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可哀相な婚約者?
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「ほう、可哀相な婚約者とな? それはどういうことだ?」
可哀相との言葉にカチンと来たのもあってか、出てきた声は思った以上に低くなった。
「そ、それは……」
どうやらこのことは私たちには隠しておくつもりだったのだろう。三人は視線を泳がせて何と言おうかと考えているようにも見えた。
「ねぇ、みんな、どうしたの?」
「ミ、ミリー、ちょっと黙ってて」
「ええ? どうして?」
どうやらこの令嬢にはディアークたちが狼狽える理由がわからないらしい。ミリーと呼んでいることから、ミリセント嬢のことだとは思うが、こんな令嬢にレオノーラたちが蔑ろにされているのかと思うと、怒りよりも乾いた笑いが漏れた。レオノーラたちと比べる方が申し訳なくなるレベルだ。
「もう、どうしちゃったの、ディー様? あなたは王太子なのでしょ?」
「あ、ああ」
「だったら、お姉様よりも立場は上でしょう? 早く場所を譲って貰いましょう?」
「そ、それは……」
どうやらこの令嬢はディアークが王太子で、彼が望むことは何でも叶えられると思っているらしい。まだ内定だということを知らないのだろうか。
そう言えば、彼女に発言を許した覚えもないし、紹介も受けていない。それなのに発言を繰り返すということは、貴族のマナーも理解出来ていないということだろうか。頭が痛い……
「ミリー、喉が渇いちゃったわ。ねぇ、ローリング様、早くお茶が飲みたいわ」
ディアークがはっきりしなかったせいか、今度はすぐ隣にいたローリングの腕に手を絡ませてねだる様に見上げた。少し悲しそうに眉を下げた表情にローリングの頬に赤みが増した。
そう言えば彼は、女性は従順で愛らしいのが一番だと言っていた。王族の私相手にも偉そうな態度を隠しきれていなかったが、なるほど、この令嬢は彼の好みに合致しているらしい。
「ああ、可哀相に、ミリー。アリーセ様。どうかその場をお譲りください」
「ローリー様!」
ローリングの言葉に、ミリー嬢が嬉しそうな笑顔を浮かべた。どうやら彼のことも愛称で呼んでいるらしい。
「義姉上、どうかこの場をお譲りください」
「わ、私からもお願いします。義姉上! 義姉上からも王女殿下にお願いして下さい」
ローリング卿へのミリー嬢の態度に焦ったのか、対抗意識なのか、他の二人までもが私たちにどけと言い出した。そもそもこの場に立ち入る許可がないのに、どうしてそのような図々しいことが言えるのかと理解に苦しむ。彼らがこの中にいることが知れたらどうなるか、想像も出来ないのだろうか……
「譲るもなにも、そなたらはこの場に立ち入る許可すらも得ていないだろう。それなのにどうして譲らねばならぬのだ?」
「そ、それはミリーがそう望むから……」
「ほう? そこの令嬢の言うことの方が、我が国の王后陛下よりも上だと?」
「そ、それは……!」
私の指摘にディアークは答える術がなかった。それは当然だろう。この温室のことは王族であれば誰もが知っていることだ。そして母の発言力の強さも。彼が王太子に内定したのも、母が容認したからだ。
「ねぇ、どうして譲ってくれないの? 王太子様のディー様が望んでいるのよ? ディー様を蔑ろにするなんて不敬だし、こんなことをしたらあなた達が罰せられるわ。そうならないようにお願いしているのに」
「ミリー!」
「ああ、なんて優しいんだ」
「この人たちのことまで心配するなんて」
「だって可哀相な人には優しくしなさいって、お母様が仰っていたもの」
もう、どこから突っ込んでいいのかわからないが、あの発言を是とする三人に眩暈がしそうだった。話が通じないし、理解出来ない。いや、したいとも思わないが。
「とにかく、ここに入りたければ正妃の許可が先だ。出ていけ」
「な! あ、義姉上?!」
「横暴ですぞ! アリーセ様!」
「義姉上、見損ないました!」
三人が三様に騒ぐが、そもそも文句を言われる筋合いがない。
「あ、義姉上! こんなことを言って、ただで済むと思っているのですか?」
「もちろんだ。侵入者を追い出したと褒められこそすれ、非難されることはないだろうな」
「な!」
「近衛兵! この者たちをつまみ出せ。そして今回のことを父上に報告するように」
「「「はっ!」」」
もう彼らと会話を続ける気にもなれなかった。ついでに騎士らに父上の報告も頼むことにした。母に報告するかは父に任せよう。
「あ、義姉上?! 父上にって!」
「当然だろう? ここがどういう場所か、知らぬはずはないだろう」
「でも、ちょっとだけなら……」
「ちょっとだけ? そう思うなら、そう父上に申し上げるのだな」
「そ、そんな!」
なんだ、ちょっとだけでもダメだと理解していたんじゃないか。その上で押しかけて来たのなら自分で弁解すればいい。
「ひ、酷いわ! どうしてこんな事するの? ここはいずれディー様と私のものになるのに!」
「ミ、ミリー!」
「あんな人たち、さっさと婚約破棄されてしまえばいいのよ! ねぇ、そうでしょう?」
「もちろんだ、ミリー。必ず婚約破棄してやるよ」
