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一章
十五話 狩る者とⅠ
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村から出発して約2時間ほど西に進んだ所でハティから降りるよう指示を受けた。
どうやら狩場とやらが近いらしい。
ハティの気配は周囲の獣を威圧するのか、狩場に来るまで殆ど動物に出会わなかった。
旅には便利かもしれないが、今回は獲物を狩らなければいけない。
その獲物が狩る前に逃げてしまっては意味がない。
なのでハティはここでお留守番……というのも酷なので狩場に近付かなければ好きにしていいと伝えた。
「ワン」
わかりました、と言わんばかりに一つ吠えると狩場とは逆の方向に駆けていった。
あれ、絶対特定の単語とかへの条件反射じゃなくて、語彙まで理解してるよな……
……とまぁそんな出来事もありつつ更に西へ1時間。
平原をあるき通しで抜けた先にあったのは巨大な池だった。
俺が狩ったヤギみたいなやつの他にも、鹿や牛っぽいやつも居るし、少し離れたところにはデカイ猫みたいなのもいるな。
アレ絶対肉食だろ。
鹿とかヤギとか当たり前のように水飲んでるけど平気なのか?
……なんて平気なわけ無いか。
危険だと解っててもここで水を飲むしか無いってだけだ。
なるほど、どんな生き物にも水は必要だ。
なら、水場を張っていれば現れた獲物を狩れると思いつくのは人間だけじゃなく獣も一緒ってことか。
此処にこれだけの獣が居るということは、近くに水場がないか、別の獣達のテリトリーにあるかといった所だろうか。
どういう訳かココ最近、妙に身近なところで開き直りの重要性を思い知らされるのは偶然だろうか。
「コイツはツいてるな。沼猪がいやがる」
そう言って指差すガーヴさんの視線の先には、デカイ猪が水を飲んでた。
つかデケェなおい!? 何だあれ恐竜か!?
すぐ近くにいる牛よりも二回りがデカイぞ。
あんなのほんとに狩れるのか?
「沼猪はあの巨体と牙で肉食の獣も撃退しちまう難物だが、デカすぎる図体が災いして森にいるやつと違って走れねぇ。そして群れを作らない事でも知られててな。悪食故か同族が近くで襲われようと我関せずだ。つまり準備さえ整えれば変に群れている小物よりも狩りやすいって訳だ」
「なるほど、群れてる弱い奴よりは単独の強いやつを狙ったほうがいいって事ですね」
「まぁ、限度はあるがな。アレは走れないって弱点があるから、ヤバくなったら走って逃げ切れるって点でも狙い所なんだ。しかも美味い」
「ほう、でかくて美味と」
「悪食故かキノコや果物なんかもよく食うみたいでな。そういう獣の肉は大抵美味いんだ」
「へぇ~、そうなんですか」
そういやリアルでも豚とか牛とか馬、羊、猪と、食肉用の動物って雑食や草食ばっかだな。
やっぱ肉食動物の肉より草食ってる生き物のほうが肉が美味くなるんだろうか?
でも熊肉も美味いって言うよな……食ったこと無いけど。
って事は食ってるものは関係ない?
いや、でも熊にトウモロコシ畑荒らされるとかの話もあるし実は雑食とか?
