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第16章『再会』

1話

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 それぞれの目的の為に二手に分かれた一行は、カイとイズミは研究所へ、タクヤとリョウは更に西へ、タクヤの師匠がいると聞いた湖を目指して歩いていた。


 ふたりになって30分が過ぎようとしているが、タクヤはずっと黙り込んでいる。
 今までであれば、誰も聞いていなくてもひとりで喋っているようなタイプだ。
 やはり、イズミと離れたことがショックなのだろうか。
 リョウは横を歩くタクヤをちらりと見上げた。
 背中が丸まりしゅんとしている。まるで飼い主に置いていかれた犬のようである。
「もしかしてタクヤ、泣いてる?」
 じっと窺うようにタクヤに話し掛けた。
 揶揄うつもりはないが、心配でもあり、冗談でも言わなければ自分も泣きそうだからだ。
 何か話さないと気持ちがどんどん沈んでしまう。
「べ、別にっ、泣いてねぇよっ!」
 かぁっと顔を赤らめると、タクヤは明らかに涙ぐんでいる目でリョウを見下ろした。
 やっぱり泣いてんじゃん、と思いながらも溜め息を付く。
 そして、離れ離れになってしまったのは自分のせいかもしれないと、申し訳なさと寂しさでいつの間にか目に涙が溜まってきていた。
「俺がもっと強かったら……」
 俯き、口を尖らせながらぼそりと呟く。
 漸くカイと5年振りに再会できたというのに、まさかまた離れ離れになるとは思いもしなかった。
 タクヤとイズミについて行こうと考えていた時に、カイが戻って来ていることは知らなかった。もし、あの時カイがいなかったら、ずっと会えないままだったのかもしれない。
 しかしカイはイズミを探していたのだから、いずれ会うことになっていただろう。
 ついて来たのは間違いじゃなかったはず。
 ぐるぐると考え込んでいると、先程まで捨てられた犬のように落ち込んでいたタクヤが明るく話し始めた。
「リョウのせいじゃない。きっと、リョウに力があったとしても、イズミは自分だけで行くって言ってたよ。それに、俺は師匠を探し出すっていう目的があるからさ。リョウがついてきてくれて嬉しかった、ありがとな。カイと離れて寂しいだろうけど、絶対にまた会えるって」
 タクヤの言葉にきょとんとした顔で見上げた。
 さっきまであんなに落ち込んでいたのに、余裕そうに笑っている。
 やはりタクヤは強い。
 自分も早く強くなりたい、とリョウは強く思った。
「うん、そうだね。……あのさ、師匠ってどんな人?」
 こくりと頷いたが、ふとタクヤの師匠のことが気になった。
 一体どんな人なのだろうか。
「師匠は強くてカッコイイんだ!」
 まるで自分のことのようにタクヤは自慢げに答える。
 しかし、そうじゃないとリョウは大きく溜め息を付く。
「もう。子供じゃないんだからさ。もっと詳しく教えてよ」
「な、なんだよっ! 本当のことなんだから別にいいだろ。ほんとに師匠は強くてカッコ良かったんだよ。俺の憧れなんだよ。……しょうがないなぁ。えっと……歳は聞いたことないけど、たぶん俺の10個くらい上かな。俺と初めて会った時がちょうど今の俺と同じくらいだったから。でも、俺は今でも師匠の足元にも及ばない。それくらい強かったんだ、師匠は。優しくて強くていつもにこにこしてて。俺の理想なんだ」
 恥ずかしそうに顔を赤らめたタクヤであったが、今度は優しい顔で遠い目をしながら師匠のことを話したのだった。
「へぇ……そんなに強いんだ」
 歩きながらじっとタクヤを見上げていたリョウは、ふと自分の兄のことを思い出した。
 カイも強いが自分の兄もとても強い人だ。
 自分の周りは強い人ばかりで、いつも守られる側になっていた。
 今度こそ、と再びリョウは決意する。
「俺が稽古つけてやるって言ったけどさ、師匠の所に行ったら、リョウも師匠に稽古つけてもらうといいよ。ほんと凄い人だから」
 前を向きながらタクヤは嬉しそうに師匠の話をした。
 これだけ言うのだから本当に凄い人なのだろう。
「うん」
 頷きながらリョウは、タクヤの師匠に早く会ってみたいなと楽しみになっていた。



 ☆☆☆



 つい先程まで泣きそうになっていたとは思えないくらい、すっかり和やかな雰囲気になったふたり。
 会話をしたことで落ち着いたのかもしれない。
 朝ご飯を食べてからそれほど時間も経っていないというのに、昼は何を食べようか、などと話しながら歩いていた。
 すると、突然聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえてきた。

「おせぇよ、お前ら」

 全く気配に気が付かなかった。
 何もないような場所を歩いていたはずなのに、いつから背後にいたのか。
 ふたりはハッとして立ち止まると、慌てて振り返る。
 そこには、なんとも不機嫌そうな顔をしているアキラの姿があった。
「アキラ?」
 突然の出来事にタクヤは呆然としてしまった。
 聞きたいことは山ほどあったはずなのに、言葉が出てこない。
「お前らがなかなか来ないから、俺が迎えに来る羽目になっただろうが」
 頭を掻きながらアキラは面倒臭そうに話す。
 しかし、なんのことを言っているのかさっぱり分からない。
「なんだよお前っ。勝手に消えたくせに、何言ってんだよっ!」
 アキラの話の意味も分からなかったが、まずは文句が出た。
 話を聞こうとした矢先にアキラは姿を消していた。まるで逃げるように……。
 それがなぜ、再び目の前に現れたのか。
「うるせぇな。俺は頼まれてお前の様子を見に行っただけだ」
「は? 何言ってんだよ、さっきから。来るのが遅いとか様子を見に来たとか……どういうことだよ? 頼まれたって、一体誰に……」
 話の内容が全く分からず、タクヤはじっとアキラを睨み付けた。
 会った時から不信感しかなかっただけに余計に怪しい。
「まさかっ!」
 この前の発言といい、もしかしてアキラはカイが話していた組織の人間なのか? と顔がこわばった。
「ハヤトさんだよ」
「なっ!?」
 アキラの答えにぎょっとした。
 まさか、その名前をこの男から聞くとは思わなかった。
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