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第三章 嫌われた王子様と呪われた乞食
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しおりを挟む「あの男は、何だって王宮に。だいたい、代理だと? サラザーヌ領はどうするつもりだ」
馬車の中で、リストの愚痴を聞きながら王宮に向かう。王宮に行くのは久しぶりだ。年末年始の挨拶の時以来だろうか。
「……レオン兄様は大丈夫かしら」
「さあな。レオンは体は弱くなかったと思うが。そういう人こそ突然だろう」
「……叔母様のことを言っているの?」
リストの母――この国の宰相の妻である人は、宰相の浮気を引き金に精神を病んだ。今ではすっかりよくなっているが、リストにとっては身近な体調を崩した例に違いなかった。
「違う、姉のことだ。あの人は、子供が産めなくなってしまったから」
「ああ……」
リストの姉は一度、嫁いだが嫁ぎ先で何度も流産をして子供が産めない体になってしまった。裁判の結果、国に戻る羽目になり、今は宰相家の屋敷でひっそりと暮らしていると聞く。
とても元気な人で、子供を産めないようにはとても見えない。けれど、確かに彼女は一度崩れてしまった人だ。
「レオンは何もなければいいな」
「ええ……。レオン兄様はどこも悪くない。きっと、無理が祟っただけ。大丈夫、大丈夫……」
言い聞かせるように繰り返す。
リストはずっと、手を重ねて慰めるように頷いてくれた。
国の全てが詰まっていると言ってもいいだろう王宮は王都の高所にある。馬車を走らせ、一時間ほど。門についても、まだ終わりではない。しばらく森林公園が続き、門兵がいる詰所を通り過ぎて、またしばらく馬車を走らせる。
そうすると、左右対称の美しい建物が姿を表す。四つの大きな塔。その中心にある屋根の豪奢な建物。その全てが、均等に、美しく配置されている。
昔の王様は道楽で建てたという話があるぐらい凝った造りで、部屋の数は500を越え、さらには地下水路に見立てた地下室まで存在する。正直、政務するにも、舞踏会を開くにも難儀な場所だ。交通も不便だし、なぜこんな場所を王宮にしたのか。
幼い頃、迷ったことがあるので、苦々しい思いしかない。
馬車が着くと、使用人達が出迎えてくれた。久々の感覚だ。しばらく王都の私の屋敷には帰っていないから。
リストとともにレオン兄様の執務室に向かう。途中で、ノアとすれ違う。声がかけられないほど怒っていて、驚いた。
執務室の前には呆れ顔のリュウと強張った顔をしたイルがいた。一足先に着いていたらしい。
「来ちゃったか……」
「人の顔を見るなり、その言葉はどうなのよ。……リュウ、サガル兄様は?」
「来るわけないよねぇ。のこのこ呼び出されて来たのはそっちだけだよ。――ほら、帰った帰った」
「ちょっと押さないで!」
どういうことだ? サガルは来ていなくて、リュウが来ている。しかも、帰れと急かしてくるなんて。
近衛兵が呼びに来たのだし、罠ではないはず。
顔を見知っていたし、正式な呼び出しだ。
「おい! 何なんだ、この貧民は」
「リュウ、説明して!」
「そんな暇ないっての。ほら、外に出たらいくらでもしてあげるからさあ」
「……うーん。こればかりは俺も同意です。一度、レゾルールに帰りましょうか」
イルまで加勢し始めてぐいぐい体を押し始めた。本当に何なんだ?
