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二章
五十話 チャレンジバトルV
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◇◇◇
「凄……」
低レベルでありながらタンカー役を引き受けてくれたキョウさんの為にも、なんとかして不意を突くべくエドワルトの背後から隙を伺い続けていた。
でも困ったことに付け入る隙がまるで無い。
本当にAIなのかと疑いたくなるほど、背後に居るはずの私の意図を読んで対応してくる。
そのため、キョウさんが削りきられる前に手を打たなければならないと判っていても、手を出すことができないでいた。
そして、手を出しかねていた私の目の前で、今とんでもないレベルの戦いが繰り広げられていた。
決して派手ではない。
むしろすごく地味だ。
最初は大きく動いてエドワルトの攻撃を避けていたキョウさんの動きがいつの間にか変わっていた。
動きは小さくコンパクトに。
飛び跳ねるように避けてた攻撃を、今はたった一歩で捌いている。
筋弛緩のための体内電気を読み取って動かすこのゲームの構造上、ゲームの中で派手に動けばプレイヤーも当然疲労する。
避ける動きがコンパクトになれば、疲労も溜まりにくく、追い詰められにくくなる。
反撃の体力だって温存できるだろう。
でも、このゲームのプレイヤーなら分かるはず。
その当然の事を頭ではわかっていても簡単に実行できるものじゃないって。
喰らえば大ダメージの攻撃を紙一重で避けるなんてリスク・リターンが割に合わない。
AGIが高ければ攻撃を喰らっていてもmissになるRPGとは違う。
早く動けるようにはなるが、喰らってしまえば当然ダメージになるのだ。
ましてや今相手にしているのは遥かな格上だ。
アタリどころが悪ければ一撃でおしまい、そんな相手に――
「なんであそこまで攻められるの……?」
地味な戦い。
おそらく牽制の繰り返しなんだろう。
でもその内容はとても普通とは言えない。
ただ闇雲に攻めかかっているだけじゃない。
エドワルトの攻撃をすべて紙一重で避けて踏み込んでいく。
怖いもの知らずの特攻野郎なのかと思えば、踏み込みの足運びを突然帰ることで一歩の後退で相手の攻撃を寸断させてみせたりもする。
これが本当にゲーマーの動きなの?
このゲームはいくらゲーム操作がうまくてもそれだけではまともに動けない。
というかゲームずくめで普段運動不足がちなゲーマーだからこそ、そうそう出来る動きではない筈なんだけど……
普段から演劇なんかのレッスンで身体を動かしていた私でも、思うようにキャラを動かせるようになるまでそれなりに時間がかかったのに。
この人、格ゲー全一だって話だった筈だけど、それって普通の人以上にゲームにかかりっ切りなんじゃないの?
あの動き、もしかしてリアル剣道家……それもとんでもない達人なんじゃ?
しかもテレビなんかでたまに出る『どう凄いのか判りにくい』武術の達人なんかじゃない。
漫画やアニメに出てくる、『わかりやすい凄さ』だ。
「良い眼であるな。攻め時も常に応手に気を配っている」
「そっちこそ……常にこっちの不意打ちに対応してくれちゃって」
軽口を叩きあいながらやっている攻防は、とても軽々しい内容じゃない。
……んだけど、対応は出来てるけどやっぱりレベル差がありすぎる。
火力が足らなすぎる。
最初から判ってたことだけど。
だからこそ私がアタッカー役を請け負ったんだけど、付け入る好きがなさすぎるのよね……
エドワルトの位置取りがうますぎる。
常に側面をリング端に置いているか、私とキョウさん両方を視界に入れる位置を確保している。
これだと、たとえ私が視界から外れても私の位置が真後ろだと確定しちゃってる。
それに、さっきから私の踏み込む足音に反応しているのか一定の距離を詰めるとこちらに視線を向けてくる。
私のAGIじゃ、あの探知範囲外から全力で踏み込んでも後出しで余裕で反応されちゃう。
「いくら何でも強すぎでしょ。どうしろっていうのよ……」
ルビースケイルなんて相手にならないレベルの強さだし。
確かにこれはディレクターが勝てなくて当然だと言ったのも分かる。
だとすれば、そんな奴相手に私より低レベルなのに正面から戦って平気で立っているキョウさんは一体なんなの?
これがこのゲームにおけるプレイヤースキルの差?
一般ゲームに比べてもかなり強烈なこのゲームのレベル補正すら覆す、プレイヤースキルの可能性が今目の前で繰り広げられている光景?
