33 / 52
【番外編】ノリ兄とヤスくん最後の夜
しおりを挟む
ちょうど兄貴が大学4年生にあがり
俺が看護学校の3年目に入ってすぐ
父親が脳溢血で死んだ。
会社で倒れて意識が戻らないまま…。
俺と兄貴は呆然としながらも
いろいろと手続きやら
なんやらに追われ。
悲しむ暇もないまま兄貴は
大学を一時休学し会社を継いだ。
父親にも本妻さんにも
昔から愛人がいたから。
本妻さんは相続分をふんだくって
どこかに消え。
父親の愛人は慰謝料を請求に来た。
兄貴はわかっていたらしく。
そんなもんだよ、と自嘲ぎみに笑った。
兄貴にとって母親はいないも同然で。
小さい頃から2人きり。
そのぶん俺たち兄弟の絆は
強かったんだろう。
小さい頃はご飯や掃除や洗濯や
学校の手続きなんやかんやは
住み込みのお手伝いさんが
やってくれたけれど
深入りしない主義の女性だったから
特段深い話をすることもなく。
兄貴が高校に入ってからは
お手伝いさんも辞めて2人だった。
俺と兄貴はあの水族館でのデートの後
1年以上あの広い家で
すれ違い生活を続けて。
兄貴は意図的に俺を
避けていたように思う。
大学に入ってからは家を出て
マンション住まいで。
俺はあの家に1人でいた。
くりっとのおかげで月1で
外でご飯は一緒に食べてたりも
していたけれど…。
それも今はまたなしだ。
兄貴は社長になってから
とても忙しく仮眠に戻るぐらいで
ほぼマンションにはいないらしい。
俺は看護短期大学をあと約1年で
卒業で。看護師試験に通れば
どこかの病院で勤務することに
なるだろう。
看護師をめざしたのは
小さな頃兄貴が本当は看護師に
なりたいけど俺は会社を
継がなきゃだからな、と
言ったから。
俺が夢を叶えてやる、なんて
おこがましいけど。
つくづく俺ってアホだな…。
でも勉強してきてこの仕事は
俺の性分にあい生きがいになると
思った。自分に出来ることは
そんなに多くないのかもしれない。
けれど人に尽くせることが嬉しかった。
親父が死んであの広い家を
やっぱり処分しようか、と
いう話になった。
俺は嫌だったけれど
もう了承するしかなくて…。
俺は看護学校の寮に移った。
俺にとってあの家はたくさんの
思い出のつまった所だけれど
兄貴は処分のほうがいいんだろう。
兄貴は1度あの家で会おう、
いろいろ整理しなきゃならないし、と
言ったけど俺は勉強を理由に断った。
今あの家で顔を合わせたら
自分がどうなるかわからない。
結局兄貴から明日1日
仕事の予定をあけて家の整理と
手続きに行くよ、と連絡があった。
[よろしくお願いします。
俺の残りの荷物は処分で構いません。]と
LINEを送る。
[わかった。]
そう短い返事が来てため息をついた。
(会いたい…。ものすごく会いたいし
あの家を処分するにしても
一緒に思い出の整理したかったよ…。)
「明日、か…。」
本当は、休みだった。
(やっぱり行こう、か…。
でも、な………。)
唯一心を許している友の顔が浮かぶ。
「くりっと、電話出るかな…」
ダメ元で電話をかけると
案外すぐにくりっとが出た。
「やまちゃん?どした?」
俺はくりっとの声聞いて
堰を切ったように涙が溢れる。
「………ぐりっどぉぉぉ…。」
「やまちゃん!?大丈夫?
何があったの?やまちゃん!?」
「…ぐずっ………。くりっと
会えない、よね?」
「やまちゃん、うちおいで。
今日と明日、店が臨時休業で
家にいるから。」
「くりっと…せっかくの休みに
ごめん…ほんとに行っていいの?」
「やまちゃんに会いたいし。
おいでよ。」
優しいくりっとの言葉で
俺は涙がとまった。
*****
「やまちゃん、いらっしゃい!」
以前のように玄関の前で
待っててくれるくりっと。
「くりっと!葬儀の時は
わざわざ仕事抜けてきてくれて
ありがとうね。」
「ううん、全然。いろいろ…
大変だったでしょう?