「――それ以上触るならば、懲罰房行きだけど、いいの」
「げ」
低く呻いて、二人の押す力が弱まった。
「何なら、どの法に抵触するか読み上げてあげようか。その軽薄な頭に理解できるだけの学力があるとよいけど」
「フィリップ、扉に寄りかかるな。危ない」
「うるさいな、リストは。……学がない可能性があるのか。二度手間になるのは避けたいな。じゃあ、簡潔に。――その手を離さなければ、お前達をどんな手を使っても絞首刑にしてあげる」
政務室の扉を開き、フィリップ兄様が凍えた表情で二人を見据えた。
言っていることがめちゃくちゃだ。王族の肌に触れたら死刑だなんて流石に聞いたことがない。
だが、イル達が怯んだのか、手を離して距離を取った。
「ご協力ありがとう」
爽やかに言い放って、フィリップ兄様がにこりと微笑む。
「ディア、こちらに来なよ。リストも、入って。それで、お前達は廊下にいろ」
しぶしぶと言った様子で二人が頭を下げる。
ばたんと扉が閉まる。
閉めた途端、フィリップ兄様はくるりと体を回転させ、執務室の奥の席に腰掛けた。
立ち尽くす私達に、椅子を勧めてくれた。
おずおずと言った様子で腰掛ける。
目の前のテーブルには紅茶と焼き菓子が置かれていた。チョコのマドレーヌだ。甘く、良い匂いがする。
フィリップ兄様が好きなのだろうか?
なんだか意外だ。
「それで、こちらにわざわざ呼び出した理由は?」
「まだ役者が揃っていないから、そこでのんびりお茶でも飲んでいたら」
リストは苛立たしそうに、紅茶をいれて飲みはじめた。良い茶葉を使っているのだろう、芳醇な香りがする。
しばらくすると、静かに扉が開かれた。
長身が靴音を響かせて部屋の中に入って来た。
「失礼する」
硬質な声に聞き覚えがあり振り返る。
黒い髪を後ろに撫で下ろした姿と顔の半分を覆う眼帯。蛇のように冷酷な隻眼はほとんどの者を萎縮させる。
財務長官のアレクセイ・ロバーツ伯爵だ。
「おや、これはご機嫌麗しゅう、カルディア姫、リスト様」
「ええ、ご機嫌よう、ロバーツ卿」
ゆっくり立ち上がり、礼をする。リストも軍人らしく敬礼した。
「王都から来られたのか。ご苦労なことですな」
財務省はいわば、国の要。その長ともなると国で王族に継ぐ実権を握っていると言っても過言ではない。ロバーツ伯爵も例に漏れず、父王様の右腕と名高い。
もともとは剛気な軍人であったそうだが、右目は戦時に名誉の負傷をし、それ以来、内政の方に注力するようになったという。
冷ややかななりとは裏腹に社交性に富んでいる。国の中枢にいるべき才人だ。
ロバーツ伯爵家は母の実家であるバルカス家の遠縁にあたる。つまり血統も申し分なく優れているというわけだ。
……政で身内ばかりを登用しているから、周りの目はあまり良くないと聞くけれど。
けれど、結局、政治とは多数決だ。身内ばかりで固めて何が悪い。数こそ権力の象徴と言える。
「この場所こそ王都では?」
「……ふふ、違いない。お変わりないようで安心いたしました。レゾルールで何やら変わった一件に巻き込まれたと聞き、肝を冷やしていたところですよ」
「汗をかくお前の姿を見たかったような気もするけれど。……ロバーツ卿もおかわりなさそうで安心しました。もう休暇に入られていると思ったけれど、違うのね」
「休ませてくれないのですよ、どこかの誰かが。諫めてくれる奸臣もいないのです」
くすりと笑ってしまう。父王様のことを恨みがましく言うのになぜか滑稽さを感じて面白い。
「ロバーツ卿が諫言しようとする有能な者を排斥して来たからではないの」
「ははっ。その通りで。若気の至りですな。それ故に今、私にお鉢が回っているのです」
肩を竦める姿がとても軽妙だ。人に気分良く話させるのが上手い。
「…………お前達は随分と仲がいいようだね」
「い、いえ、フィリップ兄様。お邪魔をしてしまい、申し訳ありません」
明らかに気分を害していますという顔をして、フィリップ兄様が首を傾げた。
べらべらと喋り過ぎた。不快に思ってしまったのだろう。
「フィリップ殿下、久しぶりに姫の顔を拝見したのです、語らいの時間を取ってもよろしいでしょう?」
「あとでやればいい。……いや駄目だね。貴殿は多忙だ」
「人が悪いお方だ。確かに多忙ですが、息をつく暇もないほどではありませんぞ」
「いいや? 貴殿は今より先、忙しくなるよ。……サガルは来ないようだね。残念だが仕方がない。あとで使いを出そう」
肩を竦めてロバーツ卿が押し黙る。
フィリップ兄様が話すことはロバーツ卿にも関係するのか?
