ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

八十六話 逆撃Ⅲ

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 厄介な。
 実際に相手をしてみて思いついた言葉はそれだ。
 この強さで末端部隊の見張り役なのか。
 
「これは思っていたよりも……」

 野獣使いほどの厄介さは感じない。
 というか、純戦闘系と思われる眼の前の傭兵だが、テイマー系の野獣使いよりも近接戦闘で劣っている様に感じる。
 とはいえ、決して弱くはない。
 というかPvP先行体験イベントの時のプレイヤー代表の誰よりも強い。
 SAD達ならレベル差でゴリ押せるかもしれんが、今のところ一般プレイヤーのレベルでこいつ等に勝てるプレイヤーはかなり限られたプレイヤースキルお化けだけだろう。
 底辺がこれで、しかも有数の大型傭兵団となると総合戦力はとんでもない事になりそうだ。
 そう、さっきまで感じていたんだが……

「ゼェイヤァ!」

 眼の前の、この傭兵は俺と同い年か少し下くらいだろうか。
 レベルは多分俺より高い。
 だが、他の傭兵3人に比べてスキルの使い方……NPCだからこう言うべきなのか解らないが、プレイヤースキルといえる部分がレベルに見合っていないという印象を受ける。
 見合っていないといってもこれまでGMMMAで見てきた連中に比べてというだけで、決して劣っているというわけではないのだが……
 一般プレイヤーと対して変わらない、といった所か。
 訓練は積んできたが実戦経験はそれほどない……といった所だろう。
 だが……

「クソっ、何で当たらねぇ!?」

 相手に武器を振り下ろすことに躊躇がない。
 人を殺し慣れているのか?
 殺しに対する忌避感と戦闘技術がどうも噛み合ってない気がするんだよな。
 俺達プレイヤーがゲームのモンスターを狩るくらいの気軽さでこっちの命を奪おうとしてきている感じがする。
 殺してなんぼの傭兵団なんだからまぁ当然かもしれんが……
 でもまぁ、若いやつや女は敵であってもNPCだと解っていても人間臭いせいで殺すのは気が引けるんだが、コイツみたいに普段から殺し慣れてるような相手なら良心が傷まなくていいな。

「何でと言われても、雑魚の俺に当てられないお前が弱いだけだろ」

 なんというか、攻撃が単調な上に直線的過ぎる。 
 武器を振り上げて振り下ろす、腕を引き絞って突き出す。
 それだけだ。
 時折フェイントらしきものも混ぜてはいるが、ハッキリ言ってフェイントの体をなしていない。
 ただ攻撃を遅らせているだけになっている。

 ……なんか

「クソッ! 死ねよこの!?」

 こんなのに俺達の生活を脅かされているというのは、何か、こう……
 腹が立つな……!

「お前が死んどくか?」

 相手の突き込みに合わせて、カウンター気味にミアリギスを叩き込む。
 ――って、いかんいかん。
 ついイラッとして殺意が……
 ここで殺したらさっき立てた方針がいきなり変わっちまう。
 胴に吸い込まれるように突きこまれていたミアリギスの穂先の向く先を、相手の武器の持ち手へと変える。

「ぐぁっ!?」

 咄嗟の行動だったので武器を叩き落とすつもりが、武器を持つ拳を潰す羽目になったが……まぁ、攻撃力を奪うことには成功してるしまぁ問題ないだろ。
 これで、あの鬱陶しいだけの攻撃を避けなくて済む。
 直近で相手をした4人のなかでコイツだけ弱いんだよな。
 最初の2人とか、一方はハティが先制で潰したのに、もう一人を相手に俺とチェリーさん二人がかりでやっとだったし、今現在チェリーさんが戦ってる相手もさっきの奴程じゃないが、チェリーさんとかなりいい戦いをしている。
 ハティのサポートを受けつつで、互角の戦いになっている。
 ぶっちゃけ楽しそうだった。
 ソレに比べて……

「クソっ、こいつら……ただのオマケの飼い主じゃなかったのか!?」

 攻撃手段を奪われて下がろうとする相手が障害物を背負うように追い立てていく。
 ここまで木や岩が多いと随分とやりやすい。
 危険を犯してまで倒す必要はない。
 俺がやるべきは逃さず、攻撃させずの時間稼ぎだ。
 何故なら……

