ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百三十三話 歓楽都市クフタリア

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「まずは闘技大会の登録をしないとね!」
「いやその前に色々あるだろ?」

 街に帰って早々、意気揚々と俺たちを先導するキルシュの言葉に取り敢えずツッコミを入れておく。

「闘技大会の登録もするつもりだけど、その前にまずは拠点確保が先だろう? これだけの観光客でごった返してるんだから宿を確保しないと大会期間中ずっと野宿する羽目になるだろ」

 折角あの面倒くさい門兵をやり過ごして野宿する必要がなくなったのに、今度は宿が見つからずに野宿とか流石にちょっとなぁ。

「というか、俺ハイナ村に帰る気満々で金は殆ど物に変えちまってるから手持ちが怪しいんだけど、長期間の滞在資金ってどうするつもりなん?」
「そこは流石に私が出すよ。無理やり付合わせたようなもんだしね」
「あれ、稼いだ金は全部武器につぎ込んだんじゃねぇの?」
「それは私のバイト代。あの戦争イベント手伝った謝礼金がほとんど手付かずで残ってるからへーきへーき。まぁ今回のお金だけは気にしないでいいよん」
「おお、太っ腹だな」

 というか武器以外何も買わなかったのか……
 結構いろいろ服とか充実してたと思うんだが、そっちの方は興味なかったってことか? でも綺麗な布地とか見てエリスと盛り上がってた気がするが……よくわからんな。

「でもよくわからない買い物はやめてよ? 修理でも使うんだから私だって無駄遣いはできないんだから」
「いや、流石に人の金で無駄遣いする気はねぇよ……」

 どんなド屑だよそれは。

「ああ、その辺の心配はいらないよ。大会参加者にはちゃんと無料で宿が割り振られるんだ。初参加の兄ちゃん達はあまりいい宿が割り振られることはないだろうけどね。でも自力で宿を探すには今からじゃもう手遅れだと思うよ」
「む、宿付きなのか。それなら確かに大会の登録を先にやったほうが良さそうだ」

 というか宿を探そうとしておいてなんだが、キルシュの言う通りこれだけ見物客で人が溢れていると、自力での宿の確保はもう手遅れだろうなぁ。
 参加者に宿を用意してくれるというなら、そっちの方が確実だろう。どんな安宿だろうが野宿よりはマシな筈だ。
 参加者用って位だから大会の日まで限定だろうが、大会が終われば見物客も帰るだろうし、その後の宿はどうとでもなるだろうしな。

「そうだね。何をするにも、まずは登録して宿を確保してからがいいよ」
「俺はそれでいいと思うが、チェリーさんはどうなんだ? ここはチェリーさん次第なんだが」
「え? 何で私に聞くの? 今まで通りキョウくんが決めればいいんじゃない?」
「何でって……そもそもの発端がチェリーさんで、そのチェリーさんが具体的に何をどうするつもりだったのかを詳しく説明してくれないからでしょ」

 レベル上げ目的だってのは聞いたが、じゃあどこでどういう風にやるつもりだったのかとか全く聞いてねぇもんよ? 
 この街が闘技大会で盛り上がってるってのも後付けの情報だし、何か別の予定があったはずだろう。

「ここに来たがったのはチェリーさん発案なんだから。目的も指針も言い出したチェリーさんに合わせるのは当たり前の事じゃね?」
「んん……指針もなにも、こっちの害獣は手ごわいって聞いたから、レベル上げに良さそうって思って来ただけだから、何か特別な事は考えてないわよ?」
「思ったより行き当たりばったりだった……」

 いやまぁ、あの地図の時点でそんな計画的な事を考えてたとは思えんしな。
 というか単純に村の周りよりも敵が強い=成長になるっていうRPGでは割と当然の判断だし、他になにか理由があった訳ではないというのも、良く考えてみればそこまでおかしな話ではないか。
 ゲームとしてなら、むしろそれくらい軽い考えで当然とも言えるかも。
 予め、ある程度はこっちのスタイルに合わせてもらうように言ってあるが、全部が全部こっちの感覚にまで合わせろというのは流石に酷だろうし、こっちの生活に支障が出ない部分ではあまり口うるさくするのも良くないか。

「まぁいいや。それじゃキルシュの言う通りまずは参加登録だけ済ませちまおう」
「了か~い」
「はーい」
「話は決まったみたいだね。じゃあオイラに付いてきておくれ」
「頼む」

