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26.復讐の戦いへ
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「ここまでは順調だったな……」
「はい。驚くほどに」
「問題はここからですわ」
街道から離れた林の中で俺達は野営の準備をしていた。
タイシャの住居を去って数日、人目の少ない場所をバギーで飛ばした俺達は無事に女神の国に入り、レイサムの街の近くまで順調に進んでいた。
女神の国に入って以降、三騎士からの攻撃を警戒していたが、今のところ何もない。お尋ね者として手配されていることくらいは想定していたんだが、何事も無く道中で買い物なんかも出来た。
時刻は夜、月明かりの下、焚き火を囲んで俺達はこれからについて話し合っていた。
「正直なところ。今の私達の実力とカーン殿のご助力があれば、戦いは勝てると思うのです」
タイシャの特訓のおかげで、俺達は飛躍的に能力値が上がっている。
【モヒ―・カーン】
種族:天使
職業:傭兵兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :320
魔法:200
速さ:240
防御:450
魔防:270
スキル:
・超成長:物凄く能力値とかが上昇しやすい。
・天使形態(限定):一定時間、天使としての力を発揮する。ステータスが倍増する(出力自在)
・神のご加護(超):神様からの数々のご加護がある。
・投石L10
・投擲L10
・光神騎士団剣術L2
・斧戦闘L10
・サバイバルL3
・神技L5:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
【シーニャ・ライクレイ】
種族:人間
職業:魔法使い兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :22
魔法:293
速さ:78
防御:48
魔防:146
スキル:
・一般攻撃魔法全般L12:属性に関係なく攻撃魔法全般を使える。
・一般防御魔法全般L12:結界に代表される魔法全般を使える。
・一般援護魔法全般L12:回復、能力強化などの援護魔法全般を使える。
・古代魔法全般L8:忘れられた古代の魔法を使うことができる。主に印刷系。
・作家(微エロ)L9
・神技L2:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
※L10以上は人類最高レベルの使い手であることを示す。
備考:学生時代に友人と古代の印刷魔法を復元。友人は世界初の出版社を作り上げた。
【セイン・ライクレイ】
種族:人間
職業:聖騎士兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :184
魔法:88
速さ:192
防御:148
魔防:93
スキル:
・一般防御魔法全般L3:結界に代表される防御魔法(下級)を使える。
・一般援護魔法全般L3:回復、能力強化などの援護魔法(下級)を使える。
・神聖魔法L8:神より賜る奇跡の魔法。光の至高神の神聖魔法を使える。
・神の加護L3:世界を作りし光の神から、たまに啓示がもたらされるなどの弱い祝福。
・光神騎士団剣術L10
・光神騎士団槍術L10
・腐女子L9
・神技L2:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
備考:光の神殿の優秀な騎士。帰省した姉の持ってきた本を読み、腐女子となる。タイシャとの修行でゴリラのような強さを手に入れた。
これなら女神の三騎士とも互角に渡り合えるはずだ。一部おかしな表現が混ざっているが、俺はもう気にしない。
上手く戦いに持ち込めば、シーニャとセインの復讐は十分可能だと思う。
「問題は、どうやって復讐の舞台を整えるかだな」
そのために途中で立ち寄った街で俺達は全身を隠せる大きさのローブを購入しておいた。
俺は体がデカいのでこれを着ても目立ってしまうが、面が割れているセインとシーニャには必要なものだ。
これと妖精の隠れ身の魔法を組み合わせればレイサムの街に入って数日は時間が稼げるだろう。
逆に言うと、レイサムの街に入って数日で決着をつけなくてはならないわけだ。