「そろそろ……トドメ!」
「クソがァァァァ!!」

 後ろの方ではチェリーさんが一人仕留めたようだ。
 まぁ仕留めたと言っても殺したわけじゃない。
 相手思いっきり叫んでるし、口ではトドメと言っていても脚は潰れてるし、腕にも大穴が空いているが致命傷は避けている。

「ガッ……!?」

 両足を潰されて呻く傭兵の頭をチェリーさんが殴り飛ばし、気絶させた傭兵をハティが念の為押さえつけている間にエリスが縛り上げる。
 そしてチェリーさんがこちらに合流すればあとは作業だ。
 俺の攻撃で足を止めた傭兵の脚をチェリーさんの槍が貫く。

「うぐぁっ!? クソっテメェ等……!」

 即席のコンビネーションだが、中々にうまくいくもんだ。
 利き手と両足に穴を開けられて、ようやく大人しくなった。

「これで4人?」
「ええ、さっきの2人を探しに来たみたいだけど、月狼の囲い込み中に2人が謎の失踪だなんてヤバげなことこの上ない状況になったのを、同じ2人で捜索に来るなんてちょっと危機感が成さすぎるんじゃねぇかなぁと思うんですけど」

 猛獣を捉えようとしている最中に仲間が消えたというのに、猛獣に襲われたことを想定しないとかアホだとしか言いようがない。

「そもそも月狼に危機を感じていないとか?」
「にしては結構な人数を割いていると思うんだけど……この対応のチグハグな感じ、現場と上とで危機感に差があるのかな?」
「うぅん、この捜索に来たのが何も考えずに飛び出しただけって可能性もあるけど」

 現場の人間がそれくらい馬鹿ならコチラとしては助かるが……あまり楽観視はしないほうが良いか。

「なにか情報引き出す?」
「いやぁ、俺は拷問や尋問の知識はあんま無いんだけど、チェリーさんは?」
「流石にそんな知識はないわね」
「エリスは……まぁ無いよな。」

 そんなものまで仕込まれてないこと思いたい。
 仕込まれていたとしても、こんな子供にそんな真似させる気はないがな。

「貴様ら、何が目的で俺達を狙う!?」

 今後どうしようかと頭を回し始めたところで、あまりに頭の悪い質問が飛んできた。

「お前さん、さては馬鹿だろう?」
「貴様! 戦士を愚弄するのか!?」
「戦士は愚弄してないよ。お前だけを愚弄してるんだ」
「なっ!?」

 正直、あまりに頭の悪い問いかけに、一瞬で答える気もなくなってしまった。
 自分等の方から喧嘩ふっかけておいて、何を言っているんだこの阿呆は。
 あの頭のおかしい貴族の連中だってもうちょっと……いや、どっちもどっちか……
 まぁこんなのに割いている時間はない。

「エリス、他に接近中の敵は居るか?」
「ん~?…………うん、他に人は居ないみたい」
「そうか。ならコイツ等は適当に縛って俺達は場所を移そうか」

 エリスの目とハティの鼻のコンボ索敵に引っかからないならこの辺りの危機はは排除されたと考えて良いだろう。

「貴様! 無視するな!」
「うるさい」

 喚き散らしていた傭兵に対して、振り向きざまチェリーさんが槍の柄で頭をぶっ叩いて意識を飛ばしていた。
 相変わらず容赦ない……ってだけじゃないか。

「チェリーさん、実は結構頭にキてた?」
「こっちは一応仕事がないと言っても人付き合いとか色々有るのに、この人達の勝手な都合で睡眠時間削られてかなりキツイってのに、言うに事欠いて『何が目的で俺達を狙う』!? そりゃこっちのセリフだっての!」

