君の視線の向かう先は。

勇黄

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結婚したい人がいるんだ。②

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夜になって父親が帰ってきて
久しぶりに晩ご飯の食卓を囲む。

















「4人でごはんなんて随分
久しぶりだなぁ~紅李翔くりと
ビール飲むか?」
















「うん。少しいただきます。」
















紅李翔くりとと飲める日がくるなんて、と
父親は上機嫌だ。


















ご飯を食べ終わり…。
僕は思い切って切り出す。



















「お父さん、お話があるんです。
時間もらえますか?」




















紅李翔くりと。なんだ。言ってみなさい。」


















ごくり、と喉をならし覚悟を決めた。




















「僕、結婚したい人がいるんだ。」




















驚いたように顔をあげる父親。




















「え?…………………そうか。
紅李翔くりともとうとう…。
それで相手はどんな娘さんだ?」




















「…………。違うんだ。
僕が好きなのは子供の頃から
男の人で…。」






















「は?何言ってるん…だ?」



















「相手は女性じゃない……。」






















父親の顔はみるみる怒りに満ちた。






















「どこのどいつだ!おまえを
そそのかしたのは!
ここへつれてこい!
俺が殴って二度とおまえに
近づけなくしてやる!
おまえも根性叩き直さないと!」




















僕の胸ぐらをつかむ父親。


















「お父さん!」

「!!ちょっと落ち着いて…!」


















母親と奈那美ななみが割って入ってくれた。






















「相手のせいじゃない!
僕は物心ついたときから
恋愛対象は女性じゃなかったんだ!
僕はゲイだ…。」




























「………俺の教育が悪かったのか?
育て方を間違えたのか?
俺のなにが悪かったんだ…」






















「違う!お父さんのせいじゃない!
お母さんのせいでもない
……………誰のせいでもない!」




















僕は泣きながら叫ぶ。
























父親はその場に座り込んだ。






















「俺、なんか悪いこと、したか?
なにがいけなかったんだ?
どこで間違えた?なんで………………
俺が…俺が悪かったのなら
謝るから…なぁ、なにが…………
なんで………なん………。」



















独り言のように繰り返す父親を
奈那美ななみが抱きしめる。



















「だから!お父さんのせいじゃないよ!
もちろんお母さんのせいでもないし
紅李翔くりとのせいでもない!
誰が悪いわけでもなんでもないの!

それに!紅李翔くりとが幸せなんだから
それでいいじゃない!お父さん!
しっかりして!お父さん!」






















「幸せなもんか…そんな…男同士なんて…
そんな…うちの紅李翔くりとがなんで?

やっぱりそそのかされたんだよ!

なぁ?奈那美ななみ

紅李翔くりとは普通だよな?
今は一時の熱にうかされてるだけで
ちゃんとそれに気がついて
女性と結婚して子供が生まれて
俺には孫ができて…。

はぁ、はぁ…。

孫と遊ぶんだよ、俺は。

紅李翔くりとの子供と…
それが夢だったのに…
なんで…なんで!」


















暴れる父親を奈那美ななみと母親が
押さえている。






















僕は泣き叫んだ。


















「僕は…!僕は小さいときから
ずっと!ずっとずっと!
まぁ…真仁まひとさんを愛してきた!
これからも愛していく!
一生変わらない!

今、一緒にいられてとても…。
とても幸せなんだ!

真仁まひとさん以外は考えられないんだ!

お父さん、お願い!わかって!」




















「…………相手は隅坂すみさかか?あいつか?
おまえ…!何を言ってるのか
わかっているのか?
俺はどうすればいいんだ!
こんな…こん、な………。」






















母親が父親をソファに座らせ
肩をさすっている。



























「お父さん…お父さん…。
紅李翔くりとが幸せならなにも
文句ないじゃない?それ以上に
何を望むの?それは親のエゴよ…。」




























「………………。そんなの…。
そんなの普通じゃ、ない。
俺はどうすればいいんだ!
母さんそんなの許せる、のか?」






















「…………。許すもなにも。
私は紅李翔くりとがそんなに
心底愛し合える人に巡り会えて
本当によかったと思ってるわ。 

私の自慢の息子よ。誇りに思うわ。」





















「………………。」





















「私も姉として紅李翔くりとを誇りに思う。
黙っていてもよかったのに
ちゃんとこうして私たち家族や
世間に筋とおしてさ。
偉いなぁ、って思うわ。

子供をもつことだけが
幸せじゃないし。
男女だって産まない、産めない人もいる。

男女で結婚したって
愛し合ってなければ
幸せじゃないでしょ!?

今、紅李翔くりと真仁まひとと別れさせて
女性と結婚させたって
誰も幸せにならないじゃない!

相手の女性も…
もし仮に子供ができたとしたら
その子も。

誰も幸せにならないじゃない!

紅李翔くりとが苦しんでしんどい人生を
送ってしまったらお父さんだって
つらいでしょう!?

