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12.その名は滅亡

大地

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ルーク視点

 「ここが…、リスティアが消えた場所?」

 激戦の跡は、豊かな森と泉に変わっていた。
 砂と塩の、死の大地であったそこは、リスティアの生命力と魔力を使い再生したという。

 「ここで、君は生きているんだね。母なる大地として、いつまでも…」

 「殿下…」

 魔族領たるギ王国は、リストガイア王国と名を変え復興の徒についていた。そう、『リスティアの大地』という国名に変わって…。
 
 魔王レベッカのテレポートで、やっと来ることができた。私だけでは、この場で自害するかもしれない。誰もがそう思ったらしく、関係者全員が共に来ることになった。
 ミリュー公爵にアイラ公爵妃。レムオン公子にカイルとチェレン。ローラにシャーロットも。

 あれから一週間。私はまだ信じていない。
 只、最後の場所を見つめていた…。


ローラ視点

 ルーク殿下は、只、リスティア様の最後の場所を見つめていました。私も信じられないのですが…。

 私自身は王城発表で、事の次第を聞きました。
 それまで、邪神復活の事すら知りませんでした。これは市民の大多数も同じです。
 復活した邪神の為に、北魔大陸が滅亡しつつある事。それを、魔族や神竜の力を借りたとは言え単身迎え撃ち、撃退殲滅したリスティア様は、死の大地を甦らせる為に禁呪を使い、還らぬ人になったと。
 邪神を倒した喜びも束の間、リンドガイア王国は悲しみに包まれてしまったのです。

 教会にはリスティア様の無事を、復活を、冥福を祈る方三様いて、国全体が喪に服す形になりました。
 嘗てダイアナ施薬院院長が言った、

 「貴女はこの国で、世界で一番愛されている女性なのよ」

 誇張でも妄言でもない真実の言葉だったと、誰もが納得出来たのです。

 婚約者を失った殿下は、一週間たった今もまだ婚約指輪をはめたまま。周りも、新たな婚約者をと殿下に話していません。話せません。
 この国の女性で、リスティア様の代わりが出来ると思う者は皆無でした。妙齢の娘を持つ貴族も、とても殿下に話をもっていけなかったのです。

 リスティア様。
 神界に旅立たれるの早すぎます!貴女はまだ十五です。もっと、もっと…。



 神界。
 私、リスティア=ミリューは不思議な体験をしています。まるで天空から見ているみたいに。
 地上ではルーク様やお父様、お母様。お兄様にカイル、チェレン、ローラにシャーロット。
 皆が悲しみに暮れているのを見て、本当に申し訳なく思います。

 「ここまで愛されている人も珍しいわね」
 「気持ちは分からんでもないがな」

 声のする方を見ると、白と黒の女神。

 「女神グランガイア様、ディロスガイア様」

 「こうして相対するのは初めてだな」
 「ある意味二度目ね。最も、貴女の前世での話ではあるけど。その時にお願いしました。世界を変えてくれと。ありがとう、約束を守ってくれて。私の願いを聞いてくれて」

 女神様に頭を下げられる? そんな?
 「あ、あの? 約束って?」
 「何の変化もなく、ゆっくりと衰退していた世界。貴女のお陰で一つになろうとしている。よりよく変わろうとしている。人族だけでなく、魔族までもが。本当にありがとう、リスティア。そんな貴女に、私達からお礼がしたいの」
 「お礼ですか?」
 「そうだ。女神として我々と共に世界を導くか、人として彼等と共に生きるか。好きな方を選んで良いぞ」
 「本当に? 本当にまた、人として生きていけるのですか? 私は、ルーク様と一緒にいられますか?」
 好きな方を! そんなの一択しかない!!

 「今の貴女は、あの時と同じ姿。よく、その指輪をはめていたわ」
 「それは、『対の命運』と呼ばれる物。相手を想う心が、僅かだが生命力に変わる。ルーク王子の貴女を想う心の大きさが、貴女の命となるのだ」

 『対の命運』? 同じ瞳の色の石。世間で恋人達に人気と聞いて、ルーク様が贈ってくれたもの。そんな力が、この指輪にあったなんて?

 「だから、貴女の生命力は尽きていないのです。それにゼルメイドやボスコーン、神竜の加護もありました。リスティア? 皆が待っています」
 「はい。ありがとうございます、グランガイア様、ディロスガイア様」

 女神様二人が、祈りの姿をとる。
 私の身体が、再び輝き出し、金色の粒子に変わる。

 「ルーク様…」


ローラ視点

 「殿下! 指輪が!?」
 ルーク殿下がはめている指輪が煌めいています。
 
 「まただ! 珠にこうして煌めいているんだ! だから、リスティアが生きていると思う。思いたいんだ!これは彼女の瞳の色。リスティアの輝き! 頼む! 女神グランガイア! ディロスガイア! この輝きをリスティアの命の輝きと信じさせてくれ!」

 「えぇ。貴方の想いが、リスティアの命になる。その指輪に、想いを込めなさい」

 この声は? 女神グランガイア様?

 「リスティア!」

 魂の叫び!
 ルーク殿下の指輪から一条の光が?

 照らされた大地から金色の粒子が立ち上る。
 それは、ゆっくりと人の姿をとって…。

 粒子が、輝きが収まった後、そこに立っていたのは?

 「リスティア!」
 「ルーク様、その、只今帰りました…、きゃっ?」

 殿下はリスティア様を抱きしめていました。
 しっかりと。あは、だんだん滲んでぼやけていきます。リスティア様…。本当に? 帰って来られたのですよね?
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