カタブツ図書館司書は不埒な腰掛け館長に溺れる

白野よつは(白詰よつは)

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■プロローグ

■プロローグ

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「ほら、ここを、こうしてやると……」
「ああっ、い……っ」
「痛いの? そんなに可愛く鳴いちゃって、本当は気持ちいいくせに」
 くくっと喉の奥で笑われて、白坂紗雪しらさかさゆきは羞恥で頬を赤く染めながら、それでもふるふると首を振った。執拗に乳房の先端を指で抓られてしまっては、もう理性が吹き飛んでしまうかどうかという瀬戸際だ。けれど、これ以上、濡れた声を出すわけにはいかない。
「もっと鳴いてみせてくれてもいいんだよ? どうせ専門図書棟に人は来ない。……それが開館中の真っ昼間でもね。聞いているのは僕しかいないんだし」
 そう。だってここは図書館だ。毎日様々な人が訪れ、本を借りたり返したり、館内で読み耽ったりする、静かで安らぎのある空間を提供する公共の施設。
 そこで淫らな喘ぎ声など、到底出せるわけがない。たとえ、この人――真鍋颯まなべはやて館長代理が言うことが本当でも、いつ誰がここに来るかわからない。それに、いくら弱みを握られていようとも、その代償に身体の提供を迫られていようとも、こんな人なんかにそう簡単に声など聞かせるものかという紗雪自身のプライドも手伝っている。
「んっ……ふ……ぅんん」
 朦朧とする頭で弱々しくいやいやと首を振り、紗雪は必至に声を抑える。下唇を強く噛みしめ、声が漏れてしまわないように、ぐっと眉間にしわを寄せた。
 けれどその間も、真鍋は双丘の頂きにある二つの実を絶妙なアンバランスさで弄る手を休めることはなく、まだかろうじて保っている紗雪の理性をどんどん追い詰めていく。
 それにしても、指で弄られているだけなのに、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
 強制的に遮られた視界の中で、今朝、真鍋が付けてきたアイスブルーの涼しげなネクタイの色を感じながら、紗雪はどうしても分厚い本をもろともせずに片手で開き、男性にしては細く長い指でページをめくる艶めかしい指先を思い出してしまい、腰が重くなるのを感じる。見えないのでなおさら、その煽情的な手つきを想像してしまう。
「そう。少し残念だな、君の声は美しいのに。でも、君がどうしても我慢したいっていうなら、君からキスをせがんでくれればいい。ほら、僕の口を自由に使っていいよ」
 そう言うと、すぐに顔の近くに真鍋の熱い吐息がかかった。さほど残念そうな様子は見られない。むしろ楽しんでいるような言い方に、紗雪の羞恥心はますます煽られる。
 今は見えていないのを知っているくせに、なんてわざとらしい人。口を塞いでほしいと手探りで顔を寄せれば、寸前のところで「ハズレ」なんて言うに違いないのに……。
 真鍋にネクタイで目隠しをされたのは、つい今しがたのことだった。どうやらこれが、彼のセックスの楽しみ方らしい。
 なかなかにアブノーマルだけれど、真鍋は次にどこを愛でるのか相手に知られずにそれをするのが好きらしく、また、相手の自由を奪ってするのも、すこぶる好きだという。
 それでは真鍋が愉しくないのではと思うけれど、硬く勃ったモノを何度も口から取りこぼすところや、ここを舐めてと指定したところへ感覚だけを頼りに到達する相手の姿を見るのが至高の喜びだというから、サディスティック……いや、変態にも程がある。
 でも。
「……お、願いします、声出ちゃう……あんっ……からっ」
「はは。可愛いね、紗雪は。そんなに僕の手がいいんだ?」
「んぅぅっ……あっ、や……ぁん」
 理性と欲望の狭間で揺れ動きながらも、必死に真鍋の唇を探して口を開け、絡めてほしいと舌を差し出してしまうのだから、紗雪も自分自身、自分の気持ちがどこにあるのかわからなくなってくる。
 ただ脅されて体の関係を迫られているだけなのに、聞こえてくる真鍋の声に少しだけ息遣いの荒さを感じてしまうから、ひょっとしたら真鍋も自分に興奮してくれているのではないだろうかと、そんなことを考えてしまうのだ。
「じゃあ――」
「! んぁはっ! やめ……中はいやぁ……」
「嫌じゃないでしょ? こんなに濡れてるのに、嘘をついて悪い子だ」
「んんっ、やぁっ、ああっ、ああんっ……」
