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10.かけられる言葉
しおりを挟む「いつまでそんなところに這いつくばっているんだ?早く立て」
座り込んでいるナリッタに向かって聞こえてきたのはそんな言葉だった。
今まで優しくて優しくて紳士的に自分を扱ってくれていたカタールの口から出された言葉とは到底思えなかった。
だから唖然としてカタールを見つめた。
「何をしている?早くしろ」
カダールの口が動くと同時に聞こえてくるその声。
理解はできないけど、やはりカダールの口から出される言葉で間違いがない。
「どこへ…どこへ行くの?
伯爵家に連れて行ってくれるんじゃないの?」
やっとの声で自分の口から紡がれた言葉。その言葉は無情にも即座に否定される。
「僕から伯爵家の居場所を奪っておいてよくそんなことが言えたものだ。
とりあえず部屋に入れ。話はそれからだ」
そう言われて無理矢理引き起こされたナリッタの体。いつもなら優しくいたわってくれるのに今は手を引いて歩くこともしてくれない。
そうして部屋の中にづかづかと入っていく。
踊り子としての稼ぎと、客からのチップや贈り物だけで成り立っている生活。その生活は決して裕福ではなかった。だから家だって1人用の家。そこへ急に現れたカダールと、ナリッタの憩いの場であるソファーの上で不機嫌そうに座っている見知らぬ女性。
「ちょっとカダール、どういうことよ!!
どうして私まで伯爵家を追い出されなきゃいけないのよ!!しかもその原因がそこのおこちゃまですって。ほんと最悪!!」
「ちょっと黙っていてくれないか。
僕はどうやってキュリールに許してもらうか考えなければならない。
あぁ、クソっ!!どうしてこんなことに!これまでずっとうまくやってきたのに!!」
「知らないわよ!!
あんたが私がいるにも関わらず他の女になんか手を出すからでしょう!
しかもこんな乳くさい女なんかに!!
謝って許されるならこんなところには連れてこられてないわよ!バカなんじゃないの?」
「なんだと?今まで誰のおかげで贅沢な暮らしができていたと思っているんだ?
僕がお前を伯爵家に連れて行ってやったからだろう!?
身分不相応な程豪華なドレスに、使用人までつけてやっていただろうが!!」
「ええ!そうよ。その贅沢をするためにあんたの愛人になんかなったんだから当たり前じゃない!!
それなのに家を出るときには何ももって出るな?おかげでこんな流行りすたれたドレス一枚着てきただけで、他にはドレス一枚、宝石一つだって持ち出せなかったわ!!どうしてくれるのよ!!」
ナリッタが見ず知らずの女性に”おこちゃま”なんて、”乳くさい女”なんて侮辱されてもカダールはそれを指摘することもかばうこともない。
それどころか尚も2人でののしりあっている。
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