【完結】婚約破棄してやると言われたので迎え撃つことにした

灰銀猫

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ディアークのその後と立太子

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 面会の後、ディアークは予定通り王都を離れ、王領の離宮に入ったと聞いた。離宮は静かな森の中にあり、元より幽閉用に作られた物なので頑強で質素なのだと聞いている。誘拐や暗殺に備えて監視を兼ねた使用人と護衛が常に付き、庭を散策するくらいの自由しかないという。
 そんな場所でまだ若い彼が長い人生を過ごすのかと暗澹たる気持ちになったが、当の本人は意外にも元気にしているらしい。趣味の絵を好きなだけ描けるとあって、放っておけば一日中絵を描いているのだという。そう言えばディアークは子供の頃から絵を描くのが好きで、幼い頃の夢は絵描きだった。

「恙なくお過ごしのようです。いつか納得出来るものが描けたらアリーセ様に献上したいと仰っているそうです」

 離宮の様子を報告しに来た騎士がそう言っていたが、きっとディアークは本気でそう思っているのだろう。彼は絵に関しては誰にも負けないほどに上手かったから。さすがに本名はマズいが、偽名でなら絵を世に出すことも可能かもしれない。彼に絵という生き甲斐が残っていたことに感謝した。

 そのディアークの住む離宮から馬車で十分ほどの別の離宮には、その後を追うように彼の母親のエレナ様が移られた。さすがにディアークと会う事は出来ないが、近くにいれば手紙のやり取りや贈り物を交わす事くらいは許されるだろう。勿論検閲は避けられないが。それでもあの二人がこれからも交流出来ることがせめてもの救いのように思えた。

 ディアークが穏やかな生活を始めた頃、私は死ぬほどいそがしい日々の中で慌ただしく立太子を終え、正式に王太女となった。終わった後は何もしたくないほど過密スケジュールだったが、悲しいかなそれで終わりとはならなかった。今度は王太子としての教育と責務が押し寄せてきたからだ。
 お陰でそれからの三月は寝る時間も削られて記憶が曖昧になるほどで、立太子した事を深く後悔することになった。ディアークは王太子の教育を既に受けていたが、私は辺境に養子に入ると決まっていたから受ける教育もそれに備えてのものだったのだ。それでも、ここ一年ほど受けていたそれは王太子教育の初歩で、知らない間に王太子教育が始まっていた。父上はこうなることを想定していたのだろう。
 そんな準備をするくらいならディアークの手綱をしっかり握ってくれてら……と思ったが、ディアークの苦悩を知った今ではそれも仕方がないと思わなくもなかった。もしかしたら父上はディアークの気持ちを知っていたのかもしれない。




 そんな状況が終わりを告げたのは、立太子から半年後のことだった。一連の行事が終わった私はようやくゆっくりお茶を飲む機会を取り戻したのだ。

「ようやく一段落ついたな」
「ええ、アリーセ様。暫くは大きな催しは開かれないそうです」
「そうか、よかった……」
「あ、でもレオノーラ様とフォンゼル殿下の結婚式がそろそろですわね」
「ああ、そんな時期か」

 あっという間に日が過ぎて、最近はレイニーたちとも連絡を取っていなかった。夜会などで顔を合わせれば挨拶はしたが、それまでだ。それでも今までの分を取り返すかのようにレイニーを甘やかすフォンゼルに、彼女の幸せな未来が見えた。

「あと、ハンク様から今日のお花が届いていますわ」
「ハンクから?」

 ソフィアから手渡された今日の花束は、小さな花がたくさん付いた楚々としたものだった。毎日違う花と雰囲気の花束が届くが、その心遣いがこそばゆい。
 この半年、ゆっくり会う機会もなかったが、彼からの贈り物は続いていた。さすがに毎日物を受け取るのは申し訳ないと辞退したので、最近は手紙と花が毎日贈られてくる。律儀だと思う一方で、そんなに暇ではないだろうにと別の心配が過ったが、ソフィアに言わせると実際に手配するのは使用人だし、好きな人への贈り物を考える時間は楽しいのですからそんな心配は無用です! と言われてしまった。

「まぁ、今日は香りのいい花ですわね」
「そうだな。花は大人しいが香りだけなら他の花に負けないな」

 花のことはあまり詳しくないが、優しくもしっかり主張する香りが部屋を満たした。好きな種類の香りなのでそれだけでもホッとした気分になる。

「それと、カール様からも贈り物が届いておりますわ」
「カール卿から?」
「ええ、こちらです」

 ソフィアが差し出したのは綺麗に包まれた手のひらに乗るほどの箱と手紙だった。王配候補としては圧倒的にハンクが優勢だが、カールとブランゲ公爵家は未だに辞退せず、候補が二人のままだった。四公爵家がハンク支持を表明しているが、五大公爵家のブランゲ公爵家を無下にする事も出来ない。ブランゲ公爵とその実妹でハンクの母でもあるイルゼ夫人の性格からして絶対に辞退しないだろうと言われているが、私もそんな風に考えていた。



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