当たらなければどうということはない……と冗談でよく言われるが、そうはいっても全部を避けるのは無理がある。
わかっていたって避けられない攻撃はいつか来るし、下手に回避に専念しても攻め手が出せずにいつまで経っても敵を倒せない。
だから多少強引であってもやられる前に高火力で焼き尽くす、理想をいえば1ターンKILL。
そうでなくても被害は気にせず如何に早く敵を倒せる編成を組むかっていうのが今までやった殆どのゲームでの最適解だった。
いわゆる『殺られる前に殺れ』のスタイル。
でも、キョウさんのスタイルはまさにその対極。
意地でも喰らわないって考えが伝わってくる。
しかも対応力がずば抜けているのか、避けるための動きが目に見えて効率化されていく。
スタンダードがゴリ押し型であるなら、彼のスタンスは対応型といえる。
これが格ゲープレイヤーとしての彼の身に染みついたスタイルなんだろう。
避けて避けて、避け続けているうちに避けながら前に進めるようになり、しまいには反撃のセットまで。
「こんなの……」
システム的な絶対的不利をプレイヤーの腕で覆す。
ゲーマーであればこれに憧れないなんて絶対嘘だ。
今、私の目の前ではそんな憧れを体現するようなプレイが行われている。
こんなの、絶対見逃す訳にはいかない。
「むぅっ?」
つい、目的を忘れてエドワルトよりも彼の動きの方に意識を向けたそのタイミングで唐突に変化があった。
それは本当に唐突だった。
それまで、エドワルトの攻撃を避けつつ踏み込み、追い返されるというやり取りを繰り返してきた彼の動きが突然不安定なものになった。
でもそれは、体制が崩れたとかそういう訳ではなく……
「ぬ……ぅ?」
緩急の付け方!
踏み込み系のスキルで急加速しておきながら次の一歩で突然の急減速、続く一歩で急加速といった一歩ごとに速度を切り替え始めたんだ。
スキルクールタイムの概念のないこのゲームならではの動きだけど……
一体どうやってあの加速を一歩で踏みとどまってるのかしら?
踏み込み系のスキルの発動は極めて簡単だ。
スキルを持っている人なら強く意識して前傾に一歩を踏み出せばオートで発動する。
でもそれを止めようと思えば反動でかなりの距離を必要とする。
私の場合、踏み込みからのスパイラルチャージを空振った時なんか、急制動に地面を削りながら数メートル近くもスライディングするハメになる。
それを、彼は踏み込みなんて無かったかのようにゆっくりとした二歩目でエドワルトの空振りを誘っている。
本当に彼はLV2なの?
とてもLVと動きが一致してない――
……いえ、そうじゃないんだわ。
ただ高ステータスに任せてスキルを振り回す私達と、正しくスキルとアバターを使いこなす彼との決定的な差。
アレが本来のLV2のプレイヤーが発揮できる筈のポテンシャルなんだ。
つまり、私もちゃんとした戦い方を覚えれば、彼のように、漫画の登場人物みたいな戦いができる……?
「やば、なにそれ……めちゃくちゃアツい……!」
もっと、もっと見せて欲しい。
身体の使い方、スキルの使い方、そして――
このゲームでの本来の戦い方を!
◇◇◇
意外な所で役に立つもんだな。
まさか足の怪我のせいで派手に動けなかった時にやっていた重心移動の訓練がこんな所で役に立つとは。
というか、こんな短時間でこれほどの効果が出るとかどんだけスペックの高い身体なんだコレ。
確かにゲームでレベル上げると目に見えて強くなるけど、いざ実感してみると凄まじいな。
そりゃ勇者も剣一本でブイブイいわせるわけだ。
しかもこっちのサーバの場合、多少無茶な動きをしても身体が悲鳴をあげることがない。
全く感じないわけじゃないけど、それでも向こう側に比べれば感じないも同然のレベルだ。
痛みを感じないだけで、身体へのダメージは溜まってるんじゃないのかとも考えたが、さっきからの無茶な急制動でも足を痛めた様子がない。
前回のテストのときから薄々気付いていたが、普段できないような無茶な動きにも身体が答えてくれる。
リアルを追求しすぎたALPHAと違い、こちらのサーバはより『ゲーム体験』を追求した結果の差なんだろう。
まだ確定ではないが、おそらく構造的に『無理』な動きは制限されるが、攻撃でしかダメージを受けないから『無茶』な動きはいくらでも出来る。
そうと分かれば当然、普段向こうでできないような無茶をしたくなるというものである。
今までは見せずに取っておいた【飛影】からの【疾走】を使った三段加速でイナズマ状に一気に懐に飛び込む。
突然の急加速にエドワルトも初見では反応できていない!
届いた。脇の下もらいっ!?
「……っちょ!?」
防がれた!?
まじかよ……完全に不意は付けていた。
間違いなく防御は間に合ってなかったのに。
「フ……フハハハハ! 面白い、実に面白いのである! 一手進むたびに動きが変わる! 実に破天荒。それでいて思いの外スキがない。お前のような者は見たことがないぞ!」
「そうかい? 俺なんかよりすごいやつなんてこの世の中にゃごまんと居ると思うがね」
「であるなら、我もまた知見が浅いと見える。近衛騎士団長の身でありながら、まっこと未熟の極みであるな!」
身体を巻き込むように腰溜めに剣を構え、力を蓄えるかのように地を踏みしめ腰を引く構え。
あの腰を浅く引く動きから来るのは今のところ水平斬りか、踏み込みの二択。
左方の動きは――踏み込み斬り!
神速の逆袈裟を右に踏み込む事ですれ違うように起動から逸れる。
だが、こいつはここで終わらない。すれ違いざまにエドワルトを確認してみれば、既に逆袈裟の勢いのまま振り上げた剣を持ち替え、そのまま背負投のような勢いの打ち下ろしのモーションに入っている。
やっと、このほぼ0距離のタイミングで両手を使ってくれた。
これをずっと待っていたんだよ!
