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中庭での交流
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中庭の散歩は中々に好評だった。元々は王都から輿入れしてきた夫人を慰めるために王宮の庭を真似て作ったものだけど、何代か前に隣国に攻め入られて籠城した際、精神的に疲労していく民に心を痛めた夫人があの庭で炊き出しを始めたという。その際、あの庭の花々が皆の心を慰めたとも。それ以降あの庭は夫人のためだけでなく、万が一の時のためにと整えてきた。
「王都の庭よりも、自然に近くて風情がありますね」
「そうですね。ここはいざという時は炊き出しなどにも使うので、手をかけ過ぎないようにしているのです」
「炊き出し、ですか?」
「ええ。隣国と戦争になれば籠城の可能性もあります。その時にはここが炊き出しと皆の息抜きの場になるでしょうね」
「そうですか……」
感慨深げにオードリック様は庭を見渡した。まさかそんな事のために使うとは思わなかったのだろう。
「この庭にある木々は全て実が成りますし、薬になるものもあるんですよ。向こうには野菜や薬草の畑もあります」
「畑が……」
王都では信じられないだろうけど、ここでは有事の際に必要とされる薬草などを栽培している。専用の薬草園や畑もあるし、常に一定数の薬や食料も備蓄している。いつ隣国が侵攻して来るかわからないからだ。
「ここは、常に戦いを前提にしているのですね」
「自ずとそうなりますね」
この屋敷も庭も、何なら街だって、全ては隣国からの侵攻に備えて作られている。それにここは魔獣が時々大量発生したりもするし、隣国から逃げて来た盗賊が人々を襲うこともある。お陰で何をするにも万が一の場合を想定しているのだ。幾重にも守られ、国境が遠い王都ではあり得ないだろう。
気分転換のための散歩も、どういう訳か領内の問題についての話し合いになってしまった。でも、互いに人となりをよく知らないし、急に婚約だ婿入りだと言われても私たちはまだ戸惑いの中だ。互いの距離感を図りながらの会話は、どうしても当たり障りのない話に流れてしまっていた。私たちの場合は、辺境伯領や隣国についてだった。
「二人の話は小難しいことばっかりだな」
オードリック様と別れて部屋に戻った私に、ジョエルが呆れ気味でそう言った。彼は近くに控えていたから、会話も聞きとれたのかもしれない。エリーが淹れてくれたお茶を飲みながら、先ほどの会話を振り返ったけど、確かに話した内容は隣国とこの辺境伯領のことだった。
「仕方ないじゃない。他に共通の話題もないし……」
「そりゃあそうなんだろうけど……でも、婚約するんだったら、もう少し色気のある話になるんじゃねぇのか?」
「色気のある話って……例えば?」
「例えばって……あ~そうだなぁ。互いに好きなものを聞き合うとか、趣味とか、そういう感じ?」
「そんな話を私がしている姿、想像出来る?」
「いや、全く」
即答されてしまった上、ジョエルが両手を上げて降参の意味を示した。そこで言い切るか? と思ったけれど、否定する材料が思い浮かばなかった。
「アンがそんな話していたら、偽者にしか思えねぇな。もしくは頭がいかれちまったか」
「何気に失礼だけど、私も概ね同意ね」
恋愛なんて私には絶対に無理だと思っているし、オードリック様と色恋沙汰になるなんて想像も出来なかった。まぁ、向こうだってそうだろうけど。そう言えばあの子爵令嬢のことを今でも想っておられるのだろうか。
「そう言えば殿下はあの子爵令嬢のこと、今でも好きなのか? 確か牢屋で自殺したって聞くけど」
「そうね。処刑されるのを恐れて自死したと言われているわね」
あの子爵令嬢のことを丁度考えていたところで、二人が言及して驚いた。彼女に関しては色んな憶測や噂が流れているから、何が本当なのか正直に言って判断し難い。最後まで自分は知らなかったと言い張ったとも、罪の意識にさいなまれたとも聞くが、どちらにしても王族を魅了した者は極刑で家族もその責を免れない。それを恐れて自殺したと公表されているけど、この手の話にはさらに裏がある事が多いので、公表されたことが真実とは限らない。そしてそれを暴く気は私にはなかった。
「さぁ、どうなのかしらね。私にもわからないわ」