「妖精の魔法で街に入り、手早く情報を収集した後に襲撃。言葉で言うのは簡単ですけれど……」
「元使用人はともかく、戦士団が厄介なんだな……。えっと、なんて名前だったか聞いていいか?」
姉妹の仇の名前、一度聞いたのだが忘れてしまった。タイシャの修行が厳しかったせいだ。
「元使用人がマイクス。戦士団の長がジエードですわ」
「ジエードが率いるのが『黒の戦士団』、全員が黒く塗った刃を使う、危険な集団です」
戦士というより暗殺者の集まりみたいな奴らだが、実力は本物らしい。戦乱の地で傭兵団として暴れ回っていたそうだ。そんな連中に目を付けられたなら、シーニャ達が逃げ出したのも仕方ない。
「仮にジエードって奴が俺達の存在に気づいて、こちらを襲撃したとする。俺がそれを返り討ちにすると、マイクスを逃がす可能性があるよな?」
「はい。ですから、極力戦いは少なくしたいんですの」
「理想は奇襲で一度きりですね」
そのためには効率的な情報収集が必要だ。
俺達の苦手分野である。
これがヴルミナの街なら多少は何とかなるんだが、知らない場所ではそうはいかない。うっかりライクレイ姉妹の存在に気づかれるのもまずい。
街に入るのは簡単だが、動きをとりにくいのが問題だ。
「悩ましいが、いきなり突っ込むくらいの覚悟を決めていくしかねぇよな……」
「ですわね」
レイサムの街は目の前だ。動かない選択肢は無い。いきなり強襲するくらいの覚悟は必要だ。
俺達がそう結論しようとした時だった。
野営地に接近する者の気配を感じた。
「…………」
全員が、静かに武器を手にする。
特訓で鋭敏になった感覚が教えてくれる。
数は一名、かなりの手練れだ。
「警戒させてしまったようだが。こちらに戦う意志はない」
焚き火の明かりに照らされたのは知っている顔だった。
精悍な顔つきのセインと似たデザインの鎧姿。緊張した表情の中に、どこか温和な雰囲気を感じさせる男だ。
「女神の三騎士の一人……たしか名前は」
「カイエ先輩!」
そうだ、カイエ。女神の三騎士の一人。
セインの神殿時代の先輩だ。何やら荷物を持ってるが、目的は何だ。
「何をしに来やがった」
警戒心を隠さずに言うと、カイエは愛想笑いを浮かべながら返事をした。
「警戒する気持ちはわかるが、こちらの事情を伝えるくらいの余裕はくれるかな?」
目配せすると、姉妹が頷いた。
「俺が斧を収めるかどうかは、話の内容次第だな」
斧を構えたまま、会話を促す。姉妹も警戒しているが、カイエの方は武器を抜く気配すらない。
「簡潔に言う。我らがリーダー、トゥルグ殿からの伝言を伝えに来た。『ライクレイ姉妹の復讐が終わるまで、我々は手出ししない』、以上だ」
そう言うと、カイエは荷物の中身を開け始めた。中から大量の書類が現れる。
「……………どういうことですの?」
「詳しく説明したいので、その恐ろしい斧を収めてくれまいか。モヒー・カーン殿」
俺はゆっくりと斧を収める。周囲にこいつ以外の気配は感じられない。どうやら、本当に戦意はないらしい。
「いいだろう。そこに座りな」
俺が斧を下ろすと、カイエは指示どおりに、焚き火の近くの丸太に腰掛けた。
○○○
「簡単な話でね。あの時、フィーティアを回収したあと、セインの身に何があったのかを調べたんだよ。カーン殿はともかく、ライクレイのお二人は身元もはっきりしているからね」
丸太に腰掛け、セインから渡されたお茶を遠慮無く飲みながら、朗らかにカイエは語った。こいつ、毒とか全く警戒してねぇ。女神の加護で毒なんか効かないのかもしれないが。
「それで、真相に辿り着いたってことか。話じゃマイクスって奴が、不幸な死を遂げた主人の後を継いだってことになってるはずだぜ」
「その裏を取るのに一月近くかかったよ。なかなかの工作だな」
その言葉に、カイエから渡された資料を読んでいたシーニャが答える。
「女神の国の中枢は、わたくし達の事情を把握したのですね」
「実は、確信を持ったのはたった今だ。マイクスとその背後にいる黒の戦士団、それに対抗するためにカーン殿と組んだのではないだろうか、と推測するのが限界だったな」
「正解です。流石はカイエ先輩ですね」
「調べたのは私ではないし、推測したのはトゥルグ殿だよ」
「そのトゥルグだ。あいつは何で俺達のやろうとすることを見逃す?」
ここはもう女神の国の中だ。女神直属の三騎士なら好き放題振る舞えるんじゃないか?