背後のエドワルとの方を振り向かずに、バックステップを踏むように剣を振り下ろそうとするエドワルトの脇の下に背中から飛び込む
「ぬぅっ!?」
間合いの内側に飛び込んだ俺に対してエドワルトも即座に剣を逆手に持ち替え、懐の俺に逆手突きを放ってくる。
だが――
「貴様! よもや最初からこれが狙いか!?」
流石に気付かれるか。
しかし、今更気づいた所で
「もう遅い」
背中と肩で押すようにエドワルトの身体に密着し、がら空きの脇腹を狙う……わけでもなく、腰に吊るしてあったサブウェポン、それも強そうな奴を一気に引き抜く。
SADとの戦いでコレの有効性は確認済み。
ガーヴさんからも装備の重要性はきっちり仕込まれたからな。
レベルも装備も劣るオレたちがこいつに有効打を与える方法があるとしたらコレしか無いだろ。
これにはさすがのエドワルトも流石に危険と判断したのか、その強脚を使って一気にバックステップで――
「やらせないって!」
距離を取ろうとしたエドワルトの腕に引っ掛けるようにチェリーさんの槍が突きこまれていた。
「何だとっ!?」
下がろうとした身体と腕の間に差し込むように突きこまれた槍は、初期武器の悲しさか、耐久値を一気に持っていかれへし折れてしまった。
だが、槍一本の犠牲と引き換えにエドワルトは体制を立て直しきれていない。
やるなら今しかない!
「そこっ!」
つんのめるようにして体制を崩しているエドワルトのむき出しの顔に向かって全力で剣を振り下ろす。
だが、流石に反応が早い。
咄嗟に武器を捨て、両腕を使って顔を庇おうとするエドワルト。
ガントレットで完全に量腕で顔の前面を覆われてしまい、これでは顔への攻撃は一切不可能だ。
だが、今回はそれでいい。
わざわざ反応できるようにおおきく振りかぶって、声まで出したんだ。
しっかり防御してくれなきゃ困る。
狙っていたのは元々顔面などではなく……
「えっ?……あっ!」
俺が放り投げたエドワルトの剣を一瞬呆然として受け取ったチェリーさんが、それでも即座に意図を理解してエドワルトに切りかかった。
いくら良い武器をぶんどったとは言え、ああも全身鎧で防御を固められたら俺じゃ大ダメージを狙うのは難しい。
なら俺よりSTR高いチェリーさんに任せるのは当然の流れだろう。
当初の予定とは結構変わってしまったが、こういう辺りゲーム慣れしてるっていうか、説明しなくても伝わってくれて助かる。
「ぐ……ぬぅぅ、小娘ぇ!」
メイン武器を手放してしまい防御の上からめった切りにされていては迂闊にサブ武器を引き抜くこともできない。
で、そんな状況で俺は何をしているのかと言えば、エドワルトの手放したメイン武器の剣を拾い上げていた。
流石に強そうな剣だ。
これなら非力な俺でもエドワルトにダメージが与えられるかも知れない。
チェリーさんはエドワルトを完全に防戦一方に追い込んでいるが攻めきれていない様子。
このまま変に形勢を変えられるまえに、ここは一気に崩させてもらう……!
固めに崩しは追い込みの基本ってな。
切り結んでいる二人の間を割るように飛び込み、エドワルトを逆袈裟に切り上げる。
火力はあるが攻めきれないチェリーさんと、危険な武器で脇の下狙いの俺の攻撃。
どっちに反応するかと言えば……
「ぐっ……おおおおお!」
やっぱりこっちに反応するよな。
下段からの切り上げを膝と肘を合わせるようにして鎧を盾に受けきってみせる。
だが、そんなことをすれば当然。
「やああああああ!」
「ごぁっ……!?」
片腕では捌ききれなかったチェリーさんの一撃がエドワルトの頭を捉えた。
製品版には流血表現が無いためダメージエフェクトのみだが、確実に届いている。
「ぬっ……ぐぅぅ………」
エドワルトは倒れては居ないが、膝をついて立ち上がれないでいる。
頭部への強烈な一撃だったから脳震盪扱いでスタン判定でも入ってるのか?
どうせなら気絶判定になってくれれば良かったんだが、まぁこれでも大丈夫だろう。
なんせ、俺達の勝利条件の達成にはエドワルトを倒す必要はないんだから。
「ヘイ! ジャッジ! 頭部へのフルスイングにスタン判定。エドワルトは膝を付いてるんだけど、これで俺らの勝利条件クリアだよな?」
勝利条件はエドワルトに目に見えたダメージを与えればいいということだったはず。
頭部への強打とスタンのセットなら十分満たしていると思うんだが、さぁどうだ?
「え……あっと……ディレクター、どうでしょうか!?」
「これは……ええ、文句なしでしょう」
「ディレクターからのOKが出ました! チェリーブロッサム&キョウチームの勝利です!!」
よしっ!
