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6.お兄様
しおりを挟む昨日あったことはまだ誰にも言い出せていない。
だってどう切り出せばいいか分かんないし?怒られるのが嫌だから言ってない訳では無い.........そう思ってるのは、ほんの半分くらいだ。
「おーいレティ?料理長がマドレーヌを焼いてくれたんだけど食うか?」
「食べる!」
がっつきすぎ?
でも、うちの料理長の焼くマドレーヌは他のどんなお店や家のマドレーヌより美味しいのだ。食べれる時に食べておかないと、いつも気づけばお父様やお母様、お兄様に食べられてしまって残らない。
だから、今回声をかけてくれたお兄様には感謝しかない!
マドレーヌの乗ったお皿を持って部屋に入ってくるお兄様。父上と母上には内緒な?というお兄様は、私にとってのマドレーヌの神様だったようだ。
「いただきまーす!......ん~!さすが我が家の料理長!」
「お前、ほんと幸せそうに食うよな...」
そんなの美味しいんだから、当たり前だ。そういうお兄様だってもう二個目に手を伸ばそうとしてるのに。
「おい、なんか指に着いてるぞ?食べる前に手は洗ったんだよな?」
へっ?!まずい。マドレーヌに夢中で完全に忘れてた!どっ、どうしよう?!
「これは、その、あれよ!あ、アクセサリーを、ツケテミタクナッテー。カイテミタノ~」
く、苦しすぎる!いくらなんでも、もっと他にいい言い訳があったはずだ!
恐る恐る兄に目を向ければ、何故かニコニコと微笑んでいる。しかも、「なるほどなー。そういうこともあるよなぁ」などと言っている。
もしかして、誤魔化せた?言い訳は苦しかったかもだけど、私の演技力が功を成し「そんな訳あるかぁーーーー!!」
やっぱり?!
「だいたいお前は嘘も誤魔化すのも下手すぎるんだよ!言い訳の内容以前の問題だ!」
ええ?!私の演技がダメだったってこと?それが本当だとしたら何気にショックである。
「...それで?それはなんなんだ?」
いや、私にもそれは良く分からないんだけど……強いて言うなら……
「……婚約指輪?」
「……」
そんな何言ってんだお前、って顔で見られても……
「婚約指輪ってなにか知ってるか?」
「失礼ね!それくらい知ってるわよ!」
全く……兄は私をなんだと思っているのだろうか。
「私にもよく分からないけど、多分魔法の指輪?なのよ」
「夢見るお姫様じゃあるまいし……いや、ちょっと待て。おい、それよく見せろ」
なにか思い当たることでもあったのか、急に真剣な表情になるお兄様。
言われた通り、左手を兄の方へ差し出した。
「……おい、おいおいおい!お前、どこの大魔法使いにこんなものつけられてきたんだ?!」
「え、ええっと、だ、誰だったかしら……」
兄の心当たりは当たっていたようで、なにかまずいことでもあったのか相当焦っている。
というか、大魔法使い?あの人が?!
「どこの誰とも知らない奴につけられたのか?!」
信じられない……。前々から阿呆だとは思っていたが、まさかここまでとは……と頭を抱えるお兄様。
私に丸聞こえなんですけど。今回悪いのは私だということは分かってるけど、前々阿呆だと思っていたってどういうこと?
それにしても……
「やっぱりこれって婚約指輪みたいなものなの?」
私がそう言うとお兄様は、はぁぁぁぁ……と溜息をつく。
そして一言。
「ただの婚約指輪の方が百倍マシだったよ……」
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