「呼んだ馬鹿が来ていないが、初めてしまおう」
「馬鹿?」
「おまえの兄のことだ、リスト。どこをふらついているのやら。女でも漁りに行った?」
リストの兄。つまり、宰相の長男。
あいつまで呼んでいるということは、王族には一通り声をかけているということなのか。
「……まあ、いい。忙しいロバーツ卿が来られたのだからさっさと本題に移ろう。レオン兄上の話は聞いているね?」
「倒れられたと聞きました。お加減はよろしいのですか?」
「過労で倒れられただけのようだ。今はお休みいただいている」
胸をなで下ろす。よかった、レオン兄様はご無事なのだ。
「待て、フィリップ。それだけならばお前が代理などということにはならないはずだ。レオンは本当に無事なのか」
舌打ちをし、フィリップ兄様は面倒くさそうに応じた。
「レオン兄上は、現在寝台の上から出られない。倒れられた時に打ち所が悪く、脊髄に損傷があるかもしれない」
「……それはつまり、もう歩けない可能性があると?」
「その可能性は十分あるが、今は医者に任せているのが現状だ」
「手配はお前が? 流石に信用ならない」
「国王陛下が。これでも、わきまえているつもりだけど」
二人の視線が交錯する。チェスで対決をしているような緊張感があった。
「レオン兄様の容態は思わしくないのですか……?」
「予断を許さない状況であるのは間違いないけれど、言葉を話せるし、重篤ではない。今のところはお元気だ。まあ、足が萎えてもおれが足となればいいのだし」
「っ……!」
安心していたものだから、突然殴られたような衝撃があった。
「カルディア? 顔色が……」
リストが気遣うような視線を向けてくる。
曖昧にはにかみ、受け流す。額に汗が滲んでいく。
「しかし、しばしレオン兄上はご静養頂かなくてはならないだろう。王子は四人もいるのだ、変わってもいいだろう」
「政務などろくにやったこともない癖にか」
「領地の統治と何も変わらないが? レオン兄上はこちらの才はあるとは言えない。ぼくが請け負った方が早く終わりそうだ」
机の上は綺麗に整頓されていて、紙の束が分けられていた。とんとんと指で紙の束を突いている。
「あと、レオン兄上の政務官は無能だから処分したよ。あまりにもとろくて話にならない。媚びばかり上手い輩ではいけないだろうに」
「レオンに言わずにか? それは越権行為だろうが」
「しばらくこの椅子に座るのはぼくだ。人事権はぼくにあると思うが?」
「世迷言を」
リストも、ロバーツ卿も渋面を浮かべている。フィリップ兄様は何を行おうとしているのだろう。
「世迷言なものか。レオン兄様が抱えていらっしゃった疫病について、ぼくが担当する」
「――馬鹿なことを」
ロバーツ卿が低い声で警戒するようにこぼした。
「疫病対策は誰もが二の足を踏むものです。いくら殿下でも、軽々に扱って欲しくはない」
「軽く扱っているのは陛下の方だ。コリン領をなぜ封鎖しないのか。おれが分からないと? ロバーツ卿」
フィリップ兄様は同じように低い声で言葉を返す。
「フィリップ兄様?」
「空賊が奪ったものを市中で売っていた馬鹿どもから、陛下が秘密裏に魔石を購入していたことは調べがついている。最初は質の良い魔石の産地であるコリン領を封鎖するため、清族との交渉用に買われているのかと思っていたが」
国王陛下が魔石を?
軍から奪った魔石を売っていたのはサラザーヌ嬢だったよな。
麻薬のかわりに売り、儲けていたはず。
父王様がフィリップ兄様が言う通り買い戻していたとして、何のためだ?