気になるけど調べる術がねぇ……
この世界のどこかで熊見かけたら観察してみよう。
「デカくて美味い。文句なしの大当たりだ。アレ一頭狩るだけでうちの村なら全員で分けて干し肉にしても数ヶ月分の肉になる。まぁあんなデカイの持ち帰れねぇし全部食う前に腐っちまうから必要な分だけ切り取って持ち帰るんだがな。それでも暫くは肉食生活で派手に食う羽目になるんだが」
「え、一匹でそんなに肉取れるんですか?」
「お前さんが倒したヤギからとった肉、アレだけ毎日肉ばかり食ってもなかなか減らんだろ? 普通に村で暮らしてると毎日肉食ってるわけじゃないからな」
そりゃそうか。
山菜だったり果物だったり、或いは別の肉だったり。
食い飽きないように色んな物食ってたら余程の肉好きでもなければ消費は当然減るのか。
カレーを鍋いっぱい作る時に使う肉がスーパーの豚バラ200グラム。
確か5~6食分だったから1kgの肉がアレば、毎日三食カレーだったとしても10日分の肉になる。
あの猪、見た目からだけじゃ重さは判らんけど100人程度の村人で分け合っても一抱えくらいの量にはなる筈……
二ヶ月分の肉ってのも過言でも何でも無さそうだ。
「ガーヴ、コソ泥は居そうか?」
「この様子なら居ないだろうな。この時間なら山の野犬共も降りてこないだろう。あの山猫にさえ気をつければ問題ない」
「そうか、ならいつもの形で行く。新入りの二人はしっかり見ていろ。追い込んだ後お前らはトドメに加わってもらう」
「わかりました」
「はい!」
「よし、ザジは準備ができたら射掛けろ。3射見たらガーヴ達が突っ込んで足を削れ。ダニア達は横槍を警戒だ」
村長の指示に合わせて皆手慣れた様子で散っていく。
そうか、横やりの警戒も必要なんだな。
ハイエナみたいに狩った獲物を狙うやつも居るってことだな。
ヤギの時はそんな事全く思い浮かばなかったから、覚えておかないとな。
油断しきってたあの時に横槍入れられなかったのは単に運が良かっただけだな……
狩りの様子や注意点を確認している所でガーヴさんが近づいてきた。
「嬢ちゃん。何故、3射だけで俺たちが突っ込むか判るか?」
「んっと…………わかんない……」
「よしよし、初めての時は誰にも解らない事はある。判らないことを判らないと味方に伝えるのはとても大事な事だ。今後も知ったかぶるんじゃなく、ちゃんと判らないと伝えるんだぞ?」
「うん……」
「じゃあキョウ。お前さんは判るか?」
ううん、なんとなく判る気がするがどうなんだろう。
「自身はないけど予想であれば。獲物を矢で蜂の巣にして肉や皮を痛め過ぎないようにするため……ですかね?」
「ほぉ? 狩りは初めてだってのに良く判ったな。若い奴は大抵もっと矢で弱らせてからとか言い出すもんなんだがな」
「肉を狩りに来たのにその肉を自分達でズタズタにするのは流石に本末転倒だと思ったんで。正直自身はなかったですけど」
「いや、気づけるだけ大したもんだ。狩りに出たて若い衆がまず失敗するのがまさにソレだからな。数人がかりで鹿を仕留めたはいいものの、倒す頃にはズタボロでまともに解体も出来やしないなんてことが普通に起こる」
鹿かぁ……鹿はわからないけど確かにヤギの時は死ぬかと思ったしな。
ビビってやりすぎるってのはあるかもしれない。
「おし、じゃあ俺はそろそろ出番が来そうだし前に出るぜ。お前さん達、トドメは任せたぜ?」
「はい!」
「ん!」
俺たちに教えるためにわざわざこっちに来てくれたのか。
なんだかんだで面倒見いいよなあの人。
「始まった!」
一射目が見事背中に突き立った。
驚いた沼豚が逃げ始めた所にもう一射コレは尻に。
そして三発目は進行方向側にキュルキュルと音の鳴る矢が落ちた。
もうバレても関係ないということと、逃げ出した沼豚の進行方向を塞いで混乱させる目的……かな?
そして鏑矢みたいに音の鳴る矢が発射されるとほぼ同時にガーヴさん達が10人前後で沼豚の後ろから一気に襲いかかった。
他の人達は沼豚を囲うように遠間で周囲を警戒している。
かなり手慣れた感じだ。
さっき居たデカイ猫は居なくなっているが、他に警戒する獣がいるような話だったな。
