ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

七十七話 密談Ⅰ

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 翌日早朝。
 まだ日が昇らない時刻に俺達は王様の要求通り王城へ訪れていた。
 『明日時間を作って欲しい』とだけ聞いていたので、何時何処で会うのかと思っていたら、昨夜の食事時に王城からの使者の人が、混乱を少しでも抑えるために人気の少ない早朝に城に来てほしいと伝えに来た。
 そうして、早朝に宿舎の前で待っていると、何故か村長まで出てきた。
 どうやら呼ばれたのは俺達だけじゃなくて村長も、というかハイナ村の人間という括りで呼ばれたらしい。
 何故呼ばれたのかは村長も知らないらしい。
 村長いわく

 「知らねぇよ。実際に行って聞きゃ判るだろ」

 という事らしい。
 それで良いのかハイナ村代表。

 混乱を抑えるために人気の少ない早朝に、という指定は当然ながらどこの馬の骨ともわからない俺達が城に登るから……ではなく、一緒に出歩くハティについてだ。
 この街に来た時は護衛の人達や偉そうな文官の人が囲っていたから街の人達も安心できたかも知れないが、今回は俺とエリスとチェリーさんが背中に乗っているだけだから、解き放たれたと勘違いした人が出るかも知れないと言う訳だ。
 当然、案内の人も一緒だったが、あの巨体に対して2~3人の戦士が一緒にいるだけでは民も安心できないだろうという話だった。
 なら、来た時みたいに囲ってしまえば良いのでは? と思ったが、現在騎士たちは別の任務で人手を割けないらしい。
 ……という訳で、まだ夜も白んでいるこの時期に俺達は広い王宮の廊下を歩いていた。
 ハティが普通に歩いて通れるだけの広さがあるからかなりのものだ。

 祭りの期間だからか、或いはいつもこうなのか、こんな時間にもかかわらず城の中ではチラホラと人とすれ違う。
 元ゲーム会社勤務の自分からしてみれば割と見慣れた光景だが、どうやら王宮勤めというのも中々にブラックな感じのようだ。
 なんで考えが顔に出ていたのか、案内役の人が日勤と夜勤で城の勤めが停滞しないように活動時間をずらしていると教えてくれた。
 そうしなければ回らないほどの激務というのはそれはそれで……と思ったが、今度は顔に出さないように心がけておいた。
 途中、廊下の曲がり角ですれ違った人がハティを見て腰を抜かす等のハプニングはあったが、思ったよりも混乱はなかった。
 城の中をこれだけのサイズの狼が歩いていて衛兵が出てこないという事は、つまりハティが来ることを予め知らされていたんだろうな。
 あの王様なら城の人に対してドッキリ仕掛けてもおかしくないと思ったが、流石にそこまでおちゃめな訳ではなかったようだ。

 そうして案内されるのは謁見の間かと思いきや、扉の前を素通りして更に奥に。
 渡り廊下を通り、城の更に奥にある離れのような場所へ案内された。
 どういう事だろうか?
 これだけ堂々と登城したのだから、内密な話だとかそういったものではない筈。
 それまで「なるようになるだろ」ってな感じでふてぶてしい感じで歩いていた村長も、これには少々面食らったようで、ちょっと驚いた顔をしていた。
 俺とハティの関係を大々的に発表するという話だったからてっきり謁見の間かそれに似た場所で偉い人とか集めて話すのかと思ったんだが……
 予め、今回の祭りにハティを連れてきた目的とかはチェリーさんに伝えてあったが、そのチェリーさんからも「話が違う」って感じの視線を送られまくってる。
 そんな目で見られても俺だって判らんよ……
 ちなみにエリスは城の中を見物してニコニコしていた。
 動じねぇなこの子。

 案内の人は扉にノックして何かしら二言三言中の人と話した後道を譲った。
 扉は開いたままという事は、つまり此処から先は俺達だけで入れ、ということか。

 通されるまま短い廊下を進み、見張りのように仁王立ちしている兵士の間を抜け、扉のないその先の部屋に入るとそこは応接間だったようだ。

「ハイナ村村長シギン以下。お召により参上仕りましてございます」
「来たな。まずはそこに座るが良い」

 雰囲気がいつもの村長やアルマナフとは違う。
 離れであっても王様モードということか。

「人払いを。 我らがここを出るまで誰も近付けるな」
「畏まりました」

 アルマナフの指示を受けて、給仕の人や部屋の前を守っていた兵士も出ていってしまった。
 これだけ堂々と来て内緒話なのか?