正直アレでも駄目っていわれたらどうしようかと思っていたが、無事勝ちが認められたようだ。
「ぬぅ……我の負けであるか。ぬかった……」
「強いの一発入れれば俺らの勝ちってルールだったからな。普通の一対一でやったら俺じゃまず勝てなかったよ」
「抜かせ、戦場にそのような甘えは許されぬ。二対一とはいえ、完全武装の我となまくらしか渡されなかったそちらという時点でハンデなどあってないようなものであった。ここは素直に勝ちを誇るが良い。……そこの娘もな」
「え……?」
いきなり呼ばれた本人は「何で?」みたいな顔をしていた。
すっとぼけてるんじゃなくて素の反応だなアレ。
「貴様の横やり、見事なものであった。警戒はしておったのだがあの瞬間は完全に不意を点かれてしまったわ」
「横やりに不意打ちって、あまり褒められたもんじゃないけどね……」
「何を言う、ああした行動によって仲間の命が救われるのだ。誇ってしかるべきである!」
「そ、そう?」
実際、あの横やりはナイスアシストと喝采したいタイミングだった。
アレのおかげでもっと粘る予定だったのが一気に決着まで進んだわけだし。
「……さて、我はそろそろお役御免のようであるな。城に戻るとしよう」
「あ、なんかお疲れ様っす」
「またいずれ、今度は対等な条件で腕を競ってみたいものである。ではさらばだ!」
そういってエドワルトはのっしのっしとコロシアムから退場していった。
今さっき頭を痛打されたばかりだってのに完全にダメージは抜けきっているようだ。
タフだなぁ……
「なんか解っていたつもりで今更なんだけど……」
「んん?」
「普通に人間と会話してるのとほんとに変わらないわね。一瞬相手がNPCだって頭から抜けて喋ってたわ」
「確かに、このゲームのAIは他のゲームに比べて一つか二つ世代をすっ飛ばしたかのようなレベルで自然な受け答えするんだよなぁ。もう目をつぶって会話したら人間と全く区別つかないよ」
「だよねぇ……一般NPCも特定のルーチン行動してるわけじゃなく、住民として生活してるもの。新世界とはよく言ったものだわ」
実際、俺にとっては本当の意味で新世界なんだよなぁ。
俺にとってALPHAサーバでの生活は完全にセカンドライフになっている。
こっちのサーバはどっちかというと遊園地みたいな感じだけど、それはそれで気楽に居られて悪くない。
「いやぁ、しかし凄まじい戦いでした! 本日最初のステージからこんな白熱した戦いが見られるとは私も想定外でした! そして大変申し訳ありません、あまりの戦いに司会進行でありながら見入ってしまってい完全に喋りを忘れていました!」
「駄目でしょう、司会進行がそれじゃぁ」
「いやいや、秋元Dも完全に見に入ってたじゃないですか。そういう僕も目を離せなかった一人ですが」
「まさか、本当に勝利条件を満たしてしまうとは……これね、ネットで見てる方や、まだプレイしてない方にはちょっと伝わりにくいかも知れませんけど、とんでもない事なんですよ?」
「実は近日中に実装予定のPVPのテストプレイで当時LV1の彼とLV5のSADとの一騎打ちがあったのですがそこでも我々の度肝を抜く戦いを見せてくれたキョウさんですが、オープニングイベントのこの場で再び素晴らしい戦いを見せてくれました!」
「彼だけではないですよ。チェリーブロッサムさんの機転を利かせたアシストやトドメの一撃など、実に鮮やかな仕事でした。即席コンビとは思えないコンビネーションでしたね!」
「凄まじいプレイヤースキルに対して低レベルゆえのキョウさんの火力の無さを、高レベルのチェリーブロッサムさんの一撃が補う。完璧なチームワークでしたね」
ステージの方はまだ何か話しているようだがこちらは終わりらしい。
案内に従って二人でステージを降りた。
ポータルに入る直前、C1さんのこんなコメントが聞こえた。
「なお、今話題に出たPVPですが、このステージ終了後、オープニングイベント第一部終了の明後日までコロシアム限定でお試しプレイが可能となります。対人線に興味がある方や、今の戦いの熱気に当てられた方はぜひご参加ください!」
オープンイベントでコンテンツテストやるのかよ!?
……いや、プレイヤーからすると先行プレイってことになるのか?
「なんか、散々だったけど勝ててよかったー」
「ホント、よく勝てたなって感じだった……」
「やー、途中から私あの場に要らないんじゃないかってちょっと焦ってたんだけど、最後に見せ場くれてありがとね」
「いやいや、最初から期待してましたって。僕じゃエドワルトに有効打入れられませんし」
「ほんとにー?」
「マジマジ」
いや、本気でオレ一人だけだと打つ手無かったんだよな。
SADのファンタジーケッケー鎧と違って、エドワルトの鎧はプレートメイルの上に下にチェインメイル重ね着してたから弱点らしい弱点がむき出しの顔しか無かったんだよな。
脇腹狙いの一撃でこっちのショートソードがいきなり刃こぼれして何事かと焦ったわ。
「まぁ、何にせよ本当にお疲れ様~。流石に疲れたから控室で少し休みます」
「あ、お疲れ様っす。俺は……どうしようかな」
暫くは出番はないし、予定も特にこの後は入ってないんだよな。
こっちの地理とかちっとも判らんしな。
それにしても疲れた。
エリス達と散歩がてら低レベルの狩場の様子でも見ようかと思ったけど暫くはバトルって感じじゃないな……
休憩でボーッとするのもなんか時間がもったいないし、せっかくだしエリス達と街の中をどこか適当にブラブラしてみるか?
体動かしたし軽く飯でも……って、あれ?