突撃組の半数が正面側で逃げるのを妨害し、残りの半分が後方から後ろ足を槍や柄の長い刃の小さな片刃斧みたいな物で後ろ足を削っている。
聞いていたとおり、アレだけ追い立てられても駆け足程度でしか逃げない。
アレが限界速度ならたしかにどれだけ強くても引き撃ちや一撃離脱でやり様はいくらでもあるな。
まぁ、今回見たくアレだけの巨体を仕留めきるだけの火力を用意できればの話だが。
一人じゃ多分削り切る前にこっちのスタミナ切れで逃げられるだろうなぁ。
時折後ろ足で蹴り上げようとしたり、前方に向かって無理やり牙を突き出そうとする様は見えるが、長物を備えてる狩人たちにはどちらも届かない。
危険な真似はせずジワジワと確実に足を削っていく。
統制が取れている動きだ。
「若ぇ奴らは準備しろ、そろそろコケるぞ。コケた瞬間一気に倒す。新入以外は生きてる足を潰せ。新入二人はトドメだ。やり方は覚えてるな」
「はい!」
「必ずトドメは槍でやる、耳の下から胸の内側に向かって、突く」
「そうだ。動けないからと絶対に近づくな。頭突きだけでも人は死ぬぞ!」
あのサイズだからな、牙に引っ掛けられなくても藻掻いた頭で激突されるだけで車に撥ねられるようなものだ。
間違っても食らっちゃいけない。
「他の連中も油断すんじゃねーぞ。自分よりも狩り慣れてない奴が仲間に加わると、自分はさも手慣れたと勘違いして油断する馬鹿が必ず出る。必要以上に警戒している初心者よりも、借りに慣れ始めたお前ら位が一番危険なんだ」
「解ってますよ、散々仕込まれましたからね」
「というより俺等だって沼豚はトドメでしか参加してねぇんですから、抑えは初心者っすよ。油断できるほど心臓は太くねぇでさ」
……と言う割には結構落ち着いた感じだな。
これが一度でも場数を踏んでるかどうかの違いか。
実戦経験を踏むと見える世界が変わる云々。
「よし、無駄話はそこまでだ。野郎が足を引きずりだした、そろそろコケるぞ」
という村長の言葉とほぼ同時、座り込むようにして尻が地面に落ちた。
転ぶと言うから横に転がるのかと思ったが、後ろ足を削られて自分の体重を支えきれなくなって尻餅をついたのか。
「よし、抑えの連中は行け! 新入達は前足の拘束が終わったら直ぐにとどめを刺すんだ。それまで絶対に手を出すんじゃねーぞ! 狙うのは耳より下、喉から突き入れられれば最適だ!」
「了解!」
「はい!」
抑えの若い衆の後ろから追いかけるようにして狩場に雪崩込む。
抑えの人達は尻餅をついた状態の沼猪を無理やり引き倒すようにして横倒しにすると、U字の器具で片足を地面に縫い付けていく。
こういやって動きを封じるのか。
前足側を抑え込むのに苦戦していた様子だったが、後ろ足の拘束が終わった人達が補助に入ってなんとか左前足側を縫い付けるのに成功していた。
「よし、やれ新入!」
「はい! 行くぞエリス」
「ん!」
柄の長い槍を使って頭の届く外側から胸に向かって槍を突く。
「うわっ!? ……って、ちくしょうやられた!!」
しかし、槍が深く突き刺さった状態で思い切り首を振られたせいでやりが抜けず柄の中程から圧し折られてしまった。
突き刺した部分が頭に近すぎたか!?
あんな太い首で、槍を圧し折られるほど大きく首を振られるとは思わなかった。
「追い打ち、いきます!」
槍の柄を手放した俺が下がるタイミングでエリスがやりの刺さった所よりも下、前足の間辺りから胸に槍を突き入れた。
拘束された足側から突き刺してるので足を使って折られる心配もない位置だ。
俺の失敗を見てすぐに対応したのか。
「そのまま一度、柄の中ほどまで槍を突きこんだら引き抜きながら喉を開け!」
「う、うん!」
力不足で突き込めないエリスを手伝って二人で沼猪の喉を開く。
沼猪が暴れるたびに血が溢れてくる。
「コレが正しい血抜きだ。こうやって生きてるうちに急所を開いて吐き出させるんだ」
なるほど……
生きてるうちに血抜きするっていうのはこういう事か。
確かにヤギの時に俺がやろうとしてたのは血抜きじゃなくてただ肉を洗ってただけだな。
コレは恥ずかしい……!