「さて、今日お前達をここに呼んだのには理由がある。それはハイナ村で話した理由によるものとはまた別のものだ」

 ああ、なにか別件が出来たのか。
 だからわざわざこんな奥まった離れに引っ込んで、人払いまでした。
 ……って、そこまでしなきゃならないほどヤバイことがなにか起きてるって事か?

「安心しろ、別にお前達がなにか仕出かしたと言う訳ではないし、無茶な要求をする事もない」

 この王様、俺がなにか言う前に全部答えよる……
 俺ってそんなに顔に出るタイプなんだろうか?
 酷い敬語を晒さなくて済むから楽っちゃ楽なんだが。
 確かこういう場合は、偉い人の言葉は遮っちゃいけないから、話を振られるまではずっと畏まっておけば良いんだったよな?

「先日伝えた通り、お前たちに会わせたい者達が居る。……が、少々ややこしい事になっておってな。コチラとしても突然の話で頭を抱えたいのだが、今回に限っては余も当事者であるし、相手が相手ゆえ無視するわけにもいかん。その上、その者達がここに居ることを他の誰にも知られる訳にはいかんのだ……」

 どういう事だ?
 王様が当事者でややこしいって……
 無茶な要求はしないとは言ってるけど、どう考えても厄介ごと案件に見えるんだが。
 その人は何らかの理由で存在を隠しているってことか?
 もしかして、俺達とは別のプレイヤー……か?
 でも、そうであれば村長が呼ばれた理由がわからなくなる。

「入るが良い」

 王様は長い溜息の後、背後の扉に向かって呼びかけた。
 そうして出てきたのは、ガッチリとした体型のオッサンと、爺さん……とまでは行かないが壮年の男だった。
 ……誰だ?
 全く見た覚えがないんだが……

 村長も初対面のようで困惑していた。
 チェリーさんやエリスにも見覚えなさそうな顔してるし、俺のど忘れではない……よな?

「エデルヴァルト王には今回の仲介に骨を折っていただき、心より感謝する。俺は錬鉄傭兵団副団長シャルトルーズ。そしてコイツは幹部の一人であるシーグラムという」
「錬鉄傭兵団だと!?」

 知っているのか村長!?
 ……いや、なんか俺もその名前はどっかで聞いた覚えがあるんだが、何処だったっけか?

「今回の件、我が傭兵団の者による凶行と此方も理解している。正確な被害規模もエデルヴァルト王からの情報と合わせて確認できている」

 ……そうか、この間の村への襲撃事件の首謀者だった野獣使い!
 王様が撃退したっていう傭兵団に所属していたとかいう話だったが、そこが確か錬鉄傭兵団って言ってた筈!

「首謀者であるグリューの所属していた隊は先日の戦で壊滅し、隊長であった者は討ち取られている為、副団長である俺と、責任者の同輩であるシーグラムが顔を出させてもらった。この度は至らぬ者の暴走を引き起こしてしまい本当に申し訳ない」

 そう言って、現れた二人は深々と俺達に向かって頭を下げた。
 国を相手取って戦うような傭兵団だし、あの野獣使いが所属しているような所だから、もっとイケイケの武闘派集団と思っていたが、つい最近自分達を叩きのめした王様に頼ってまで、わざわざ唯の村人に頭を下げるだけの良識は持ってるのか。
 突然の謝罪に村長も困惑しているようだが、村長の困惑を置いて副団長という男がさっさと話しを勧めていく。

