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二章
エリオットの罪
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あれから五日後、私はラリー様と共に王宮にいた。エリオット様達への取り調べが終わり、その処分が決まったらしい。
私は直ぐに回復して、その後は特に問題なく過ごしていた。あの後私も当事者として事情聴取を受けたが、今日はその報告があるという。あの騒動で帰郷を一週間延ばして、明後日には王都を発つ予定だ。
案内されたのは謁見の間だった。エリオット様の事だけなら陛下の執務室の隣にある大部屋かと思ったが、これは思った以上に人数が集まるらしい事が伺えた。
「エリオット様だけではなかったのですね…」
「ああ、彼一人では済まなかったんだ」
ラリー様のお話では、他にもこの件に関わった者がいたそうだ。そのため時間がかったのだとも。確かにエリオット様お一人で痺れ薬を用意するなんて無理だろう。
謁見の間に入ると、既に宰相や上位貴族の当主たちの顔が見えた。私達が用意された席に着くと、直ぐに国王陛下ご夫妻と王太子殿下ご夫婦、第三王子のグレン様がお出ましになった。やはりというか、その中にエリオット様はいらっしゃらなかった。
「これよりエリオットらが起こした不祥事について沙汰を言い渡す」
国王陛下が重苦しい声でそう宣言されると、両脇を騎士に抱えられたエリオット様が入室した。どうやら後ろ手に縛られているらしい。表情は暗く、目は剣呑さを隠そうともせず、この状況が不本意である事を現していた。
私に気が付くと射殺しそうな視線を向けてきて、私は思わずたじろいでしまった。先日は私と再婚約しようなどと言っていたのにこれだ。やはり彼は私など道具としてしか見てはいなかったのだろう。
「大丈夫だ、シア。もうあいつは何もできないから」
「…ありがとうございます、ラリー様」
エリオット様だけかと思ったが、それに続いて私の両親とメイベルも入室して来て、私は驚きを隠せなかった。メイベルが絡んでいるとは思っていたけど、両親もだなんて…それにこんな風に拘束されているとは思わなかった。
彼らは私達に気が付くと忌々しい表情を向けてきた。エリオット様が私と婚約し直そうとしたせいだろうか…私が自ら望んだわけでもないのに。彼らにとって私はやはり邪魔な存在でしかないのか…諦めてはいたけど、長く側を離れていたせいかその事実を突きつけられると胸が痛んだ。
宰相様がまず、エリオット様の罪状について説明を始めた。彼の罪は三つあり、一つ目は王妃様の公文書にもなる便箋を盗み出した事、二つ目はラリー様の婚約者である私に狼藉を働いた事、そして三つ目は…驚いた事に、王太子殿下に毒を盛ろうとした事だった。
二つの罪は分かっていたが、まさか王太子殿下を害しようとしていたのには驚きしかなかった。仲が悪いという訳ではないが、特に悪いわけでもなかったからだ。
元より面倒事は遠慮したいが、特権は享受したいという甘ったれた性分だったため、王太子殿下をどうこうするなどと言う考えをする人ではなかったはず。一体どうしてそんな事に…と私は驚きを隠せずにいた。
また私の家族に対しては、痺れ薬をエリオット様に盛ろうとした事が上げられて、私は驚きを隠せなかった。あの夜会の後で父は、メイベルの王子妃教育が遅れている事、授業を抜け出して他家の子息とお茶を楽しんでいた事などを王家より指摘され、厳重注意を受けた。このままでは婚約者になれないと危機感を持った父は痺れ薬をエイベルに渡し、それでエリオット様との既成事実を作るように唆したとしたのだという。
だが、この計画を聞かされたメイベルは既にエリオット様から見放され、冷たくされていた。その為、父の計画をエリオット様に話して婚約者の入れ替えを提案したのだという。その案にエリオット様が賛成して、二人は私を呼び出して既成事実を作ろうとしたのだ。
更にエリオット様は自身が王族に残るため、王太子殿下にも痺れ薬を飲ませて体調不良にしようとしたらしい。そうすれば自分を王族に残さなければいけないとの声が上がるだろうと踏んだからだった。王太子殿下の侍女に栄養剤だと言って飲ませようとしたのだが、侍女が不審に思い侍女頭に相談したためこの件は発覚した。
「何か申し開きはあるか、エリオット」
国王陛下の声が重苦しく、そこには言い表せないほどの苦渋が隠れていた。きっとこうなった事に陛下もお心を痛めていらっしゃるのだろう。
「父上!俺は何もしていない!本当だ!全ては俺に罪を着せようとした者の陰謀です!」
陛下に発言を許可されたエリオット様は、大声でそう叫んだ。そんなに大きな声を出さずとも聞こえるだろうに…と思うほどに。
「陰謀か…誰が、どんな目的でその様な事をしたと?」
「それは、お、叔父上であられるヘーゼルダイン辺境伯です!」
「な…っ」
「殿下?」
「何を…」
宰相様たちがエリオット様の言葉に動揺して騒めいた。私もまさかラリー様の名がここで出るとは思いもせず、思わずラリー様に視線を向けると、ラリー様は僅かに苦笑を浮かべていらっしゃった。でも、その様子からは驚きは見当たらないため、もしかするとエリオット様があんな事を言い出すのを想定されていたのだろうか…
「ほう…ラリー、いや、ヘーゼルダイン辺境伯だと?」
「はい、そうです」
「動機は?」