「本来ならコレで十分だが、沼猪はでかいからコレでも死ぬまで時間がかかる。生命力が強いやつはコレとは別に喉を断っておくといい。窒息して息絶えるのが早くなる」
「此処までデカイとこれだけの手傷を負ってもすぐには死なないのか……」
心臓に槍刺されてまだ死なないとかどんだけ生命力高いんだ……。
「さて、後は村長達の仕事だ。技術は自分でやらなきゃ覚えられんが、処理の手順だけでも見て覚えておくといい」
「はい」
その後の流れは、村長達後続組が沼猪を解体して、それを荷台に載せられるだけ載せ次第村に送るという作業だった。
解体手順はヤギの時に教えてもらったものとほぼ変わらなかったが、ヤギの時と違い吊るせるサイズではないため地面は直置き状態での解体手順という意味では役に立つ知識だ。
あと猪の皮は手で剥くのは辛いらしくナイフでそぎ取るように皮を剥がしていた。
やはり、生で見ながら覚える知識は、又聞きのものと違いすんなり頭に入りやすい。
本音を言えば自分も参加したいところだが、足手まといになるだけだろう。
時間をかければそれだけ肉がだめになり易い。
今回は見て覚えるだけで満足しておこう。
「エリス、大丈夫か?」
「うん……」
沼猪にトドメを指した頃からエリスの口数が減っていた。
まぁこの歳で命の殺生、しかも虫なんかじゃなくこれだけデカイ生き物だ。
ショックを受けないほうがおかしい。
「辛いなら、無理に狩りを覚えなくても、次からはもっと別の事を教えてもらえれるようにお願いしてみるぞ?」
「ううん、わたしはキョウの相棒だから、キョウが出来ることはわたしもできるようにするの」
え、そんな事考えてこの狩りの技術覚えようとしたのか?
もしかして初日のことが相当心に刺さってる?
この場合はどうしたらいいんだ!?
もっと他にも相棒として出来ることは沢山あると示すべきか。
或いは、苦手意識を取り払うためにしっかりと狩りを覚えてもらうべきか……
どっちも正しいと思うんだよなぁ。
一つに事にとらわれて視野狭窄に陥るのは悪い傾向ではあるけど、うまくいかない事に対して徹底的に練習して克服しようとするのは格ゲーで負けた後、敗因を只管トレモで練習繰り返してた俺としては否定したくはないんだよなぁ。
……此処はゲームの世界だから、俺流のやり方と同じ方法でやる気を出してる今を否定するのはやめておくか。
「じゃあ、思う存分やってみろ。止め刺しも俺よりもエリスのほうがうまく攻撃できてたんだしな。ただし、何か困ったり詰まったりしたらちゃんと俺や周りの大人に知らせること」
「うん……」
「エリスは一部で既に俺よりもうまく色々なことが出来てるよ。頑張るのは大事だが、頑張り過ぎるのはダメだ。やりすぎってのは大抵失敗するからな」
「わかった、がんばり過ぎないようにがんばる……」
あれ、ちゃんと伝わってる……よな?
どうやら狩場とやらが近いらしい。
ハティの気配は周囲の獣を威圧するのか、狩場に来るまで殆ど動物に出会わなかった。
旅には便利かもしれないが、今回は獲物を狩らなければいけない。
その獲物が狩る前に逃げてしまっては意味がない。
なのでハティはここでお留守番……というのも酷なので狩場に近付かなければ好きにしていいと伝えた。
「ワン」
わかりました、と言わんばかりに一つ吠えると狩場とは逆の方向に駆けていった。
あれ、絶対特定の単語とかへの条件反射じゃなくて、語彙まで理解してるよな……
……とまぁそんな出来事もありつつ更に西へ1時間。
平原をあるき通しで抜けた先にあったのは巨大な池だった。
俺が狩ったヤギみたいなやつの他にも、鹿や牛っぽいやつも居るし、少し離れたところにはデカイ猫みたいなのもいるな。
アレ絶対肉食だろ。
鹿とかヤギとか当たり前のように水飲んでるけど平気なのか?
……なんて平気なわけ無いか。
危険だと解っててもここで水を飲むしか無いってだけだ。
なるほど、どんな生き物にも水は必要だ。
なら、水場を張っていれば現れた獲物を狩れると思いつくのは人間だけじゃなく獣も一緒ってことか。
此処にこれだけの獣が居るということは、近くに水場がないか、別の獣達のテリトリーにあるかといった所だろうか。
どういう訳かココ最近、妙に身近なところで開き直りの重要性を思い知らされるのは偶然だろうか。
「コイツはツいてるな。沼猪がいやがる」
そう言って指差すガーヴさんの視線の先には、デカイ猪が水を飲んでた。
つかデケェなおい!? 何だあれ恐竜か!?
すぐ近くにいる牛よりも二回りがデカイぞ。
あんなのほんとに狩れるのか?