俺の疑問は向こうにも伝わったようで、カイエは静かに頷きつつ答える。
「恐らく、この復讐を正当なものだと判断しのだ。マイクスと黒の戦士団の行いは、我ら女神の三騎士が裁くべきもの。だが、討つべき仇を持つものが動くなら、それで良しとしたのだろう」
「随分とお優しいじゃねぇか」
「……あの方は女神の国が出来る前は、戦乱の続くこの平原で生きていたからな。色々と思うところがあるようだ」
そして、この件に関しては私も口出しすることは無いと、カイエは付け加えた。
「……まさか堂々と俺達を見逃すと宣言しにくるとはな」
「想定外でしたわね。最悪、官憲の目を盗んで動くことを覚悟しておりましたのに」
「我々の変わりに仕事をしてもらうだけだよ。三人の実力に関しては、信用しているのでな」
そういって、カイエは荷物から書類の束を追加で取り出して渡して来た。
「これはあの街と現在のライクレイ商会についての資料だ。活用されよ」
受け取ったセインは複雑な笑みを浮かべつつも、頭を下げる。
「カイエ先輩。ありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない。私がいなくても、君達は同じ事をしただろう?」
そこは否定しない。そのためにレイサムの街に向かっているわけだし。
「一つ、聞いても良いですか? なんで女神の元にいるのです?」
セインが思い切った様子で言う。ずっと気になっていたのだろう。本来、カイエは光神の神殿にいるべき人材なのだから。
「女神様がこの地域の戦乱を沈めたのは事実だ。お会いした時にお力になりたいと思ってな。光神様はお止めにならなかった」
「つまり、先輩は、自分の意志でそこにいるのですね」
光神とやらは随分懐の広い神様みたいだな。夫婦喧嘩でやって来た女神に寛大だ。
「そうだ。私は自分の意思でこの立場にある。そして、カーン殿と共に先に進むなら、君と対峙せねばならん」
「……承知致しました。また、お会いしましょう」
迷い無く言い切ったセインに頷きを返すと、カイエは立ち上がった。
「美味い茶を馳走になった。では、カーン殿。これにて失礼する。次は、敵同士であろう」
「ああ、親切な対応、感謝するぜ」
「利害の一致だとでも思ってくれたまえ」
そう言って、カイエは野営地から離れ、暗闇に消えていった。
「カイエ先輩……」
「いい奴みたいだな」
「はい。良い方です……」
まったくだ。ここまで堂々と敵に塩を送ってくれる奴はそうはいない。
気を取り直して、俺達は貰った資料を広げた。
文書の扱いが得意なシーニャが驚きの声をあげる。
「凄い、よく調べられていますわ」
「ええ、これならこの場で奇襲の作戦を立てられます」
言われて俺も二人の背後から資料を覗き込む。
ざっと読んだ感じでも、よく調べられているのがわかった。現在の商会の規模、戦士団の配置、屋敷の見取り図、必要な情報がいきなり手元に入ってきた感じだ。
「これ、俺達が街でコソコソ情報収集する必要なくなったんじゃねぇか?」
「ですわね。流石は女神の三騎士ですわ」
きっと権力やら何やら使って情報を集めまくったんだろう。
これは遠慮無く、利用させて貰おう。
「カイエ先輩は私の姿を見て、すぐに何が起きたか調べたのでしょうね。その最中で我が家の乗っ取りのことが明るみになり、然るべき対応を進めたようですね」
「で、その前に俺達が現れたから実行は任せるってわけか」
「有り難い話ですけど、複雑な気分ですわね」
俺が生き返るためには女神の三騎士とどうしても敵対せざるを得ない。
そもそも、三人は女神の国の英雄みたいなものらしい。悪人ではないのだ。
だからといって、俺が目的を諦めるわけにはいかない。善人だろうが悪人だろうが、生き返るためには撃破する。