「ヘーゼルダイン辺境伯は王弟でありながら、国内でも一番キナ臭くトラブルが多い辺境伯領に追いやられた事を恨まれているからです。俺を唆して兄上を弑し、その後俺を兄上殺しとして糾弾して処刑し、いずれは王位を手にしようとされたのです」
私は直ぐに回復して、その後は特に問題なく過ごしていた。あの後私も当事者として事情聴取を受けたが、今日はその報告があるという。あの騒動で帰郷を一週間延ばして、明後日には王都を発つ予定だ。
案内されたのは謁見の間だった。エリオット様の事だけなら陛下の執務室の隣にある大部屋かと思ったが、これは思った以上に人数が集まるらしい事が伺えた。
「エリオット様だけではなかったのですね…」
「ああ、彼一人では済まなかったんだ」
ラリー様のお話では、他にもこの件に関わった者がいたそうだ。そのため時間がかったのだとも。確かにエリオット様お一人で痺れ薬を用意するなんて無理だろう。
謁見の間に入ると、既に宰相や上位貴族の当主たちの顔が見えた。私達が用意された席に着くと、直ぐに国王陛下ご夫妻と王太子殿下ご夫婦、第三王子のグレン様がお出ましになった。やはりというか、その中にエリオット様はいらっしゃらなかった。
「これよりエリオットらが起こした不祥事について沙汰を言い渡す」
国王陛下が重苦しい声でそう宣言されると、両脇を騎士に抱えられたエリオット様が入室した。どうやら後ろ手に縛られているらしい。表情は暗く、目は剣呑さを隠そうともせず、この状況が不本意である事を現していた。
私に気が付くと射殺しそうな視線を向けてきて、私は思わずたじろいでしまった。先日は私と再婚約しようなどと言っていたのにこれだ。やはり彼は私など道具としてしか見てはいなかったのだろう。
「大丈夫だ、シア。もうあいつは何もできないから」
「…ありがとうございます、ラリー様」
エリオット様だけかと思ったが、それに続いて私の両親とメイベルも入室して来て、私は驚きを隠せなかった。メイベルが絡んでいるとは思っていたけど、両親もだなんて…それにこんな風に拘束されているとは思わなかった。
彼らは私達に気が付くと忌々しい表情を向けてきた。エリオット様が私と婚約し直そうとしたせいだろうか…私が自ら望んだわけでもないのに。彼らにとって私はやはり邪魔な存在でしかないのか…諦めてはいたけど、長く側を離れていたせいかその事実を突きつけられると胸が痛んだ。
宰相様がまず、エリオット様の罪状について説明を始めた。彼の罪は三つあり、一つ目は王妃様の公文書にもなる便箋を盗み出した事、二つ目はラリー様の婚約者である私に狼藉を働いた事、そして三つ目は…驚いた事に、王太子殿下に毒を盛ろうとした事だった。
二つの罪は分かっていたが、まさか王太子殿下を害しようとしていたのには驚きしかなかった。仲が悪いという訳ではないが、特に悪いわけでもなかったからだ。
元より面倒事は遠慮したいが、特権は享受したいという甘ったれた性分だったため、王太子殿下をどうこうするなどと言う考えをする人ではなかったはず。一体どうしてそんな事に…と私は驚きを隠せずにいた。
また私の家族に対しては、痺れ薬をエリオット様に盛ろうとした事が上げられて、私は驚きを隠せなかった。あの夜会の後で父は、メイベルの王子妃教育が遅れている事、授業を抜け出して他家の子息とお茶を楽しんでいた事などを王家より指摘され、厳重注意を受けた。このままでは婚約者になれないと危機感を持った父は痺れ薬をエイベルに渡し、それでエリオット様との既成事実を作るように唆したとしたのだという。
だが、この計画を聞かされたメイベルは既にエリオット様から見放され、冷たくされていた。その為、父の計画をエリオット様に話して婚約者の入れ替えを提案したのだという。その案にエリオット様が賛成して、二人は私を呼び出して既成事実を作ろうとしたのだ。
更にエリオット様は自身が王族に残るため、王太子殿下にも痺れ薬を飲ませて体調不良にしようとしたらしい。そうすれば自分を王族に残さなければいけないとの声が上がるだろうと踏んだからだった。王太子殿下の侍女に栄養剤だと言って飲ませようとしたのだが、侍女が不審に思い侍女頭に相談したためこの件は発覚した。
「何か申し開きはあるか、エリオット」
国王陛下の声が重苦しく、そこには言い表せないほどの苦渋が隠れていた。きっとこうなった事に陛下もお心を痛めていらっしゃるのだろう。
「父上!俺は何もしていない!本当だ!全ては俺に罪を着せようとした者の陰謀です!」
陛下に発言を許可されたエリオット様は、大声でそう叫んだ。そんなに大きな声を出さずとも聞こえるだろうに…と思うほどに。
「陰謀か…誰が、どんな目的でその様な事をしたと?」
「それは、お、叔父上であられるヘーゼルダイン辺境伯です!」
「な…っ」
「殿下?」
「何を…」
宰相様たちがエリオット様の言葉に動揺して騒めいた。私もまさかラリー様の名がここで出るとは思いもせず、思わずラリー様に視線を向けると、ラリー様は僅かに苦笑を浮かべていらっしゃった。でも、その様子からは驚きは見当たらないため、もしかするとエリオット様があんな事を言い出すのを想定されていたのだろうか…
「ほう…ラリー、いや、ヘーゼルダイン辺境伯だと?」
「はい、そうです」
「動機は?」
「ヘーゼルダイン辺境伯は王弟でありながら、国内でも一番キナ臭くトラブルが多い辺境伯領に追いやられた事を恨まれているからです。俺を唆して兄上を弑し、その後俺を兄上殺しとして糾弾して処刑し、いずれは王位を手にしようとされたのです」
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