そう言えばさっきハティはガツガツ食ってたけど、俺の場合こっちのサ―バで飯食ったら腹膨れるんだろうか?
「凄……」
低レベルでありながらタンカー役を引き受けてくれたキョウさんの為にも、なんとかして不意を突くべくエドワルトの背後から隙を伺い続けていた。
でも困ったことに付け入る隙がまるで無い。
本当にAIなのかと疑いたくなるほど、背後に居るはずの私の意図を読んで対応してくる。
そのため、キョウさんが削りきられる前に手を打たなければならないと判っていても、手を出すことができないでいた。
そして、手を出しかねていた私の目の前で、今とんでもないレベルの戦いが繰り広げられていた。
決して派手ではない。
むしろすごく地味だ。
最初は大きく動いてエドワルトの攻撃を避けていたキョウさんの動きがいつの間にか変わっていた。
動きは小さくコンパクトに。
飛び跳ねるように避けてた攻撃を、今はたった一歩で捌いている。
筋弛緩のための体内電気を読み取って動かすこのゲームの構造上、ゲームの中で派手に動けばプレイヤーも当然疲労する。
避ける動きがコンパクトになれば、疲労も溜まりにくく、追い詰められにくくなる。
反撃の体力だって温存できるだろう。
でも、このゲームのプレイヤーなら分かるはず。
その当然の事を頭ではわかっていても簡単に実行できるものじゃないって。
喰らえば大ダメージの攻撃を紙一重で避けるなんてリスク・リターンが割に合わない。
AGIが高ければ攻撃を喰らっていてもmissになるRPGとは違う。
早く動けるようにはなるが、喰らってしまえば当然ダメージになるのだ。
ましてや今相手にしているのは遥かな格上だ。
アタリどころが悪ければ一撃でおしまい、そんな相手に――
「なんであそこまで攻められるの……?」
地味な戦い。
おそらく牽制の繰り返しなんだろう。
でもその内容はとても普通とは言えない。
ただ闇雲に攻めかかっているだけじゃない。
エドワルトの攻撃をすべて紙一重で避けて踏み込んでいく。
怖いもの知らずの特攻野郎なのかと思えば、踏み込みの足運びを突然帰ることで一歩の後退で相手の攻撃を寸断させてみせたりもする。
これが本当にゲーマーの動きなの?
このゲームはいくらゲーム操作がうまくてもそれだけではまともに動けない。
というかゲームずくめで普段運動不足がちなゲーマーだからこそ、そうそう出来る動きではない筈なんだけど……
普段から演劇なんかのレッスンで身体を動かしていた私でも、思うようにキャラを動かせるようになるまでそれなりに時間がかかったのに。
この人、格ゲー全一だって話だった筈だけど、それって普通の人以上にゲームにかかりっ切りなんじゃないの?
あの動き、もしかしてリアル剣道家……それもとんでもない達人なんじゃ?
しかもテレビなんかでたまに出る『どう凄いのか判りにくい』武術の達人なんかじゃない。
漫画やアニメに出てくる、『わかりやすい凄さ』だ。
「良い眼であるな。攻め時も常に応手に気を配っている」
「そっちこそ……常にこっちの不意打ちに対応してくれちゃって」
軽口を叩きあいながらやっている攻防は、とても軽々しい内容じゃない。
……んだけど、対応は出来てるけどやっぱりレベル差がありすぎる。
火力が足らなすぎる。
最初から判ってたことだけど。
だからこそ私がアタッカー役を請け負ったんだけど、付け入る好きがなさすぎるのよね……
エドワルトの位置取りがうますぎる。
常に側面をリング端に置いているか、私とキョウさん両方を視界に入れる位置を確保している。
これだと、たとえ私が視界から外れても私の位置が真後ろだと確定しちゃってる。
それに、さっきから私の踏み込む足音に反応しているのか一定の距離を詰めるとこちらに視線を向けてくる。
私のAGIじゃ、あの探知範囲外から全力で踏み込んでも後出しで余裕で反応されちゃう。
「いくら何でも強すぎでしょ。どうしろっていうのよ……」
ルビースケイルなんて相手にならないレベルの強さだし。
確かにこれはディレクターが勝てなくて当然だと言ったのも分かる。
だとすれば、そんな奴相手に私より低レベルなのに正面から戦って平気で立っているキョウさんは一体なんなの?
これがこのゲームにおけるプレイヤースキルの差?
一般ゲームに比べてもかなり強烈なこのゲームのレベル補正すら覆す、プレイヤースキルの可能性が今目の前で繰り広げられている光景?
