ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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一章

五話 ハイナ村Ⅰ

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「この川からこっち側はまだ手付かずでな、新入りはこっち側を任せるようにしてるんだ。こっち側なら自由に使ってもらって構わない」

 広いなおい。

 この村の用心棒でもあるガーヴさんに連れられてきたのは街の中央を流れる川の先。
 村長宅のある方とは反対側の地区だった。

 ここまでの案内がてらガーヴさんからは色々なことを教えてもらっていた。
 この村の名前がハイナ村という事やその名前の由来。
 それとこの村における簡単なルールなどだ。

 それにしても、ある程度整地されてるが道である程度区切られてるとはいえ、手付かずという言葉の通りまだ道しかない。
 場所によっては木が残ってる所もあるな。

「……選り取り見取りっすね」
「まぁ、こっち側はまだお前さん方含めてまだ四人しか居ないからな。選び放題だぜ」

 四人ってことは俺たち以外にも二人、新入りがいるってことか。

「といっても、無制限に使って良いわけじゃねーぞ? 道で土地を区切ってあるから、自由に使って良いのはその一つだ」
「その辺は心得てます」

 まぁ、それでも俺たち二人でポンと使えと言われても困るくらいの広さだしな
 区切られた一角といってもかなり広いぞこれ。
 ざっと見積もっても一辺が百m近い土地だ。
 一辺六mもないリアルの俺の借り部屋とは大違いだ。

「それと、今は居ないがこっち側の一番奥に森に面した所に広い土地があるが、あそこだけは使用禁止だ。お前の先輩の新入りが差し押さえてるからな」
「なるほど、ではそこ以外を探します」

 なんだろう、下手すると村長の土地より広く見えるが良いんだろうかアレ。

「かなり広く見えますけど、どうしてあんな良い場所を新入りに?」
「ああ、そりゃその新入の御蔭でこの村を大きく出来たからだ。以前はもっと小さくて、木の柵で囲っていたんだが獣なんかによく侵入されて家畜を食い荒らされてたもんだが、あの木の杭を並べる方法の高い壁の建て方を教えてくれてな」「なるほど、新入りでもあり恩人でもあると」
「そういうこった」

 話を聞く限りそいつがあの壁を使ってこの村を広げたみたいだし、村長の家周辺の具合から見て、あの川の向こう側の半分程度が元々の広さだったはずだ。
 壁の今の面積はざっと見積もっても四倍はある。
 そりゃ一等地を与えられてしかるべき功績だ。

「この村は出来て間もない。元々がお前さんのように人買いから逃げてきた奴や、住んでた村が干魃や獣害で離散しちまった奴らが集まって新しく作ったんだ。だから長年受け継がれた知恵みたいなのが薄い。だから新しい知恵を持ってるやつは大事にする訳だ」 

 村の入口側から村の雰囲気はある程度見れたしなんとなく予想はしてたがやはりか。
 この土地のあまり具合は発展を見越して広く取ってるんだな。
 しかし……気になる点があるな。

「そういえばこの村では野菜とかはどうやって手に入れてるんですか?」
「どうやってって、そりゃ森に入って野草なんかを手に入れてるんだが」

 まぁ、近くに森あるしそれでもやっていけるかもしれんが……

「この村には畑がないんですか?」

 村をざっと見渡した時に感じた違和感。
 それはこの村に入ってから一切畑を目にしなかったことだ。
 これだけ土地があるから、農耕用の土地が足らないということもないはず。

「はたけ? そういえばあいつもそんなようなことを言っていたな」

 あれ、この反応は。
 まさか畑を知らない?
 この地方では畑の知識がまだないのか?
 いや、そもそもここの住人はさらわれたり離散したりで集まったと言っていたし、畑仕事に関わった人が一人も居なかったって可能性もあるか。

「さっき言ったこの村の恩人もそのはたけとやらについてはなにか言っていたんだが、俺達はしらないしそいつも畑については詳しく知らないらしくてな。いつか試してみるとは言ってたが後回しになってるんだ」

