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しおりを挟む「あっ、ごめん。
席だとナティシアと話もできないから、メイドに聞いてきたんだ。
でもじっと池を見ていたから声をかけていいか迷ってしまって」
王太子殿下の言葉にゆっくりと首を横に振り、ドレスの帯の中にしまっていたノートを取り出し書き始めた。
『気付かずに申し訳ありません。
ここは私が世話をしている池なのです。
観賞用ではないただの小魚が数匹暮らしています。
なにかあったときにはいつもこの池を覗いて心穏やかにしています。
今日は私が主催ということで緊張してしまって、少しだけ池に立ち寄ってしまいました。
戻るのが遅くなってしまい申し訳ありません』
「遅くなったことなど気にしないで。息抜きは必要だよ。
ただ私が少しでもナティシアと話がしたかっただけなんだ。
でも素敵な池だね。整備はされていないけれど、手入れされているのはわかるよ。
きっとこの魚たちもナティシアに世話をされて幸せに暮らしているんだろうね」
『ありがとうございます。
いつも私が幸せをもらっているんです』
そんなたわいもない事を一言二言話して、2人は会場に向かって歩き始めた。
魚たちの話をして、疲弊した気持ちを落ち着けただけなのにあんな事が起こるだなんて、
その時のナティシアには想像すらできなかった。
歩みをすすめ、あと少しで会場というときにナティシアが急に顔を白くし、ガタガタと震え始めた。
「ナティシア?どうかした」
何事かと殿下が心配そうに声をかけた。
ナティシアははっと顔を上げ、体を翻すと今きた道をかけて行った。
ナティシアの普通ではない様子に王太子殿下はその後を追うことしかできなかった。
ナティシアが足を止めた先は、先ほどまでナティシアが幸せそうに覗き込んでいた小さな池。
先ほどまで小さな紫色の花が浮かび、小魚が泳ぐ可愛らしい池だったのに、今は紫色の花がしおれ、魚が水面に身体を上げ、苦しそうにはくはくと息をし、息絶えようとしている。その様子は数分前までと明らかに異なり、自然の力でそうなったとは思えないものだった。
「どうしてこんなことに……」
殿下が池の様子に気をとられていると、隣からばしゃんと音が響いた。そちらに視線をずらすとナティシアが池の中に入れているところだった。
「ナティシア!何をしてるんだ?やめろ!なにが入ってるかわからないんだぞ!」
何が入っているかわからない水に手を入れるだなんて。
ナティシアの身を案じた殿下がやめさせようとナティシアの体を引こうとした時、先ほどまでは虫の息だった小魚たちが元気を取り戻したようにポチャンとジャンプをし、池の中に潜っていくではないか。
それを見てホッとナティシアが息を吐くのが分かった。
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