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二章

六十一話 出戻り

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 そんな訳で、特にこれと言って何事もなく約束の日になった訳で……

「高そうな宿屋だねぇ」
「頑張って稼げば、俺達もいつか泊まれるようになるかもなぁ」
「私達が泊まってた宿屋も良かったけどねー」
「ウォン!」
 
 という事で、俺達はALPHAサーバに帰るために例の高級宿屋に来ていた。
 身支度も整えやり残したこともなし、準備は万端である。
 まぁ、支度と行っても大した荷物は何もないんだけどな。
 サーバ間のアイテムの持ち込みが出来ない。
 ALPAHサーバに移動した時点で所持品類はロックされるので、何を持っていようが何の関係もない訳だ。

「悪いなぁ、ホントなら別の町に行くはずだったんだけど」

 せっかく家族旅行で遊園地にきたのに仕事でオジャンにしてしまうという、何かの漫画の中で見たシチュエーションみたいな事を、まさか彼女すら作ったことのない俺が体験することになるとは……

「ううん。気にしないで? お仕事だもんね」
「ワン!」

 この子はこの子でちょいと聞き分けが良すぎる気が……
 この年頃の子供ならもうちょっとワガママ言ってくれても良いんだけどなぁ。
 というか、もうちょっと駄々こねてくれたほうがまだ、こう、何というか罪悪感が。
 向こうに戻ってたら祭りで思う存分遊ばせてやらねば。

「それじゃ行くか」
「うん」

 ノックノックコンコン

「お疲れ様です、キョウです」
「空いてます、どうぞお入りください」

 訪れたのは前回と同じ部屋。
 招かれて入ってみれば前回と違い中に居たのは二人だけ。
 T1とチェリーのみだ。
 前回のあの人口密度を考えれば、これくらいの必要最低限の人数のほうが気を張らなくて良いなぁ。

「おはようございまーす。キョウさん、これからお願いしますね」
「ええ、コチラこそ今日からよろしくおねがいします」

 ゲーム内なのに相変わらずいい笑顔と身振りである。
 ははーんさては電話中にボディランゲージしちゃうタイプだなこの子。
 しかし、ヘッドセットでプレイヤーの表情の動きを読み取ってアバターの表情に反映させるこの技術はある意味画期的だよなぁ。
 イケメン顔であっても従来のMMOの無表情顔に比べると、フツメン顔だったとしても表情がついただけでアバターがまるで生きてるように感じるし。
 まぁ、最近のは顔とかも結構作り込まれてるけど、それでもいちいちエモートアクションとかしないと表情って変わらないしな。
 テキストチャットに連動して口パクするような細かい芸するのもあったけど、当然ながら無表情に口がパクパクするだけだし。
 だから、普段から自然に表情がコロコロ変わるこのゲームのアバターはなんというか、生きてる感をすごく感じる。

「あの、キョウさん……そっちの女の子は?」

 ん?
 ああ、そうか今までテスターやってた訳じゃないからバディの事とか知らないのか。
 イベントの時もエリス達は控室で待たせていたから見たことは有ると思うけど、自己紹介させた時はその場に居なかったし、狩りとかに一緒に行ったりもしなかったからな。

「エリス、挨拶しな」
「わたしはエリスです。キョウの妹やってます。それとこの子はハティ。よろしくね!」
「ワン!」
「あら可愛い、私はチェリーブロッサム。チェリーって呼んで。よろしくね」
「よろしくーチェリー!」

 よしよし、流石は共にコミュ強同士、一瞬で打ち解けたな。

「ところで、チェリーさんの肩に居るのは?」
「え? この子はチキって言って、モグラっぽいけど土の精霊のノームらしいですよ。私とペアのバディ? っていうやつで……」
「そうですか。ちなみにエリスも俺のバディですよ」
「えぇっ!?」

 どうやらチェリーさんのバディはSAD達と同じ精霊タイプのようだな。
 最近入ったテスターはエリスのような人間型割り振られた人も居るって聞いたけど、今回のは急遽決まったみたいだし人形バディは揃えられなかったってことかな?

「それではポータルを開きますが、結城さんは事前説明の件を特に注意してください。安全には配慮してますが食事を抜いたり、のめり込み過ぎて睡眠……不足はともかく筐体で寝てしまうと風邪を引いてしまうかもしれませんし、そういった点は此方では対策できませんからね」
「わかってます、対策はバッチリです。筐体でもバッチリ毛布を被ってますから!」
「そ、そうですか」

 多分田辺さんは、寝る時はベッドで寝てくださいって意味で言ったんだと思うけどなぁ。
 ゲーマーに徹ゲーするなとか言うだけ無駄だと思うけど。

「昼夜が同期してるので寝過ごしたりはしないとは思いますけど、冒険に夢中になったりしてつい忘れがちなテスターさんも多いらしいので、食事の時間にアラームを鳴らすようにすることをオススメすると開発から言われています」
「わかりました、じゃあアラームのセットしておきますね!」

 なるほど、確かに外にいれば日が中天なら昼飯、日が沈んだら夕飯ってすぐに分かるけど、冒険中だと洞窟内とかに居るときもあるだろうから時間の感覚がわからなくなることも有るか。
 俺達は基本村で生活してたし、『こっち側』でもあまり遠くだったり深い場所で狩りはしてないからそういうのは考慮してなかった。

「では……」

 田辺さん……T1がアイテムを使うと目の前におなじみにワープポータルが現れた。
 実はこれ結構希少なアイテムで、魔法のワープポータルも、アイテムのワープポータルも使える一般プレイヤーはまだ一人も居ない超絶レア品なんだという。
 まぁ、原寸大での仮想世界でワープが出来るとか
 イベントの移動でホイホイ使って見慣れていたから感覚が麻痺してるわ。

「それではお二人ともキャンペーンの件、よろしくおねがいします。立浪さんは結城さんの事もお願いします」
「了解」

 たしか効果時間が有るはずだし、変に喋ってポータルが消えるのもあれだしさくっと入っちまおう。
 ワープポータルに飛び込むとお馴染みの真っ暗視界に、例のローディングマーク。
 ただ、行きと違い帰りの方は説明が必要ないからか、ずっと真っ暗の視界にローディングを示すぐるぐるが回っているだけだ。
 なんというか、味気ない。
 まぁここは一般人はまず目にすることはないし、そこにコストをつぎ込む理由がないって事か。
 そんな事をぼけーっと考えつつローディングマークを眺めていたら、唐突に視界が開けた。
 岩壁……洞窟だな。
 振り向けば入り口が見える程度の浅い洞窟。
 どうやら無事ALPHAサーバに戻ってきたようだ。
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