 けれど真鍋は、紗雪からのキスには応えようとはせずに摘まんだり抓ったり、手のひらでころころと転がしたりして遊んでいた赤く熟れた実の粒を一気に口に含み、ざらざらとした舌の上で執拗に転がしはじめた。空いた右手は強引にスカートの中に押し込み、ストッキングとショーツをかいくぐった先の奥へと指先を突っ込む。
 紗雪の両手は真鍋のベルトによって前で一括りにされ、真鍋の首の後ろに回す格好にさせられているので、残念ながら自由は効かない。いくら内ももを閉じようとしても、股に真鍋の足が力強く差し込まれているので、一番敏感な秘部はもう真鍋の思うがままだ。
 はじめは一本。すぐに二本。ぐじゅぐじゅと中で不規則に掻き回されて、紗雪の腰は自分の意思とは関係なく、もっともっとと真鍋の指を追ってそこに擦りつけてしまう。
「ああんっ、あっ、あっ……んっ、んんぁっ……」
 声はもう抑えが効かない。より一層下唇を強く噛みしめようと努めるけれど、そのたびに許さないとばかりに甘い刺激を与えられてしまうので、どうしても口が開いてしまう。
 これなら猿轡をされてそれに歯を立てているほうがずいぶんマシだと、紗雪は身体の中心から昂ってくる熱に浮かされながら、働かない頭でぼんやり思う。もっとも、真鍋はアブノーマル寄りの嗜好rを持ってはいてもSMの趣味はないそうなので、そういう玩具は持っていないけれど。
「すごい音だね。紗雪にも聞こえるでしょ、自分の音が。この間まで処女だったくせに、すっかり僕の指が好きになっちゃって。……まったく、なんて厭らしい子だ」
 そんな中、断続的に粘っこい水音がちゅくちゅくと専門図書棟のフロアに響く。紗雪の腰はさっきから揺れっぱなしだ。悪魔のようなこの指先から逃れたいのに、それ以上に早く絶頂に達してしまいたくて、もうまともな思考が働かない。
「イキたいの? 腰がもうまともな動きをしていないけど」
「……イ、イキたい……イカせてください……っ」
「そう。じゃあ、今夜も僕の部屋においで。たっぷり可愛がってあげるから」
 そう懇願した刹那、ようやく紗雪の口は真鍋のそれで塞がれ、激しいリップ音とともに舌を吸われた。左手で乳房を揉み上げる手も、膣内を掻き回す指の動きも激しさを増し、
「ほら、好きなだけイっていいよ」
「……あっ、あっ、ああんんっ、あああぁっ――」
 十数秒ののち、紗雪はガクガクと膝を震わせ、真鍋の前でひとり、絶頂に達した。
「可愛いよ、紗雪。ブラで変形した胸を曝け出して、羞恥心の欠片もなくだらりと脚を開いて、指だけで簡単にイっちゃう紗雪は、僕の最高のオモチャだよ」
 全身にしっとりと汗をかき、身体の奥から隅々にまで広がる快感の余韻にはぁはぁと息を弾ませている紗雪に、膣内から指を抜き取った真鍋が涼やかな声で言う。自分の姿は見えていないため、真鍋から言われる言葉がそのまま、紗雪の今の格好ということになる。
「じゃあ、これは解いておいてあげるから、あとは自分でやりなさい」
 そう言うと真鍋は紗雪の手首を前で括っていたベルトを解き、カチャカチャと自身の腰に戻した。
 やっと紗雪の手に自由が戻る。けれど紗雪は真鍋の手によって淫らにはだけさせられた衣服を直そうとはせず、腕をだらりと体の両脇に放り投げ、なおも続く荒い呼吸を繰り返した。指が長いせいか、真鍋に絶頂に達せられると、いつまでも熱が引かない。
「もうすぐ昼休みが終わる。急いだほうがいいと思うけど」
 そんな紗雪をひとり残して、真鍋は靴音を翻して専門図書棟をあとにしていった。
 ネクタイを置いていったのは、わざとだとしか考えられない。こんな口実めいたことをしなくてもちゃんと返しに行くし、間違っても命令を無視するようなことはしないのに。
「溺れてるのは私だけ、か……」
 呟くと、ぶわりと涙が込み上げた。最初は人の弱みに付け込むなんて最低な人だと思ったし、その性癖にも驚かされることばかりだったけれど、今では真鍋に身体を好きなように扱われることが悦びに変わりつつある。
 けれど真鍋は自身の欲を吐き出す対象としてしか紗雪を見ていないのは明らかだった。いくら甘い睦言を紡がれようと、何度紗雪の中で果てようと、けして紗雪の目を見て言葉を紡いではくれないのだ。
 冷房の風が吹き付け、露になった紗雪の胸を冷たく撫でていく。一度は柔らかくなった乳首が硬く立って、ブラのカップと擦れて何とも言えない甘苦い痛みをそこにもたらす。
 七月。
 真鍋に身体の関係を強要されてから、二ヵ月弱が経っていた。
 いまだ真鍋の〝オモチャ〟でしかない自分に言いようのない胸の痛みを覚えながら、紗雪は真鍋が無残にもはだけてそのままにしていった服をもそもそと整えるしかなかった。
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