【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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藁に縋ってもいいですか?

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 突然やってきた王女殿下に、副団長との婚約を白紙にするようにお願いされてしまった。王族なのに命令ではなく懇願と言う形でだ。まだ十六歳の愛らしい王女殿下に泣きそうな表情で頼まれて、断れる人なんているだろうか…少なくとも私には無理だ。それに…

(これは…渡りに船、じゃない?)

 王女殿下の申し出に戸惑いを感じたけれど、ふと思った。王女殿下が執り成してくれたら、穏便に白紙に出来るのではないだろうか…と。副団長だって私なんかよりもここまで慕ってくれる王女殿下の方が絶対にいい筈だ。結婚できない理由があるらしきけど、副団長も公爵家の三男で既に伯爵位を持っているから身分的には問題ない。これは…チャンスかもしれない…

「王女殿下は私にブーランジェ伯爵との婚約を白紙に、と仰るのですね」
「ええ。ごめんなさい。こんな事をお願いするなんて、非常識な事だとわかってはいるのです。でも…私はあの方をお慕いしております。どうしてもあの方でなければ嫌なのです」

 はらはらと涙を流しながらそう仰る王女殿下は、最高に愛らしくて胸がキュンキュンしてしまった。ああ、イケメンも好きだが可愛い美少女も好きだな、と思った。いや、王族をそんな風に思うのは不敬なのかもしれないけど。でも、こんなに可愛くて健気に慕う子を無下になんか出来そうもない。それに…婚約の白紙は私の願いでもあるのだ。

「殿下、殿下の健気なお心に感動致しました。婚約の白紙の件、私はお受け致します。ですからどうか、殿下のお力添えをお願い致します」
「…え?」

 不敬とわかっていたけれど、私は王女殿下の両手を取ってそう答えた。殿下だけでなく側にいたお付きの方も驚いているけど…これは私にとっても王女殿下にとっても、そしてきっと副団長にとっても朗報になる筈だ。

「実はこの婚約、王太子殿下のご命令でした。ですから私に拒否権はありません」
「…え?お、お兄様の、ご命令?」
「ええ、そうなのです。王族の方のご命令、臣下として否やという事など出来ませんでした。ですが…王女殿下がお力をお貸し下さるのでしたら、白紙もきっと叶いますわ」

 そう、王族には王族で対抗すればいいのだ。王女殿下はわざわざここに来くるほど本気だし、だったら兄王子を説得くらいはしてくれるだろう。そうなれば…

「却下」
「は?」
「え?」

 これで丸く収まる、その予感に光を見出していた私だったけれど…聞いた事のある声が待ったをかけた。こ、これって…

「アレク様っ」

 王女殿下が涙を止めて嬉しそうにその声の方に振り向いた。部屋の入口には…予想通り副団長が立っていた。この会話を聞かれたのは気まずいけれど、それはそれで話は早い。

「アレク様。今のお話、お聞きになっていました?」
「ええ」
「お心優しいミュッセ伯爵令嬢が、アレク様との婚約の白紙に同意して下さいましたわ。ですからどうか私と…」
「却下、と。そう申したでしょう」

 嬉しそうな王女殿下と、感情の感じられない副団長の差に違和感が湧いた。どうしたのだろうか、こんなに愛らしい王女殿下に慕われたら普通嬉しいものだろうに。

「殿下、何度も申し上げていますが、殿下と婚約は出来ません」
「そんな事仰らないで」
「いいえ、理解して頂くまで何度でも申し上げます。殿下とは、何があっても、絶対に、結婚出来ません。国王陛下もお許しになりませんし、私も結婚相手として見る事は絶対に永遠にありません」
(ひぇぇ…)

 まだ年若い王女殿下に対して、そこまできつい言い方をしなくてもいいのではないだろうか?不敬罪に問われそうで、聞いているこっちの胃が痛くなりそうだ…

「私は全く気にしませんわ」
「私が気にしますし、陛下も王妃様も王太子殿下も気にされますし、絶対にお許しにはなりません」
「でも…」
「実の妹と結婚など、畜生にも劣る行いは御免です」

 これまでにないほどに強い口調で、副団長がそう言い切った。

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