当たらなければどうということはない……と冗談でよく言われるが、そうはいっても全部を避けるのは無理がある。
わかっていたって避けられない攻撃はいつか来るし、下手に回避に専念しても攻め手が出せずにいつまで経っても敵を倒せない。
だから多少強引であってもやられる前に高火力で焼き尽くす、理想をいえば1ターンKILL。
そうでなくても被害は気にせず如何に早く敵を倒せる編成を組むかっていうのが今までやった殆どのゲームでの最適解だった。
いわゆる『殺られる前に殺れ』のスタイル。
でも、キョウさんのスタイルはまさにその対極。
意地でも喰らわないって考えが伝わってくる。
しかも対応力がずば抜けているのか、避けるための動きが目に見えて効率化されていく。
スタンダードがゴリ押し型であるなら、彼のスタンスは対応型といえる。
これが格ゲープレイヤーとしての彼の身に染みついたスタイルなんだろう。
避けて避けて、避け続けているうちに避けながら前に進めるようになり、しまいには反撃のセットまで。
「こんなの……」
システム的な絶対的不利をプレイヤーの腕で覆す。
ゲーマーであればこれに憧れないなんて絶対嘘だ。
今、私の目の前ではそんな憧れを体現するようなプレイが行われている。
こんなの、絶対見逃す訳にはいかない。
「むぅっ?」
つい、目的を忘れてエドワルトよりも彼の動きの方に意識を向けたそのタイミングで唐突に変化があった。
それは本当に唐突だった。
それまで、エドワルトの攻撃を避けつつ踏み込み、追い返されるというやり取りを繰り返してきた彼の動きが突然不安定なものになった。
でもそれは、体制が崩れたとかそういう訳ではなく……
「ぬ……ぅ?」
緩急の付け方!
踏み込み系のスキルで急加速しておきながら次の一歩で突然の急減速、続く一歩で急加速といった一歩ごとに速度を切り替え始めたんだ。
スキルクールタイムの概念のないこのゲームならではの動きだけど……
一体どうやってあの加速を一歩で踏みとどまってるのかしら?
踏み込み系のスキルの発動は極めて簡単だ。
スキルを持っている人なら強く意識して前傾に一歩を踏み出せばオートで発動する。
でもそれを止めようと思えば反動でかなりの距離を必要とする。
私の場合、踏み込みからのスパイラルチャージを空振った時なんか、急制動に地面を削りながら数メートル近くもスライディングするハメになる。
それを、彼は踏み込みなんて無かったかのようにゆっくりとした二歩目でエドワルトの空振りを誘っている。
本当に彼はLV2なの?
とてもLVと動きが一致してない――
……いえ、そうじゃないんだわ。
ただ高ステータスに任せてスキルを振り回す私達と、正しくスキルとアバターを使いこなす彼との決定的な差。
アレが本来のLV2のプレイヤーが発揮できる筈のポテンシャルなんだ。
つまり、私もちゃんとした戦い方を覚えれば、彼のように、漫画の登場人物みたいな戦いができる……?
「やば、なにそれ……めちゃくちゃアツい……!」
もっと、もっと見せて欲しい。
身体の使い方、スキルの使い方、そして――
このゲームでの本来の戦い方を!
◇◇◇
意外な所で役に立つもんだな。
まさか足の怪我のせいで派手に動けなかった時にやっていた重心移動の訓練がこんな所で役に立つとは。
というか、こんな短時間でこれほどの効果が出るとかどんだけスペックの高い身体なんだコレ。
確かにゲームでレベル上げると目に見えて強くなるけど、いざ実感してみると凄まじいな。
そりゃ勇者も剣一本でブイブイいわせるわけだ。
しかもこっちのサーバの場合、多少無茶な動きをしても身体が悲鳴をあげることがない。
全く感じないわけじゃないけど、それでも向こう側に比べれば感じないも同然のレベルだ。
痛みを感じないだけで、身体へのダメージは溜まってるんじゃないのかとも考えたが、さっきからの無茶な急制動でも足を痛めた様子がない。
前回のテストのときから薄々気付いていたが、普段できないような無茶な動きにも身体が答えてくれる。
リアルを追求しすぎたALPHAと違い、こちらのサーバはより『ゲーム体験』を追求した結果の差なんだろう。
まだ確定ではないが、おそらく構造的に『無理』な動きは制限されるが、攻撃でしかダメージを受けないから『無茶』な動きはいくらでも出来る。
そうと分かれば当然、普段向こうでできないような無茶をしたくなるというものである。
今までは見せずに取っておいた【飛影】からの【疾走】を使った三段加速でイナズマ状に一気に懐に飛び込む。
突然の急加速にエドワルトも初見では反応できていない!
届いた。脇の下もらいっ!?
「……っちょ!?」
防がれた!?
まじかよ……完全に不意は付けていた。
間違いなく防御は間に合ってなかったのに。
「フ……フハハハハ! 面白い、実に面白いのである! 一手進むたびに動きが変わる! 実に破天荒。それでいて思いの外スキがない。お前のような者は見たことがないぞ!」
「そうかい? 俺なんかよりすごいやつなんてこの世の中にゃごまんと居ると思うがね」
「であるなら、我もまた知見が浅いと見える。近衛騎士団長の身でありながら、まっこと未熟の極みであるな!」
身体を巻き込むように腰溜めに剣を構え、力を蓄えるかのように地を踏みしめ腰を引く構え。
あの腰を浅く引く動きから来るのは今のところ水平斬りか、踏み込みの二択。
左方の動きは――踏み込み斬り!
神速の逆袈裟を右に踏み込む事ですれ違うように起動から逸れる。
だが、こいつはここで終わらない。すれ違いざまにエドワルトを確認してみれば、既に逆袈裟の勢いのまま振り上げた剣を持ち替え、そのまま背負投のような勢いの打ち下ろしのモーションに入っている。
やっと、このほぼ0距離のタイミングで両手を使ってくれた。
これをずっと待っていたんだよ!
