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ディアークとの面会

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「姉上、どうなさったのですか?」

 本当にわからないと言わんばかりにディアークがきょとんとした表情を浮かべていた。子供の頃からよく見ていた表情に、ああ、変わっていなんだだなぁと思ったが、今はそれどころではない。

「ちょっと待て! どうして私がハンクとそんな話になっているんだ?」
「どうしてって……ローリングがそう言っていましたよ」
「ローリングが?」

 そう言って浮かべたディアークの笑顔には、邪心や嘘は感じられなかった。本気でそう思っているらしい。だが、現実はそうではない。私は正直に彼との関係を話した。

「そんな……あ、姉上たちこそが、真実の愛だと思っていたのに……」

 話を聞き終えたディアークは茫然としていた。今生の別れとして恨み言の十も言われると思っていたのに、この状況は何なのだ……周りにいる騎士たちが何とも複雑そうな空気を纏っているように見えるのは気のせいだろうか。

「ディアーク、ローリングに何を言われていたのだ? 話せ」

 もうこれで会うことはないが、だったら誤解は出来るだけ解いておきたかった。私が問い詰めると、ディアークは遠慮がちにローリングやその周りにいた者から聞かされていた内容を話してくれた。
 その内容は……私とハンクが相思相愛であること、フォンゼルはハンクと私のために婚約者候補を下りて、自分のせいで傷物になって嫁ぎ先が見つからないだろうレイニーを引き受けることにしたこと、イーゴンがローゼに求婚したのは、これも自分のためにイーゴンが身を削ったこと、母と父は相愛だったが、エレナ様が側妃になったせいで二人の間にひびが入り、その後子作りを拒否されたこと、などだった。他にも細かいことが幾つかあったが、これらに比べれば些細なことだろう。

「ディアーク、それは全くの誤解だ」

 こうなったら誤解をきっちり解くのが姉としての役目だろう。私は本当の話を一つずつ話していった。

「そんな……」

 全てを聞き終えたディアークが頭を抱えてしまった。人の話を鵜呑みにするな、自分で確認しろ、場合によっては側近を使えと何度も言い聞かせたのに、愚弟には全く伝わっていなかった……
 いや、側近を使ったのだから理解はしていたのだろう。ただ、選んだ側近が悪かっただけで。

「は……ははは……やっぱり私は、王の器ではありませんでしたね」

 暫くの間、頭を抱えて俯いていたディアークだったが、再び上げた顔には自嘲ともう笑うしかないという諦めがあった。でもそこに悲壮感はなく、むしろすっきりしたと言いたげにも見えた。

「姉上、ありがとうございました。誤解したまま王領に向かわなくてよかった」

 そう告げるディアークの表情は、不思議とさっぱりしていた。何か憑き物が落ちたようにも見える。

「やっぱり姉上が姉上でよかった」
「ディアーク?」
「ずっと姉上に憧れていました。強くて、優しくて、口さがない者たちからいつも庇ってくれて……だから、今はこうなってよかったと、姉上が女王になると決まってよかったと思っています」
「だがディアーク。それでは……」
「私は父上のようになれる自信がありませんでした。そのためにレイニーとイーゴン、カスパーで私を支えようとしてくれたのでしょう。でも、それすらも私には荷が重くて苦しかったんです」
「……」
「レイニーにも悪い事をしたと思っています。彼女は私のために一生懸命王子妃教育を受けてくれていたから……でも、彼女も優秀過ぎて、私は負い目しか感じられなかったんです。せめて年が同じか、いえ、私が上だったらよかったのでしょうか……」

 確かにディアークとレイニーは、優秀な姉と頼りない弟のようだと言われていたし、実際そんな感じに見えた。ミリセント嬢はそんな自分でも素敵だ、頼りになると言ってくれて、彼女といる時だけは重圧を感じずに済んだのだと、ディアークは静かに語った。

「私が、弱すぎたのでしょうね」

 そう言って笑みを浮かべたディアークだったが、何だか晴れ晴れとしていた。そのタイミングで、側にいた騎士がそろそろお時間です、と声をかけてきた。

「姉上、王という重責を押し付けて申し訳ございません。でも、姉上ならきっとこれまでにない素晴らしい女王になられると私は確信しています」
「ディアーク。だが……」
「レイニーに、申し訳なかったと、どうか幸せにと、お伝えください」
「あ、ああ……」

 寂しそうな、今にも消えてしまいそうな笑顔に、彼がレイニーを慕っていたのだと感じた。彼女への態度を腹立たしく思ったが、それだけが全てではなかったのだろう。もうこれ以上彼の本心を聞くことは出来ないけれど。

「わかった。そう伝えよう」
「ありがとうございます。姉上も、ハンク殿と上手くいくといいですね」
「な!」

 最後に見た笑顔は、昔悪戯をしたあとによく見せていたそれだった。名残惜しいがもう時間がない。最後に鉄格子越しに握手をして、私は部屋を去った。




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