文明トカゲ

ペン牛

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八 懐旧の澱

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「もしもアンタが、とか、そういう小さい話じゃないの――あのクズは、そもそも人間より圧倒的に格が上なの。比較するのだって馬鹿らしいくらいに。だからアンタが謝る必要はないわ」
「でも、それじゃ、それじゃあ」
 それじゃあ佐治さんは――絶対に助からないということだろう。
「……宿泊券、忘れてないでしょうね? ここまで来て自腹とか流石に怒るわよ」
「あ、はい、大丈夫です」
「じゃあ行きましょ。実はちょっとだけ楽しみだったのよ。ほんの少しね」
 そう言って佐治さんは僕よりも先に旅館に入っていってしまった。気のせいかもしれないが、足取りが普段よりも軽かったように思う。
(……もし、ここに来ることで佐治さんの気持ちがほんの少しでも軽くなったのなら、それだけで十分意味はあったな)
 佐治さんの後を追って温泉旅館の中に入る。旅館は木造を前面に押し出した落ち着いた雰囲気の造りで、解放感を感じさせる設計のためか中にはそれなりに人がいるにも関わらずゴミゴミした空気がまるでない。
(猛さんの言ってた通り、いい旅館だな)
 受付を済ませ、館内の利用の説明を受ける。二四時間営業のため外出しても旅館にはいつでも戻ってこられるらしいが、特に他に出かけようとは考えていなかった。
「佐治さん、今日はどうする予定ですか?」
「予定って、別に何も考えてないわよ。この前の仕事が結構しんどかったからずっとここでダラダラしてるわ。アンタは?」
「僕も特に何も考えていませんでした」
「……とりあえず部屋行くわよ、荷物下ろしたいし」
「はい」
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