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三章
百四十九話 予選Ⅲ
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俺と目配せで確認をとってた髭面だけど、あの糸目とは一度も視線を合わせなかった。まぁようするに事前に打ち合わせてた可能性が高いって事だ。
いくら察しの悪い俺だって、そんな連中の思惑に乗れば、ハメられたっておかしくない……ってくらいの想像はつくわけだ。
ならどうするか。
咄嗟に伸ばしてきた大男の腕を掻い潜るようにして、飛び出した勢いのまま、低姿勢のまま斜め後ろへ駆け抜ける。
大男としては追撃を放ちたいところだろうが……
「さぁ、どうする?」
相手は俺だけじゃない。大男の前にはタッグを組んだ敵が二人。いくら俺が気になっていたとしても迂闊に振り向くことはできないだろう。
案の定、一瞬迷いを見せたが、こちらへの注意は視線を飛ばす程度で、警戒は前方の二人へ向けている。
大男としてはさぞ困ったことだろうが、こっちとしてもハメられた身だからな。気を使ってやる余裕も理由もありはしない。
「デカイの! まずはそのヒョロいのを潰す。手を貸せ!」
今度は隠しもせずに共闘の呼びかけを始めた髭面だが、ソレに乗る程アホではないだろう。
なんせ目の前で共闘を打診したやつを直後にハメたところをこの大男本人が目にしてる訳だからな。
「ふん、まぁ良いだろう」
「おいおい……」
良いのかよ!? 良くないだろう!?
なに思いっきりこっち振り向いてんのコイツ!? 後ろから狙われるって解かんねぇのかよ!?
「目障りなザコから潰す、鉄則だ。何を仕出かしてくるか分からん手合は特にな」
確かに、ゲームとかでも乱戦ではまず弱い取り巻きのザコから減らすのが鉄則だけどさ!
こういう少人数バトルロイヤルとかだと普通強いやつを一致団結して潰そうとしねぇ? 俺の読んだ漫画だと大抵そうなってたんですけど!?
「俺達がまず仕掛ける、アンタは逃げ道を塞いでくれ!」
「ああ」
流石に、俺を引っ掛けた手をもう一度使う気は無いようだな。先に仕掛けて信用を得るって腹か。
左右から髭面と糸目の二人が、その間を埋めるようにして後方から大男が一気に詰めてくる。
こりゃ流石にヤバイ。
多少痛い目見るのは我慢して、先に飛びかかってきたほうをなんとか受けきって、無理やり突破するしか無いか?
「恨むなよ坊主」
「貰ったぞ!」
っていうか、完全同時攻撃じゃねぇか!?
くっそ、こいつは凌げるか?
「ああ、貰ったぞ」
「ガッ……!?」
身構えた俺のすぐ横を、髭面が飛び抜けていった。
動揺したのか、一瞬足が止まった糸目のスキを着いて、反対側へ飛び退る。
何事かと確認してみれば、大男が脚を振り抜いていた。察するに、髭面を後ろから蹴り飛ばしたらしい。当然髭面はリングアウトだ。
「テメェッ!?」
状況に気づいた糸目が、脚を振り抜いた体勢の大男へと躍りかかる。
軽快なステップで、一瞬にして片足立ち状態の大男の背面側へ回り込み、軸足を折り砕くようなケンカキックを膝裏に叩き込んでいた。
そう、背後から膝裏へだ。それって要するに膝カックンだな。
糸目にしてみれば蹴り飛ばして髭面の後追いの形でリングアウト狙いのつもりだったんだろうが、その場に腰を落とすように倒れた大男の動きに一瞬反応が遅れた。
気がついたときにはもう遅い。膝から崩れ落ちるように倒れた大男の腕が、蹴り出した糸目の脚をしっかりと掴んでいる。
「クソッ、離せ……!」
「ああ、離してやるとも」
そのままジャイアントスイングよろしく一回転振り回し、そのままリングの外へ放り投げた。これで糸目もリングアウト。
これで残ったのは俺と大男の二人だけなのだが、このチャンスを見逃してやるほど甘くはない。
どれだけガタイが良かろうと、人間をあんな勢い良く放り投げれば当然ながら慣性が働いて体勢が崩れる。
どんなに踏ん張ろうが、勢いよく投げれば投げる程にに放り投げた側に身体が泳いでしまうのは仕方がない訳で、いくら2mを超える巨漢であってもその状態で、こんな風に後ろから突き飛ばされれば……
「ほい」
「あっ……!?」
大男は踏ん張りが効かずに、そのままたたらを踏むようにしてリングの外へ。
どういう目論見があって裏切ったのかは判らんが、共闘を持ちかけられたわけでもないのだから隙は全力でつかせてもらうのが礼儀というものだろう。手加減ナメプは良くないからな、うん。
「…………」
「…………」
とまぁ、少々気不味いというか締まらない決着にはなるが、こんな感じで体格ハンデがあろうが、立ち回り次第でやり様はいくらでもあるという訳だ。
「そこまで! このステージの勝者はキョウ・ハイナとする!」
◇◇◇
そんな訳で、人数調整しながらもう一度バトルロイヤルが終わってみれば本戦出場可能な8人が決定していた。