気にならない訳じゃないけど、相手が亡くなっているだけに聞き辛いし、聞いていいのかどうかもわからない。それに、王族に関することは危険だ。余計なことを知った者は消されるという一面もある。
私たちの場合はオードリック様が政治的に悪用されないための身柄の保護が第一なのだ。そこに恋愛感情は求められていなかった。
「王都の庭よりも、自然に近くて風情がありますね」
「そうですね。ここはいざという時は炊き出しなどにも使うので、手をかけ過ぎないようにしているのです」
「炊き出し、ですか?」
「ええ。隣国と戦争になれば籠城の可能性もあります。その時にはここが炊き出しと皆の息抜きの場になるでしょうね」
「そうですか……」
感慨深げにオードリック様は庭を見渡した。まさかそんな事のために使うとは思わなかったのだろう。
「この庭にある木々は全て実が成りますし、薬になるものもあるんですよ。向こうには野菜や薬草の畑もあります」
「畑が……」
王都では信じられないだろうけど、ここでは有事の際に必要とされる薬草などを栽培している。専用の薬草園や畑もあるし、常に一定数の薬や食料も備蓄している。いつ隣国が侵攻して来るかわからないからだ。
「ここは、常に戦いを前提にしているのですね」
「自ずとそうなりますね」
この屋敷も庭も、何なら街だって、全ては隣国からの侵攻に備えて作られている。それにここは魔獣が時々大量発生したりもするし、隣国から逃げて来た盗賊が人々を襲うこともある。お陰で何をするにも万が一の場合を想定しているのだ。幾重にも守られ、国境が遠い王都ではあり得ないだろう。
気分転換のための散歩も、どういう訳か領内の問題についての話し合いになってしまった。でも、互いに人となりをよく知らないし、急に婚約だ婿入りだと言われても私たちはまだ戸惑いの中だ。互いの距離感を図りながらの会話は、どうしても当たり障りのない話に流れてしまっていた。私たちの場合は、辺境伯領や隣国についてだった。
「二人の話は小難しいことばっかりだな」
オードリック様と別れて部屋に戻った私に、ジョエルが呆れ気味でそう言った。彼は近くに控えていたから、会話も聞きとれたのかもしれない。エリーが淹れてくれたお茶を飲みながら、先ほどの会話を振り返ったけど、確かに話した内容は隣国とこの辺境伯領のことだった。
「仕方ないじゃない。他に共通の話題もないし……」
「そりゃあそうなんだろうけど……でも、婚約するんだったら、もう少し色気のある話になるんじゃねぇのか?」
「色気のある話って……例えば?」
「例えばって……あ~そうだなぁ。互いに好きなものを聞き合うとか、趣味とか、そういう感じ?」
「そんな話を私がしている姿、想像出来る?」
「いや、全く」
即答されてしまった上、ジョエルが両手を上げて降参の意味を示した。そこで言い切るか? と思ったけれど、否定する材料が思い浮かばなかった。
「アンがそんな話していたら、偽者にしか思えねぇな。もしくは頭がいかれちまったか」
「何気に失礼だけど、私も概ね同意ね」
恋愛なんて私には絶対に無理だと思っているし、オードリック様と色恋沙汰になるなんて想像も出来なかった。まぁ、向こうだってそうだろうけど。そう言えばあの子爵令嬢のことを今でも想っておられるのだろうか。
「そう言えば殿下はあの子爵令嬢のこと、今でも好きなのか? 確か牢屋で自殺したって聞くけど」
「そうね。処刑されるのを恐れて自死したと言われているわね」
あの子爵令嬢のことを丁度考えていたところで、二人が言及して驚いた。彼女に関しては色んな憶測や噂が流れているから、何が本当なのか正直に言って判断し難い。最後まで自分は知らなかったと言い張ったとも、罪の意識にさいなまれたとも聞くが、どちらにしても王族を魅了した者は極刑で家族もその責を免れない。それを恐れて自殺したと公表されているけど、この手の話にはさらに裏がある事が多いので、公表されたことが真実とは限らない。そしてそれを暴く気は私にはなかった。
「さぁ、どうなのかしらね。私にもわからないわ」
気にならない訳じゃないけど、相手が亡くなっているだけに聞き辛いし、聞いていいのかどうかもわからない。それに、王族に関することは危険だ。余計なことを知った者は消されるという一面もある。
私たちの場合はオードリック様が政治的に悪用されないための身柄の保護が第一なのだ。そこに恋愛感情は求められていなかった。
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