背後のエドワルとの方を振り向かずに、バックステップを踏むように剣を振り下ろそうとするエドワルトの脇の下に背中から飛び込む
「ぬぅっ!?」
間合いの内側に飛び込んだ俺に対してエドワルトも即座に剣を逆手に持ち替え、懐の俺に逆手突きを放ってくる。
だが――
「貴様! よもや最初からこれが狙いか!?」
流石に気付かれるか。
しかし、今更気づいた所で
「もう遅い」
背中と肩で押すようにエドワルトの身体に密着し、がら空きの脇腹を狙う……わけでもなく、腰に吊るしてあったサブウェポン、それも強そうな奴を一気に引き抜く。
SADとの戦いでコレの有効性は確認済み。
ガーヴさんからも装備の重要性はきっちり仕込まれたからな。
レベルも装備も劣るオレたちがこいつに有効打を与える方法があるとしたらコレしか無いだろ。
これにはさすがのエドワルトも流石に危険と判断したのか、その強脚を使って一気にバックステップで――
「やらせないって!」
距離を取ろうとしたエドワルトの腕に引っ掛けるようにチェリーさんの槍が突きこまれていた。
「何だとっ!?」
下がろうとした身体と腕の間に差し込むように突きこまれた槍は、初期武器の悲しさか、耐久値を一気に持っていかれへし折れてしまった。
だが、槍一本の犠牲と引き換えにエドワルトは体制を立て直しきれていない。
やるなら今しかない!
「そこっ!」
つんのめるようにして体制を崩しているエドワルトのむき出しの顔に向かって全力で剣を振り下ろす。
だが、流石に反応が早い。
咄嗟に武器を捨て、両腕を使って顔を庇おうとするエドワルト。
ガントレットで完全に量腕で顔の前面を覆われてしまい、これでは顔への攻撃は一切不可能だ。
だが、今回はそれでいい。
わざわざ反応できるようにおおきく振りかぶって、声まで出したんだ。
しっかり防御してくれなきゃ困る。
狙っていたのは元々顔面などではなく……
「えっ?……あっ!」
俺が放り投げたエドワルトの剣を一瞬呆然として受け取ったチェリーさんが、それでも即座に意図を理解してエドワルトに切りかかった。
いくら良い武器をぶんどったとは言え、ああも全身鎧で防御を固められたら俺じゃ大ダメージを狙うのは難しい。
なら俺よりSTR高いチェリーさんに任せるのは当然の流れだろう。
当初の予定とは結構変わってしまったが、こういう辺りゲーム慣れしてるっていうか、説明しなくても伝わってくれて助かる。
「ぐ……ぬぅぅ、小娘ぇ!」
メイン武器を手放してしまい防御の上からめった切りにされていては迂闊にサブ武器を引き抜くこともできない。
で、そんな状況で俺は何をしているのかと言えば、エドワルトの手放したメイン武器の剣を拾い上げていた。
流石に強そうな剣だ。
これなら非力な俺でもエドワルトにダメージが与えられるかも知れない。
チェリーさんはエドワルトを完全に防戦一方に追い込んでいるが攻めきれていない様子。
このまま変に形勢を変えられるまえに、ここは一気に崩させてもらう……!
固めに崩しは追い込みの基本ってな。
切り結んでいる二人の間を割るように飛び込み、エドワルトを逆袈裟に切り上げる。
火力はあるが攻めきれないチェリーさんと、危険な武器で脇の下狙いの俺の攻撃。
どっちに反応するかと言えば……
「ぐっ……おおおおお!」
やっぱりこっちに反応するよな。
下段からの切り上げを膝と肘を合わせるようにして鎧を盾に受けきってみせる。
だが、そんなことをすれば当然。
「やああああああ!」
「ごぁっ……!?」
片腕では捌ききれなかったチェリーさんの一撃がエドワルトの頭を捉えた。
製品版には流血表現が無いためダメージエフェクトのみだが、確実に届いている。
「ぬっ……ぐぅぅ………」
エドワルトは倒れては居ないが、膝をついて立ち上がれないでいる。
頭部への強烈な一撃だったから脳震盪扱いでスタン判定でも入ってるのか?
どうせなら気絶判定になってくれれば良かったんだが、まぁこれでも大丈夫だろう。
なんせ、俺達の勝利条件の達成にはエドワルトを倒す必要はないんだから。
「ヘイ! ジャッジ! 頭部へのフルスイングにスタン判定。エドワルトは膝を付いてるんだけど、これで俺らの勝利条件クリアだよな?」
勝利条件はエドワルトに目に見えたダメージを与えればいいということだったはず。
頭部への強打とスタンのセットなら十分満たしていると思うんだが、さぁどうだ?
「え……あっと……ディレクター、どうでしょうか!?」
「これは……ええ、文句なしでしょう」
「ディレクターからのOKが出ました! チェリーブロッサム&キョウチームの勝利です!!」
よしっ!
