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思いがけない再会
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案内された部屋は二十人くらいが座れる会議室のような部屋でした。それでもさすがは王宮、会議室でも豪奢で調度品の一つ一つは重厚で立派なものです。
その部屋にいたのは……お祖母様でした。お祖母様はお父様に当主の座を譲ると家を出て、今は筆頭魔術師として王宮の一角にある魔術の塔にお住まいだと聞いています。お会いするのは……八年ぶり、でしょうか。
久しぶりにお会いしたお祖母様は、金色だった髪はすっかり白くなり記憶よりも随分老けましたが、それでも背筋は真っ直ぐの伸び、目元や口元には張りがあってとてもお元気そうです。
声を掛けたかったのですが距離もあった上に直ぐに陛下たちもいらっしゃったため、私はウィル様と指定された席へ腰を下ろしました。この部屋にいらっしゃるのは陛下とアリッサ様、両親とお姉様、ウィル様とお祖母様、先ほど両親を連れて行った騎士、壮年の文官風の男性が一人でした。
「さて、時間もないので手短に済ませよう。まずリルケ伯爵令嬢よ、何故王宮で魔術を使った? 王宮内では許可を得た者以外、魔術の使用は禁じられているのを知らなかったか?」
「お、お待ちください宰相閣下!」
話を切り出した壮年の男性は宰相閣下でした。お父様、話を遮ってはマズいのではないでしょうか。
「何ですかな、リルケ伯爵。私はご息女に尋ねているのです。無用な発言は控えて頂きたい」
「いえ、この件に関しては発言をお許し頂きたい。まず魔術を使ったのは姉のアルーシアではなく妹のエル―シアです」
「ほう?」
「その証拠にアルーシアの胸元にその術式が現れています。アルーシアが自分で自分に魔術をかける理由がございません!」
発言を許可されたと思ったお父様は自信満々にそう宣言しましたが……宰相様は探る様にお父様を見ています。その件は先ほどアレッサ様に思いっきり否定されていましたのに……
「そう? では私のかけた魔術返しが発動しているのは何故かしら?」
お父様に声を上げたのはアリッサ様でした。
「そ、それは……」
「ヘルゲン公爵夫人持つ腕輪には魔術返しの術が仕掛けてあります。あれは他者にかけた術も自分に跳ね返す効果がつけてあるもの。もし伯爵の仰る通りなら、ヘルゲン公爵夫人はご自身が放った術を自ら受けることになりますわ」
「……ぁ、あ……」
アリッサ様の言葉にお父様は次に告げる言葉を失ったようでした。お父様は顔色を青くして俯き、お母様とお姉様も背が丸くなっています。
「しかも使ったのは禁忌の隷属の禁呪。どこでそのようなものを手に入れたのです?」
「そ、それは……」
「私が使ったものを模写した、のだな」
「は、母上……」
お祖母様の言葉にお父様が益々狼狽えるのが見えました。
「どういうことですの、ゼリルダ様」
アリッサ様がお祖母様に問いかけると、お祖母様は私たちにもわかるように説明して下さいました。
「では……元々はゼリルダ様がエル―シア様にかけたものだと?」
「うむ、エル―シアは生まれつき精霊との親和性が高かった。それでなくても幼児は精霊に取り込まれる危険が高いのは周知のこと。その期間を過ぎるまでは従属の呪いを利用して精霊を遠ざけていたのだ」
それは初めて聞くものでした。確かに私は精霊が視えますが、幼児の頃は更に酷く、お祖母様が守って下さらなければ精霊に取り込まれていたのだそうです。それでも十歳を超えればその危険性は無くなるので解除されたとか。ちなみにこのやり方は同じような境遇の子どもに使われているそうで、違法ではないそうです。
「では、それがどうして最近まで?」
「それは……見様見真似で試した、のじゃろう? ウルリヒにアルーシアよ」
お祖母様がそう呼びかけると、お父様とお姉様は気まずそうに口を結んで俯いてしまいました。お二人は魔術が見えるので術式を真似したのでしょう。不完全だったのもそういうことなら納得です。
「リルケ伯爵とアルーシアよ。従属の呪いは禁忌。許可なく使うことは出来ぬ。特にリルケ伯爵よ、そなたは王宮魔術師としてそれを知らなかったわけではあるまい?」
「そ、それは……」
「どうして娘を止めなかった?」
「……」
陛下の追及にお父様は顔を青くして身を縮こませるばかりです。
「答えぬか? では仕方がない。後で詳しく聞かせて貰おうか。どちらにしても王宮内、しかも多くの者が集まる夜会で魔術を使ったのは重大違反じゃからな。騎士団長、三人をそれぞれ貴族牢へ。魔術封じも忘れぬように」
「はっ!」
「お、お待ちください! 貴族牢などさすがにやり過ぎではありませんか?」
「そうか? 不満なら地下牢にするか。わしはどちらでも構わん」
「そ、そういう意味ではございません! こ、このような扱いは不当だと申し上げているのです」
「不当かどうかはこれから調べさせてもらう。ああ、そなたらにはエル―シア嬢の虐待やヘルゲン公爵への不敬罪の疑いもある。後で嫌というほど話を聞かせて貰うから案ずるな」
「へ、陛下……!」
「さっさと連れていけ」
「はっ!」
今度こそ両親とお姉様は騎士たちに拘束されて部屋から追い出されました。室内ではお母様が私は関係ないと叫んでいましたが、ドアが開くとさすがにそれ以上声を張り上げることはしませんでした。人目について恥の上塗りは避けたかったのでしょうか。それだけの理性がまだ残っていたのは幸いでした。
