24 / 116
夜会が始まりました
しおりを挟む
会場に着いた私は驚いた。仕事の一環だし、気負うようなものではないと聞かされていたけれど…何と今夜の夜会は王家主催のものだった。
(ちょっと!そんな大層な会だなんて聞いていないんだけど…!)
浮かび上がりそうになる青筋を引き攣る笑みで抑えながら、どういう事だとの意を込めて視線を向けたが、奴は涼しい顔をして私の無言の抗議をスルーした。嘘でしょ…王家主催の夜会だなんて…ただでさえ何もかもが初めてなのにハードルが高すぎて、もう不安しかなかった。豪華絢爛な会場が目に痛い…
案の定、会場に入ると物凄く注目された。会場にいる全員に睨まれているんじゃないかって思うくらいに視線が痛い。その中でも令嬢たちの視線と顔が一際怖かった。あれじゃせっかくの装いが台無しだろうに…これ、一人になったら確実に殺られそうな気がする…今日は特殊装備じゃないから、刺されたらすぐにお肌貫通なんですけど…
「俺から離れるなよ。挨拶と用事さえ終われば直ぐに帰してやるから」
「本当ですね?」
「……善処はする」
その間は何なの?と思ったけど、あっという間に人に囲まれて問い詰めることが出来なかった。もうっ、何かあったら七代末まで祟ってやる!そう思いながら必死に笑顔を張り付けた。元から笑顔なんか浮かべないから上手く笑えているのか不安しかない。
この日はオードリック王太子殿下の二十五歳の誕生祝いの夜会だった。まだ婚約者のいない殿下を狙ってか、若い令嬢の気合の凄まじい気がした。これから王族に挨拶するらしく奴に連れられて列に並んけど、既に足が自分の足じゃないみたいに覚束なかった…
(…王族って事は…もしかして王女殿下も?)
気がかりなのは奴との婚約を望んでいらっしゃるという王女殿下の事だった。婚約したい相手がどこの誰とも知らない女を連れてきたら、王女殿下だけでなく王族の不評を買いはしないだろうか…それが最大の不安だった。
「ブーランジェ伯爵アレクサンドル卿、ミュッセ伯爵令嬢エリアーヌ様」
今回は仕事上のパートナーの名目での参加なので、婚約者とは呼ばれなかったことは幸いだった。まだ正式な婚約書を交わしていないのだから当然だけど…名を呼ばれて王族のご前に歩み出たけど、もう緊張しすぎて頭は真っ白だ。言われた通りの口上は噛まずにクリアしたけど、それ以外は頭に入ってこなかった。王女殿下は後ろの方にいらっしゃったらしいけど、その表情を確認する余裕もない。うう、睨まれていたらどうしよう…そうは思うけど、挨拶は流れ作業、済んだらさっさと交代するしかない。
「まぁ、無事クリアしたな」
御前を辞した後、少し離れた場所までくると奴はこっそりそう言った。一応及第点は貰えたらしくホッとした。初めてで失敗しなかったのなら良しとするべきだろう。周りの視線も怖いままだし、早く帰りたかった…暫くは色んな方々が次々と話しかけてきて、紹介されて挨拶して…を延々と繰り返した。普段は無表情を心がけているせいか、頬や口元が引き攣るし、筋肉痛になりそうだ…
「ああ、そろそろ行くか」
もう帰りたい…そう切実に思い始めた頃になって、やっと奴がそう言った。本題までが長すぎるだろう、これ…そう思いながらももう少しで解放されると、最後の気力を振り絞って奴のエスコートで会場を後にした。向かった先は会場から少し離れた控室だった。ここって…貴族が逢瀬に使う場所なんじゃ…
「お待たせしました」
「ああ、私も今来たところだ。気にしなくていいよ」
躊躇う事無く中に入る奴の後ろに続くと、誰かが奴に話しかけた。気安い声は想像よりも若いものだった。上司だと聞いていたから年配の方かと思っていただけに意外だ。奴の背中の向こうにいた人物が視界に入って、私は音が立ちそうなくらいに固まった。だって…そこにいたのは…
(ちょっと!そんな大層な会だなんて聞いていないんだけど…!)