「……細かいことを考えるのはやめだ。今は情報収集の手間が省けたことを喜ぼう」
「はい。それが良いかと思います。カイエ先輩がああ言った以上、事が済むまで手出ししてこないでしょう」
「動くなら早い方が良いですわ。この情報と実情が変わると面倒ですもの」
「そうですね。どう攻めましょうか?」
資料によるとマイクスとジエードはだいたい屋敷にいるようだ。配下の戦士団が護衛についていて、かなり厄介だ。
こういう時は、作戦目的をはっきりさせるのが大事だ。
つまり、俺達の狙いはマイクス本人。戦士団の殲滅ではない。
「強引な手を使おう。俺が囮になるから、その間に二人がマイクスを確保してくれ」
俺がそう言うと、姉妹は少し考えてから、同意してくれた。
「……普通ならば危険ですというところですが、カーン殿なら安心ですね」
「ジエードは常にマイクスと一緒のようですから、わたくし達はマイクスに逃げる間を与えずにジエードを倒さねばなりませんわね」
「できるか?」
聞いたところ、ジエードはかなりの使い手だ。以前の二人では勝てる見込みがなかったという。
それに、屋敷内にいる戦士団の援軍もあるだろう。俺がどれだけ暴れても、全部を引きつけられるわけじゃあ無い。
「カーン様のおかげで思いがけないくらい強くなれましたの。その成果をお見せしますわ」
「その通りです、お任せください!」
二人が俺を信じてくれたように、俺も二人を信じることにした。
さあ、復讐の戦いの幕開けだ。
「はい。驚くほどに」
「問題はここからですわ」
街道から離れた林の中で俺達は野営の準備をしていた。
タイシャの住居を去って数日、人目の少ない場所をバギーで飛ばした俺達は無事に女神の国に入り、レイサムの街の近くまで順調に進んでいた。
女神の国に入って以降、三騎士からの攻撃を警戒していたが、今のところ何もない。お尋ね者として手配されていることくらいは想定していたんだが、何事も無く道中で買い物なんかも出来た。
時刻は夜、月明かりの下、焚き火を囲んで俺達はこれからについて話し合っていた。
「正直なところ。今の私達の実力とカーン殿のご助力があれば、戦いは勝てると思うのです」
タイシャの特訓のおかげで、俺達は飛躍的に能力値が上がっている。
【モヒ―・カーン】
種族:天使
職業:傭兵兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :320
魔法:200
速さ:240
防御:450
魔防:270
スキル:
・超成長:物凄く能力値とかが上昇しやすい。
・天使形態(限定):一定時間、天使としての力を発揮する。ステータスが倍増する(出力自在)
・神のご加護(超):神様からの数々のご加護がある。
・投石L10
・投擲L10
・光神騎士団剣術L2
・斧戦闘L10
・サバイバルL3
・神技L5:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
【シーニャ・ライクレイ】
種族:人間
職業:魔法使い兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :22
魔法:293
速さ:78
防御:48
魔防:146
スキル:
・一般攻撃魔法全般L12:属性に関係なく攻撃魔法全般を使える。
・一般防御魔法全般L12:結界に代表される魔法全般を使える。
・一般援護魔法全般L12:回復、能力強化などの援護魔法全般を使える。
・古代魔法全般L8:忘れられた古代の魔法を使うことができる。主に印刷系。
・作家(微エロ)L9
・神技L2:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
※L10以上は人類最高レベルの使い手であることを示す。
