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厄介なものを飲まされていました
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私が攫われた件に関しては、昨日の今日という事もあって、まだ調査中で話せる事はあまりないとの事だった。王女殿下は自分は悪くないと言っているらしく、これは時間がかかりそうだな、と素人の私でも思った。これ以上はプロに任せるしかないだろう。となれば…
「あの王女殿下が私に飲ませたものは、何だったのですか?」
副団長が知っているかどうかはわからないが、念のために聞いてみた。正直、屋敷に戻る辺りから記憶が飛んでいてあまり覚えていないから、あの後どうなったのかも気になる。この覚えのない痛みの理由も、副団長なら知っているのだろう。
「…まだ鑑定中だが…あれば媚薬だ」
やっぱりそうだったのか。小説ではよくある物だと思っていたけれど、実際に存在したとは意外だった。
「しかも、その中でも特に質の悪いやつだ。俺達は『無慈悲』と呼んでいる」
「『無慈悲』…」
何とも物騒な名前だと思ったけれど、効果はその名の通りだと副団長は言った。あれは媚薬の中でも特に強力で、遅効性で効果が長く続くものらしい。解毒剤もあまり効果はなく、放置すれば精神に異常をきたし、心臓に負担がかかるため場合によっては死に至る事もあるという。滅多に出回らないから一般には知られていないらしいが、苦い媚薬と言えば『無慈悲』だと言われているそうだ。
(何て面倒なものを…それに王女様がどこでそんなものを手に入れたのよ…)
この屋敷に突撃した時の可憐な姿との落差に驚きしかない。
「それで…言い難いんだが、まだ完全に薬が抜けていない可能性が高いんだ」
「…は?」
「効果が長いと言っただろう?最低でも一週間は気を付けて欲しい」
「気を付けてって…」
何をどう気を付ければいいのだろう。見当もつかないのだけど…いや、その前に確認しておかなければならない事がある。
「…それで、昨夜は…」
「…ああ。その…すまない」
俯きながら告げられた言葉で、副団長が私を、その…したんだとわかった。まぁ、あの時一緒にいたのは副団長だったし、仮とはいえ婚約者だ。他に適任者は…いなかっただろう。
「ありがとうございました」
「な…」
私が礼を言うと、副団長がはっと頭を上げた。その秀麗な顔には今は困惑が浮かんでいる。まさか礼を言われるとは思わなかったのだろう。
「ど、どうして…」
「どうしてって…あのまま放っておいたら、私は死んでいた可能性が高かったのでしょう?」
「あ、ああ…」
「だったら副団長がした事は治療です」
「ち、治療…」
「死にかけている者を助けたのなら、そういう事でしょう?」
そう言うと副団長は益々困惑を深めた。いつも余裕な表情を崩さないので、その落差がいっそおかしく、可愛らしくすら見えた。
「気になさらないで結構です。それよりも…」
私が言葉を区切ってじっと目を見ると、動揺しているのが伝わってきた。
「あの夜は…何もなかったんですね」
「な…!あ、あれは…」
「私を揶揄って楽しかったですか?」
「え?い、いや…その…」
そう、以前酔って前後不覚になった時、てっきり身体を繋げたのだと思っていたけれど…今日、それはなかったのだとはっきり分かった。私の指摘に目に見えて狼狽えている姿がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「騙すなんて酷い事するんですね」
「そ、それは…す、すまない…」
平身低頭で土下座しそうな勢いの副団長だったけれど…
「許してあげますよ」
「は?」
「騙した事、許します。今回命を救って頂きましたので」
「い、いや、だが…」
「心配なさらなくとも、それで責任をとれとは言いません。治療ですから」
「あ、ああ…」
まだ納得いかなそうな副団長だったけれど、元より結婚する気はなかったし、責任云々騒ぐつもりも端からなかったのだ。ラドン伯が逮捕された以上、婚約解消も時間の問題だ。お互いに憂いなく綺麗に終わらせるのが大人というものだろう。
「あの王女殿下が私に飲ませたものは、何だったのですか?」
副団長が知っているかどうかはわからないが、念のために聞いてみた。正直、屋敷に戻る辺りから記憶が飛んでいてあまり覚えていないから、あの後どうなったのかも気になる。この覚えのない痛みの理由も、副団長なら知っているのだろう。
「…まだ鑑定中だが…あれば媚薬だ」
やっぱりそうだったのか。小説ではよくある物だと思っていたけれど、実際に存在したとは意外だった。
「しかも、その中でも特に質の悪いやつだ。俺達は『無慈悲』と呼んでいる」
「『無慈悲』…」
何とも物騒な名前だと思ったけれど、効果はその名の通りだと副団長は言った。あれは媚薬の中でも特に強力で、遅効性で効果が長く続くものらしい。解毒剤もあまり効果はなく、放置すれば精神に異常をきたし、心臓に負担がかかるため場合によっては死に至る事もあるという。滅多に出回らないから一般には知られていないらしいが、苦い媚薬と言えば『無慈悲』だと言われているそうだ。
(何て面倒なものを…それに王女様がどこでそんなものを手に入れたのよ…)
この屋敷に突撃した時の可憐な姿との落差に驚きしかない。
「それで…言い難いんだが、まだ完全に薬が抜けていない可能性が高いんだ」
「…は?」
「効果が長いと言っただろう?最低でも一週間は気を付けて欲しい」
「気を付けてって…」
何をどう気を付ければいいのだろう。見当もつかないのだけど…いや、その前に確認しておかなければならない事がある。
「…それで、昨夜は…」
「…ああ。その…すまない」
俯きながら告げられた言葉で、副団長が私を、その…したんだとわかった。まぁ、あの時一緒にいたのは副団長だったし、仮とはいえ婚約者だ。他に適任者は…いなかっただろう。
「ありがとうございました」
「な…」
私が礼を言うと、副団長がはっと頭を上げた。その秀麗な顔には今は困惑が浮かんでいる。まさか礼を言われるとは思わなかったのだろう。
「ど、どうして…」
「どうしてって…あのまま放っておいたら、私は死んでいた可能性が高かったのでしょう?」
「あ、ああ…」
「だったら副団長がした事は治療です」
「ち、治療…」
「死にかけている者を助けたのなら、そういう事でしょう?」
そう言うと副団長は益々困惑を深めた。いつも余裕な表情を崩さないので、その落差がいっそおかしく、可愛らしくすら見えた。
「気になさらないで結構です。それよりも…」
私が言葉を区切ってじっと目を見ると、動揺しているのが伝わってきた。
「あの夜は…何もなかったんですね」
「な…!あ、あれは…」
「私を揶揄って楽しかったですか?」
「え?い、いや…その…」
そう、以前酔って前後不覚になった時、てっきり身体を繋げたのだと思っていたけれど…今日、それはなかったのだとはっきり分かった。私の指摘に目に見えて狼狽えている姿がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「騙すなんて酷い事するんですね」
「そ、それは…す、すまない…」
平身低頭で土下座しそうな勢いの副団長だったけれど…
「許してあげますよ」
「は?」
「騙した事、許します。今回命を救って頂きましたので」
「い、いや、だが…」
「心配なさらなくとも、それで責任をとれとは言いません。治療ですから」
「あ、ああ…」
まだ納得いかなそうな副団長だったけれど、元より結婚する気はなかったし、責任云々騒ぐつもりも端からなかったのだ。ラドン伯が逮捕された以上、婚約解消も時間の問題だ。お互いに憂いなく綺麗に終わらせるのが大人というものだろう。
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