 なるほど、知ってるやつがいるってことはこの世界に農耕自体は存在する訳だ。
 ただし、ここにその知識を持ったやつが居ないと言うだけだ。
 なら……

「俺が畑については多少手を貸せるかもしれません」
「そうなのか?」
「ええ、そのもうひとりの新入りさんと話して見る必要がありますけど」

 うちの実家は農家だったからな。
 半ば農家継ぐのが嫌で上京したようなものだ。
 ただ、ガキの頃に嫌になるほど仕込まれたから覚えたくなくても知識が勝手に刷り込まれている。

「ほう! そりゃいい。どんな知識であれ村を富ませてくれるものなら大歓迎だ……未だ俺にははたけってのがどういうものか解っちゃいねぇんだがな」
「そこはもうひとりの方と放して色々決めてから、実際やるかどうかはその時ですね。村長の許可とかも必要かと思いますし」
「そりゃそうだな」

 よし、もし行けるようならこれでタダ飯ぐらいみたいな状態からは脱することが出来るはず。
 あくまで許可されればだが。
 1つ目の懸念材料についてはこれでクリアの目星がついた。

 さてもう一つ重要な問題点をどう解決するかだが……
 こりゃもう直接聞くしか無いか。

「すいません。土地を与えてもらって助かるんですけど家とかってこの村ではどう建ててきたんですか?」
「んん? そりゃ皆で必要分一気に……あぁ土地があっても住む家が建てられないってか」
「はい、何分家の建て方は知識になくて……」

 焚き火を囲んでキャンプ程度はできても、雨に振られたらどうしようもない。
 この村に屋根付きの家がもう立ってるから、最悪俺一人で作業するにしても家の建て方の知識については知っておきたい。

「ふむ……なら丁度いいかもしれんぜ? 今、ここに居ない恩人殿は家を建てるための木材を集めに森に入ってるんだ。自力で家を建てられるらしいから戻ってきたらその人に聞いてみるといい」

 ほお! そういえば村の壁を作ったことといい、もしかしたらこの村に来るまで木工関係の仕事についていた人なのかもしれないな

「俺らの時は家の建て方を知っている爺様が居たんだが、その爺様はぽっくり逝っちまってな。正直な所俺たちも家の正しい建て方とかは教えてやれる自身がねぇんだわ」
「え、それって結構問題なんじゃ?」
「大問題だ。だから俺たちも家の建て方を学ぶつもりなのさ」

 ああ、俺が居なくても元々建築講習会は開かれる予定だったと。
 そこに、家立てる知識がない俺達が困っていたから丁度いいって言ったのか。
 コレは確かに渡りに船だな。

 自分達の住む家という一番の懸念材料の払拭できそうなのはデカイ。
 となれば次にすべき事は何か。

 金と食料だな。

「住む場所と言えの目処が立ったのは非常に助かります。それで、なんですが」
「寝床を手に入れたなら次は腹ごしらえ、だろう?」

 流石、やはりこの人は頭の回転が速い。
 こっちの考えなんてお見通しのようだ。

「可能であればこの村での糧の得方なんかを教えていただきたい。仕事の斡旋でも狩りの手伝いでも、自分にできそうなことであればやっていきたいと考えている」
「ふむ、糧の得方か……」
「俺達は無一文に近いから、金を稼ぎ、食い物を手に入れる必要があるので」
「金? 金か……」

 なんだ?

「お前たちは金がほしいのか?」
「ええ……何かを買うためには必要では?」
「ふむ、つまりお前さん達はそういう所で暮らしていたわけだ」

 どういう事だ?
 金を使うような場所は限られているのか?

「ここは、違うんですか?」
「そうさな。ここは見ての通りの辺境の新村で、街からの行商人なんてのも訪れない。となると金なんて使いどころが無くなっちまう」
「つまりこの村は物々交換が基本……ですか?」
「正解だ」

 なるほどなぁ。ゲームなんかだとどんな辺境だろうと世界統一通貨が使えるが、実際にはこういう事になる場合もあるのか。
 まぁよく考えたらアレだけ発達した現実の世界でも国が変われば通貨基準が変わる訳だしな。

「まぁ、この村に住んでるやつもある程度金を持ってる奴はいる。使いみちがないから死蔵しているような状態だし、報酬の何割かを金で代替えしてくれと言えばむしろ喜ぶかもしれんぜ? 使いもしない金を引き取ってくれるってよ」
「なるほど、この村にとっての金はそういう扱いなんですね」

