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夏の雨と共に現れたあなた

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『あっ、いえ、大丈夫です。マンションまで近いですし、傘もありますから』


『少し話したいんだ。大切なことだから』


真剣な表情。


潤んだ瞳で真っ直ぐ私を見つめる九条さん。


ズルいよ、こんな切なげで憂いを帯びた顔をされたら断れなくなる。


『さあ、行こう』


でも、ここで話してて誰かに見られるのも嫌だし、私は九条さんに言われるがままに車の助手席に座った。


雨に濡れないように傘をさしてガードしてくれるところ、やっぱり紳士的で優しい。


運転席に乗り込んだ九条さんのスーツは少し濡れて…


足元に目をやると、上着よりもスラックスの裾の方がかなり濡れていた。


まさか、しばらく…車から出て雨の中を待っていてくれたの?


『…突然悪かったな』


私は首を横に振った。


『あ、あの…ま、真斗君はずいぶん九条さんに懐いてますね。真斗君、すごく嬉しそうにしてましたから』


いきなり何を言ってるんだろ?


隣に九条さんがいるせいで動揺が止まらない。


『真斗の父親とは学生時代の友人でね。彼は1人で子育てを頑張ってるから…俺に何かできることがあれば何でも手伝ってやりたいと思ってる。真斗も彼に似て本当にいいやつだから。俺の小さな親友だな』


微笑みを浮かべる九条さん。


話しながらでもスムーズな運転、ブレーキングも優しい。


『そうなんですね。確かに真斗君はいつも保育士の良く言うことを聞いてくれて、みんなの面倒もすごく見てくれてます。真斗君を見習いたいくらいです』


『良い顔してる』


『え?』


『彩葉が販売員を辞めて保育士になっていたのは驚いた。でも、あの時話してたいた「やりたいこと」っていうのは保育士のことだったんだな。君は今、とても良い顔をしてる』


『良い顔なんて…』


これって褒められてるんだよね?


何だか恥ずかしい。


『一堂社長に会った。とても喜んでおられたよ、君がとても幸せそうだって』


お父さん…


ずっといっぱい心配をかけてるから、そう感じてくれてるなら嬉しい。
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