備考:学生時代に友人と古代の印刷魔法を復元。友人は世界初の出版社を作り上げた。
【セイン・ライクレイ】
種族:人間
職業:聖騎士兼犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :184
魔法:88
速さ:192
防御:148
魔防:93
スキル:
・一般防御魔法全般L3:結界に代表される防御魔法(下級)を使える。
・一般援護魔法全般L3:回復、能力強化などの援護魔法(下級)を使える。
・神聖魔法L8:神より賜る奇跡の魔法。光の至高神の神聖魔法を使える。
・神の加護L3:世界を作りし光の神から、たまに啓示がもたらされるなどの弱い祝福。
・光神騎士団剣術L10
・光神騎士団槍術L10
・腐女子L9
・神技L2:神々の戦闘術。時にそれは現世の戦技を凌駕する。
備考:光の神殿の優秀な騎士。帰省した姉の持ってきた本を読み、腐女子となる。タイシャとの修行でゴリラのような強さを手に入れた。
これなら女神の三騎士とも互角に渡り合えるはずだ。一部おかしな表現が混ざっているが、俺はもう気にしない。
上手く戦いに持ち込めば、シーニャとセインの復讐は十分可能だと思う。
「問題は、どうやって復讐の舞台を整えるかだな」
そのために途中で立ち寄った街で俺達は全身を隠せる大きさのローブを購入しておいた。
俺は体がデカいのでこれを着ても目立ってしまうが、面が割れているセインとシーニャには必要なものだ。
これと妖精の隠れ身の魔法を組み合わせればレイサムの街に入って数日は時間が稼げるだろう。
逆に言うと、レイサムの街に入って数日で決着をつけなくてはならないわけだ。
「妖精の魔法で街に入り、手早く情報を収集した後に襲撃。言葉で言うのは簡単ですけれど……」
「元使用人はともかく、戦士団が厄介なんだな……。えっと、なんて名前だったか聞いていいか?」
姉妹の仇の名前、一度聞いたのだが忘れてしまった。タイシャの修行が厳しかったせいだ。
「元使用人がマイクス。戦士団の長がジエードですわ」
「ジエードが率いるのが『黒の戦士団』、全員が黒く塗った刃を使う、危険な集団です」
戦士というより暗殺者の集まりみたいな奴らだが、実力は本物らしい。戦乱の地で傭兵団として暴れ回っていたそうだ。そんな連中に目を付けられたなら、シーニャ達が逃げ出したのも仕方ない。
「仮にジエードって奴が俺達の存在に気づいて、こちらを襲撃したとする。俺がそれを返り討ちにすると、マイクスを逃がす可能性があるよな?」
「はい。ですから、極力戦いは少なくしたいんですの」
「理想は奇襲で一度きりですね」
そのためには効率的な情報収集が必要だ。
俺達の苦手分野である。
これがヴルミナの街なら多少は何とかなるんだが、知らない場所ではそうはいかない。うっかりライクレイ姉妹の存在に気づかれるのもまずい。
街に入るのは簡単だが、動きをとりにくいのが問題だ。
「悩ましいが、いきなり突っ込むくらいの覚悟を決めていくしかねぇよな……」
「ですわね」
レイサムの街は目の前だ。動かない選択肢は無い。いきなり強襲するくらいの覚悟は必要だ。
俺達がそう結論しようとした時だった。
野営地に接近する者の気配を感じた。
「…………」
全員が、静かに武器を手にする。
特訓で鋭敏になった感覚が教えてくれる。
数は一名、かなりの手練れだ。
「警戒させてしまったようだが。こちらに戦う意志はない」
焚き火の明かりに照らされたのは知っている顔だった。
精悍な顔つきのセインと似たデザインの鎧姿。緊張した表情の中に、どこか温和な雰囲気を感じさせる男だ。
「女神の三騎士の一人……たしか名前は」
「カイエ先輩!」
そうだ、カイエ。女神の三騎士の一人。
セインの神殿時代の先輩だ。何やら荷物を持ってるが、目的は何だ。
「何をしに来やがった」