あ、ほら。あがってあがって。」
俺はあがらせてもらい
くりっとのお母さんにもお礼を言って
渡されたお手製のロコモコと
飲み物を持ち部屋へ向かう。
「ありがとね。実は…。」
兄貴が大学を休学していることや
俺の勉強のこと…。そしてあの家を
処分することになったこと
明日あの家の整理を一緒にしようと
兄貴に言われたけど
断ってしまった事などを話した。
「明日…休みなんだよね?
やまちゃん………。」
「…………………うん。」
「行かなくて後悔しない?」
「………………………………………。」
「やまちゃん。怖いと思うし…。
やまちゃんが躊躇する気持ち
とてもよくわかる。
……………でも。僕は行ったほうが
いいと思う、な。」
「……………………うん。」
「一緒に、ってお兄さんが
言ってくれたんだったら
お兄さんも覚悟を決めていると
思うし…。もし、やまちゃんが
泣いてしまったりお兄さんに
縋ってもきっときちんと
受け止めてくれる、と思う、よ。
お父さんのこと以来
会ってないんでしょ?
お兄さんも今とても大変だと思うから…。
そんなすぐ会社を継ぐ、って
思ってなくて気持ちの準備も
できてないうちに仕事してさ…。
しかも社長の仕事でしょ?
かなり体力的にも精神的にも
つらいと思うんだ。
だからやまちゃんの笑顔見せてあげて?
やまちゃんの顔みたらさ。
きっとお兄さん一瞬でも
安らげると思うんだよね。」
「くりっと………………。」
「今、お兄さんが頼れるのは
やまちゃんだけだと思うから。
行ってあげなよ。
それにそれはやまちゃんのためでも
あると思うよ。
ちょっとゆっくり片付けでも
しながらさ、話せなくてもいいから
同じ空気吸うだけでも
ちょっと気持ちが違うと
思うんだよ。ね?」
「……………うん。」
「…ほらー!やまちゃん!笑って!
ね?ご飯食べよう?
そして、ゆっくり寝よう!」
俺は眩しく、くりっとを見る。
「……くりっと大人になったね…。」
「そりゃあそうだよ!修行中とはいえ
僕、社会人3年目だからね!」
えっへん、とばかりに胸をはる
くりっとに俺は思わず
吹き出してしまった。
「ぷっ……っ!あはは!
なにーそのドヤ顔!くりっと
おもしれー!ぷふっ!」
「もー!なんだよーやまちゃんー!
バカー!ふふふ!」
高校時代のようにじゃれ合って
俺たちはご飯を食べ
お風呂に入り眠った。
*****
「…………くりっと…。
やっぱり俺………。」
「何言ってんの…。ほらー。
ここまで来たんだし…。
ね、いってらっしゃい!」
「いや…でも…………。」
「やまちゃん!ほら…。」
くりっとに背中を押され
入ろうとするものの
また戻ってくる、を数度繰り返し…。
「やっぱ俺やめる…。」
「やま…」
ふいに背後から声がする。
「おまえら、何やってんの?」
「!!!う、わぁ!あ、兄貴っ!」
「わ、うっ…ここここんにちは…。」
皇教さんは苦笑いでこちらを見ていた。
「紅李翔くん葬儀のときはありがとう。」
「いえいえ、とんでもないです。
いろいろ大変だと思いますが
体調に気をつけてくださいね。
じゃあ、僕、失礼します。」
「く、くりっと…。」
「やまちゃんまたね!」
颯爽とくりっとは帰っていった。
「……………今日は勉強が
あるんじゃなかったの、か?」
「う………うん。でも、その…
あの………。兄貴だけに
おしつけるのもな…と思って。」
「そ、か。」
兄貴は短いことばを発し
鍵を開けて中に入っていった。
慌てて俺も入る。
「兄貴、痩せたよね?
