【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

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魔獣討伐と精霊の儀式

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 ウィル様の解呪が終わり、トーマス様が王都に発たれると、お屋敷にはようやく日常が……戻ってきませんでした。というのも……

「ウィルバート、元の姿に戻ったのなら、早く聖域の魔獣を片付けてくれ」

 エガードが早速魔獣討伐をウィル様にお願いしたからです。

「お前がまた呪われたらやり直しだからな。それにわしの力がこれ以上戻ればお主に悪影響を及ぼす。そうなる前に終わらせたい」
「そうだな。わかった。早急に討伐隊を組もう」

 こうしてお屋敷の中では聖域の浄化と魔獣退治の準備が慌ただしく始まりました。ウィル様の姿が元に戻ったのもあり、皆さんの士気が高いです。全ては十年前、聖域が穢されたことに起因しているので、今度こそは終わらせようとの決意が強く現れていました。

「ウィル様、私も連れて行ってください!」

 エガードの話を聞いた私は、討伐隊が出る時には私も一緒に行こうと心に決めていました。お邪魔かとも思いましたが、浄化は解呪師の仕事です。トーマス様が帰ってしまわれた今、私しかいません。今から王家に解呪師の派遣をお願いしても時間が経ってしまいますし、その間にウィル様に何かあっては困ります。ウィル様の解呪が完全に終わったのでその中にあるエガードの力も増しているらしく、エガードも一日でも早い方がいいと言うのです。きっとあまり猶予はないのでしょう。

「エル―シア、前にも言った通り、あなたを連れて行く事は出来ぬ。危険すぎる」
「でも、聖域の解呪が出来なければまた同じことの繰り返しです!」
「そこは心配いらぬ。魔獣を倒した後で魔獣の出現を抑える護符を使えば暫くは……」
「二日が限界じゃろうな」

 ウィル様の言葉を遮ったのはエガードでした。二日? 今、二日って言いましたよね?

「二日でお主はわしに取り込まれてしまうじゃろう」
「取り込まれてって……」
「ウィルバートの存在が消え去ると言うことじゃ」
「そんな!!!」

 それじゃ何のために解呪したのかわからないではないですか。ウィル様のためにやって来たのに……

「ウィル様が消えるなんて、そんなことは認められません!」
「だが、あなたに何かあったらどうする? そもそもあなたは巻き込まれただけで無関係なんだ。これ以上そんな危険な目に遭わせられん」
「嫌です。ウィル様が仰って下さったのですよ、私の家はここだと。私だってウィル様を守りたいんです。そんなの当たり前じゃないですか!」
「し、しかし……」

 自分じゃないみたいな前向きな言葉が出てきて、言い終わってからそんな自分にびっくりしてしまいました。そんな大層なことが言えるほど、何かが出来るわけじゃないのに……

「ウィルバート、お主の負けじゃな」

 暫しの沈黙の後、口を開いたのはエガードでした。くるくる尻尾を振ってご機嫌のようです。元の姿に戻れる日が近づいているからでしょうか。

「エガード!」
「別にそこまできばらんでもよかろう。確かに危険ではあるがお主もいるしわしもいる」
「エガードも行くの?」
「当然じゃろ。わしの家の掃除じゃぞ。それに聖域の浄化が済んだらすぐにウィルから離れねばいかんからな」
「……」

 ウィル様とエガードがいれば大丈夫ではないでしょうか? 魔獣も昔のような強力なものはいないとエガードも言いますし、聖域の浄化を先にすれば雑魚はエガードの力で消滅するとのことですし。

「わかった……だが、絶対に私やエガードから離れないと約束して欲しい。それが出来ないのであれば同行は認められない……」
「わかりました。絶対にお約束します」

 まだウィル様は苦虫を噛み潰したような表情のままでしたが、同行のお許しが出たことにホッとしました。こうなったら必ず浄化してウィル様もエガードもお救いするのです。



 出立の準備中、私はふと思い出したことがありました。今日は満月なのです。

「ねぇ、エガード、今日は満月なんだけど……」
「ああ、よく覚えておったな。そうじゃ、今日は儀式の日じゃな。エル―シアもやってみるといい」

 満月の晩に精霊に供え物をすると精霊が力を貸してくれると聞いて、ずっとこの日を待っていたのですよね。マーゴたちも準備に忙しそうなので、私は厨房に頼んで一角を課して貰い、供え物の準備をしました。エガードの話では、これは自分で準備しないといけないらしいのでちょうどよかったです。

「……こんな感じでいいの?」

 エガードに言われた通り、清廉な湧水と搾りたてのミルク、そしてあまり時間がなかったので蜂蜜入りのパンケーキを作りました。別にお菓子でなくてもいいのですが、精霊は蜂蜜が大好きなのでその方が受けがいいのだとか。水とミルクに私の魔力を込められるだけ込めて、それを使ってお菓子を作ると供物の出来上がりです。

 夜半、満月が一番高い場所に届く頃、エガードと共に庭の奥へと向かいました。準備した供物を四阿のテーブルに乗せて精霊に助力を祈るのだそうです。そうすると精霊がやって来て私の魔力の味見をして、気に入られるとそれからは魔術を使う度に精霊が助けてくれるのだそうです。

「エル―シアにはわしが付いている。だから精霊は喜んで助けてくれるじゃろうて」
「そうでしょうか」

 正直自信がありませんが、神獣がそういうのだからそうなのでしょう。暫くすると森の方から一つ、また一つ精霊が姿を現しました。

(ええっ?)

 それはあっという間のことでした。たくさんの精霊が供物へと集まり、そこだけがぼんやりと淡い色を放ちました。暫く経つと食べ終えたらしい精霊がふわふわと私やエガードの周りを行き交います。

「エ、エガード?」
「大丈夫じゃ。精霊がお主の魔力を気に入ったんじゃよ」

 何とも幻想的な風景に魅入られてしまい、最後の精霊が消えるまで目を離せませんでした。我に返った時には水もミルクもお菓子も、綺麗にトレイからなくなっていました。エガードの話では初めてで全ての供物がなくなるのは異例なのだとか。私の魔力は精霊に気に入られたようでホッとしました。

 それから二日後の朝、私はウィル様やエガードと共に。エガードの巣のあるダームの森へと向かったのでした。



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