「沼猪はあの巨体と牙で肉食の獣も撃退しちまう難物だが、デカすぎる図体が災いして森にいるやつと違って走れねぇ。そして群れを作らない事でも知られててな。悪食故か同族が近くで襲われようと我関せずだ。つまり準備さえ整えれば変に群れている小物よりも狩りやすいって訳だ」
「なるほど、群れてる弱い奴よりは単独の強いやつを狙ったほうがいいって事ですね」
「まぁ、限度はあるがな。アレは走れないって弱点があるから、ヤバくなったら走って逃げ切れるって点でも狙い所なんだ。しかも美味い」
「ほう、でかくて美味と」
「悪食故かキノコや果物なんかもよく食うみたいでな。そういう獣の肉は大抵美味いんだ」
「へぇ~、そうなんですか」
そういやリアルでも豚とか牛とか馬、羊、猪と、食肉用の動物って雑食や草食ばっかだな。
やっぱ肉食動物の肉より草食ってる生き物のほうが肉が美味くなるんだろうか?
でも熊肉も美味いって言うよな……食ったこと無いけど。
って事は食ってるものは関係ない?
いや、でも熊にトウモロコシ畑荒らされるとかの話もあるし実は雑食とか?
気になるけど調べる術がねぇ……
この世界のどこかで熊見かけたら観察してみよう。
「デカくて美味い。文句なしの大当たりだ。アレ一頭狩るだけでうちの村なら全員で分けて干し肉にしても数ヶ月分の肉になる。まぁあんなデカイの持ち帰れねぇし全部食う前に腐っちまうから必要な分だけ切り取って持ち帰るんだがな。それでも暫くは肉食生活で派手に食う羽目になるんだが」
「え、一匹でそんなに肉取れるんですか?」
「お前さんが倒したヤギからとった肉、アレだけ毎日肉ばかり食ってもなかなか減らんだろ? 普通に村で暮らしてると毎日肉食ってるわけじゃないからな」
そりゃそうか。
山菜だったり果物だったり、或いは別の肉だったり。
食い飽きないように色んな物食ってたら余程の肉好きでもなければ消費は当然減るのか。
カレーを鍋いっぱい作る時に使う肉がスーパーの豚バラ200グラム。
確か5~6食分だったから1kgの肉がアレば、毎日三食カレーだったとしても10日分の肉になる。
あの猪、見た目からだけじゃ重さは判らんけど100人程度の村人で分け合っても一抱えくらいの量にはなる筈……
二ヶ月分の肉ってのも過言でも何でも無さそうだ。
「ガーヴ、コソ泥は居そうか?」
「この様子なら居ないだろうな。この時間なら山の野犬共も降りてこないだろう。あの山猫にさえ気をつければ問題ない」
「そうか、ならいつもの形で行く。新入りの二人はしっかり見ていろ。追い込んだ後お前らはトドメに加わってもらう」
「わかりました」
「はい!」
「よし、ザジは準備ができたら射掛けろ。3射見たらガーヴ達が突っ込んで足を削れ。ダニア達は横槍を警戒だ」
村長の指示に合わせて皆手慣れた様子で散っていく。
そうか、横やりの警戒も必要なんだな。
ハイエナみたいに狩った獲物を狙うやつも居るってことだな。
ヤギの時はそんな事全く思い浮かばなかったから、覚えておかないとな。
油断しきってたあの時に横槍入れられなかったのは単に運が良かっただけだな……
狩りの様子や注意点を確認している所でガーヴさんが近づいてきた。
「嬢ちゃん。何故、3射だけで俺たちが突っ込むか判るか?」
「んっと…………わかんない……」
「よしよし、初めての時は誰にも解らない事はある。判らないことを判らないと味方に伝えるのはとても大事な事だ。今後も知ったかぶるんじゃなく、ちゃんと判らないと伝えるんだぞ?」
「うん……」
「じゃあキョウ。お前さんは判るか?」
ううん、なんとなく判る気がするがどうなんだろう。
「自身はないけど予想であれば。獲物を矢で蜂の巣にして肉や皮を痛め過ぎないようにするため……ですかね?」
「ほぉ? 狩りは初めてだってのに良く判ったな。若い奴は大抵もっと矢で弱らせてからとか言い出すもんなんだがな」
「肉を狩りに来たのにその肉を自分達でズタズタにするのは流石に本末転倒だと思ったんで。正直自身はなかったですけど」
「いや、気づけるだけ大したもんだ。狩りに出たて若い衆がまず失敗するのがまさにソレだからな。数人がかりで鹿を仕留めたはいいものの、倒す頃にはズタボロでまともに解体も出来やしないなんてことが普通に起こる」
鹿かぁ……鹿はわからないけど確かにヤギの時は死ぬかと思ったしな。
ビビってやりすぎるってのはあるかもしれない。
「おし、じゃあ俺はそろそろ出番が来そうだし前に出るぜ。お前さん達、トドメは任せたぜ?」
「はい!」
「ん!」
俺たちに教えるためにわざわざこっちに来てくれたのか。
なんだかんだで面倒見いいよなあの人。
「始まった!」
一射目が見事背中に突き立った。
驚いた沼豚が逃げ始めた所にもう一射コレは尻に。
そして三発目は進行方向側にキュルキュルと音の鳴る矢が落ちた。
もうバレても関係ないということと、逃げ出した沼豚の進行方向を塞いで混乱させる目的……かな?