その部屋にいたのは……お祖母様でした。お祖母様はお父様に当主の座を譲ると家を出て、今は筆頭魔術師として王宮の一角にある魔術の塔にお住まいだと聞いています。お会いするのは……八年ぶり、でしょうか。
久しぶりにお会いしたお祖母様は、金色だった髪はすっかり白くなり記憶よりも随分老けましたが、それでも背筋は真っ直ぐの伸び、目元や口元には張りがあってとてもお元気そうです。
声を掛けたかったのですが距離もあった上に直ぐに陛下たちもいらっしゃったため、私はウィル様と指定された席へ腰を下ろしました。この部屋にいらっしゃるのは陛下とアリッサ様、両親とお姉様、ウィル様とお祖母様、先ほど両親を連れて行った騎士、壮年の文官風の男性が一人でした。
「さて、時間もないので手短に済ませよう。まずリルケ伯爵令嬢よ、何故王宮で魔術を使った? 王宮内では許可を得た者以外、魔術の使用は禁じられているのを知らなかったか?」
「お、お待ちください宰相閣下!」
話を切り出した壮年の男性は宰相閣下でした。お父様、話を遮ってはマズいのではないでしょうか。
「何ですかな、リルケ伯爵。私はご息女に尋ねているのです。無用な発言は控えて頂きたい」
「いえ、この件に関しては発言をお許し頂きたい。まず魔術を使ったのは姉のアルーシアではなく妹のエル―シアです」
「ほう?」
「その証拠にアルーシアの胸元にその術式が現れています。アルーシアが自分で自分に魔術をかける理由がございません!」
発言を許可されたと思ったお父様は自信満々にそう宣言しましたが……宰相様は探る様にお父様を見ています。その件は先ほどアレッサ様に思いっきり否定されていましたのに……
「そう? では私のかけた魔術返しが発動しているのは何故かしら?」
お父様に声を上げたのはアリッサ様でした。
「そ、それは……」
「ヘルゲン公爵夫人持つ腕輪には魔術返しの術が仕掛けてあります。あれは他者にかけた術も自分に跳ね返す効果がつけてあるもの。もし伯爵の仰る通りなら、ヘルゲン公爵夫人はご自身が放った術を自ら受けることになりますわ」
「……ぁ、あ……」
アリッサ様の言葉にお父様は次に告げる言葉を失ったようでした。お父様は顔色を青くして俯き、お母様とお姉様も背が丸くなっています。
「しかも使ったのは禁忌の隷属の禁呪。どこでそのようなものを手に入れたのです?」
「そ、それは……」
「私が使ったものを模写した、のだな」
「は、母上……」
お祖母様の言葉にお父様が益々狼狽えるのが見えました。
「どういうことですの、ゼリルダ様」
アリッサ様がお祖母様に問いかけると、お祖母様は私たちにもわかるように説明して下さいました。
「では……元々はゼリルダ様がエル―シア様にかけたものだと?」
「うむ、エル―シアは生まれつき精霊との親和性が高かった。それでなくても幼児は精霊に取り込まれる危険が高いのは周知のこと。その期間を過ぎるまでは従属の呪いを利用して精霊を遠ざけていたのだ」
それは初めて聞くものでした。確かに私は精霊が視えますが、幼児の頃は更に酷く、お祖母様が守って下さらなければ精霊に取り込まれていたのだそうです。それでも十歳を超えればその危険性は無くなるので解除されたとか。ちなみにこのやり方は同じような境遇の子どもに使われているそうで、違法ではないそうです。
「では、それがどうして最近まで?」
「それは……見様見真似で試した、のじゃろう? ウルリヒにアルーシアよ」
お祖母様がそう呼びかけると、お父様とお姉様は気まずそうに口を結んで俯いてしまいました。お二人は魔術が見えるので術式を真似したのでしょう。不完全だったのもそういうことなら納得です。
「リルケ伯爵とアルーシアよ。従属の呪いは禁忌。許可なく使うことは出来ぬ。特にリルケ伯爵よ、そなたは王宮魔術師としてそれを知らなかったわけではあるまい?」
「そ、それは……」
「どうして娘を止めなかった?」
「……」
陛下の追及にお父様は顔を青くして身を縮こませるばかりです。
「答えぬか? では仕方がない。後で詳しく聞かせて貰おうか。どちらにしても王宮内、しかも多くの者が集まる夜会で魔術を使ったのは重大違反じゃからな。騎士団長、三人をそれぞれ貴族牢へ。魔術封じも忘れぬように」
「はっ!」
「お、お待ちください! 貴族牢などさすがにやり過ぎではありませんか?」
「そうか? 不満なら地下牢にするか。わしはどちらでも構わん」
「そ、そういう意味ではございません! こ、このような扱いは不当だと申し上げているのです」
「不当かどうかはこれから調べさせてもらう。ああ、そなたらにはエル―シア嬢の虐待やヘルゲン公爵への不敬罪の疑いもある。後で嫌というほど話を聞かせて貰うから案ずるな」
「へ、陛下……!」
「さっさと連れていけ」
「はっ!」
今度こそ両親とお姉様は騎士たちに拘束されて部屋から追い出されました。室内ではお母様が私は関係ないと叫んでいましたが、ドアが開くとさすがにそれ以上声を張り上げることはしませんでした。人目について恥の上塗りは避けたかったのでしょうか。それだけの理性がまだ残っていたのは幸いでした。
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