【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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不正を見つける簡単なお仕事です

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 あの後、私は天敵からざっくりとした事情を聞かされて、一層逃げられなくなった。と言うよりも、逃げられないように秘密を知らされて仲間に引き込まれたと言うのが正しいかもしれない。
 この天敵はとある貴族の立てたとある計画を調べていて、それを阻止するために私を仲間に引き入れるつもりだったのだ。私なんぞが…と思ったけど、前職で何度か領地の不正を見つけたから私が適任だと思ったらしい。

「でも、不正を見つけるって…騎士団でそんな…」
「俺の前任者はあの計画のメンバーの一人だったんだ。そしてその専属文官は、そいつの意を受けて騎士団の予算を横領していた」
「計画のための資金作りに?」
「…察しがいいな。まぁ、そういう事だ。何をするにもまず金が要る。奴らは王宮内のあちこちでせこせこと国の予算を横領して金を溜めているんだ」
「……」
「お前には不正を見つけて欲しい。簡単だろう?」

 簡単って、あれは偶然だったんだけど…また面倒な事に巻き込まれてしまった。いや、こうなったら報酬のためなら何でもするけど。それならあまり危険はないんじゃないだろうか?奴の話では、私が過去に見つけた不正も前副団長とその仲間に繋がっていたらしい。知らない間に変なところで縁が出来てしまっていたのか。
 そして奴はもう猫を被る必要はなくなったと言わんばかりに態度を変えた。笑顔が消えたし、口調も随分乱雑になった。やっぱり爽やかイケメンなんて小説の世界にしかいないんだ、とちょっとだけ悲しくなった。枯れたとはいえ、私にだってちょっとは夢があったのに…

「夜会には俺の上司が来るから、そこでお前を紹介しよう」
「え?上司って…団長じゃ…」
「ああ、この件はお偉いさんに直々に頼まれて極秘でやっているんだ」
「お偉いさんって?」
「それは夜会で紹介する」

 それは信用してもいいのだろうか…誰かも教えて貰えないのって不安しか残らないんだけど…

「心配するな、団長はこの件をご存じないが、俺たちの側なのは間違いない。こちらは不正を正す側だ」

 団長もこちら側と言われてちょっとホッとした。団長は清廉なお人柄だからこいつの百倍は信用出来るし、少なくとも違法な事をするわけじゃないんだろう。いや、不正を見つけるのが仕事だからそれはないか。

「夜会で公文書を交わす。それでいいだろう?」
「え?あ、あの…やっぱり夜会に?」
「行くのは決定事項だ。そこでお前を紹介して書面を交わす。公文書は必須なんだろう?」
「それは…勿論」

 公文書は絶対に欲しいが、となると夜会は外せないのか…脅迫も対応してくれると言うし、何とかなるだろう、多分。

「この件が片付いたら、お前にも相応の褒賞を出してやるよ」

 奴は軽くそう言ったけど、褒賞を出すのは上司じゃないのか?と思ったけどそこは黙っておいた。地位とかは別にいらないんだけど。いや、あって便利なら貰うけど。

「その時には婚約も白紙にしてくれるんですよね?」

 そう、婚約者になるのは仕方がないと、百歩譲って飲み込んだ。身を護るためだって言われたけど、別の意味では危険が増したと思うんだけど。そして王女殿下とはどうなっているのかと聞いたら、それは気にしなくていいの一言で片づけられてしまった。本当にいいのだろうか…不安しかない。

「ああ、心配するな。婚約も形だけだ」
「それも公文書に書いてくれます?」
「信用ないなぁ…嫌がる相手に無理強いする程相手に困っちゃいないよ」

 それはそれでどうなんだ?とは思ったけど、手を出される心配はないらしい…

(…って、あれ?それじゃ、あの夜って…)

「…何だ?」
「…あの…この前のあれって…」
「あれ?…あ、ああ、あの記念すべき夜の事か?」
「き、記念って…」
「ああ、お前にもあんな可愛げがあったんだな」
「なっ!」

 ニヤニヤと笑いながら言われた言葉に、それってどういう意味よ?問い詰めようとしたけれど、そこで騎士が書類をもってやってきたため、悔しい事にそれ以上は何も聞けなかった。

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