 ここじゃ金を集めた所で使いみちはないと。
 ただ、金自体は存在するし、ここで使えないと言うだけで都市に行けば使いみちはあるはずだ。
 であれば手に入れておいても困るものじゃあ無い筈だ。
 ここでの生活物資を得るための物々交換のレートが下がってしまうがここは割り切った方がいいか。
 目先で苦労するかもしれんが長い目で見れば損にはならない筈だ。

「わかりました、そういう時が来たら交渉してみます」
「おう、それがいい。今すぐお前さんたちに振れる仕事はないが2日後に村の連中と狩りに出かける。その時についてこれば食料や狩りの知識や分配ルールとかも覚えれるだろう」

 おお、それは助かる。
 正直サバイバルとか狩りの知識はぜひとも欲しい所だ。
 獣を倒せても処理の知識がなくて機能はえらい目にあったばかりだからな。

「是非参加させてください。自分には知識も技術も全く足りないのはこの度で思い知ったので」
「おう。その貪欲に知識を取り込もうとする姿勢は悪くねぇ。狩りの前に声をかけてやるよ」
「よろしくおねがいします」

 よしよし、コレはいわゆるクエストみたいなものだと考えて良いんだよな?
 最初はどうしたものかと思ったがコレはなかなか幸先が良いんじゃなかろうか?

「恩人殿はまだ帰ってこないようだし、今のうちに自分の家を建てる場所を見繕っておくといい。何時も通りであれば日が傾く前には戻って来るはずだ」
「わかりました。そうさせてもらいます」
「おう、ではまた後でな」
「はい、色々教えていただきありがとうございました」

 さて、では立地の良い場所を見繕ってみましょうかね。
 しかしこんなゲーム序盤でハウジング要素があるというのは想定外だったけど、これ正式サービス始まった時土地とか大丈夫なのかね?
 過去にやったゲームは大抵ハウジングが実装されると土地の奪い合いが始まっていた。
 ハウジング専用のエリアのあるゲームもあったが、それでもそのエリアの土地を奪い合う程だったんだよなぁ。
 歩いた感じ完全なオープンワールド設計っぽいけど、1つのサーバー接続人数を絞ればいけるのか……?
 或いは1万人程度が家を立てても余裕なくらいマップが広いとか?
 そんなゲーム設計でサーバが持つのか……?

「キョウ、おはなし終わった?」
「ん? おっと、話は終わったよ」

 いかんいかん、ガーヴさんとの話とか要らんよそ事で頭が一杯になってエリスのことをすっかり忘れていた。

「話が終わるまで静かにして待っていてくれたのか、えらいぞ」
「えへへ……」

 頭をなでくりしてやろう。

「エリスはこっち側に家を建てるとしたどんな所に家を立てたい?」
「んん……とねぇ、明るい場所」
「明るい場所かぁ」

 確かに日当たりの良い場所が良いな。
 洗濯物とか、畑のことも考えると特にな。
 そうなると壁沿いは除外しよう。
 後は川沿い、或いは近い場所がいいな。
 水道なんてなさそうだし、土地が選び放題だというのなら絶対に水場が近くにある方が良い。

「俺は水場の近くが良いから……、日当たりが良さそうで川の近くって言うとこの辺りの何処かになるかな」
「おおー」
「旧村側よりこっちのほうが一段高くなってるから、何処を選んでも雨で川が溢れても水浸しにならなそうなのは良いな」

 この村の建物はすべて平屋で壁よりも高い建物はない。
 近所の家に日光を遮られることもないはずだ。

「エリス、この辺りで、自分が住みたいとしたら何処が良い?」
「選んで良いの?」
「おう、良い子にしてたからご褒美だ」
「わぁ……」

 この辺りなら何処を選んでも問題ないだろう。
 それにエリスは実際良い子にしていたしな。
 俺が話してる間も変に騒がずにずっと静かにしていたし。

 とか考えていたら走っていってしまった。
 まぁ、こういうのを決めるのって結構ワクワクするしな。
 うんうん、分かるよその気持ち。

「エリスー! ここで待ってるから気に入った場所を見つけたら戻ってくるんだぞー!」
「はーい!」

 やー、元気なこって。
 ガキの時分はそれこそボールが友達とばかりに走り回ってたが、成人してからはもうあんな元気に走り回るのは無理だったな。
 歳食った今じゃ息切れ、動悸、目眩が友達だ。