 そして、いきなり大通りから脇道に飛び込むキルシュを追いかけ路地裏へ入る。
 何でこんな狭い道に……という疑問が顔に出ていたのか、キルシュはすぐに答えをくれた。

「こっちのほうが近道……な訳じゃないけど、表は人が多すぎてハグレかねないからね」
「そういう事か」

 確かに、あの人通りはヤバイからな。王都の時と違いまだ宿が決まっていないこの状態で一度見失ったら合流できる気がしない。
 特にハティは言葉がしゃべれないからはぐれるのは不味い。
 初めての街でこんな裏道に飛び込むような真似をすれば普通は迷子になるか、良からぬ相手に絡まれるだけなんだが、今回は案内してくれるキルシュが居るから話は別だ。
 ……まぁキルシュがその良からぬ相手の一味だったとしたら、俺達はまんまと誘い込まれることになるんだが、何というかキルシュは違うと思われた。
 ハッキリと理由が明言できないのだが、それでも言葉にするのなら何というか悪意とかを感じないからだ。何となくだけどな。

「しっかし、予想通りというか何というか。表通りと違って随分と治安の悪そうな裏路地だなぁ」
「黒服のマフィアとか入れ墨の怖いお兄さんが徒党を組んで待ち伏せしてそうな雰囲気ねぇ」

 治安の良い日本であっても、こんな雰囲気の路地には絶対に1人では近付きたくない。

「確かにガラの悪い連中は多いけど、この街は比較的マシだよ」
「そうなのか?」
「この街の荒くれ者たちの親玉が、大祭常連だからね」
「ゴロツキのリーダーが大会に出れるのか? 参加資格は犯罪者じゃないことだって筈だろ?」
「アイツ自身は一度も犯罪で捕まったことがないから、犯罪者扱いにはならないんだ。実際そういうのをむしろ嫌がるタイプだし」
「え? ゴロツキのリーダーなのにか?」

 犯罪が増えて治安が荒れれば、ゴロツキなんかは動きやすくなるんじゃないのか?

「元々アイツは闘争とそれで獲られる財だけにしか興味がなくて、街で何か悪い事してる訳じゃないからね。闘技場の活躍を知った腕自慢が喧嘩売っては返り討ちにあって、結果勝手に周囲にゴロツキが集まってるだけだし」
「あぁ、そういうタイプの……」

 ヤンキー漫画とかにたまに出てくる、不良じゃないのに妙にカリスマがあってやたら喧嘩強いやつ。

「アイツにとっては金も戦いの欲求も満たせるこの街を荒らされちゃ困るわけだから、あまりあくどい事をやらないように、むしろゴロツキ共を使って悪さしそうな連中を締め付けてるって訳さ」
「そういうことか」

 確かに、自分が熱を入れてる闘技大会を開いてる街を荒らされたらたまったもんじゃないからな。
 街の治安が悪くて危険だと知られたら客足が遠のく。そうなると生まれる金の規模も縮小するわけだから、大会規模も将来的に小さくなるかもしれない。すると賞金や名声目当ての対戦相手も減って……っていう悪循環だな。
 ゴロツキをまとめて治安悪化しないよう努めるってのは道理にあってるわけだな。
 この街で一番怖い上に、実力も認められてる奴が治安を維持してるってのならそりゃ確かに場合によってはそこらの街よりも安全かもしれんな。怖いには怖いんだろうが。

「ほら、すぐに大通りに出るから、すぐに左に曲がるよ」
「お、おう」

 やたら入り組んだ裏路地を進めば、前方に人通りがスゲェ道が見えてきた。
 北側の門から入って、大通りを左手側に逸れて裏路地を進んだ先に横切るような大通りという事は……街の東に伸びた大通りか。
 ……ん?

「あら? あの闘技場って街の中央にあったでしょ? 曲がるのは左なの?」

 俺と全く同じことが気になったのか、チェリーさんが疑問を飛ばす。
 崖の上から見たとき、王都と同じで中央通りといえる大通りが街の中央にある闘技場からちょうど四方に伸びていたのが見えてたからな。
 北門から入った道から一度左手側の裏路地を通っているのだから、普通に考えて直角に突き当たった大通りは東門から西の崖までを闘技場を通してつなげる大通りだ。
 そして最初に左手側に道が逸れたのだから、闘技場への道は右手側になる……んじゃないのか?

「目指してるのは闘技場ではなく登録受付の会場だよ」
「え? 闘技場とは別の場所で参加受付してるの? 何でそんな面倒なことを……」
「闘技場の施設って結構人気で、戦い以外の目的でも常にそれなりの数の人が居るのさ。獣を使ったレースだとか新型術式の試験会場とかね。そんな他の利用者が居るのに闘技場で受付したりすると、客と選手が混じって人で詰まっちまうんだよ。だから受付だけは別の場所でやってるんだよ」
「はー、なるほどねぇ」

 混雑対策で場所を分けてやってるのか。
 つまりそれくらいの参加者が集まる人気競技だと、そういう事だな。

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