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第四十一話『オレの能力』
しおりを挟む『ぐあっ……くっ……!』
オレが見えなくなった手の指先に力を軽く込めるとアンナは喉元を押さえながらもがき苦しみだした。
『おのれ……やめろ! お前は……何をして……いる……っ!』
呼吸を行うことに困難を覚えるように息も絶え絶えに声を絞り出す。
「ざっとこんな感じでな。……オレに装甲が意味ないっていうわけはわかったか?」
『がはっ……ごふっ……。わかるものか……これはどういう仕組みだッ……』
力を込めるのをやめて手を引き抜くと、アンナは咳き込んで荒い呼吸をして跪く。
……デカい鎧のゴーレムが肩を上下させて息を切らしてる姿って割とシュールだな。
「瞬間移動や物質移動っていうのは他人から見たら結果的にそう見えるだけで、オレの力の本質は別のところにあるんだ」
オレの能力は次元移動、空間移動。
座標を把握している場所であるなら、さっきのように次元の門を開いて空間を自在に移動させることができる。
ここで重要なのはオレが移動させるのは物質ではなく、空間であるということ。
だから人間を動かす時も移動させているのはその人物がいる周囲の空間なのである。
先程も手首の周囲の空間を穴に放り込み、アンナの喉元に繋いで締め上げた。
一撃が重いのは衝撃を内蔵の奥深くに直接送り届けているから。
その気になれば脳天を弾いて直接揺らしてやることだってできる。
まあ、そこまで繊細なことをするならもっと至近距離に寄らないとできないんだけど。
これはイメージが掴みにくいことが理由にある。
この力を使って元の世界に帰れれば楽だったのだがな。
こっちに来た初日に医務室でやろうとしたけど無理だった。
どうやら世界線が異なると能力の効果範囲外となってしまうらしかった。
これは異世界に来て初めて知ることができた事実だった。
ちなみに知らない場所へは移動させることができないので、移動先の引き出しを増やすために様々な場所を見て回ることが必要だったりする。
こっちであちこちをちょろちょろ探検していたのもそのためだ。
まあ写真で見たりして想像できるところなら知らない場所でも移動可能だが、確実性がないのであまりこれはやりたくない。
「お前がどれほど分厚い鋼鉄の奥深くに隠れ潜んでいようとも、オレは容易くお前を引きずり出して息の根を止めることができるんだよ」
あえて感情の灯らない冷酷な声で圧倒的優位性を宣告する。
向こうの世界ではこうやって絶対的な差を誇示するような言葉を吐いて脅しつけ、喧嘩を売ってきた相手の戦意を喪失させて余計な交戦を避けたりしていた。
さて、こいつで止まってくれれば楽なんだが。
『私は、貴様一人程度の障害で引くような甘い覚悟で立ち上がったわけではないッ!』
意地の咆哮を響かせて、鋼の巨体はギシギシと軋みを起こしながら二本の足で踏ん張り立ち上がった。
「やっぱり駄目か」
向こうでもこれで引き下がるやつはほとんどいなかったもんな。
最初からそこまで期待していない。
人生はやはり厄介なことばかりだ。
「……しゃあねえか」
不穏な気配を見せ始めたアンナに辟易しつつ、オレは臨戦態勢に舞い戻る。
『押シ潰ス! スベテヲ潰セバッ……、何処ヘ行コウト関係ハナインダッ!』
アンナは叫び、纏っていた鎧がさらに巨大化していく。その全長はみるみる伸び上がり、周囲にある木々をも遥かに超えるサイズにまでなっていった。
五十メートルくらいはあるだろうか?
高所にあるため裸眼では鎧の頭部が黙視できない。
全体の大きさに舌を巻く。
こんなもんが暴れたら城は間違いなく崩壊するな。
『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
もはや理性を保っているとは到底思えないような雄叫び。
アンナは戦略も何もかもをかなぐり捨てて、その巨体を生かした高さからただ単調に殴りかかってくる。
オレはその拳を次元の穴で受け止め、何も被害を受けない空間に衝撃を逃がす。
これはアキレスの剣戟を回避した時にも使った技だ。
『クソッ! ナゼダッ、ナゼ!』
連続で打ち込んでくるが、そのすべてを無効化させる。
アンナは焦りが先行して攻撃の精度はどんどん落ちていく。
「……あんたにはいなかったのかよ。ムカつくと思ってる世界にも、大事だと思える人が」
少しばかり悲しい気持ちになりながらオレは拳を握り、目の前に次元の穴を開いてそれを叩きつけた。
オレの拳は開いた次元の穴に吸い込まれ、数十センチ前方の穴から飛び出す。
そしてまたその先の穴に入っていく。
穴を通り抜ける連鎖はアンナの元まで一直線に駆け上がっていき――無論、彼女の元に届くまでの時間差は拳を突き出した一瞬と同じで――鎧をも通り抜けて彼女の肉体そのものを狙い打つ。
次元の穴を通り抜けて行けばいくほど速度は速くなり、相手側に行くダメージも増大していく。
理屈や仕組みはわからない。
だが穴を介せば介すほど威力は上がるのだ。
狙いは腹。
頭部から推察して検討した腹部の位置に力を込めた正拳を打ち込んだ。
次元を超えた拳はマッハを超える……のかもしれない。
モロに食らったアンナの痛みは半端ないはずだ。
事実、彼女の纏っていた鎧は消失、いや、縮小していき等身大のそれに戻っていく。
恐らくは使用者が能力の行使を維持できなくなって効力を失ったのだろう。
つまり、それだけのダメージを彼女に与えられたということだ。
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