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結婚したとなれば……

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 ラーシュさんと結婚の契約魔術を交わしたら、正式な夫婦だと言われた。契約魔術が成立するのは女神様が夫婦として認めたからで、互いに想い合う感情がなければ成立しないんだという。なんとも怖いような便利なような魔術だ。だからこの世界では偽装結婚とか政略結婚はないのだとか。

(この世界の女神様って、凄くない?)

 数多居る人間の感情まで察することが出来るなんて神だ。いや、本当に神様なんだけど。しかも私みたいな異世界人までわかるなんて万能すぎやしないか?ちなみにこの世界ではファンタジーにあるような王の許可とはか必要ないそうだ。

 となれば、この後に待っているのは……

「さぁ、シャナ。今夜はお祝いしましょうね」

 そう言ってエプロン姿で料理に勤しむラーシュさんは、大変にご機嫌だった。そりゃあもう、耳がぴんと張って尻尾は揺れっぱなしなのが視覚化出来そうなほどに。
 それにしてもエプロンがこっちの世界にあったのが意外だった。何でも過去に私と同じラウロフェルの民が持ち込んだそうで、ラーシュさん曰く、私が喜ぶかと思ったから着けているんだとか。いやもう、何それ? 本当にわんこ属性凄い。

「さぁ、シャナ。お好きなものをお好きなだけどうぞ」

 そう言って満面の笑みでテーブルに広げられたのは、乗り切らないほどの料理だった。どれもこれも手が混んでいそうで素晴らしいの一言に尽きた。

(た、食べ過ぎた……)

 一時間ほど後、私は食べ過ぎて苦しいお腹を抱えていた。うん、食べ過ぎた、それもかなり。

(でも、美味しかったんだから仕方ないじゃない……)

 それに、私が食べるとラーシュさんが喜ぶのだ。花のような笑顔を更に輝かせて。アレを見たら無理してでも食べたくなってしまうのは仕方ないだろう。

「シャナ、これを」

 差し出されたものは消化を助ける薬草入りのジュースだという。薬草と聞いて苦いのかと警戒したけれど、実際に飲んでみるとそんなことはなかった。口当たりがよくてさっぱりして、飲んだ後のすっきり感が素晴らしい。凄いことにそれから小一時間もすると苦しさは治まっていた。



 そして今、私はベッドの上で緊張していた。何でって……これからしょ、初夜なのだ。結婚したら当然の成り行きだと言われた。うん、そこは日本でも同じだからいい。いいんだけど……

(こ、こっちの世界も同じでいいの? 身体の作りは? 異世界人と子どもって出来るの?)

 今まで考えていなかったけれど、いざとなると色々疑問が湧くのは当然で……ファンタジーの世界では何の問題もないように描かれていたし、そこはスルーするところだったのかもしれないけど、我が身に降りかかれば話は別だ。こっちの人は魔力があるんだから、身体の作りも違うかもしれないし。
 それに、致す内容はどうなんだろう。こうなると経験があるのは幸運だったかもしれない、なんて思ってしまう。いや、ない方がよかったのか……

(まさに未知との遭遇……よね)

 過去に異種間婚をした人もいるってラーシュさんは言っていたけど、その人たちはどうだったんだろう。こんなことなら以前話題に上がった時に、チラっとでも聞いておけばよかった……

「シャナ、お待たせしました」
「ひっ、ひゃい!」

 そう言って部屋に入ってきたラーシュさんは……風呂上りで艶めかしかった。うん、男性でもこれだけ綺麗だと色気が半端ないし、その色気に中てられそうだ……思わず変な声が出てしまって益々羞恥心が募り、私の心臓がダッシュし始めた。今にも止まりそうだ……負けるな、私の心臓……

「シャナ」
「ラーシュさ、ん……」
「ラーシュ」
「へ?」
「もう夫婦になったのです。敬称は不要ですよ」

 そう言って私の手を取って手の甲を優しく撫でられた。そこには……お揃いの文様がくっきりと浮かび上がっていた。

「ラ、ラーシュ……」
「はい」

 私が呼び捨てにすると、それは嬉しそうな笑顔と共に返事をされた。些細なことなのに、心底嬉しそうなその笑顔は反則だ。

「愛しています、シャナ。私の心は永遠にあなただけのものです」

 そう言って抱きしめられたあと、啄むような優しいキスが降ってきた。お姫様抱っこのせいですっかりラーシュさ……ラーシュの身体に慣れてしまったせいか、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。ラーシュは私にとって絶対的な安心感をくれる存在になっていた。

「……んっ……」

 次第にキスが深くなって、舌が入り込んできた。息苦しさをかんじながらも、次第に激しさを増すそれに、ラーシュの思いの深さを感じた。私なんかに……との思いは拭えないけれど、今はそんなことは忘れてこの熱に身を委ねたかった。

(ひゃぁ!)

 キスはそのままにベッドに押し倒された。ずしりとのしかかるラーシュの身体がいつもより熱を持っている気がした。


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