なんでわからないの?」






















「………………。
でも…だから、って…。」






















父親は呆然と焦点の定まらない目を
僕に向けた。



























「お父さん。親不孝を…
許してください…。

僕は…。僕は真仁まひとさん以外に
考えられません。
もし真仁まひとさんを失ったら
もう一生独りで暮らします。

それ以外は考えられないんです。」

























紅李翔くりと…?」






















「お父さん、ごめんなさい。
いい息子じゃなくて…グズッ………。
お父さんの理想の息子になれなくて…。
ごめんなさい…ごめんなさい………。
ぅぅぅ………。」























奈那美ななみが今度は僕を抱きしめてくれる。




















紅李翔くりと!こんな父親捨てちゃいなさい!
もうこのわからずや!」























「…………な、奈那美ななみ…。
お父さんは紅李翔くりとのためを思って………。」






















「なにが紅李翔くりとのため、よ!
お父さんのバカ!

反対すること自体が
紅李翔くりとを悲しませることだって
なんでわからないのよ!」






















「ぅぅぅ…お父さんごめんなさい………。」















































ピーンポーン……………。

僕の泣き声だけが響くリビングに
インターホンがこだまする。





















奈那美ななみがインターホンに向かった。





















「ちょっ………。うそ…。真仁まひと…。」


























「えっ!?…な、んで………
今日は、仕事…のはず、じゃ…。」



















奈那美ななみが鍵を開けに行き
まぁくんがリビングに入ってくる。


























「失礼します。隅坂真仁すみさかまひとです。
ご無沙汰、しています。」






















「まぁ、くんっ!なん、で…。」
























入ってくるなりまぁくんは
その場に正座した。




















「お義父さんお義母さん…。
紅李翔くりとさんを僕にください。
大切にします。一生大切にしますから。
…お願いします!」
























「!!まぁくん………。」





















僕は弾かれたように走って
まぁくんの隣に正座して
一緒に頭をさげる。























「お父さん、お願い!
僕たちを許してください…。
お互い他の人は考えられないんだ…。

………僕はお父さんとお母さんと
奈那美ななみと…この家族が大好きです。

ずっと…ずっとお父さんと
お母さんの子でいたい。

…………でも。許してもらえないなら。

僕は真仁まひとさんをとります。」























「くーちゃん…。」

まぁくんは僕の手を握った。





















「「お願いします!」」

























「………………隅坂すみさか…。おまえ…殴ってやる!」




















「お父さん!」
「お父さんやめて!」




















まぁくんは立ち上がり
目をつむって言う。

















「はい。気のすむまで殴ってください。」


















「まぁ、くんっ!」

















父親が突進してくる。
















「この、やろ、う………!!」

























 ゴォン!と鈍い音と共に
痛みが僕の背中に響いた。






















僕は父親からまぁくんを庇って
殴られて……………。

















「ぅぅぅっ!」
















「くーちゃん!?」

















まぁくんを守れた…よかった…と
思ったとたん僕はその場に
倒れこみ気を失って………。

























遠くに母親の悲鳴と
父親の泣き声が聞こえた気がした。

















































「…………と。…………りと。
くり、と…………紅李翔くりと

…ごめんな…ごめん…………」























手を強く握られている感触と
耳元で聞こえてくる父親の声に
意識が浮上してくる。























「お、とう、さ…………。」





















紅李翔くりと!お父さんが悪かった…。
ごめんな…痛かったろう…。
ごめん…。ごめ………。」





















「お父さん…僕のほうこそ
ごめんなさ……ごめんなさい…。」


















「もう、いい、んだ。

俺だって紅李翔くりと
不幸にしたい訳じゃないんだ…。

申し訳ない。紅李翔くりとごめんな…。

今こうして紅李翔くりとの顔を見てたら…
おまえが小さい頃のことを
思い出したよ…。
真仁まひとくんが海外に行ったあと
ものすごく情緒不安定になって…

毎晩お父さんがおまえを寝かしつけて
やっとのことで眠らせて…。

ぽろぽろと流れ落ちる涙を
拭ってやっても拭ってやっても
溢れて…。」





















「…お父さん……………。」




















「その時誓ったんだ。
おまえを絶対に幸せにする、って。
おまえに苦労だけはさせないように
おまえに悲しい思いだけは
させないように、って…。

おまえが笑っててくれるなら
俺はなんだってよかったんだよ…。

だから…………おまえが幸せなら………


同性だ、なんてきっと…
きっと些細なこと、だよな。

さっき真仁まひとくんにも謝ったから…。

紅李翔くりとお父さんを許してくれるか?」

























「お父さん…お父さんありがとう…
ありがとう…ありがと…………。
ぅぅぅ…。」
























「ごめんな、紅李翔くりと…。」























僕は頭を横にふる。























「僕のほうこそ…ごめんなさい…。」




















「背中、痛くないか?」


















「うん。」





















ほんとはすごく痛かったけれど…



















僕は父親を責めることはできなかった。
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