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侵入者の目的
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「シャナ、大丈夫ですか?」
ベッドから落ちた私を寸前で受け止めてくれたのは、またしてもラーシュさんだった。お陰で変な体勢になってしまったけれど、ラーシュさんはそんな私を抱き上げてベッドにそっと下ろしてくれた。見上げればいつもの優しい笑顔で、帰ってきてくれたことも併せて安堵の思いが胸に広がった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ、遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ、お仕事だったのですから仕方ないですよ」
「いえ、それに……賊の侵入を許してしまいました」
そう言ってラーシュさんが侵入者に向き合った。
「トーレ、これはどういうことです?」
地を這うような声があるとすれば、今ラーシュさんから放たれた声は正にそれだろう。彼らしくない温かみの欠如した声に、私は思わずその背中を見上げたけれど、表情を伺うことは出来なかった。
「やぁ、ラーシュ」
にこにこと、不法侵入に対しての罪悪感など欠片もなさそうな侵入者に、この人いい性格しているんだな、と思った。ラーシュさんの様子から、彼がこの家に勝手に入ってもいいとの許可は出ていなかったらしい。いくら仲がよくても、無断で他人の家に入ったらダメだろう。
「どうって、君が全く僕の呼びかけに答えないからさぁ」
「あなたの呼びかけに、どうして私が応えねばならないのです?」
「ええ~! だって、どっちが魔術師として上なのか、はっきりさせたいじゃない」
「……そんなこと、どうでもいいですよ」
「どうでもいいって言われても、ね。僕の方はそうはいかないんだよ」
そう言って侵入者が挑発的な笑みを浮かべるのが見えた。どうやらラーシュさんは関わりたくないのに、彼が一方的にちょっかいをかけているみたいだ。
「無断侵入の件は不問にしましょう。今すぐ立ち去り、ここで見たことは全て忘れてください」
口調は優しいけれど、相当怒っているのが伝わってきた。美形が怒ると怖いと聞くけれど、そうなのだろう。
「ふぅん、そんな風に言われて、黙って従うとでも?」
「従わないのであれば、仕方がありません。不法侵入で訴えるだけです」
「別にいいよ~その代わり、ラウロフェルの民のこと、陛下に言っちゃうから」
ラーシュさんの表情は見えないし、背中からは動揺しているかもわからないけれど……それは脅しだろう。それじゃ、ラーシュさんの立場が悪くなってしまうんじゃないだろうか……
「別に構いませんよ」
「へぇ。ラウロフェルの民の隠匿は重罪だよ? 君も彼女も、無事じゃすまないけどいいの?」
「ええ。お好きなように。既に陛下には報告し、ここでの滞在の許可も得ていますから」
「な!」
どうやらラーシュさんの手回しの方が上だったらしい。侵入者の声が戸惑いに染まっていた。
「さぁ、どうしますか? 立ち去るのか、このまま不法侵入者として私に拘束されるか」
「……っ! わかったよ。相変わらず腹立たしい奴だな」
「それはどうも」
仲がいいなんてとんでもなかった。これは犬猿の仲じゃないか。
「ああ、筆頭魔術師からの出頭命令だ。ほらよ」
そう言うと侵入者が何もない空中に手紙らしいものを取り出した。あれも魔術なんだろう。
ラーシュさんがそれを受け取ると、侵入者はあっという間にその姿を消した。
「ええっ? き、消えた?」
突然現れたけど、消えるのも突然だった。今の何? 魔術なの? テレポーテーションみたいなやつ?
「ああ、移転魔術ですよ。大丈夫です。もう入って来れませんから」
「そ、そうなのですか?」
「はい。彼は筆頭魔術師からの出頭命令書を届けるために来たのです。だからこの屋敷に入れた。その様に結界を組んでありますから」
「そ、そうですか……」
なんか、よくわからないけれどそういうものらしい。とにかくラーシュさんが帰ってきてくれてよかった。思った以上に不安を感じていたらしい。
「彼は私と同じ魔術師です。まぁ、悪い奴ではないのでしょうが、昔から私に何かと突っ掛かって来るのです」
「はぁ」
確かにそんな感じがした。ラーシュさんは鬱陶しがっているみたいだけど、そんなところも気に入らないのかもしれない。
「それにしても……」
「ど、どうしたんですか?」
見上げればラーシュさんは手紙に目を通しながら顎に指を当てていた。そんな姿も絵になる。
「王都に行かねばなりません」
「王都、ですか?」
「はい。しかもシャナ、あなたも連れてくるようにと」
「ええっ?! わ、私?」
そう言えばさっき、私のことは陛下に報告済みとか言っていなかったっけ? だったらそれも関係しているのだろうか?
(で、でも、私、歩けないんだけど?)
真っ先に浮かんだのは、お姫様抱っこされる自分の姿だった。この家の中だけならまだしも、外で衆目の元でやられるのはさすがに勘弁してほしい。
それに、さっきの侵入者の話ぶりからして、ラウロフェルの民ってあんまり歓迎されてないっぽいんだけど……
(ど、どうしよう……王都になんて行って、大丈夫なの?)
