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「この世界は、私に優しくない。」⑧ー症状ー

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「今日は天気がいいですね。」
にこやかに話す彼の口を、眺め。

「…そうですね。
 …でも、
 私…病気のせいか、
 光とか…眩しいって、感じなくて…。」

ぼつりと、声を出した。

「あ、そうなんですか…。
 …何か、
 辛い症状とか、ありますか?」

「…手足が痺れたり…
 食欲とか…睡眠欲とか、
 そういう
 基本的欲求がわかなかったり…。」

「…寝れてますか?」
「…睡眠薬のおかげで、
 まあ…。
 でも…
 この前、
 夜に目が覚めたら、
 男の人が目の前に立っている
 幻覚が見えて…。」
「え!大丈夫っすか?」
「…まあ、
 それからは見ていないんですけど…。
 お医者さんは、
 入眠時幻覚だろうと言っていました。」
「あ、
 精神科とか通ってるんですか?」
「…はい、
 通い始めて…
 抗うつ薬とか、
 抗不安薬とかも
 処方して頂いて…。」
「…効果ありますか?」
「…最近は、
 すごく重いものが、
 少し和らいだ感じは
 してきましたね…。
 …でも私、
 薬にあまり
 頼りたくないんですよね。」
「え、そうなんですか。」
「…
 薬は、あくまで
 症状を和らげるもので、
 その原因を
 なくすものでは、ないので。」

「…鬱病とか、
 心身症のような、
 ストレスとかの
 心の問題が
 身体に影響する病気って、

 私は、
 自分の心から、
 『お前は今辛いんだぞ』
 って
 メッセージが出ているから
 起こるんだ…と、
 思っているんですけど…。

 元々、
 怪我とかの痛みも、
 自分が死なないための
 警告のようなもの
 じゃないですか。」

「…なるほど…。」

「…だから、
 抗うつ薬とかで
 楽になっても、
 根本的な心の問題は
 解決していないので、

 …結局、
 自分の辛さを
 ごまかしているだけだと
 思うんですよね。

 ごまかして、
 自分の辛い気持ちを
 抑えつけて、
 無茶しているだけだと
 思うんです。」

「…そうなんですね…。」
「…はい…。」



「…あと、
 私…
 寝るのが怖くて…。」
「…あ、
 幻覚見えちゃうからですか?」
「…それも
 あるんですけど…。」

「…夢に、
 高校のときのことが現れるんです。」

「夢…?」

「…起きているときは、
 思い出そうとしても
 思い出すことができない、
 …1番、
 …辛かった記憶が、
 現れて…。」

「…結局は、
 健忘も、
 辛いものを
 自分からなくそうと、
 自分をごまかすようなもの、
 だと思うんですよね。

 …思い出せないようにしても、
 本当は、覚えていて。

 …自分の中の、深い底に、
 大きい傷として
 残っているのを、
 普段は、
 何枚も布を被せて、
 見えないようにしているだけで。

 …だから、
 夢って、
 無意識の世界だから、
 …その、傷が、現れてきて。」

「それを見ているのが
 すごく嫌になって、
 飛び起きて。
 …起きたら、
 夢の内容とか、人の顔とか
 覚えていないんですけど、
 …自分が1番辛かった記憶だ、
 ということは、わかって。
 最近は…
 そんな夢しか見ないので…
 寝るのが、怖いんです。」

「…そうですか…。
 それは…辛いですね。」

「…ありがとうございます。」

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