ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

四十八話 チャレンジバトルⅢ

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「それじゃサイコロどうぞ」
「あら、私が振って良いんですか?」
「そりゃ俺よりも声優さんが振ったほうが絵的に良くないですか?」
「ああ、番組的な意味で……わかりました。ここは派手に8を狙ってみましょうか」
「人気声優の『持ってる』ってところを見せてくださよ」
「まかせんさい!」
 
 おお、腕ブンブン振り回してのやる気アピールだ。
 まぁサイコロ振るだけなんだが。

「おおっと、結城さん……もとい、チェリーブロッサムさんの予告8です! コレは期待が高まります!!」
「……いやちょと、ガチ期待とか変にプレッシャー掛けるのやめてくれません?」
「人気女性声優だからといって対応が変わるほどこの運営に空気の読める人はいません!」

 いやそこは読んどこうぜ!

「さぁ、チェリーブロッサムの運命の一投は…………2! なんと2です! さすが人気声優は持ってるものが違いますねぇ。丁度公式プレイヤー全員と同じ人数で締めてくれました!」
「マジでか!?」
「ああああああ、ごめんなさいキョウさんやらかした~~!!」

 おいおい、考えうる最悪なんじゃねーか。
 今まで全員勝ってきた中俺達だけ勝てないとか流石に嫌だぞ。
 今までの傾向を見るとこちらの人数でモンスター側の難易度をある程度調整してあるようだけど。

 ルビースケイルの正確なレベルは分からなけど、レベル3の大人数パーティを前提にしてるって言ってたから4だと想定すればライノスやバジリコックと同等と考えられる。
 レベルが上ったとは言え、ここでライノスが出てきたら勝てる気がしない。
 前よりも避け続けることは出来るだろうが結局火力貢献が一切できないからだ。
 チェリーさんがLV3だというからメイン火力は彼女任せになる。
 バジリコックくらい脆いモンスターであれば俺の攻撃でも……いや、今俺が持ってるのはミアリギスではなく初期装備のショートソード……

 ……ん?

「あの、何でみんな得意武器持ってるのに俺だけ初期装備のショートソードなんです?」
「え? 事前に得意武器を受け取ってませんか? テストサーバからのコンバートの場合持っていた武器の最弱品が自動的に所持品に入るはずですが……」
「いえ、コレしか無かったんですけど……」
「あれ、おかしいですね……」

 ディレクターが焦った感じでスタッフに確認の指示を飛ばしてる。
 あ、これ多分ガチのトラブルだ。

「これは……ちょっとマジモンのトラブル発生のようですね……」

 テンション振り切ってたはずのC1さんもコレには流石に困惑している。

「ちなみに、テストではどのような武器を使っていたんですか?」
「ミアリギスって名前の鎌と槍の間の子のような武器です」

 何やらカンペ的にウィンドウ操作しながら確認するディレクターに対してとりあえず普通に答える。

「鎌槍……? ハルバート系か? ちょっと今すぐ理由を調べることは出来ないですが、恐らくですが……対応する初期武器種がないためショートソードが選ばれたんじゃないかと思います。 慣れない武器で本当に申し訳ないですがこのバトルはショートソードでお願いします」
「はぁ……まぁ、そういう事なら」

 仕方ない……とは言えどうしたものか。
 レベル2のサソリを削るにも苦労した俺がバジリコックを倒せたのは恐らくミアリギスに持ち替えたことによる火力向上が原因だ。
 LV1上位のときにLV2中位相手に火力不足を実感していたのに、LV2初期でLV4をショートソードで相手にするとか無理がありすぎないだろうか。
 いや、レベル4が来るとは限らんのだけど。

「ごめんなさい、なんか踏んだり蹴ったりな状況になってる所にサイコロしくじっちゃって……キョウさんのレベルは2に上がったばかりですよね?」
「ええ、まぁ先週まではコレと全く同じショートソード使ってたんで多少はいけると思いますけど、問題は火力ですかねぇ。急所を狙っても、果たしてダメージが通るかどうか」
「私のキャラはレベル3の中盤あたりのステータスがありますし、パワー系の槍使いなので火力は私がメインですね。対戦モンスターが決まるまではまだなんとも言えませんけど、キョウさんはやられないように立ち回りながら可能なら隙を見て削るという戦い方でお願いします」

 まぁ、LV差を考慮すればそれがやっぱり現実的だよな。
 見てる側も声優のガチプレイ見たほうが盛り上がるだろうし。

「さて、公式テスターに相対するモンスターですが……、おや、コレは私も見たことがない名前ですが、コレはモンスターなんでしょうか?」

 ――何?

「せっかくの正式版オープン記念ということで最後の一戦はβテストには見ることが出来なかった相手をチョイスしました。ちょっとしたサプライズというやつですね」
「あ、なるほど。それで私も知らないモンスターが……って4番目は有りなんですか!?」
「ええ、モンスターではありませんし、健全にプレイしていればまず遭遇することはありませんが、ちゃんとこういった存在が居るんですよというお披露目に近い形ですね」

 なんか嫌な予感が……
 チェリーさんも同様なのかちょっと顔がひきつっている。

「結果が出ました! アンケートは……まぁそうですよね。 4番の王国近衛騎士団長エドワルトです!」

 おいおい、人相手かよ!?

