あの夜、あなたがくれた大切な宝物～御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く～

夏の雨と共に現れたあなた

1

傘を広げながら空を見上げると、灰色の雲が空を漂い、冷たい雨粒を落としていた。


梅雨はとっくに過ぎ、だんだん日差しもキツくなってきたけど、今日はこの雨のおかげで比較的過ごしやすい。


私は薄手のカーディガンを羽織り、保育園を出て歩きだした。


今日のシフトはお昼まで、雪都のお迎えまではまだ時間がある。


1度マンションに戻って用事を済ませなきゃ。


『彩葉』


その瞬間、雨の音が全部消えたみたいに、私の耳にあの美しい声が流れ込んできた。


『…九条…さん？』


少し離れた場所に車を止め、その前で傘をさして立っている九条さん。


周りの何気ない景色さえも全て自分の背景として取り込み、まるでその場所だけが海外のオシャレな映画のワンシーンのように見えた。


普段の日常からかけ離れたその光景に、息が出来ないくらいの感情が一気に湧き上がる。


1歩ずつこちらに近づいてくる間、私の心臓はどんどん高鳴り、溢れそうになる涙を必死に堪えた。


『彩葉…やっと会えた』


九条さん…


その一言は、この世の中で1番短く、1番美しく、1番嬉しい「詩」(うた)のように聞こえた。


私の全身は嘘みたいに熱くなって、鼓動がさらに激しく脈打った。


立っていることがやっとなくらい、傘を持つ手は九条さんに会った瞬間からずっと震えてる。


『…どうして…？なぜここに？』


絞り出すように疑問をぶつけた。


『…君に会いたかったから』


『えっ…』


『真斗を迎えに行った時、奥の方にいたのは彩葉だってすぐにわかった。だから…会いにきた』


『そんな…』


気付くはずないって思ってたのに。


それに「会いにきた」なんて…


私なんかにわざわざ会いに来てくれたの？


私のこと…覚えててくれたの？


3年間、忘れてなかった…の？


『雨に濡れたら風邪を引く。車で送るよ』


優しいセリフにキュンとなる。