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夏の雨と共に現れたあなた

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『ここに入ろう』


九条さんは、少し離れたカフェに車を止めた。


とても落ち着いた店内。


平日の夕方前の時間だからか、そんなに混雑していない。


1番奥のテーブルに向かい合って座り、九条さんはコーヒー、私はミルクティーを注文した。


私、まだ少し手が震えてる。


お願いだから早く治まって。


正直、この状況がまだ理解出来なくて、どうして
目の前に九条 慶都さんがいるのかも詳しくはわからないまま。


この3年間、ずっと心の中にはいたけど、決して求めてはいけなかった人。


胸の奥に閉じ込めていた想い人が、手を伸ばせば届く距離にいる現実を、そう簡単には受け止められない。


『彩葉、体は大丈夫か?元気でいたか?』


身内みたいな質問に少しホッとする。


『…はい。九条さんこそお元気でしたか?』


『…元気だった…というべきか…』


歯切れの悪い言葉、九条さんは少し顔を曇らせた。


その悩ましい顔でさえも美しく、この人には360度どこから見られても欠点は無いんだろう。


さっきからオシャレな雰囲気の若い女性達がチラチラこちらを見ているけど、九条さんは全く気にしていないようで。


きっとどこにいてもこれが当たり前の日常なんだろな。


その時、向こうのテーブルで店員の男性が困っているようで、九条さんは私に一言断ってから、スっと立ち上がり近づいていった。


『大丈夫ですか?』


『すみません、お客様が何語を話してるのかわからなくて』


身振りを交えてメニュー表で何かを説明しようとしてる年配の…たぶんご夫婦。


色白でブロンドの髪、ブルーの瞳が美しい奥様と、体型がガッチリとした黒髪で褐色肌の旦那様。


もしかしてご旅行なのか…


九条さんは、その2人にニコニコ微笑みながらフランクに話しかけた。


これは…フランス語?


3人でのあまりにも流暢な会話に、思わず「ここはフランスなの?」と錯覚しそうになる。
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