警戒心を隠さずに言うと、カイエは愛想笑いを浮かべながら返事をした。
「警戒する気持ちはわかるが、こちらの事情を伝えるくらいの余裕はくれるかな?」
目配せすると、姉妹が頷いた。
「俺が斧を収めるかどうかは、話の内容次第だな」
斧を構えたまま、会話を促す。姉妹も警戒しているが、カイエの方は武器を抜く気配すらない。
「簡潔に言う。我らがリーダー、トゥルグ殿からの伝言を伝えに来た。『ライクレイ姉妹の復讐が終わるまで、我々は手出ししない』、以上だ」
そう言うと、カイエは荷物の中身を開け始めた。中から大量の書類が現れる。
「……………どういうことですの?」
「詳しく説明したいので、その恐ろしい斧を収めてくれまいか。モヒー・カーン殿」
俺はゆっくりと斧を収める。周囲にこいつ以外の気配は感じられない。どうやら、本当に戦意はないらしい。
「いいだろう。そこに座りな」
俺が斧を下ろすと、カイエは指示どおりに、焚き火の近くの丸太に腰掛けた。
○○○
「簡単な話でね。あの時、フィーティアを回収したあと、セインの身に何があったのかを調べたんだよ。カーン殿はともかく、ライクレイのお二人は身元もはっきりしているからね」
丸太に腰掛け、セインから渡されたお茶を遠慮無く飲みながら、朗らかにカイエは語った。こいつ、毒とか全く警戒してねぇ。女神の加護で毒なんか効かないのかもしれないが。
「それで、真相に辿り着いたってことか。話じゃマイクスって奴が、不幸な死を遂げた主人の後を継いだってことになってるはずだぜ」
「その裏を取るのに一月近くかかったよ。なかなかの工作だな」
その言葉に、カイエから渡された資料を読んでいたシーニャが答える。
「女神の国の中枢は、わたくし達の事情を把握したのですね」
「実は、確信を持ったのはたった今だ。マイクスとその背後にいる黒の戦士団、それに対抗するためにカーン殿と組んだのではないだろうか、と推測するのが限界だったな」
「正解です。流石はカイエ先輩ですね」
「調べたのは私ではないし、推測したのはトゥルグ殿だよ」
「そのトゥルグだ。あいつは何で俺達のやろうとすることを見逃す?」
ここはもう女神の国の中だ。女神直属の三騎士なら好き放題振る舞えるんじゃないか?
俺の疑問は向こうにも伝わったようで、カイエは静かに頷きつつ答える。
「恐らく、この復讐を正当なものだと判断しのだ。マイクスと黒の戦士団の行いは、我ら女神の三騎士が裁くべきもの。だが、討つべき仇を持つものが動くなら、それで良しとしたのだろう」
「随分とお優しいじゃねぇか」
「……あの方は女神の国が出来る前は、戦乱の続くこの平原で生きていたからな。色々と思うところがあるようだ」
そして、この件に関しては私も口出しすることは無いと、カイエは付け加えた。
「……まさか堂々と俺達を見逃すと宣言しにくるとはな」
「想定外でしたわね。最悪、官憲の目を盗んで動くことを覚悟しておりましたのに」
「我々の変わりに仕事をしてもらうだけだよ。三人の実力に関しては、信用しているのでな」
そういって、カイエは荷物から書類の束を追加で取り出して渡して来た。
「これはあの街と現在のライクレイ商会についての資料だ。活用されよ」
受け取ったセインは複雑な笑みを浮かべつつも、頭を下げる。
「カイエ先輩。ありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない。私がいなくても、君達は同じ事をしただろう?」
そこは否定しない。そのためにレイサムの街に向かっているわけだし。
「一つ、聞いても良いですか? なんで女神の元にいるのです?」
セインが思い切った様子で言う。ずっと気になっていたのだろう。本来、カイエは光神の神殿にいるべき人材なのだから。