浮かび上がりそうになる青筋を引き攣る笑みで抑えながら、どういう事だとの意を込めて視線を向けたが、奴は涼しい顔をして私の無言の抗議をスルーした。嘘でしょ…王家主催の夜会だなんて…ただでさえ何もかもが初めてなのにハードルが高すぎて、もう不安しかなかった。豪華絢爛な会場が目に痛い…
案の定、会場に入ると物凄く注目された。会場にいる全員に睨まれているんじゃないかって思うくらいに視線が痛い。その中でも令嬢たちの視線と顔が一際怖かった。あれじゃせっかくの装いが台無しだろうに…これ、一人になったら確実に殺られそうな気がする…今日は特殊装備じゃないから、刺されたらすぐにお肌貫通なんですけど…
「俺から離れるなよ。挨拶と用事さえ終われば直ぐに帰してやるから」
「本当ですね?」
「……善処はする」
その間は何なの?と思ったけど、あっという間に人に囲まれて問い詰めることが出来なかった。もうっ、何かあったら七代末まで祟ってやる!そう思いながら必死に笑顔を張り付けた。元から笑顔なんか浮かべないから上手く笑えているのか不安しかない。
この日はオードリック王太子殿下の二十五歳の誕生祝いの夜会だった。まだ婚約者のいない殿下を狙ってか、若い令嬢の気合の凄まじい気がした。これから王族に挨拶するらしく奴に連れられて列に並んけど、既に足が自分の足じゃないみたいに覚束なかった…
(…王族って事は…もしかして王女殿下も?)
気がかりなのは奴との婚約を望んでいらっしゃるという王女殿下の事だった。婚約したい相手がどこの誰とも知らない女を連れてきたら、王女殿下だけでなく王族の不評を買いはしないだろうか…それが最大の不安だった。
「ブーランジェ伯爵アレクサンドル卿、ミュッセ伯爵令嬢エリアーヌ様」
今回は仕事上のパートナーの名目での参加なので、婚約者とは呼ばれなかったことは幸いだった。まだ正式な婚約書を交わしていないのだから当然だけど…名を呼ばれて王族のご前に歩み出たけど、もう緊張しすぎて頭は真っ白だ。言われた通りの口上は噛まずにクリアしたけど、それ以外は頭に入ってこなかった。王女殿下は後ろの方にいらっしゃったらしいけど、その表情を確認する余裕もない。うう、睨まれていたらどうしよう…そうは思うけど、挨拶は流れ作業、済んだらさっさと交代するしかない。
「まぁ、無事クリアしたな」
御前を辞した後、少し離れた場所までくると奴はこっそりそう言った。一応及第点は貰えたらしくホッとした。初めてで失敗しなかったのなら良しとするべきだろう。周りの視線も怖いままだし、早く帰りたかった…暫くは色んな方々が次々と話しかけてきて、紹介されて挨拶して…を延々と繰り返した。普段は無表情を心がけているせいか、頬や口元が引き攣るし、筋肉痛になりそうだ…
「ああ、そろそろ行くか」
もう帰りたい…そう切実に思い始めた頃になって、やっと奴がそう言った。本題までが長すぎるだろう、これ…そう思いながらももう少しで解放されると、最後の気力を振り絞って奴のエスコートで会場を後にした。向かった先は会場から少し離れた控室だった。ここって…貴族が逢瀬に使う場所なんじゃ…
「お待たせしました」
「ああ、私も今来たところだ。気にしなくていいよ」
躊躇う事無く中に入る奴の後ろに続くと、誰かが奴に話しかけた。気安い声は想像よりも若いものだった。上司だと聞いていたから年配の方かと思っていただけに意外だ。奴の背中の向こうにいた人物が視界に入って、私は音が立ちそうなくらいに固まった。だって…そこにいたのは…
166
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる