異世界に釣られたら婿殿にされた件について

のみかん

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第四十話『誰かがいれば――』

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「い、一体貴様は何をした!」

 オレが操られていた騎士たちを隔離できる場所へ、彼らが立っていた地面ごとお送りしてやるとアンナは目に見えて動揺した。

「地下の水源の沖の方に落っことしてやっただけさ。あそこは沖でも大して深くないからな。鎧を着てても溺れはしないだろう?」

 遠泳で奥まで行ってみて確かめたから間違いない。
 ただ、水中を歩いて帰ってくるにはかなりの時間と体力を要するだろうがな。
 まあ、時間稼ぎには持ってこいってことだ。

「そうか、やはり貴様は瞬間移動……いや、自分以外のものも動かせるから物質移動か? そういう類の力を使えるのだな」

 アンナは警戒心を強めた眼差しで応戦の構えを見せる。

「まあ、そういう感じのやつだな。だとしたらどうだ?」

 もはや隠すのは無理がある。
 いや、隠してたわけじゃないけど。
 言ってなかっただけ。

 忌々しくも頼りがいのある自分の力の存在をオレはこの世界で初めて公言した。

「だとすれば、私も本気で臨むしかあるまい」

 殺気をその身に纏わせて、アンナはヘルムで顔を覆う。

 そして剣を高く振りかざした。

「……っ!?」

 瞬きの合間にみるみるうちに彼女の着ていた鎧がその質量を増して巨大化していく。
 三メートル程の高さに広い横幅のあるフォルム。
 見かけはゴーレム、あるいはロボットのようだった。

「こいつは驚いたな……」

 よもや、こちらの世界で、そしてこんな近くに能力を持った人間が潜んでいたとは。

 やはり現界教が異能力を持っているという話も真実味のある話なのかもしれない。

「これが私の力。ありとあらゆる物質に増幅を与える奇術だ」

「増幅……?」

「これで貴様がいくら忙しなくあちらこちらを動き回っても、私に傷一つつけることは叶わないだろう」

 勝利を確信したような余裕のある足取りで重低音を響かせながら巨大な鎧の騎士は迫り寄ってくる。

「カクマジゲン……! ダメだ、逃げよう。このままでは私たちは助からん!」

 放心から錯乱に切り替わりそうになっているロキが腰を抜かして這いずりながらオレの足にしがみついてくる。

「邪魔」

 何を信じればいいのかわからなくなり、焦燥に駆られて縋りついてきたロキを振り払う。
 非情に思えるかもしれんがこうするしかないだろう。
 くっつかれたままでは守ることはできないのだ。

「悪いな。いくらそんなもんで身体を覆っても、オレにはまったくもって無意味だ」

 オレは鎧の巨兵と化したアンナに向けて、そう言い放った。

「何の強がりを言っている? この硬度と厚みを増幅させて強化した装甲の前には、いかな名刀で斬りかかろうと、頑強な槌を振り下そうと、手傷を負わせることはできない」

「まあ口で言っても信じられんよな。なら……」

 オレは瞬時に彼女の目の前に移動し、そして力一杯に、顔面をぶん殴った。
 ゴキィ! という鈍い音がした。
 ヘルムの下からそういう痛ましい効果音が響いた。

『なっ、ぐがっ!』

 アンナは鳩が豆鉄砲を食らったかのように困惑し、訪れた痛みに過剰に反応する。
 さぞかし痛かっただろうな。
 人間は想定外のところからの痛みには弱くなる。

 絶対に鎧は攻撃を通さないと高を括っていたアンナは何の備えも出来ていなかっただろうから相当の衝撃を感じたはずだ。

 ちなみに殴ったオレの手も痛い。
 これは単純な暴力だ。
 相手を傷つければ傷つけた側も痛みを負うのは当然のこと。

「お前はその増幅の力、どうやって手に入れた?」

 オレはふと思ったことを訊ねた。

『それを貴様に語る必要があるか?』

 鎧の奥から、くぐもった響きの声が漏れて返事がなされる。

「ひょっとして、お前の母親はオレたちの世界の出身なんじゃねえのか? オレのいた世界じゃ能力者の子どもは高確率で能力者になる」

『……どうだかな。今となっては確かめようもないことだ』

「ふん、まあそりゃそうか」

 くだらないことを訊いてしまったかな。
 こいつにとって過去は確かめるものではない。
 自らの行動原理を維持するための燃料でしかないのだ。

 振り下してくる剣戟を瞬間移動で避けながら、オレはアンナの動きを観察する。

 彼女の仕草の一つ一つから、何を思って何を願って戦うのか。

「……やっぱわかんねえな」

 いや、違うな。わからないじゃない。理解できない、だ。

『おのれ、ちょこまかと!』

 鎧の大きさとは違ってアンナの身体自体は巨大化しているわけではなさそうなので、鎧の中心部分、顔の位置から仮定して彼女の本体があると思われる辺りを中心的に攻めていく。

 オレの読みは恐らく当たっている。

 手足や末端の部位を攻撃しても大した防御は取らないが頭部より下近辺を攻め立てるとその守りは強固となるからだ。

「お前はさっき、何ものにも泥をかけてもと言ったな? ……それが例え、昔からの友人だったとしてもか」

『当たり前だ。こんな世界にあるものなど、何も失っても後悔などしない』

「だったら、お前はどこに行っても同じだよ。お前が別の世界に求めているものは絶対に見つかりはしない。空虚さを埋めるものはどこにもありはしない。お前の帰る場所なんかないよ」

 居場所は人だ。ただの空間が拠り所になることはない。
 気付かねーかな。
 お前が言っていることは大きな矛盾を抱えているということに。

 踏みしめる大地、身を止め置く星。
 そんな形だけのものは大して重要じゃないんだ。
 誰もいなかったら、そいつはただの空箱だ。


 逆に、誰かがいれば――


 ――ねえ、あの子なんでしょ。例の研究者の息子って。


 ――いくら超能力について調べるためだからって……


 ――あの子自身もあれなんでしょ? 危険度が高い超能力者だって


 ――それでその力を使ってたくさんの人を怪我させてるって


 ――まあ、怖い!


 ――うちの子にも関わらないように言っておかなきゃ



 うるさい。うるさい。


 なぜ自分が否定されるのかわからない。
 昔からそうだった。ずっと前からそうだった。
 生意気だと言われたり態度が悪いと言われたりそんな言いがかりをつけられて非難されることは多々あった。

 だからそういう視線には慣れっこだと思っていた。
 動じることなどないと思っていた。
 けれど……。


『お前もどっか行けよ。オレといたらお前まで仲間外れにされるぞ』

『どうしてどこかへ行く必要があるの?』

『だから、それはオレが……オレの親が』

『だってわたしたちずっと一緒にいたじゃない。そんなのおかしいよ』

『もう前とは違うんだよ。みんなオレを悪者扱いするんだ。オレは一人なんだ』

『じーくんはもともと友達いないよね?』

『……うるせーよ。でもとにかく今までとは違うんだよ』

『じーくんは悪い子に変わっちゃったの?』

『オレは何にも変わってねえよ』

『なら、何が違うの?』

『…………』

『わたしだって何も変わらないよ? だったら何も違うことなんてないんじゃないかなぁ』


 …………。



「空虚に佇むだけの地面が欲しけりゃ、便所の床にでも立ってろよ!」

 オレは激情を込めて、アンナの顎を下から突き上げるように殴打した。拳で顎を抉られた女騎士はその身を埋め込んだ鋼の肉体のコントロールを失い、二、三歩後退して真後ろに倒れ込んだ。

『貴様は……。貴様の拳はなぜさっきから私に届く!? これだけ硬化させた鎧を纏っているにも関わらずに! いや、それだけではない。この一撃の重さはなんだ? まるで直接骨身に響いてくるような……』

 アンナはまだ覚束ない動作ながら、どうにか立ち上がろうとする。
 どうやら結構効いてるみたいだな。
 その証拠に取り落とした剣を拾う様子もない。

 そこまで気を回す余裕がないのだ。

「オレの一撃が重く感じるのは当たり前だ」

 もちろん気持ちが込められているから、なんて寒い理由じゃないぜ?

 当然能力の持つ効果によるものだ。

「お前は少々、オレの能力について見当違いをしているようだ」

『見当違い……だと?』

「オレの能力は瞬間移動でも物質移動でもねえんだよ」

 そう、オレの能力は瞬間的に移動できることでも物や人を自在に移動させられることでもない。

「まあ、お前に話してやる義理はないんだけどな」

 オレは何もない空間にそっと右手を差し伸ばす。

 すると手首から先がぬるっと、どこかに吸い込まれていくようにその形を消失させた。

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