「ディー様、かっこいい」
悔し紛れに出たらしい言葉だったが、私たちはそれを聞き流す気はなかった。
可哀相との言葉にカチンと来たのもあってか、出てきた声は思った以上に低くなった。
「そ、それは……」
どうやらこのことは私たちには隠しておくつもりだったのだろう。三人は視線を泳がせて何と言おうかと考えているようにも見えた。
「ねぇ、みんな、どうしたの?」
「ミ、ミリー、ちょっと黙ってて」
「ええ? どうして?」
どうやらこの令嬢にはディアークたちが狼狽える理由がわからないらしい。ミリーと呼んでいることから、ミリセント嬢のことだとは思うが、こんな令嬢にレオノーラたちが蔑ろにされているのかと思うと、怒りよりも乾いた笑いが漏れた。レオノーラたちと比べる方が申し訳なくなるレベルだ。
「もう、どうしちゃったの、ディー様? あなたは王太子なのでしょ?」
「あ、ああ」
「だったら、お姉様よりも立場は上でしょう? 早く場所を譲って貰いましょう?」
「そ、それは……」
どうやらこの令嬢はディアークが王太子で、彼が望むことは何でも叶えられると思っているらしい。まだ内定だということを知らないのだろうか。
そう言えば、彼女に発言を許した覚えもないし、紹介も受けていない。それなのに発言を繰り返すということは、貴族のマナーも理解出来ていないということだろうか。頭が痛い……
「ミリー、喉が渇いちゃったわ。ねぇ、ローリング様、早くお茶が飲みたいわ」
ディアークがはっきりしなかったせいか、今度はすぐ隣にいたローリングの腕に手を絡ませてねだる様に見上げた。少し悲しそうに眉を下げた表情にローリングの頬に赤みが増した。
そう言えば彼は、女性は従順で愛らしいのが一番だと言っていた。王族の私相手にも偉そうな態度を隠しきれていなかったが、なるほど、この令嬢は彼の好みに合致しているらしい。
「ああ、可哀相に、ミリー。アリーセ様。どうかその場をお譲りください」
「ローリー様!」
ローリングの言葉に、ミリー嬢が嬉しそうな笑顔を浮かべた。どうやら彼のことも愛称で呼んでいるらしい。
「義姉上、どうかこの場をお譲りください」
「わ、私からもお願いします。義姉上! 義姉上からも王女殿下にお願いして下さい」
ローリング卿へのミリー嬢の態度に焦ったのか、対抗意識なのか、他の二人までもが私たちにどけと言い出した。そもそもこの場に立ち入る許可がないのに、どうしてそのような図々しいことが言えるのかと理解に苦しむ。彼らがこの中にいることが知れたらどうなるか、想像も出来ないのだろうか……
「譲るもなにも、そなたらはこの場に立ち入る許可すらも得ていないだろう。それなのにどうして譲らねばならぬのだ?」
「そ、それはミリーがそう望むから……」
「ほう? そこの令嬢の言うことの方が、我が国の王后陛下よりも上だと?」
「そ、それは……!」
私の指摘にディアークは答える術がなかった。それは当然だろう。この温室のことは王族であれば誰もが知っていることだ。そして母の発言力の強さも。彼が王太子に内定したのも、母が容認したからだ。
「ねぇ、どうして譲ってくれないの? 王太子様のディー様が望んでいるのよ? ディー様を蔑ろにするなんて不敬だし、こんなことをしたらあなた達が罰せられるわ。そうならないようにお願いしているのに」
「ミリー!」
「ああ、なんて優しいんだ」
「この人たちのことまで心配するなんて」
「だって可哀相な人には優しくしなさいって、お母様が仰っていたもの」
もう、どこから突っ込んでいいのかわからないが、あの発言を是とする三人に眩暈がしそうだった。話が通じないし、理解出来ない。いや、したいとも思わないが。
「とにかく、ここに入りたければ正妃の許可が先だ。出ていけ」
「な! あ、義姉上?!」
「横暴ですぞ! アリーセ様!」
「義姉上、見損ないました!」
三人が三様に騒ぐが、そもそも文句を言われる筋合いがない。
「あ、義姉上! こんなことを言って、ただで済むと思っているのですか?」
「もちろんだ。侵入者を追い出したと褒められこそすれ、非難されることはないだろうな」
「な!」
「近衛兵! この者たちをつまみ出せ。そして今回のことを父上に報告するように」
「「「はっ!」」」
もう彼らと会話を続ける気にもなれなかった。ついでに騎士らに父上の報告も頼むことにした。母に報告するかは父に任せよう。
「あ、義姉上?! 父上にって!」
「当然だろう? ここがどういう場所か、知らぬはずはないだろう」
「でも、ちょっとだけなら……」
「ちょっとだけ? そう思うなら、そう父上に申し上げるのだな」
「そ、そんな!」
なんだ、ちょっとだけでもダメだと理解していたんじゃないか。その上で押しかけて来たのなら自分で弁解すればいい。
「ひ、酷いわ! どうしてこんな事するの? ここはいずれディー様と私のものになるのに!」
「ミ、ミリー!」
「あんな人たち、さっさと婚約破棄されてしまえばいいのよ! ねぇ、そうでしょう?」
「もちろんだ、ミリー。必ず婚約破棄してやるよ」
「ディー様、かっこいい」
悔し紛れに出たらしい言葉だったが、私たちはそれを聞き流す気はなかった。
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