ちゃんと食べてる?」
「ああ。」
「ほんとに?」
曖昧に微笑んで頷く兄貴は
弱々しく見えた。
「………俺は自分の部屋は
そんなにないからちらっと見て
親父の部屋を整理してるよ。
ヤスくんも自分の部屋見てみて。
持っていくもんはまとめて。
あと残ったいらないものは
業者を頼んであるからそのままに。」
「……………ん、わかった。」
(久々のヤスくん呼び…
やっぱり嬉しい…。)
俺は部屋を片付けて
段ボール一箱ぶんの荷物や
小物をよりわけて
玄関に持っていく。
あの海月がはいっていた水槽も
今はカラだ。
(もう…海月を飼うこともない、か…。)
俺は寂しい気持ちで親父の部屋へ行く。
ノックして入ると兄貴が
背中を向けて部屋の真ん中に
正座していた。
へたりこんでいるように見える。
「………?あに、き?」
わずかに肩が震えているのがわかった。
「え…………?どうした、の?」
「…………ヤ、スく…ん。」
兄貴は一枚の紙を持っていて。
下にはそれが入っていたと
思われる茶封筒が落ちている。
「………な、に?」
「…………うううっ……。ヤス、くん…
な、ん…なんだよ、これ…。
こんな……こん、なこと…って…。」
「え?」
「あ、のクソ親父………。
俺がどんな思いで………。」
呟きながら涙をぽろぽろと流す兄貴。
俺は兄貴の手からその紙を
取り上げようとした。
わずかに抵抗があったけど
そっと手を添えると離したので
紙を見てみる。
「………………でぃーえぬえーがた
かんていしょ…?…な、に………こ、れ?」
「ヤスくん…………。」
目に見えているものが信じられなくて
膝をついてしまう俺の肩に
兄貴の震える手が乗った。
「…………親子関係は……………。
認められません…………。って…
な、に………?
大和皇和は親父の名前…大和皇保、って
俺のこと、だよね…?
…………俺…………。親父の子じゃ
なかった、ってこと?」
「そう………みたい、だ。
…………くそっ…くそぉ…………。
あの、クソ親父。なんで黙ってるんだ…。」
「……………………………………!」
兄貴が…ノリ兄が俺に抱きついてくる。
「ヤスくんっ………。俺ら……
兄弟じゃない……。兄弟じゃないなら…
ないなら………………。
いい、よな?
………俺、我慢しなくてもいい、よな?
なぁ…………ヤスくん…………。」
ぎゅぅぅ、と俺を抱きしめる腕に
力が入る。
「ノリ…に、い………。」
深いキスをする。
お互いの舌を慈しみ唾液を交換して
唇を吸いあった。
長い間俺たちはそうしてキスして
抱きしめあって。
「ヤ…………スく、ん…。
言っていいんだよな…
愛してる、って…。」
「ノリ兄…。俺も…俺も愛してる。
ノリ兄を愛してる………。」
「………知ってる。
………今までごめんな…。」
俺はブンブンと頭を横にふった。
「ノリ兄これからは…。これからは
一緒にいてくれる?」
「ああ。もちろん。」
俺たちは思い出のつまった家で
最後の夜をずっと抱き合って
幸せに過ごした。
俺が看護学校の3年目に入ってすぐ
父親が脳溢血で死んだ。
会社で倒れて意識が戻らないまま…。
俺と兄貴は呆然としながらも
いろいろと手続きやら
なんやらに追われ。
悲しむ暇もないまま兄貴は
大学を一時休学し会社を継いだ。
父親にも本妻さんにも
昔から愛人がいたから。
本妻さんは相続分をふんだくって
どこかに消え。
父親の愛人は慰謝料を請求に来た。
兄貴はわかっていたらしく。
そんなもんだよ、と自嘲ぎみに笑った。
兄貴にとって母親はいないも同然で。
小さい頃から2人きり。
そのぶん俺たち兄弟の絆は
強かったんだろう。
小さい頃はご飯や掃除や洗濯や
学校の手続きなんやかんやは
住み込みのお手伝いさんが
やってくれたけれど
深入りしない主義の女性だったから
特段深い話をすることもなく。
兄貴が高校に入ってからは
お手伝いさんも辞めて2人だった。
俺と兄貴はあの水族館でのデートの後
1年以上あの広い家で
すれ違い生活を続けて。
兄貴は意図的に俺を
避けていたように思う。
大学に入ってからは家を出て
マンション住まいで。
俺はあの家に1人でいた。
くりっとのおかげで月1で
外でご飯は一緒に食べてたりも
していたけれど…。
それも今はまたなしだ。
兄貴は社長になってから
とても忙しく仮眠に戻るぐらいで
ほぼマンションにはいないらしい。
俺は看護短期大学をあと約1年で
卒業で。看護師試験に通れば
どこかの病院で勤務することに
なるだろう。
看護師をめざしたのは
小さな頃兄貴が本当は看護師に
なりたいけど俺は会社を
継がなきゃだからな、と
言ったから。
俺が夢を叶えてやる、なんて
おこがましいけど。
つくづく俺ってアホだな…。
でも勉強してきてこの仕事は
俺の性分にあい生きがいになると
思った。自分に出来ることは
そんなに多くないのかもしれない。
けれど人に尽くせることが嬉しかった。
親父が死んであの広い家を
やっぱり処分しようか、と
いう話になった。
俺は嫌だったけれど
もう了承するしかなくて…。
俺は看護学校の寮に移った。
俺にとってあの家はたくさんの
思い出のつまった所だけれど
兄貴は処分のほうがいいんだろう。
兄貴は1度あの家で会おう、
いろいろ整理しなきゃならないし、と
言ったけど俺は勉強を理由に断った。
今あの家で顔を合わせたら
自分がどうなるかわからない。
結局兄貴から明日1日
仕事の予定をあけて家の整理と
手続きに行くよ、と連絡があった。
[よろしくお願いします。
俺の残りの荷物は処分で構いません。]と
LINEを送る。
[わかった。]
そう短い返事が来てため息をついた。
(会いたい…。ものすごく会いたいし
あの家を処分するにしても
一緒に思い出の整理したかったよ…。)
「明日、か…。」
本当は、休みだった。
(やっぱり行こう、か…。
でも、な………。)
唯一心を許している友の顔が浮かぶ。
「くりっと、電話出るかな…」
ダメ元で電話をかけると
案外すぐにくりっとが出た。
「やまちゃん?どした?」
俺はくりっとの声聞いて
堰を切ったように涙が溢れる。
「………ぐりっどぉぉぉ…。」
「やまちゃん!?大丈夫?
