきものはない。
「はぁ……なんとか今日中に見つけなきゃっ」
腰に手を当て息を吐く。そして気合いを入れ直すと再び下を見ながら歩き出した。
――その時、木の間からイズミをじっと睨み付ける『何か』がいた。
それは低く唸り声を上げながら、まるで機会をうかがうようにイズミを見ている。
しかし、イズミはペンダントを探すことに夢中で全く気が付いていなかった。
辺りが少しずつ暗くなってきていた。
「ないなぁ……」
不安になりながらイズミはふぅっと溜め息を付き、その場で立ち止まった。
その時――。
「グゥルルルル……グワゥッ!!」
何か大きな動物か猛獣のような唸り声そして咆哮が聞こえ、イズミはハッとして顔を上げる。
すると、すぐ目の前には見たこともない黒く巨大な生き物がじっとイズミを見下ろしていたのだった。
黒い岩のような体、そして赤く光る瞳。「グウゥッ」と低く唸り声を上げている。
「うわぁっ!!」
目の前の巨大な生き物に思わず叫んでしまった。慌てて後ろへ後退りする。しかし、何かに躓き後ろへ倒れてしまった。どすんと尻餅をつき痛みで顔を顰めつつ、再びハッとして見上げる。
それは、イズミが初めて見た魔物の姿であった。
体長3メートル程ある魔物は、目を赤く光らせ、低く唸りながらイズミをじっと見下ろしている。鋭い牙と爪が見える。攻撃されたら間違いなく助からないだろう。
頭の中が真っ白になり、魔法で攻撃することもできない。
「あ……あ……」
恐怖で声を出すこともできなくなり、座り込んだまま足を蹴り、必死に逃げようとする。額から汗が流れ、頬を伝う。
(助けてっ!)
目に涙が溜まり、視界がぼやける。
魔物はじっとイズミを見下ろしながら低く唸っている。
(カオルっ、アスカっ!)
ガタガタと体を震わせ、心の中で必死に助けを呼ぶ。
じっと自分を見下ろしている魔物から目を逸らすこともできない。
すぐに攻撃してくる様子はないが、体が動かない。恐怖で体が硬直してしまっていた。
イズミの瞳から涙が溢れる。そして死が頭をよぎる。
(いやだっ、死にたくないっ!)
目を見開き、心の中で強く叫んだ。
「グゥワアァッッ!!!!」
その瞬間、今まで動かなかった魔物が何かに反応したかのようにピクリと体を動かし大きく咆哮する。
そして大きな右腕をバッと振り上げた。鋭い爪が見える。
「イズミっ!!」
もうダメだと思った瞬間――後ろから自分がよく知っている声が聞こえた気がした。
そして、風を切るような音と、何かが裂けるような音が同時に聞こえ、目の前が真っ赤になった。
「え…………」
一瞬何が起こったのか分からず、ぼんやりとする。
顔や体に何かがべっとりと纏わり付くように付いている。
頭が働かないまま自分の体を見る。赤い液体のようなものが付いている。
(……血?)
もう一度顔を上げる。
「あ、ああっ……」
イズミの目に、まるでイズミを守るかのように両手を広げ、立っている人影が映った。
ゆっくりと、更に、上を見る。
……首が……ない。
そして、その体は先程まで一緒だったアスカの服を着ていた――。
「うわぁあああああああっっ!!!!」
涙を流し、絶叫する。イズミの赤く長い髪の毛がゆらりと広がり逆立つ。
信じたくないその光景に、今までに感じたことのない感情が溢れ、叫び声と共にイズミの中にある『何か』が爆発する。まるで体の中から強いエネルギーが放出されたようであった。
それと同時にポケットに入れていたカオルから貰った指輪の赤い石がきらりと赤く光り、ぶわっとイズミを包み込むようにして赤い光が広がる。
その光は目の前の光景、そして森全体をも飲み込んでいく。
まるで爆弾でも落ちたかのようにイズミを中心に森の木々が爆風で吹き飛び、轟音が響く。
その『力』は更に膨らみ、周りの村や町さえも飲み込んでいった――。
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