【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

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彼らへの罰?

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 両親らが去った後、室内の空気が若干和んだような気がしました。それは私の気持ちの問題でしょうか。ほうっと息を吐くと、お祖母様が私をじっと見ているのに気づきました。何でしょう、そんなに見られると居心地が悪いのですが……

「エル―シアよ、また面倒なことになっておるな」
「面倒?」
「まさか神獣を取り込んでいるとはな……」

 しみじみと言われてしまいましたが、お祖母様も立場上ウィル様が奏上した報告書はご覧になっているのでしょう。望んでこうなったわけではないのですが……

「エル―シア、体調はどうじゃ?」
「今のところは大丈夫ですわ」
「そうか……じゃが……成獣の力に呑まれつつあるな」
「え?」

 お祖母様が眉間の皴を深めました。声も心なしか沈んでいる様に聞こえます。

「筆頭魔術師殿、どういうことです?」

 私が尋ねるよりも先に声を上げたのはウィル様でした。

「言葉通りじゃよ。エル―シアは神獣の力に押されている」
「しかし、私の時は……」
「そなたは魔力が膨大だからな。しかも神獣の弱り具合も格段の差がある。このままではいずれエル―シアは神獣に飲み込まれて消滅するじゃろう」
「そんな……!」

 室内の空気が一気に重く冷たいものに置き換わった気がしました。それじゃ私は……

「筆頭魔術師殿! 何か、何か手はないのですか!?」

 私が呆然としている中、ウィル様がお祖母様たちを問い詰めるように尋ねました。それも私にはなんだか人ごとのようにすら見えました。まだその事実を受け容れられないせいでしょうか……

「方法は、ないわけではない」
「それは!?」
「魔力を、足りない魔力を補えば済む。こんな風にな」

 そう言うとお祖母様は手を私に向けて差し出したので、私も手を伸ばしました。手が繋がれると何か温かいものが流れ込んできました。

「どうじゃ、エル―シア?」
「……はい、少し、身体が軽くなりました」
「うむ、この量でこれか……もう少し少ないと助かるのじゃが、まぁ問題ないな」
「お祖母様?」

 お祖母様が何やら納得していますが、さっぱり話が見えません。

「筆頭魔術師殿、一体……」
「まぁ、そう焦るな、公爵よ」

 答えを急くウィル様にお祖母様は、足りない魔力を私に定期的に送れば取り込まれるのを阻止することが出来るのだと言いました。でも……

「魔力を? だったら私が……」
「待て。これは身内、それも出来る限り血が近い者に限る。お主の魔力ではエル―シアが負けて逆効果じゃろうて」
「そんな……」

 ギリ、とウィル様が奥歯を噛む音が聞こえ、ウィル様の手が私の手をしっかりと握りました。それだけでウィル様のお気持ちが伝わって来るようです。

「まぁ、手がないわけではない」
「では!」
「だから、そう急くな。方法はある。身内であればいいのじゃからな」
「しかし、身内と言ってもあの三人は……」

 ウィル様が懸念するように、あの三人が私のために魔力を分けてくれるとは思えません。かと言ってレオにお願いするのは酷でしょう。私よりも魔力はありますが、まだ子どもなのです。

「情けないことじゃが、あの三人はもう貴族に戻ることはないじゃろうよ」
「お祖母様、それは……」
「魔術師とそれを目指す者が禁忌の術を使っていたのじゃ。厳罰は必須だろう」
「そうだな。それに夫人も姉妹に明らかな差をつけていた上、あの夫婦はエル―シア嬢のために国が下賜した結婚のための支度金も横領している。他にもまぁ、叩けば色々出てくるじゃろうて」

 陛下にまでその様に言われると、恥ずかしさに身の置き所がありません。どうしてあんな風になってしまったのでしょうか。

「すまなかったな、エル―シア。私がもっとウルリヒらの様子を見ていれば……」
「それは仕方ありませんわ。ゼルリダ様だって聖域の呪いを解くために他国を回っていらっしゃったのですもの」
「そうだったのですか?」

 アリッサ様がお祖母様を擁護するようにそう仰いました。そう言えばお祖母様は王都にはいないと聞いていましたが、まさか国を出ていたとは……聞けば聖域の呪いを解く方法を調べるため、他国の魔術師を尋ね歩いていたそうです。相変わらず行動力は昔のまま少しも衰えていないのですね。

「それでもじゃ。予兆がないわけではなかったのだ。すまなかったな、エルよ」
「お祖母様……」

 物心ついた頃から両親とお姉様にはきつく当たられていましたが、そんな私を守って下さっていたのはお祖母様です。それに聖域の呪いは国の一大事でもありました。筆頭魔術師という地位にいる以上、それは仕方のないことでしょう。

「ありがとうございます、お祖母様。でも、お陰で今は幸せですから」
「その様じゃな。その上で聖域の呪いを解いてくれた。ほんにエルは規格外じゃな」

 そんなに規格外だとの自覚はないのですが、お祖母様にそんな風に言われるのは子供の頃以来だと思い出しました。お姉様の呪いのせいでそんなことも忘れていたようです。

「筆頭魔術師殿?」

 お祖母様との昔話に和んでしまった私を止めたのはウィル様でした。心配して下さっていたのに申し訳ないです。

「ああ、すまんなヘルゲン公爵。案ずるな。あの三人がこれから魔力の供給源じゃ。そうじゃな、陛下?」
「うむ。まだ取り調べはこれからだが、あの三人はよくて廃籍、場合によっては極刑じゃろう」
「極刑って……」

 それは処刑ということでしょうか。さすがにそこまでは……と思ってしまいますが。

「そうだな、ゼルリダの言う通りだな。それくらい禁忌の術の無断使用は厳しく制限されておる。処刑してはそれでお終いだが希少な魔力持ちだ。より有効に使った方がよかろう」

 陛下までお祖母様の案に賛成のようです。もしかして既に両親とお姉様の罪状は把握済みということでしょうか。そう言えばウィル様は私への虐待や呪いのことを奏上したと仰っていましたから、既に外堀は埋まっているのかもしれませんが。

「では」
「そうだな、ウィルよ。離れていては魔力の供給に無駄が出る。いっそヘルゲン領で魔獣討伐でもさせたらどうだ?」
「魔獣討伐を? ですが、魔力を吸収する道具を付けては……」
「魔術師としては使えないが、後方で雑用でもさせておけばいい。それも平民の仕事であろう?」
「確かに……」

 ウィル様と陛下の間で話が進んでいきます。確かにそうして頂ければ私は消えずに済むのでしょうが、まだ刑も確定していないのに決めてしまっていいのでしょうか……

「あの三人にはエル―シア嬢のために働かせるのが一番の罰になるだろう」
「そうですね。その横でエル―シアが幸せに暮らす様子を見せつけるのが一番心を折れそうです」
「……ヘルゲン公爵、少しは加減してやってくれ。あれでも我が子であり孫なのじゃから」

 すっかり乗り気のウィル様にお祖母様が申し訳なさそうにお願いしていました。確かに死ぬまで……は長すぎますね。せめて私が苦しんだ年月分は……そう思うのは甘いでしょうか。



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