何があったの?やまちゃん!?」
「…ぐずっ………。くりっと
会えない、よね?」
「やまちゃん、うちおいで。
今日と明日、店が臨時休業で
家にいるから。」
「くりっと…せっかくの休みに
ごめん…ほんとに行っていいの?」
「やまちゃんに会いたいし。
おいでよ。」
優しいくりっとの言葉で
俺は涙がとまった。
*****
「やまちゃん、いらっしゃい!」
以前のように玄関の前で
待っててくれるくりっと。
「くりっと!葬儀の時は
わざわざ仕事抜けてきてくれて
ありがとうね。」
「ううん、全然。いろいろ…
大変だったでしょう?
あ、ほら。あがってあがって。」
俺はあがらせてもらい
くりっとのお母さんにもお礼を言って
渡されたお手製のロコモコと
飲み物を持ち部屋へ向かう。
「ありがとね。実は…。」
兄貴が大学を休学していることや
俺の勉強のこと…。そしてあの家を
処分することになったこと
明日あの家の整理を一緒にしようと
兄貴に言われたけど
断ってしまった事などを話した。
「明日…休みなんだよね?
やまちゃん………。」
「…………………うん。」
「行かなくて後悔しない?」
「………………………………………。」
「やまちゃん。怖いと思うし…。
やまちゃんが躊躇する気持ち
とてもよくわかる。
……………でも。僕は行ったほうが
いいと思う、な。」
「……………………うん。」
「一緒に、ってお兄さんが
言ってくれたんだったら
お兄さんも覚悟を決めていると
思うし…。もし、やまちゃんが
泣いてしまったりお兄さんに
縋ってもきっときちんと
受け止めてくれる、と思う、よ。
お父さんのこと以来
会ってないんでしょ?
お兄さんも今とても大変だと思うから…。
そんなすぐ会社を継ぐ、って
思ってなくて気持ちの準備も
できてないうちに仕事してさ…。
しかも社長の仕事でしょ?
かなり体力的にも精神的にも
つらいと思うんだ。
だからやまちゃんの笑顔見せてあげて?
やまちゃんの顔みたらさ。
きっとお兄さん一瞬でも
安らげると思うんだよね。」
「くりっと………………。」
「今、お兄さんが頼れるのは
やまちゃんだけだと思うから。
行ってあげなよ。
それにそれはやまちゃんのためでも
あると思うよ。
ちょっとゆっくり片付けでも
しながらさ、話せなくてもいいから
同じ空気吸うだけでも
ちょっと気持ちが違うと
思うんだよ。ね?」
「……………うん。」
「…ほらー!やまちゃん!笑って!
ね?ご飯食べよう?
そして、ゆっくり寝よう!」
俺は眩しく、くりっとを見る。
「……くりっと大人になったね…。」
「そりゃあそうだよ!修行中とはいえ
僕、社会人3年目だからね!」
えっへん、とばかりに胸をはる
くりっとに俺は思わず
吹き出してしまった。
「ぷっ……っ!あはは!
なにーそのドヤ顔!くりっと
おもしれー!ぷふっ!」
「もー!なんだよーやまちゃんー!
