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残された部屋で…
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オイゲン殿が出て行ってしまい、殿下と二人残された部屋は…空気が重かった。殿下はソファに掛けたまま俯いて何やら考え込んでいる。オイゲン殿の言葉が意味深に聞こえて気になるけれど、王太子殿下のお名前が出たので下手に聞くことも出来ない。もどかしい思いが増すばかりだ。
一方で昨夜は寮に帰ることも出来ず、睡眠も食事も適当に済ませたから、今日こそは帰ってしっかり休みたかった。
(……もう、帰ってもいいかしら…)
この沈黙が重くて、居た堪れない。これ以上ここにいると押し込めた気持ちが出てきそうな気がして、早く出ていきたかった。
「…あの…」
「……何だ?」
聞こえていないのかと思い、もう一度声を掛けようとしたところでそう尋ねられた。間が悪いというか何というか…気まずい…
「ご用がないのでしたら帰ってもよろしいでしょうか?昨夜は…帰れませんでしたので…」
そう告げると、はっとした表情で顔を上げた。疲れが滲んでいるように見えるけれど、昨夜よりは顔色はいいように見えた。暫く私をまじまじと見ていたけれど、程なくしてはぁ…と大きなため息をつくと、前髪をくしゃりと掴んで俯いてしまった。
「…少し、話がしたい…」
絞り出すように出てきた声には、何かを決心したような強い何かがあるように感じられた。上司にそう言われて否やと言えるはずもない。わかりましたと告げると、両目を閉じたままもう一度深呼吸をした。
「何から話せばいいんだろうな…」
そう告げた彼は何だか途方に暮れているように見えた。オイゲン殿が言った通り、何かをはっきりさせないといけないらしいけれど、彼の中ではそれはまだ確定事項ではない、そんな感じだろうか…それでも、オイゲン殿の話しぶりからして、彼の答えは決まっているのだろう。
「…お前が知っているように、俺は王族に戻った」
「はい、おめでとうございます」
「…確かにそう、なんだろうな。だが、俺は一時的なものだと思っている。兄が次代の王となる王子を二人以上得て、その子らが五歳になるくらいまでは…と。その後は臣籍降下するつもりだ」
「そう、ですか」
それは噂通りで、彼らしいと思った。元より子が成せない彼が王太子になったとしても、その地位に居続けるのは他国に付け入るスキを与えかねない。ただ、今は王統を継ぐ者が王太子殿下と彼しかいないし、彼が子を成せないのは公然の秘密なのでこうするしかないのだ。けど…
(…でも、それって私に関係…あるの?)
こんな話をされても、その意図が掴みきれなかった。それって私には関係ない話だろうに。そりゃあ、両親の事もあって彼とはそれなりの繋がりはあるけれど…
「今問題になっているのは…俺の婚約者選びだ」
「そうですか…」
まぁ、そうなるだろうな、とは思う。王太子殿下は隣国の王女殿下を娶ると決まったし、王籍に復帰して未婚となれば一番注目を浴びるのが婚約者探しになるだろう。有能で見目がよく、既に王太子になると決まっているのだ。注目を浴びない筈がない。
それはわかるけど…私にそれを聞かせてどうしようというのだろう…正直に言うとそんな話は聞きたくない。私の気持ちは知っている筈なのに、その話をする意図がわからないせいで、自分に都合のいい期待が膨らみそうで怖い…
「あの…それで…」
「なんだ?」
「その件が重要なのは私も理解出来ますが…」
「ああ」
「その話、私に関係あります?」
これ以上曖昧にするのが辛くて、突き放すように結論を急かした。お願いだから期待させるようなことはしないで欲しい。それでなくても私の助けを呼ぶ声に反応して、無理をして駆けつけてくれたのだ。その事に意味をもたせないようにと必死なのに…
「関係なかったら…こんな話はしない」
「…っ」
