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16.巻き戻り2日目-2

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 行くあてもなかったわたしは、U駅近くの漫画喫茶で一夜を過ごした。
 手持ちのお金がなかったのもあるが、わざわざATMに引き下ろしに行くよりも早く眠りかった。それに誰もいないホテルに泊まるより、常に人の気配がする場所にいたいと思ったからだ。
 シャワーもあるし、漫画もある。インターネットもあるので狭いことを除けば快適だ。

 体を丸め、時折誰かが発する音を聞きながら、どろどろと眠りについた。

 その翌日。

 わたしはキャリーケースを引き、仕事場である介護施設に着いた。今日からしばらく出勤だ。

 狭い部屋で無理矢理寝たせいか体が痛い。それ以上に昨日は修復不可能なダメージを負った気がしたが、どこかスッキリした思いがあった。思っていたことを彼にぶつけられたからだろうか。

 昨晩から今朝までに、智樹からの連絡はもちろん何度もあったが、通知をオフにしておいた。内容も大体予想がつくため、わざわざ読む必要は感じられない。
 きょうが仕事の日だと知ってるだろうが、さすがに職場まで押しかけてくるほどの厚かましさは彼にはないだろう。

 わたしの大荷物を見たベテラン職員が「あら、どうしたの?」と事情を聞いてきたが、曖昧にはぐらかした。昨日の今日でうまく話せる自信もないし、好奇の目にさらされて笑っていられるほどの強さもまだない。

 業務は滞りなく進み、大きなトラブルもなく終業間際になった。
 記録も終え、あとは時間を待つだけ、というところでふと海斗のことを思い出した。

 閉じたノートパソコンを再び開く。
『似てるんすよ』と言った彼の表情が、妙に気になる。誰に似てるのか、よりも彼がなぜ、あんなにも辛そうにしていたのか。なぜか胸がずきりと痛んだ。

「ええと……あった」

 彼の祖母、大貫キヌの利用者データだ。
 緊急連絡先には息子の名前、第二連絡先に孫、海斗。

「あれ……? 海斗……?」

 続いて家系図を見る。入居の時に書いてもらった手書きのものだ。
 そこにはキヌと亡くなった夫の下に、息子とその妻に連なる線が描かれてあるだけだった。星田どころか、海斗という文字すらない。

 わたしは首をかしげた。
 息子の名字はキヌと同じ、大貫だ。そして家系図を見る限りでは一人っ子。星田という姓が入り込む余地すらない。

 星田って……海斗って何者?

 答えが出ないまま、17時ちょうどを告げる鐘が鳴る。
 わたしはパソコンを閉じ、疑問を振り切るように立ち上がった。
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