【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

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夜会の後

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 人生初の夜会は波乱で幕を閉じました。両親とお姉様は貴族牢に入れられ、一番の気がかりは一人残されたレオのことでした。暫くの間でもヘルゲン家で預かって貰えないかウィル様にお願いしようとしたら、ウィル様の方から提案されました。

「レオ!」
「姉上!」

 翌朝、レオは家令に連れられてヘルゲン家のタウンハウスにやってきました。会うのは約五か月ぶりなのですが、何だか一年くらい会っていなかった気がします。私がいなくなってから色々あったからでしょうか。
 久しぶりに会ったレオは少し背が伸びたように感じましたが、一方で表情は冴えませんでした。やはり両親が昨夜帰ってこなかったせいでしょうか。彼の不安を少しでも減らそうと、両親のことは話さないようにしようかとも思いしたが、それを止めたのはウィル様でした。

「彼はもう十五だろう?」
「え、ええ。そうですが……」
「その年には私はもう魔獣討伐で前線にいた。彼も当主になるのなら、大事なことは包み隠さず話した方がいい」
「でも……」
「守られてばかりではいつまで経っても一人前になれない。両親と姉は罪人だ。学園に行けば嫌でも事実を知ることになる」
「……」

 ウィル様の言うことに反論出来ませんでした。夜会であったことは広く知られてしまいました。きっと学園に行けば嫌でもレオの耳に入るでしょう。私は出来る限り感情を入れず、あったことと陛下のお言葉をレオに話しました。

「……そう、でしたか」

 神妙な表情で取り乱すことなくリオは最後まで話を聞くと、今にも泣きそうな表情でそれだけ返しました。彼にとっては決していい親ではなかったにしても、私ほど冷遇されていたわけでもありません。それに、お父様がいなくなった今、この家を継ぐのはレオです。遠からず爵位を継ぐことになるでしょう。

「レオ……」
「姉上、大丈夫ですよ」

 どう声をかけていいのか、必死に言葉を探す私にレオは笑みを浮かべました。その笑みが何だか泣いているようで私の胸まで痛くなってきます。一人になったこの子がこの先どれほど苦労するか、想像も出来ません。しかも私はもう嫁いでしまったため、側にいられないのです。

「いつかはこうなるだろうなぁとの予感はあったんです」
「レオ?」
「姉上に付いていた呪い、アル姉様がかけたやつでしょ?」
「見えていたの?」
「そりゃあ、僕も一応魔術師の卵ですし」

 そう言ってレオは苦い笑みを浮かべました。まだまだ子どもだと思っていたけれど、しっかり魔術師として進み始めていたのですね。

「父上も母上もアル姉様も、正直に言うと嫌いでした。だから……こうなって少しほっとしている部分もあるんです」
「そ、そう……」

 そんな風に言わせた両親とお姉様に呆れると共に、長い目で見ればあの三人がいなくなった方がレオにはよかったのかもしれないとも思えました。



 その三日後には、エンゲルス先生が訪ねて来て下さいました。ずっとお伺いしたかったのですが、両親とお姉様が押しかけてくるので外出もままならなかったのですよね。こちらからお伺いしようとしたのだけど、先生は既に家督を譲って隠居生活で、狭い離れに来て貰うのは申し訳ないとかなんとか言われてこうなりました。
 ウィル様の話では、先生のお孫さんがウィル様にご執心だったとかで一時期は追い回されていたこともあったそうです。既に結婚されているとはいえ、せっかく自分のことを忘れているのに思い出されては厄介と、気を使って下さったのだろうとのことでした。確かに呪いが解けたウィル様は大変な人気で、連日ウィル様宛のお手紙や招待状が届いていますものね。

「先生、呪いのこと、本当にありがとうございました」

 王都に行ったらまずは先生にお礼をとずっと思っていたので、こうしてお礼を言えてやっと胸のつかえが一つ取れた気分です。先生がウィル様に手紙を書いて下さらなかったら、陛下に奏上してくれなかったら、私は今頃どうなっていたことか。そう思うといくらお礼をしても足りないでしょう。

「いやいや、エル―シアが恙なく過ごしていて何よりじゃ。ウィル坊のお陰じゃな」
「先生、さすがにその呼び名は……」

 先生にとってウィル様は幼い頃から知っているので、子どもの頃の呼び方が抜けないようです。気を付けると仰った側からウィル坊と呼んでいるので、ウィル様もため息をついて苦笑していました。多分諦めたのでしょう。

「体調はどうじゃ? 陛下やゼリルダ殿からも話は聞いておるが……」
「そう、ですね。最近何かと眠いのはそのせいなのかな、と。それくらいでしょうか」
「眠くなるか……」
「え、ええ」

 何でしょう。何だか歯切れが悪いような気がしましたが……

「先生、何か気になることでも?」
「ああ、ウィル坊はどうだった?」
「私、ですか?」
「ああ、そなたにも神獣がいた頃があったじゃろう?」
「そう、ですね。特には……呪いがかかっても痛みなどはありませんでしたが……それが何か?」

 何か引っかかるものがあったのでしょうか。ウィル様が怪訝な表情で先生を見ています。

「これは憶測じゃが……眠くなると言うことは、神獣の力に負けているのだろうな」

 その言葉にウィル様の視線を感じてそちらを向くと、ウィル様が表情を硬くしていました。

「ゼリルダ殿は?」
「王宮です。帰国したばかりなので。レオが一人になってしまったので、落ち着いたら戻ってきてくれるそうです」
「そうか。そう、じゃな。ゼリルダ殿も状況は理解しているだろうから心配ないとは思うが。出来るだけ魔力は使わずに過ごしなさい」
「先生、それは?」
「ああ、ウィル坊、そんな顔をせんでもいい。今すぐどうにかなることはないじゃろうからな」

 先生は大丈夫だと重ねて言ってくださいましたが、それでウィル様の表情が晴れることはありませんでした。




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