バカー!ふふふ!」
高校時代のようにじゃれ合って
俺たちはご飯を食べ
お風呂に入り眠った。
*****
「…………くりっと…。
やっぱり俺………。」
「何言ってんの…。ほらー。
ここまで来たんだし…。
ね、いってらっしゃい!」
「いや…でも…………。」
「やまちゃん!ほら…。」
くりっとに背中を押され
入ろうとするものの
また戻ってくる、を数度繰り返し…。
「やっぱ俺やめる…。」
「やま…」
ふいに背後から声がする。
「おまえら、何やってんの?」
「!!!う、わぁ!あ、兄貴っ!」
「わ、うっ…ここここんにちは…。」
皇教さんは苦笑いでこちらを見ていた。
「紅李翔くん葬儀のときはありがとう。」
「いえいえ、とんでもないです。
いろいろ大変だと思いますが
体調に気をつけてくださいね。
じゃあ、僕、失礼します。」
「く、くりっと…。」
「やまちゃんまたね!」
颯爽とくりっとは帰っていった。
「……………今日は勉強が
あるんじゃなかったの、か?」
「う………うん。でも、その…
あの………。兄貴だけに
おしつけるのもな…と思って。」
「そ、か。」
兄貴は短いことばを発し
鍵を開けて中に入っていった。
慌てて俺も入る。
「兄貴、痩せたよね?
ちゃんと食べてる?」
「ああ。」
「ほんとに?」
曖昧に微笑んで頷く兄貴は
弱々しく見えた。
「………俺は自分の部屋は
そんなにないからちらっと見て
親父の部屋を整理してるよ。
ヤスくんも自分の部屋見てみて。
持っていくもんはまとめて。
あと残ったいらないものは
業者を頼んであるからそのままに。」
「……………ん、わかった。」
(久々のヤスくん呼び…
やっぱり嬉しい…。)
俺は部屋を片付けて
段ボール一箱ぶんの荷物や
小物をよりわけて
玄関に持っていく。
あの海月がはいっていた水槽も
今はカラだ。
(もう…海月を飼うこともない、か…。)
俺は寂しい気持ちで親父の部屋へ行く。
ノックして入ると兄貴が
背中を向けて部屋の真ん中に
正座していた。
へたりこんでいるように見える。
「………?あに、き?」
わずかに肩が震えているのがわかった。
「え…………?どうした、の?」
「…………ヤ、スく…ん。」
兄貴は一枚の紙を持っていて。
下にはそれが入っていたと
思われる茶封筒が落ちている。
「………な、に?」
「…………うううっ……。ヤス、くん…
な、ん…なんだよ、これ…。
こんな……こん、なこと…って…。」
「え?」
「あ、のクソ親父………。
俺がどんな思いで………。」
呟きながら涙をぽろぽろと流す兄貴。
俺は兄貴の手からその紙を
取り上げようとした。
わずかに抵抗があったけど
そっと手を添えると離したので
紙を見てみる。
「………………でぃーえぬえーがた
かんていしょ…?…な、に………こ、れ?」
「ヤスくん…………。」
目に見えているものが信じられなくて
膝をついてしまう俺の肩に
兄貴の震える手が乗った。
「…………親子関係は……………。
認められません…………。って…
な、に………?
大和皇和は親父の名前…大和皇保、って
俺のこと、だよね…?
…………俺…………。親父の子じゃ
なかった、ってこと?」
「そう………みたい、だ。
…………くそっ…くそぉ…………。
あの、クソ親父。なんで黙ってるんだ…。」
「……………………………………!」
兄貴が…ノリ兄が俺に抱きついてくる。
「ヤスくんっ………。俺ら……
兄弟じゃない……。兄弟じゃないなら…
ないなら………………。
いい、よな?
………俺、我慢しなくてもいい、よな?
なぁ…………ヤスくん…………。」
ぎゅぅぅ、と俺を抱きしめる腕に
力が入る。
「ノリ…に、い………。」
深いキスをする。
お互いの舌を慈しみ唾液を交換して
唇を吸いあった。
長い間俺たちはそうしてキスして
抱きしめあって。
「ヤ…………スく、ん…。
言っていいんだよな…
愛してる、って…。」
「ノリ兄…。俺も…俺も愛してる。
ノリ兄を愛してる………。」
「………知ってる。
………今までごめんな…。」
俺はブンブンと頭を横にふった。
「ノリ兄これからは…。これからは
一緒にいてくれる?」
「ああ。もちろん。」
俺たちは思い出のつまった家で
最後の夜をずっと抱き合って
幸せに過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる