【完結】悪役令嬢だって真実の愛を手に入れたい～本来の私に戻って初恋の君を射止めます！

リシャール様の憂い

「エストレ国の王太子殿下、ですか？」
「ええ」

　思いがけない質問に、私はリシャール様の意図するところがわかりませんでした。どうと言われましても…

「正直に言っても、よろしいでしょうか？」
「ええ」
「あまり、いい印象はありませんわね」

　他国の次期国王をこのように言うのは不敬かもしれませんが、それが正直な気持ちです。

「アドリエンヌ様の暴走を窘めなかったというだけで、同類だと思っていますわ」
「そうですか」

　お兄様がエストレ国から姿を消した時は、我が家でもその消息がつかめず、最悪の事態も想定する程だったのです。あの時の気持ちはそう簡単には忘れられませんし、その原因でもあるエストレ国の王族も許し難く思っているのです。

「それは閣下からも伺いました。閣下もあの時は人生で最も苦しい時期だったと仰っていましたから」
「お父様が？」
「ええ。閣下は政敵には容赦ない冷酷非情な宰相ですが、家族には愛情深い方ですね」
「ええ、お父様は家族には別人だわ。特にお母様が絡むと私達にだって焼きもちを焼く事もあるのですもの」

　そうなのです、お父様はお母様至上主義なのですよね。子供の頃、私とお兄様がお母様を取り合って喧嘩すると、お父様ったら喧嘩両成敗だと言ってお母様を連れて行ってしまったのです。今にして思えば、あれはお母様を独り占めしたかったお父様の策略だと思っていますわ。
　そんなお父様はお母様によく似たお兄様の事を、とても大切に思っていました。お祖父様が水色の髪を受け継がなかったお兄様を後継者から外すと仰った時も、断固として反対したのもお父様です。

「そうでしたか…」
「リシャール様、どうかなさいましたの？」
「いえ…ただ、相手は王太子です。レティが望めばエストレ国の王妃にもなれるのでは、と」
「私が…王妃になる事を望んでいると？」
「レティにその気がないのはわかっています。ですが…貴女はそれに相応しいだけのものをお持ちです。もしかするとその方が貴女のためでは…と思ってしまって…」

　リシャール様、そんな風に考えていらっしゃったのですね。確かに私は王子妃教育も受けているので務まるかもしれません。でも…

「リシャール様、私は王太子妃や王妃と言う立場に興味はありませんわ」
「ですが…」
「もしリシャール様が王太子だったら、全力でその隣に立とうとしたでしょう。でも、それは相手がリシャール様だからです」
「レティ」
「わ、私が望むのは、リシャール様のお側にいる事、です。」

　な、何でしょう、これじゃまるで告白しているようですわ…は、恥ずかしくて頭から何かが出てしまいそうです…しかも先ほどまではどこか愁いを帯びた目をしていたリシャール様ですのに、今は甘さと熱っぽい何かが合わさって直視するのが恥ずかしいくらいです。

「レティ…」
「…リシャー、ル…様」

ど、どうしましょう！隣に座っていたリシャール様が私の頬に手を添えられました。そしてお顔が近づいてくるのですが…

（こ、これって、もしかして…？）

　熱を帯びた期待と恥ずかしさに混乱していた私ですが…あと少しと言うところでリシャール様の動きが止まり、同時に私もこめかみに青筋が立つのを感じました。

「……お兄様、何をしていらっしゃるのです？」

　思った以上に低い声が出てしまいましたわ。ええ、お兄様だけじゃありませんわね、ドアの向こうにはそれ以外の方の気配も感じられますわ…

「や、やぁ、レティ…」
「…ふふふ…お兄様、ごきげんよう」
「あ、あの…」
「お兄様、暇を持て余していらっしゃるみたいですわね」
「え？こ…これは…」
「そういう事でしたら、お付き合いくださいませ。最近、ちょっと運動不足を感じておりましたの」
「え？あ、あの…それは、ちょっと…」
「ふふ、ふふふふふふ、テオドール様もご一緒にどうぞ。まとめてお相手して差し上げますわ」

　にっこり私が笑みを浮かべると、失礼な事にお兄様は顔を青褪めさせました。

（よくも…リシャール様とのせっかくのチャンスを…！）

　このお礼は、我が家の修練場でしっかりとさせて頂きましたわ。翌日、全身筋肉痛でお兄様とテオドール様が小鹿のように足をぷるぷる震わせていましたけれど…お二人とも少々たるみ過ぎですわ。