 俺の思っていた以上に苛ついていたようだ。
 まぁ、俺もあの言葉を聞いた瞬間アホらしくてマトモにとりあう気失せたしな。
 つか、常時接続状態の俺とオールタイムで顔を合わせてたから完全に失念してたが、チェリーさんはリアルでの人付き合いとかも有るんだったな。
 トイレとか睡眠とか食事中とか、上手いこと合わせて誤魔化していたからつい俺と同じ完全常時接続してる気分になってたわ。
 唐突に「ちょっと気になる事があるから」とか言って暫くの間何処か言ってる時とかは、こっそりログアウトしてるって事前に本人から聞いてたはずなのに、あまりに日常的になりすぎて完全に頭から抜け落ちてた。
 確かに声優や演劇の仕事は無いとは言ってたが、人付き合いは無くなったりしないよなそりゃ。
 つまりここ最近睡眠不足のままでゲームに張り付いたり知人と会ったりしたりしてた訳で、そりゃその現況にあんなこと言われりゃ腹も立つか。
 どういうつもりであんな言葉を吐いたのかは知らないが、まぁ珍しくチェリーさんもイラッと来ていたみたいだし、これでストレス発散できて静かになるし、一石二鳥で丁度いいか。
 いや、よくねぇわ。
 苛つかせたのコイツじゃねーか。

「トドメは刺していかないの? 救出されたら色々厄介だと思うんだけど」
「というか、回収させるのが目的かな。足手まといを背負ってもらえればそれだけ相手の足は重くなるからね」

 地雷と同じ考えだ。
 粉々にふっとばすより、脚だけふっとばして救助させれば、救助要因という人員と治療用の物資にそれだけダメージが与えられるというやつだ。
 それを見抜いて足手まといを切り捨てるなら、それはそれで相手方への士気にダメージを与えられるだろうし、コチラの意図を見抜ける知恵があれば警戒を強めてやっぱり足が重くなる。
 どう転んでもコチラの利になる……という想定だ。
 昔ネットで齧っただけのニワカ知識だから実際にはどう転ぶかわからないが、案外想定通りになるんじゃないかとは思ってる。

「うわ、思ったより結構えげつない理由だった」
「こっちは一般人だしな。有名傭兵団相手に手段なんて選んでる余裕はないだろうさ」

 それに、やり過ぎると要らない恨みまで買いそうだし、割に合わないと思わせる事ができれば十分だ。
 いくら気に食わないと言っても、個人が本気で大集団に狙われたら、余程のコネか馬鹿げた実力が無ければ対処なんて出来やしない。
 ビジネスで狙われてるうちは、契約が切れるまで逃げ切ればまだ何とかなるが、大型団から直接の恨み辛みで狙われたらそれこそ行くところまで行ってしまう。
 そうなってしまったら俺達の負けだ。

「随分おっかない一般人が居たもんだよ。一応プレイヤーは主人公、勇者なんじゃないの?」

 テストサーバにはそんなストーリー無かったかったんだよなぁ。
 製品版ではオープニングイベントとか、突発的なイベントは有るみたいだし、NPCとの付き合い方次第で本当に英雄プレイも出来るらしいが……

「いやいや、これが物語の勇者とかなら、最大戦力が勇者でハティはきっとオマケなんだぜ? それに勇者並みに強い剣士と、同レベルの魔法使いやヒーラーが一緒にいるのが勇者パーティだと考えると、俺達なんてハティに寄生してるだけの完全に凡人じゃない?」
「確かに! 私達全員合わせても多分ハティちゃんよりも弱いしねぇ」

 同行しているペットより弱い主人公とかもう主人公じゃないだろうソレ。
 これがハティじゃなくてガーヴさんとかなら、主人公をお教え導く師匠役とか、RPGでは割とよく見られる序盤で高レベルで仲間にはいるがすぐに離脱する系キャラとか考えることも出来るんだけどな。

「キョウ~ 縛ったよ」
「相変わらず手際がいいな……」

 いや、まぁこれ以上は何も言うまい。

「よし、それじゃさっきみたいに見つかる前にさっさと場所を移そう」
「はーい」
「さっきはびっくりしたもんねぇ」

 最初の2人は狙って不意打ちを掛けたが、手間取っている内に追加で二人来ちまったんだよな。
 深く考えずに無理に倒そうとしちまった。
 レベル差からくる攻撃力と耐久力の差を考えなかった俺のミスだ。
 まぁ、格上との戦い方の参考にもなったから、格上の対集団戦経験を積めて結果オーライと考えておこう。
 俺が相手をしたアレは……まぁハズレの部類だと思っておこう。

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