そして鏑矢みたいに音の鳴る矢が発射されるとほぼ同時にガーヴさん達が10人前後で沼豚の後ろから一気に襲いかかった。
他の人達は沼豚を囲うように遠間で周囲を警戒している。
かなり手慣れた感じだ。
さっき居たデカイ猫は居なくなっているが、他に警戒する獣がいるような話だったな。
突撃組の半数が正面側で逃げるのを妨害し、残りの半分が後方から後ろ足を槍や柄の長い刃の小さな片刃斧みたいな物で後ろ足を削っている。
聞いていたとおり、アレだけ追い立てられても駆け足程度でしか逃げない。
アレが限界速度ならたしかにどれだけ強くても引き撃ちや一撃離脱でやり様はいくらでもあるな。
まぁ、今回見たくアレだけの巨体を仕留めきるだけの火力を用意できればの話だが。
一人じゃ多分削り切る前にこっちのスタミナ切れで逃げられるだろうなぁ。
時折後ろ足で蹴り上げようとしたり、前方に向かって無理やり牙を突き出そうとする様は見えるが、長物を備えてる狩人たちにはどちらも届かない。
危険な真似はせずジワジワと確実に足を削っていく。
統制が取れている動きだ。
「若ぇ奴らは準備しろ、そろそろコケるぞ。コケた瞬間一気に倒す。新入以外は生きてる足を潰せ。新入二人はトドメだ。やり方は覚えてるな」
「はい!」
「必ずトドメは槍でやる、耳の下から胸の内側に向かって、突く」
「そうだ。動けないからと絶対に近づくな。頭突きだけでも人は死ぬぞ!」
あのサイズだからな、牙に引っ掛けられなくても藻掻いた頭で激突されるだけで車に撥ねられるようなものだ。
間違っても食らっちゃいけない。
「他の連中も油断すんじゃねーぞ。自分よりも狩り慣れてない奴が仲間に加わると、自分はさも手慣れたと勘違いして油断する馬鹿が必ず出る。必要以上に警戒している初心者よりも、借りに慣れ始めたお前ら位が一番危険なんだ」
「解ってますよ、散々仕込まれましたからね」
「というより俺等だって沼豚はトドメでしか参加してねぇんですから、抑えは初心者っすよ。油断できるほど心臓は太くねぇでさ」
……と言う割には結構落ち着いた感じだな。
これが一度でも場数を踏んでるかどうかの違いか。
実戦経験を踏むと見える世界が変わる云々。
「よし、無駄話はそこまでだ。野郎が足を引きずりだした、そろそろコケるぞ」
という村長の言葉とほぼ同時、座り込むようにして尻が地面に落ちた。
転ぶと言うから横に転がるのかと思ったが、後ろ足を削られて自分の体重を支えきれなくなって尻餅をついたのか。
「よし、抑えの連中は行け! 新入達は前足の拘束が終わったら直ぐにとどめを刺すんだ。それまで絶対に手を出すんじゃねーぞ! 狙うのは耳より下、喉から突き入れられれば最適だ!」
「了解!」
「はい!」
抑えの若い衆の後ろから追いかけるようにして狩場に雪崩込む。
抑えの人達は尻餅をついた状態の沼猪を無理やり引き倒すようにして横倒しにすると、U字の器具で片足を地面に縫い付けていく。
こういやって動きを封じるのか。
前足側を抑え込むのに苦戦していた様子だったが、後ろ足の拘束が終わった人達が補助に入ってなんとか左前足側を縫い付けるのに成功していた。
「よし、やれ新入!」
「はい! 行くぞエリス」
「ん!」
柄の長い槍を使って頭の届く外側から胸に向かって槍を突く。
「うわっ!? ……って、ちくしょうやられた!!」
しかし、槍が深く突き刺さった状態で思い切り首を振られたせいでやりが抜けず柄の中程から圧し折られてしまった。
突き刺した部分が頭に近すぎたか!?