「どうやら違う。むしろ、陛下や清族はこぞって魔薬を買い漁り、それでもなお足りぬようだ。詳細は省くが、コリン領の魔石がまだ必要と見える。あの領土を閉じるべき頃合いだというのに」
つまり、魔薬を得るために、コリン領を封鎖していないと責めているのか。
「フィリップ兄様、どうしてコリン領を封鎖したいのですか」
「ディア、お前はどうやって病を克服する?」
「え!? 清族か医者を呼び薬を処方してもらいます。たまに魔術で治してもらうこともありますが」
「しかし、今回の疫病は一味違う。まず、薬も魔術も効かない。人が襲われたことのない未知の病気だ」
未知の病気。
薬がない、魔術では治らない。
では対策など立てようがない。嵐が去るのを待つしか。
「しかもこれは人から人へと感染する。空気感染か、飛沫感染か、判断はまだつかないが、次々と移る」
「では、う、移らないように罹ったものを隔離します。もう罹ってしまったら女神に祈りを捧げて託すしか。薬も魔術も効かないのですから、せめて他のものが罹らないようにしなくては」
「……ひどく高熱が出るという。頭が重くなり、腹が痛くなる。そして、全身の穴という穴から血が滴ってくる」
そんな症状が出るのか。
疫病だとは聞いていたが、どんなものかはまだ知らなかった。そんな酷い死に方をするだなんて。
「だが、見殺しには出来ないだろう。高熱ならば他の病気でも出る。早々に見切りをつけられるものはいない。見に来た医者にかかるかもしれない。世話をする夫が、妻が、子供が、孫が、あるいは近くのものが」
フィリップ兄様の意見は最もだった。
人は理論では動かない。情で動く。疫病だと知らずにいたら、そう簡単に見知った人間を捨て置けるものか。
「こんな話もある。息絶えた者を弔ったら、その村は皆それに罹ったらしい。一人残らず、男の後を追った。例外なく死んだ」
「それは……死んだ病人からも感染するということですか」
「報告によるとそうだ」
だとしたらどうすればいいのだろう。死者への労りを剥奪されるのか。
罹ったものは水葬されない。水を介して移る可能性があるのだから。
「人々は死を恐れ、ライドルに逃げてくるが、恐ろしいのはこちらも同じ。締め出す他ないが、関所さえ抜けて移民は入り込んで来る。……そのうちの誰が、病を内に飼っているかも分からないまま」
「コリン領に流れてきた不法移民は大半が鉱夫になっている。コリン領から出る際、暗い森を通らねばならず、人を食う狼が出るため、護衛をつけなければ無事では済まないときく。護衛代は高く、移民では払えない者が殆どだ」
リストが分かりやすいように横から会話を広げてくれた。
「コリン領の外には出にくい……?」
「しかし、絶対ではない。王都で一山あてたいと夢を見るものも多い。今のところ、コリン領から抜け出した移民は全て捕らえて隔離しているが、いつまで持つか」
ライドルに来たのならば、王都で花開きたいと思うのは当然だ。時間の問題だと思った。人の動きは止められない。
「移民の移動を制限されるおつもりなんですか」
「それだけじゃなく、コリン領にいるすべての人間の行き来を制限したい。コリン領から出したくない」
「しかし、そんなことをすればコリン領の者が困ります。封鎖前に、コリン領を出る者が殺到するかもしれません。そうなれば結局、意味がないのでは」
封鎖となれば大掛かりな陣が敷かれ、人も物資も制限されるはずだ。清族達の大移動、食料備蓄、人員配備、どう考えてもコリン領の人々に気取られずに行えるものではない。コリン領での被害は甚大とギスランは言っていた。
不安に駆られたものが逃げるはずだ。
フィリップ兄様の望む効果が得られないのではないか。
「コリン領ごと封鎖するなど、清族が何百人必要なのかも分からないことです。コリン領の民も、移民も移動するに異変があれば気が付くはずです」
「……清族はそこまで多く使わない。いつ解くとも知れぬのに、清族をあてがうつもりはないよ」
「ではどうするおつもりですか。人の出入りを制限するなど大掛かりな術を用いない限り不可能です」
「不可能ではないよ」
二人の顔がさあっと変わる。
あまりのかわりように、ざわりと肌が粟立つ。
「お前が下卑た妄想を持っているのだけは理解できた」