 さて、何も出来ない今のうちに一度色々確かめるか。

 朝から今までのやり取りでなにか変化があったかの確認だ。
 特にスキル。
 アレだけの圧迫面接を突破したんだ。
 交渉とかそういうスキルが手に入ったのかと思ったがそんな事無かった。
 少し走っただけで脚力尽きるがついたり、一度キャンプ作成の真似事をしただけで陣地形成スキルが開花したりしたことから、基本となるスキルや低ランクのスキルは関連行動を取ることで簡単に上昇するし、新スキルの入手はトリガーとなる行動を取ることで手に入るんだと推測できる。

 しかし、あの村長とのやり取り得た新しいスキルは気配探知のみ。
 集中スキルは3つ上がっていたが交渉事に関するスキルは入手できなかった。
 気配探知は家の外からの援軍が来ないかを警戒していた時に入手したんだと思う。
 集中も恐らくその時に上がった……と思う。

 交渉スキルってのは色々なゲームで見かけるメジャーなスキルの一つだ。
 主に商売や生産系のジョブが持っているスキルだが、このゲームにはないんだろうか?
 これほどNPCとのやり取りが重要なゲームで?

 考えられる可能性は2つ。
 一つ目は、そもそも交渉スキルがこのゲームには存在しない。
 この場合はもうそういうものかと諦めるしか無い。

 二つ目は、交渉スキルを手に入れるための前提条件が足りていない。
 コレは基礎スキル等の成長や複数のスキルからの複合や派生から生まれる上位スキルだった場合だ。

 入手できるか出来ないかでも分かれば今後のやり方もいろいろ変わってくるんだが、リアルがあの有様じゃテスター同士の情報収集もままならない。
 この機材も外部のネットにはつながってないからメールとかのやり取りも出来ないしな。

 まぁ、しばらくは無いものと考えて行動するしか無いか。

 このゲームのNPCはたかがAIだとかそんな事言ってられないレベルで人間的な言動を起こす。
 恐らく自分のことをAIだなんて思っていない。
 この世界の住人の一人として生きている用に見える。

 だからNPC相手のコミュニケーションで有利に働くスキルが有るなら最優先で手に入れたい。
 ああ……なんて考えてる時点で相手のことをまだ一人の住人として見切れていないのか、俺は。

 だが、交渉以外でもある程度いろいろな行動を起こして入手できるスキルと出来ないスキルからこのゲームのスキルの傾向とかは手に入れたほうが良いな。

 まったく、いまやネットで攻略wiki除けばなんでも情報は手に入るご時世に、攻略本なしに手探りでゲームをやることになるとはねぇ。
 ……まぁ、それも悪くねぇな。
 
 働き始めて時間がなくなると、自分の好きなゲームを効率的にプレイするしか無かった。 
 だが今はその手探りの攻略も仕事として楽しむ余地がある。

 時間が足りないとか言い訳する必要もなく、ネットも繋がらないから周りに迷惑だからと自力攻略を投げ捨てて情報を漁る必要もない。
 頼りになるのは自分のスキルと頭だけ。

「キョウー! みつけたよー! ここが良いー!」
「おう、待ってろー! 今そっち行くから!」

 この不便さも一周回って悪くない。
 こんな、文字通り全ての時間を、24時間すべてこの世界につぎ込める状況になってなかったら絶対にそうは考えなかったと断言できる。
 ストレスフルだの、動線がメチャクチャだの指摘しまくっただろう。
 いや、指摘はする。絶対に。
 テスターとしての義務だからな。
 普通にゲームとして発売するならコレはあまりに不親切過ぎる。
 こんなのイキナリやらされたら開始数時間で投げるプレイヤーは山ほどいるだろう。

 でも、リアルがあんなことになってようやく気付けた。

 俺は、もしかして……いやきっと、こういうゲームを、こういう状況を心の何処かで待っていたのかもしれない。
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