「女神様がこの地域の戦乱を沈めたのは事実だ。お会いした時にお力になりたいと思ってな。光神様はお止めにならなかった」
「つまり、先輩は、自分の意志でそこにいるのですね」
光神とやらは随分懐の広い神様みたいだな。夫婦喧嘩でやって来た女神に寛大だ。
「そうだ。私は自分の意思でこの立場にある。そして、カーン殿と共に先に進むなら、君と対峙せねばならん」
「……承知致しました。また、お会いしましょう」
迷い無く言い切ったセインに頷きを返すと、カイエは立ち上がった。
「美味い茶を馳走になった。では、カーン殿。これにて失礼する。次は、敵同士であろう」
「ああ、親切な対応、感謝するぜ」
「利害の一致だとでも思ってくれたまえ」
そう言って、カイエは野営地から離れ、暗闇に消えていった。
「カイエ先輩……」
「いい奴みたいだな」
「はい。良い方です……」
まったくだ。ここまで堂々と敵に塩を送ってくれる奴はそうはいない。
気を取り直して、俺達は貰った資料を広げた。
文書の扱いが得意なシーニャが驚きの声をあげる。
「凄い、よく調べられていますわ」
「ええ、これならこの場で奇襲の作戦を立てられます」
言われて俺も二人の背後から資料を覗き込む。
ざっと読んだ感じでも、よく調べられているのがわかった。現在の商会の規模、戦士団の配置、屋敷の見取り図、必要な情報がいきなり手元に入ってきた感じだ。
「これ、俺達が街でコソコソ情報収集する必要なくなったんじゃねぇか?」
「ですわね。流石は女神の三騎士ですわ」
きっと権力やら何やら使って情報を集めまくったんだろう。
これは遠慮無く、利用させて貰おう。
「カイエ先輩は私の姿を見て、すぐに何が起きたか調べたのでしょうね。その最中で我が家の乗っ取りのことが明るみになり、然るべき対応を進めたようですね」
「で、その前に俺達が現れたから実行は任せるってわけか」
「有り難い話ですけど、複雑な気分ですわね」
俺が生き返るためには女神の三騎士とどうしても敵対せざるを得ない。
そもそも、三人は女神の国の英雄みたいなものらしい。悪人ではないのだ。
だからといって、俺が目的を諦めるわけにはいかない。善人だろうが悪人だろうが、生き返るためには撃破する。
「……細かいことを考えるのはやめだ。今は情報収集の手間が省けたことを喜ぼう」
「はい。それが良いかと思います。カイエ先輩がああ言った以上、事が済むまで手出ししてこないでしょう」
「動くなら早い方が良いですわ。この情報と実情が変わると面倒ですもの」
「そうですね。どう攻めましょうか?」
資料によるとマイクスとジエードはだいたい屋敷にいるようだ。配下の戦士団が護衛についていて、かなり厄介だ。
こういう時は、作戦目的をはっきりさせるのが大事だ。
つまり、俺達の狙いはマイクス本人。戦士団の殲滅ではない。
「強引な手を使おう。俺が囮になるから、その間に二人がマイクスを確保してくれ」
俺がそう言うと、姉妹は少し考えてから、同意してくれた。
「……普通ならば危険ですというところですが、カーン殿なら安心ですね」
「ジエードは常にマイクスと一緒のようですから、わたくし達はマイクスに逃げる間を与えずにジエードを倒さねばなりませんわね」
「できるか?」
聞いたところ、ジエードはかなりの使い手だ。以前の二人では勝てる見込みがなかったという。
それに、屋敷内にいる戦士団の援軍もあるだろう。俺がどれだけ暴れても、全部を引きつけられるわけじゃあ無い。
「カーン様のおかげで思いがけないくらい強くなれましたの。その成果をお見せしますわ」
「その通りです、お任せください!」
二人が俺を信じてくれたように、俺も二人を信じることにした。
さあ、復讐の戦いの幕開けだ。
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