正直アレでも駄目っていわれたらどうしようかと思っていたが、無事勝ちが認められたようだ。
「ぬぅ……我の負けであるか。ぬかった……」
「強いの一発入れれば俺らの勝ちってルールだったからな。普通の一対一でやったら俺じゃまず勝てなかったよ」
「抜かせ、戦場にそのような甘えは許されぬ。二対一とはいえ、完全武装の我となまくらしか渡されなかったそちらという時点でハンデなどあってないようなものであった。ここは素直に勝ちを誇るが良い。……そこの娘もな」
「え……?」
いきなり呼ばれた本人は「何で?」みたいな顔をしていた。
すっとぼけてるんじゃなくて素の反応だなアレ。
「貴様の横やり、見事なものであった。警戒はしておったのだがあの瞬間は完全に不意を点かれてしまったわ」
「横やりに不意打ちって、あまり褒められたもんじゃないけどね……」
「何を言う、ああした行動によって仲間の命が救われるのだ。誇ってしかるべきである!」
「そ、そう?」
実際、あの横やりはナイスアシストと喝采したいタイミングだった。
アレのおかげでもっと粘る予定だったのが一気に決着まで進んだわけだし。
「……さて、我はそろそろお役御免のようであるな。城に戻るとしよう」
「あ、なんかお疲れ様っす」
「またいずれ、今度は対等な条件で腕を競ってみたいものである。ではさらばだ!」
そういってエドワルトはのっしのっしとコロシアムから退場していった。
今さっき頭を痛打されたばかりだってのに完全にダメージは抜けきっているようだ。
タフだなぁ……
「なんか解っていたつもりで今更なんだけど……」
「んん?」
「普通に人間と会話してるのとほんとに変わらないわね。一瞬相手がNPCだって頭から抜けて喋ってたわ」
「確かに、このゲームのAIは他のゲームに比べて一つか二つ世代をすっ飛ばしたかのようなレベルで自然な受け答えするんだよなぁ。もう目をつぶって会話したら人間と全く区別つかないよ」
「だよねぇ……一般NPCも特定のルーチン行動してるわけじゃなく、住民として生活してるもの。新世界とはよく言ったものだわ」
実際、俺にとっては本当の意味で新世界なんだよなぁ。
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「いやぁ、しかし凄まじい戦いでした! 本日最初のステージからこんな白熱した戦いが見られるとは私も想定外でした! そして大変申し訳ありません、あまりの戦いに司会進行でありながら見入ってしまってい完全に喋りを忘れていました!」
「駄目でしょう、司会進行がそれじゃぁ」
「いやいや、秋元Dも完全に見に入ってたじゃないですか。そういう僕も目を離せなかった一人ですが」
「まさか、本当に勝利条件を満たしてしまうとは……これね、ネットで見てる方や、まだプレイしてない方にはちょっと伝わりにくいかも知れませんけど、とんでもない事なんですよ?」
「実は近日中に実装予定のPVPのテストプレイで当時LV1の彼とLV5のSADとの一騎打ちがあったのですがそこでも我々の度肝を抜く戦いを見せてくれたキョウさんですが、オープニングイベントのこの場で再び素晴らしい戦いを見せてくれました!」
「彼だけではないですよ。チェリーブロッサムさんの機転を利かせたアシストやトドメの一撃など、実に鮮やかな仕事でした。即席コンビとは思えないコンビネーションでしたね!」
「凄まじいプレイヤースキルに対して低レベルゆえのキョウさんの火力の無さを、高レベルのチェリーブロッサムさんの一撃が補う。完璧なチームワークでしたね」
ステージの方はまだ何か話しているようだがこちらは終わりらしい。
案内に従って二人でステージを降りた。
ポータルに入る直前、C1さんのこんなコメントが聞こえた。
「なお、今話題に出たPVPですが、このステージ終了後、オープニングイベント第一部終了の明後日までコロシアム限定でお試しプレイが可能となります。対人線に興味がある方や、今の戦いの熱気に当てられた方はぜひご参加ください!」
オープンイベントでコンテンツテストやるのかよ!?
……いや、プレイヤーからすると先行プレイってことになるのか?
「なんか、散々だったけど勝ててよかったー」
「ホント、よく勝てたなって感じだった……」
「やー、途中から私あの場に要らないんじゃないかってちょっと焦ってたんだけど、最後に見せ場くれてありがとね」
「いやいや、最初から期待してましたって。僕じゃエドワルトに有効打入れられませんし」
「ほんとにー?」
「マジマジ」
いや、本気でオレ一人だけだと打つ手無かったんだよな。
SADのファンタジーケッケー鎧と違って、エドワルトの鎧はプレートメイルの上に下にチェインメイル重ね着してたから弱点らしい弱点がむき出しの顔しか無かったんだよな。
脇腹狙いの一撃でこっちのショートソードがいきなり刃こぼれして何事かと焦ったわ。
「まぁ、何にせよ本当にお疲れ様~。流石に疲れたから控室で少し休みます」
「あ、お疲れ様っす。俺は……どうしようかな」
暫くは出番はないし、予定も特にこの後は入ってないんだよな。
こっちの地理とかちっとも判らんしな。
それにしても疲れた。
エリス達と散歩がてら低レベルの狩場の様子でも見ようかと思ったけど暫くはバトルって感じじゃないな……
休憩でボーッとするのもなんか時間がもったいないし、せっかくだしエリス達と街の中をどこか適当にブラブラしてみるか?
体動かしたし軽く飯でも……って、あれ?
そう言えばさっきハティはガツガツ食ってたけど、俺の場合こっちのサ―バで飯食ったら腹膨れるんだろうか?
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