「ええ、ここで公式チームのお二人には非常に残念なお知らせがあります」

 ほほう?

「エドワルトは王国近衛団長という言葉からも分かる通り、この街の王城において最強のNPCです。設定LVは5でAIも非常に優れたものが入っているため、お二人のLVでは撃破はほぼ不可能です」
「え、戦う前から負け確とか酷くね?」
「はい。自分でチョイスしておいて言うのもなんですが、私も正直どうかと思います。SADさん達のパーティであれば可能性はあったんですが、まさか最後の最後で2を引くとは……」

 あ、チェリーさんがうずくまった。
 頭抱えて振るえている。

「なので今回だけの変則ルールです。エドワルトへ目に見えた大ダメージを与えるか、HPの10%を削ることができれば勝ちとします」

 20%か……
 同じLV5なのにSAD達パーティで可能性がある程度の勝利予測だということは、額面通りのステータスじゃないってことだよな……?
 LV5の初期装備4人を相手取って五分以上って事は、さっきのルビースケイルのようにボス特性でHPとかが高く設定してあるか、あるいは人数さを覆せる程装備の性能が高いか……
 どっちにしろろくなもんじゃないな。
 先週SADと戦った時は、ショートソードでは急所攻撃が直撃しても殆どダメージにならなかった。
 だけど、GAMMA……製品版でもALPHA同様に弱点が存在することはサソリでいろいろ試して確認している。
 その後、SADの持っていた武器でダメージを与えられたことから単純な攻撃力不足だったことは確定したけど、問題はその声質だ。
 あれが基礎ステータスのVIT補正ではなく、最終的な防御力補正の効果だった場合、ファンタジーでよくある防御面積が極端に少ないビキニアーマー系であっても防御力さえ高ければむき出しのお腹とかを斬られてもそこらの鉄鎧よりも頑丈になるって可能性があるのか。
 この超強そうな装備した近衛騎士団長はどうなるんだろう。
 なんか、どこ攻撃してもダメージ通らない可能性が……

 ――と焦ってみたものの、実はリアル志向のこのゲームのことだから、おそらくそこまで大雑把にはくくってないとは思いもする。
 非力なアサシン系が屈強な戦士系を相手にする時に有効なバックスタブ系スキルが死んでしまいかねないしな。

「ごめん、相手がLV5じゃ、私もキョウさんも等しく火力が足りないと思う。まともに戦えばまず負ける」
「でしょうね。あの全身鎧とか超硬そうだし、鎧付けてる場所へはほぼダメージが通らないと見ていいんじゃないかな」
「だよね……とはいえむき出しになってるのってパッと見て顔だけなんだけど、あの人かなり背が高いよね? 普通に狙うにも胴鎧が邪魔なんだけど」

 ああ、チェリーさんのアバター、身長160もなさそうだからな。
 あのエドワルトってやつは、2m近くありそうだから、槍で突こうにも射程に入ると見上げる格好になるのか。
 確度があるせいでむき出しの顔が胸鎧の影に隠れる……か。
 FPS視点せいで極端な体格差はそれだけで有利不利が出てくるのか。 

「でもそれって、考え方によっては相手にとっても小さなチェリーさん相手にすると自分の鎧で死角が多くなってるってことでもあるんじゃない?」
「あ、たしかにそれはあるかも?」

 人間型だし探知能力は基本視覚探知がメインだと思う。
 嗅覚探知はほとんど働かないと思うし、あの鎧でガチャガチャ動いてれば聴覚探知もそれほど優れてい無さそうだ。

「装備的にもLV的にも間違いなく俺よりもチェリーさんのほうが高ダメージを狙えますから、俺が囮をやって注意を引きますんでなんとか隙を見つけ死角からダメージを狙ってみてください」
「え、流石に私よりも低レベルで初期装備の人にタンクまがいな事させるのは……」
「でも、チェリーさんが囮役やっても攻め役の俺の火力が足りなきゃ意味ないですよ?」
「そうなんだよねぇ……わかった。囮役お願いします」
「任された」

 まぁ、俺の方でもダメージを与えられる方法がないか探るつもりではある。
 負けイベントのバトルに無理やり勝つのはRPGなら割とメジャーなやりこみプレイだしな。
 対SADの時のように武器を手放してくれれば火力を補うことは出来るが、こいつの武器が装備扱いなのか、こういう装備をしているというデザインなだけのモンスター扱いなのかもまだ判らんし、確認することはかなり多いな。
 救いなのは公式からまず撃破できないというお墨付きが出たって事か。
 本職が声優のチェリーさんはともかく、テスターである俺が公式プレイヤーの中で唯一の敗北者とか流石に格好悪すぎて嫌だが、強力なモンスターのお披露目での勝てない前提の負けバトルというならまだ体裁が保てる。
 ALPHAでも、どうにも格上とばかり戦っている気がするし、野獣使いのように今後も人間型相手に戦う可能性もあるし、ここで格上の人間型との戦い方のノウハウを少しでも手に入れておこう。
 こっちなら感覚が他人事で、痛みも大した事無いし訓練的な意味ではかなり便利なんだ。
 近衛騎士団長のお披露目に無理ゲーの負け戦吹っ掛けられてるんだ。
 ならこっちも、この状況をフルに利用させてもらうとしよう。


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