「妄想ではない。ディア、おまえには基本的な疫病対策を伝授している途中だったね。さて、村人は全滅したわけだが、これは僥倖だ。もう感染は拡大しない」
「僥倖ではないかと。村人が全て死んでいるわけですし……。それに死んでも罹るのではなかったのですか」
「勿論、後処理は重要だ。けれど、死んだ人間の病魔は動かない」
手を組んで顎の下に置いたフィリップ兄様は婉然と微笑んだ。
「病魔に侵された死体なんてものは結局、焼いてしまえばどうにかなるもの。問題なのは、次から次に感染することだから」
「……その言い方はあまりにも」
情がない。無機物的だ。冷徹でさえある。
どう言った角が立たずに済むだろう。
「――冷酷? それとも非情か? 初心なことだね」
初心という言葉に嘲るような音があった。
「アルジュナでは既に、人口の約二割がこの病気で亡くなっているときく。見た目も恐ろしいものだから、人々は神の呪いだと疑わず、人柱を立てたところもあったようだが、報われることはなかった」
「人柱だなんて……」
「縋るものがそれしかないのだから仕方がないだろう。薬も、早くて今年の秋なのだから。今、皆が死んでいく。待てると思うか? 神に祈らなくては、いられないということもある。ライドルも、そうなる可能性は高い」
だからこそ、コリン領だけでおさめたい。
ライドル中に感染が拡がれば、どうなってしまうのだろうか。
「人柱など立てたところでどうにもならない。むしろ、それで集まって病魔に罹っては意味がないのに。ただ、何を言ったところで聞き分けやしないのだろうけれど」
「……姫にお聞かせする話ではないのかもしれませんが、隣国アルジュナでは、隔離地域の狭隘に押し込められたカルディア教徒達が魔女だと迫害され、火炙りにされたのだと聞いています」
ロバーツ卿の補足が胸を抉る。火炙りに、あった。カルディア教徒が。
「アルジュナだけではなく、ロスドロゥだってそうだよ。アルジュナの移民を生きたまま火炙りにして憂さ晴らしだ。名目は、人の姿をした悪魔を調伏する、だっけ? 病のせいにすれば人殺も合法とあっては法律家達も浮かばれない」
「それだけ逼迫した状況ということだろう。……人が狂う様を見るのは忍びないが」
「ロスドロゥまで。どうすればいいのでしょうか。ライドルはこの間の水難の尾がひいています。そこに病まで重なればどうなるのか」
「どうなるかなど目に見えている。三百年前の革命の再演だ。それだけは阻止しなくては。レオン兄上のためにも」
そうは言っても病という難敵に対処の仕様があるのか。ないからこそ、ここまで放置されて来たのではないか。
もう領主がどうこうという問題をこえている。そう思ったからこそ、ライドル王国で決めるのだろう。
ギスランでも、ロイスター卿でも、解決できなかった。
――フィリップ兄様はどうやって事態を解決するつもりなのだろう。
新薬の開発はまだ遠く、コリン領にはもう患者がいる。フィリップ兄様はコリン領を封鎖したいが、清族を大人数駆出すつもりはないらしい。軍人を出すという話なのだろうか。清族を使わずに、代用するつもりなのか?
だとしても、根本的な解決になっていない。大掛かりであればあるほど、コリン領の者達は怯え、逃げ出そうとするのではないか。
天啓のように閃いたものがあった。だが、それは。
血の気がひいていく。死しても罹るが、死体は動かない。コリン領の封鎖をしたい。出入りを止めたい。コリン領は飛行石や魔石が採れる。だが、封鎖となれば清族も空軍を作った軍も、黙ってはいない。
けれど、疫病が流行ればライドルは恐怖の底に堕ちる。何かを犠牲にしなくては、成し遂げられない。
アルジュナやロスドロゥの二の前になるわけにはいかない。
「封鎖というのは建前なのですか」
にやりとフィリップ兄様は頬を緩ませて笑った。
「そうだよ。封鎖して、半年後ぐらいに健闘虚しく全滅してしまったと涙ながらに語るのがいいと思っている」
二人が顔を顰めていた理由がようやく分かった。
――フィリップ兄様はコリン領にいる皆を殺してしまうおつもりだ。
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