「こちらの謝罪を受け入れてくれるというのであれば、今後の保障についての話を行いたいと考えているが、何分被害が大きすぎる。そちらの心情的に賠償と復興支援程度では謝罪が受け入れられないという話であれば、何かしらの要求をしてもらっても構わない。此方にも応じることに限度はあるができるだけ前向きに検討しよう」
「いや、俺達の村にも小さくな被害が出たが、ハイナ村村長としてはお前さん方のような大手の傭兵団相手にシコリを残すような事はしたくない。適切な復興支援を約束してくれるのであれば謝罪を受け入れよう」

 まぁ、そうだよな。
 幸い……といって良いようなレベルの被害じゃないがハイナ村では死者は出なかった。
 確かに相手側の部下の暴走とかいう不手際で、近隣の村2つが壊滅するという大惨事が引き起こされたわけだが、やらかしたのはあくまで個人だし、国軍と正面からぶつかって生き残れるような傭兵団相手に、強請り集りといった馬鹿な真似をする理由はない筈だ。
 まだこの世界での政治的なやり取りは詳しくないが、力関係で圧倒的に優位にあるこいつらが、王様に手間を取らせてまで頭を下げるというのはかなり誠意ある対応だと取れるはず。
 下っ端一人相手に壊滅しかかったのに、その親分相手に欲を出すとか余程話術に自身のある詐欺師かただの馬鹿だけだろう。

「皆殺しにされたルト村は兎も角、ガガナ村は村人の9割を餌にされているから、その恨みは相当な物だろう。そちらについては俺は何も口を出せんが、ハイナ村に関してならば無駄な遺恨をこさえるつもりはない」
「冷静な対応に感謝する。ガガナ村に対しては食料援助と復興支援に少ないが人を出すことが決まっている。それゆえに人足を用意することが出来ない事は理解してほしい」

 なるほど、既にガガナ村とは対話済みということか。
 ガガナ村はライノスに食い荒らされて廃墟同然だって話だし、被害の深刻さからも人を出すならあっちになるよな。
 如何に人手を出すのが苦しいと言っても、村をほぼ壊滅させてしまった以上無理にでも要求に答えざるをえなかったという事か。

「近隣村落の被害状況や、アーマードレイクを持ち出したという話から凡その被害規模は割り出している。その上で復興の為の謝罪と慰謝料を払おうと思ったのだが、そちらの地域では貨幣が流通していないという。我々も近々での敗戦によって人手が足りていない為、復興支援に物資運搬以外では人足を送ることもままならない。そこで、我々としては保存の効く食料品等で保障を行いたいと考えているのだが、どうであろうか?」
「それで頼む。正直金を渡されても使い道がないからな。日持ちする保存食や生活用の資材等を融通してくれるのが一番助かるのだ」
「まぁ、我々傭兵用の携行用保存食なのであまり味は保証できないが……」
「まぁ、待て待て」

 そこで口を挟んだのは王様だった。

「まず無いと思うが、この部屋は外から様子が見えてしまう。南側の部屋は窓の外が崖になっているからのぞき見の危険も無いであろうし、細かい話を詰めるならお前達が待機していた部屋を使うと良い。執務室代わりに使っておるから羊皮紙やインクも備えておる」
「成る程、それでは、場所を移して細かい話を詰めたいと思うが、シギン殿は宜しいか?」
「ではそうしましょう。それでは陛下、暫し部屋をお借りしたいと存じます」
「うむ」

 そういって、村長と副団長は隣の部屋に入っていった。
 ……って、これ俺達ついてくる理由あったのか?



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年末で少々立て込んできているので更新頻度が少し落ちます。
ご了承下さいませ。

※お願い
 複数の方より指摘がありましたが、見直しているつもりが実際は注意力が足らず誤字脱字見落が多いようです。
 今後はもっと注意していくつもりですが、もしお手間で無ければ誤字を発見した際に感想欄で指摘して頂けると嬉しいです。
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