わからないことが多すぎるせいか、表現しようのない不安が胸に広がった。
ベッドから落ちた私を寸前で受け止めてくれたのは、またしてもラーシュさんだった。お陰で変な体勢になってしまったけれど、ラーシュさんはそんな私を抱き上げてベッドにそっと下ろしてくれた。見上げればいつもの優しい笑顔で、帰ってきてくれたことも併せて安堵の思いが胸に広がった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ、遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ、お仕事だったのですから仕方ないですよ」
「いえ、それに……賊の侵入を許してしまいました」
そう言ってラーシュさんが侵入者に向き合った。
「トーレ、これはどういうことです?」
地を這うような声があるとすれば、今ラーシュさんから放たれた声は正にそれだろう。彼らしくない温かみの欠如した声に、私は思わずその背中を見上げたけれど、表情を伺うことは出来なかった。
「やぁ、ラーシュ」
にこにこと、不法侵入に対しての罪悪感など欠片もなさそうな侵入者に、この人いい性格しているんだな、と思った。ラーシュさんの様子から、彼がこの家に勝手に入ってもいいとの許可は出ていなかったらしい。いくら仲がよくても、無断で他人の家に入ったらダメだろう。
「どうって、君が全く僕の呼びかけに答えないからさぁ」
「あなたの呼びかけに、どうして私が応えねばならないのです?」
「ええ~! だって、どっちが魔術師として上なのか、はっきりさせたいじゃない」
「……そんなこと、どうでもいいですよ」
「どうでもいいって言われても、ね。僕の方はそうはいかないんだよ」
そう言って侵入者が挑発的な笑みを浮かべるのが見えた。どうやらラーシュさんは関わりたくないのに、彼が一方的にちょっかいをかけているみたいだ。
「無断侵入の件は不問にしましょう。今すぐ立ち去り、ここで見たことは全て忘れてください」
口調は優しいけれど、相当怒っているのが伝わってきた。美形が怒ると怖いと聞くけれど、そうなのだろう。
「ふぅん、そんな風に言われて、黙って従うとでも?」
「従わないのであれば、仕方がありません。不法侵入で訴えるだけです」
「別にいいよ~その代わり、ラウロフェルの民のこと、陛下に言っちゃうから」
ラーシュさんの表情は見えないし、背中からは動揺しているかもわからないけれど……それは脅しだろう。それじゃ、ラーシュさんの立場が悪くなってしまうんじゃないだろうか……
「別に構いませんよ」
「へぇ。ラウロフェルの民の隠匿は重罪だよ? 君も彼女も、無事じゃすまないけどいいの?」
「ええ。お好きなように。既に陛下には報告し、ここでの滞在の許可も得ていますから」
「な!」
どうやらラーシュさんの手回しの方が上だったらしい。侵入者の声が戸惑いに染まっていた。
「さぁ、どうしますか? 立ち去るのか、このまま不法侵入者として私に拘束されるか」
「……っ! わかったよ。相変わらず腹立たしい奴だな」
「それはどうも」
仲がいいなんてとんでもなかった。これは犬猿の仲じゃないか。
「ああ、筆頭魔術師からの出頭命令だ。ほらよ」
そう言うと侵入者が何もない空中に手紙らしいものを取り出した。あれも魔術なんだろう。
ラーシュさんがそれを受け取ると、侵入者はあっという間にその姿を消した。
「ええっ? き、消えた?」
突然現れたけど、消えるのも突然だった。今の何? 魔術なの? テレポーテーションみたいなやつ?
「ああ、移転魔術ですよ。大丈夫です。もう入って来れませんから」
「そ、そうなのですか?」
「はい。彼は筆頭魔術師からの出頭命令書を届けるために来たのです。だからこの屋敷に入れた。その様に結界を組んでありますから」
「そ、そうですか……」
なんか、よくわからないけれどそういうものらしい。とにかくラーシュさんが帰ってきてくれてよかった。思った以上に不安を感じていたらしい。
「彼は私と同じ魔術師です。まぁ、悪い奴ではないのでしょうが、昔から私に何かと突っ掛かって来るのです」
「はぁ」
確かにそんな感じがした。ラーシュさんは鬱陶しがっているみたいだけど、そんなところも気に入らないのかもしれない。
「それにしても……」
「ど、どうしたんですか?」
見上げればラーシュさんは手紙に目を通しながら顎に指を当てていた。そんな姿も絵になる。
「王都に行かねばなりません」
「王都、ですか?」
「はい。しかもシャナ、あなたも連れてくるようにと」
「ええっ?! わ、私?」
そう言えばさっき、私のことは陛下に報告済みとか言っていなかったっけ? だったらそれも関係しているのだろうか?
(で、でも、私、歩けないんだけど?)
真っ先に浮かんだのは、お姫様抱っこされる自分の姿だった。この家の中だけならまだしも、外で衆目の元でやられるのはさすがに勘弁してほしい。
それに、さっきの侵入者の話ぶりからして、ラウロフェルの民ってあんまり歓迎されてないっぽいんだけど……
(ど、どうしよう……王都になんて行って、大丈夫なの?)
わからないことが多すぎるせいか、表現しようのない不安が胸に広がった。
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