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しおりを挟む挨拶同様に王太子殿下の隣にグレースが居座ったからだ。
「ナティシア嬢、今日は茶会に招待いただきありがとうございます。珍しい茶葉と珍しいフルーツがあるとのこと。準備も大変だったのではありませんか」
ナティシアは顔を横にふったがその時、
「これくらいのものアクアンティ家にとっては造作もないことですわ。
でも準備も皆様に喜ばれるようにと心を込めてしましたの。
王太子殿下に喜んで頂けてなによりです」
ナティシアに向けられた言葉にはなぜかグレースの言葉が返ってくる。
それを見たナティシアはそれ以上答えることはなく、ただグレースが言葉を続けるということが何度も繰り返されたのだ。
殿下に関しては気分を害されたような態度は見せていないが、見ている周囲のものだけでも辟易とさせるグレースの態度だった。
気分を害された様子は見せない殿下も、グレースの言葉には笑みを浮かべた表情を向けるだけでそれ以上言葉を続けることをしなかったのが全てを物語っていた。
そんな空気の中、茶会も半分の時間が過ぎたとき、ナティシアはふと席をたった。
茶会など主催したこともないナティシアにとって緊張しっぱなしの一日。
元々社交界どころか他人とこうして顔を合わすことなどなかった人生が、この数か月で激変してしまったのだ。疲労もたまっている。
お花を摘みに行くついでに少しだけ息を抜きたくて、真っ直ぐ会場には帰らず、遠回りをして帰ることにした。
ナティシアが通ろうとしているのは裏庭へ向かう道。
そこには会場近くにある大きな手入れの行き届いた池ではなく、小さく整備があまりされていない池がある。
以前は簡易的なため池として利用されていたものらしい。
しかし生活環境が整備され、ため池を使用しなくなると管理する者もいなくなり、ナティシアが手入れするようになった。
小さいけれど赤や黄色の魚が泳いでおり、紫の花が水中に浮かぶ可愛らしい池だった。
疲弊した心を落ち着ける為に、池を眺めるナティシア。
少しだけでもゆっくりとした時間を味わいたく、池のそばで魚が泳ぐのを眺めていたのだ。
ほんの少しだけそうしていたつもりだったのに、カサっという物音にはっと隣を見るといつからいたのかそこには王太子殿下の姿があった。
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