あんな太い首で、槍を圧し折られるほど大きく首を振られるとは思わなかった。
「追い打ち、いきます!」
槍の柄を手放した俺が下がるタイミングでエリスがやりの刺さった所よりも下、前足の間辺りから胸に槍を突き入れた。
拘束された足側から突き刺してるので足を使って折られる心配もない位置だ。
俺の失敗を見てすぐに対応したのか。
「そのまま一度、柄の中ほどまで槍を突きこんだら引き抜きながら喉を開け!」
「う、うん!」
力不足で突き込めないエリスを手伝って二人で沼猪の喉を開く。
沼猪が暴れるたびに血が溢れてくる。
「コレが正しい血抜きだ。こうやって生きてるうちに急所を開いて吐き出させるんだ」
なるほど……
生きてるうちに血抜きするっていうのはこういう事か。
確かにヤギの時に俺がやろうとしてたのは血抜きじゃなくてただ肉を洗ってただけだな。
コレは恥ずかしい……!
「本来ならコレで十分だが、沼猪はでかいからコレでも死ぬまで時間がかかる。生命力が強いやつはコレとは別に喉を断っておくといい。窒息して息絶えるのが早くなる」
「此処までデカイとこれだけの手傷を負ってもすぐには死なないのか……」
心臓に槍刺されてまだ死なないとかどんだけ生命力高いんだ……。
「さて、後は村長達の仕事だ。技術は自分でやらなきゃ覚えられんが、処理の手順だけでも見て覚えておくといい」
「はい」
その後の流れは、村長達後続組が沼猪を解体して、それを荷台に載せられるだけ載せ次第村に送るという作業だった。
解体手順はヤギの時に教えてもらったものとほぼ変わらなかったが、ヤギの時と違い吊るせるサイズではないため地面は直置き状態での解体手順という意味では役に立つ知識だ。
あと猪の皮は手で剥くのは辛いらしくナイフでそぎ取るように皮を剥がしていた。
やはり、生で見ながら覚える知識は、又聞きのものと違いすんなり頭に入りやすい。
本音を言えば自分も参加したいところだが、足手まといになるだけだろう。
時間をかければそれだけ肉がだめになり易い。
今回は見て覚えるだけで満足しておこう。
「エリス、大丈夫か?」
「うん……」
沼猪にトドメを指した頃からエリスの口数が減っていた。
まぁこの歳で命の殺生、しかも虫なんかじゃなくこれだけデカイ生き物だ。
ショックを受けないほうがおかしい。
「辛いなら、無理に狩りを覚えなくても、次からはもっと別の事を教えてもらえれるようにお願いしてみるぞ?」
「ううん、わたしはキョウの相棒だから、キョウが出来ることはわたしもできるようにするの」
え、そんな事考えてこの狩りの技術覚えようとしたのか?
もしかして初日のことが相当心に刺さってる?
この場合はどうしたらいいんだ!?
もっと他にも相棒として出来ることは沢山あると示すべきか。
或いは、苦手意識を取り払うためにしっかりと狩りを覚えてもらうべきか……
どっちも正しいと思うんだよなぁ。
一つに事にとらわれて視野狭窄に陥るのは悪い傾向ではあるけど、うまくいかない事に対して徹底的に練習して克服しようとするのは格ゲーで負けた後、敗因を只管トレモで練習繰り返してた俺としては否定したくはないんだよなぁ。
……此処はゲームの世界だから、俺流のやり方と同じ方法でやる気を出してる今を否定するのはやめておくか。
「じゃあ、思う存分やってみろ。止め刺しも俺よりもエリスのほうがうまく攻撃できてたんだしな。ただし、何か困ったり詰まったりしたらちゃんと俺や周りの大人に知らせること」
「うん……」
「エリスは一部で既に俺よりもうまく色々なことが出来てるよ。頑張るのは大事だが、頑張り過ぎるのはダメだ。やりすぎってのは大抵失敗するからな」
「わかった、がんばり過ぎないようにがんばる……」
あれ、ちゃんと伝わってる……よな?
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その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
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