急に真剣な表情を浮かべて、きっぱりとそう言い切られてしまった。
(お願いだから…そんな風に言わないで……)
色んな思いがあふれ出してしまいそうで、私は自戒するようにそっと腕に爪を立てた。
一方で昨夜は寮に帰ることも出来ず、睡眠も食事も適当に済ませたから、今日こそは帰ってしっかり休みたかった。
(……もう、帰ってもいいかしら…)
この沈黙が重くて、居た堪れない。これ以上ここにいると押し込めた気持ちが出てきそうな気がして、早く出ていきたかった。
「…あの…」
「……何だ?」
聞こえていないのかと思い、もう一度声を掛けようとしたところでそう尋ねられた。間が悪いというか何というか…気まずい…
「ご用がないのでしたら帰ってもよろしいでしょうか?昨夜は…帰れませんでしたので…」
そう告げると、はっとした表情で顔を上げた。疲れが滲んでいるように見えるけれど、昨夜よりは顔色はいいように見えた。暫く私をまじまじと見ていたけれど、程なくしてはぁ…と大きなため息をつくと、前髪をくしゃりと掴んで俯いてしまった。
「…少し、話がしたい…」
絞り出すように出てきた声には、何かを決心したような強い何かがあるように感じられた。上司にそう言われて否やと言えるはずもない。わかりましたと告げると、両目を閉じたままもう一度深呼吸をした。
「何から話せばいいんだろうな…」
そう告げた彼は何だか途方に暮れているように見えた。オイゲン殿が言った通り、何かをはっきりさせないといけないらしいけれど、彼の中ではそれはまだ確定事項ではない、そんな感じだろうか…それでも、オイゲン殿の話しぶりからして、彼の答えは決まっているのだろう。
「…お前が知っているように、俺は王族に戻った」
「はい、おめでとうございます」
「…確かにそう、なんだろうな。だが、俺は一時的なものだと思っている。兄が次代の王となる王子を二人以上得て、その子らが五歳になるくらいまでは…と。その後は臣籍降下するつもりだ」
「そう、ですか」
それは噂通りで、彼らしいと思った。元より子が成せない彼が王太子になったとしても、その地位に居続けるのは他国に付け入るスキを与えかねない。ただ、今は王統を継ぐ者が王太子殿下と彼しかいないし、彼が子を成せないのは公然の秘密なのでこうするしかないのだ。けど…
(…でも、それって私に関係…あるの?)
こんな話をされても、その意図が掴みきれなかった。それって私には関係ない話だろうに。そりゃあ、両親の事もあって彼とはそれなりの繋がりはあるけれど…
「今問題になっているのは…俺の婚約者選びだ」
「そうですか…」
まぁ、そうなるだろうな、とは思う。王太子殿下は隣国の王女殿下を娶ると決まったし、王籍に復帰して未婚となれば一番注目を浴びるのが婚約者探しになるだろう。有能で見目がよく、既に王太子になると決まっているのだ。注目を浴びない筈がない。
それはわかるけど…私にそれを聞かせてどうしようというのだろう…正直に言うとそんな話は聞きたくない。私の気持ちは知っている筈なのに、その話をする意図がわからないせいで、自分に都合のいい期待が膨らみそうで怖い…
「あの…それで…」
「なんだ?」
「その件が重要なのは私も理解出来ますが…」
「ああ」
「その話、私に関係あります?」
これ以上曖昧にするのが辛くて、突き放すように結論を急かした。お願いだから期待させるようなことはしないで欲しい。それでなくても私の助けを呼ぶ声に反応して、無理をして駆けつけてくれたのだ。その事に意味をもたせないようにと必死なのに…
「関係なかったら…こんな話はしない」
「…っ」
急に真剣な表情を浮かべて、きっぱりとそう言い切られてしまった。
(お願いだから…そんな風に言わないで……)
色んな思いがあふれ出してしまいそうで、私は自戒するようにそっと腕に爪を立てた。
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