その中には俺やチェリーさん、キルシュも当然含まれる。
というか、参加者の平均的なレベルが思っていたほど高くなかった。
ソレもキルシュに言わせると
「この大会自体が年に一度の大祭の予選の予選みたいなもんだからね」
という事らしい。
月イチの闘技大会でも大祭直前の方が滑り込みを狙った強者が多く集まる事が多かったりと、参加者のレベルには結構偏りがあるようだ。
ちなみに過去の大会で結果を残した選手は3月に一回の練武祭という大型大会でのシードが決まっているので、小さな大会には顔を出さない。それもあって練武祭直後の闘技大会クラスだとそこまでの強者が集まることはあまりないという事のようだ。
とはいっても、本戦組に残ったメンツはかなりの手練が揃っているように見受けられる。
二度目の予選が思ったより早く終わったせいで、他のステージの様子を見ることができたのだが、純粋なレベルでいえば、残った8人の中で俺は底辺側だろう。
一人だけ俺と同等か、下手するとそれ以下のやつも混じってはいたが、下を見ていても仕方がない。
一番ヤバそうなのはやはりキルシュだ。
傭兵くずれではなく現役バリバリの傭兵で、8人の中でも特に動きが目に見えてよかった。
しかも、常に余裕を崩さず、相手をどうコントロールしようか楽しんでいる節すら伺えた。明らかに実力を隠しているな。
それと、係員の代わりに参加者を読み上げて目立っていたオッサン。アレも中々だ。
キルシュのような派手さはないが、地味かつ確実に相手を叩き落としていた。なんというか効率重視の動き方だ。
おそらく傭兵か兵士崩れ。豊富な実戦経験に裏打ちされた最適行動とか、そんな感じの洗練された動きだった。
多分あの人、ステータスお化けのチェリーさんでも、まともにやったら勝てないんじゃないだろうか。
そこにチェリーさんを加えた3人が、今大会の要注意選手ってとこだな。
残った八人に対して、明後日の本戦で諸注意事項や時間の確認などを行った後、解散したのは昼過ぎと言った感じだ。
アレだけの人数が居ても、バトルロイヤル形式とは言えたった2戦で終わったのだから、さもあらんと言ったところか。
というわけで、丁度運動もして腹も減ってきていたので、キルシュも誘って飯を食うことになった。
場所は他に知らないので当然ながら例の居酒屋だ。
「それじゃ、予選お疲れ様って事で、乾杯」
「「かんぱーい」」
明日は一日休息日が取れるのだから酒を頼んでも平気だろう。というチェリーさんのゴリ押しによって事で昼間から酒はどうかと思いつつも祝いの席だからという事で勢いに流されることにした。
リキュールのソーダ割りっぽい感じの甘みがありサッパリした酒で、以前飲んで以来結構気に入っている。
「にしても、オイラの目に狂いはなかったな。やっぱり兄ちゃん達は予選突破してきたか」
「いや、それよりもキルシュ君こそヤバくない? 完全に回りを手玉に取ってたじゃないの」
「ま、あの程度はね。何人か傭兵くずれの『判ってる』連中も居たけど、まぁウチの傭兵団の連中ほどじゃなかったからね」
「やっぱり現役は違うわねぇ。私達も、この間たまたま緋爪っていう傭兵団といろいろあったんだけど、あそこの団員結構ヤバそうな人多かったのよねぇ」
「緋爪って、最大手の一角じゃないか。そりゃ人材も豊富だろうさ。小規模なウチの団とじゃ規模が雲泥の差だもの。っていうか、兄ちゃん達よくそんな所と繋がりもてたね」
「いや、まぁ色々合ってねぇ……」
実はもう一つ、錬鉄傭兵団ってとこの副団長とも面識を持つことがあったんだが、アレは密談だったから流石に外に漏らす訳にはいかないよな。
「ウチは緋爪ほど大所帯じゃないからねぇ。それでも世帯が小さいなりに粒ぞろいだからね。少数精鋭ってやつ?」
「まぁ、それはキルシュを見れば分かるな」
こんな若い団員ですらアレだけの立ち回りを見せるんだから、隊長とかのレベルになると相当なんじゃないだろうか。
キルシュのところの他の団員の事は知らないが、キルシュ本人だけで言うなら、質でいうなら緋爪よりも上だといえる。
少なくとも宿舎で共闘した緋爪の団員の中でキルシュを抑えられる奴は多分居ない。
というか錬鉄の隊長の人達とか、緋爪でも王城前の最前線で戦ってたバケモノ共クラス……とまでは流石に行かないが、それでも何時かはあのクラスに届くんじゃないかと思わせる程の才気は感じられるんだよな。
「そういえば、キルシュはなんでこの大会に? 傭兵団に所属しているなら、食いっぱぐれるって事はないんだろう?」
そんな状況になっているならとっくに傭兵団なんて解体してるだろうし、キルシュの腕ならいくらでも他の傭兵団に潜り込めるだろうしな。
「前の仕事でちょっとヘマしちまったからさ。ここで一度活躍を見せて、もう大丈夫だって見せつける!」
「なるほど、アピール目的か」
傭兵なんだから戦うのは人だろう。
なら人対人のこの闘技大会で結果を出すことで、自分が戦力になると知らしめようというわけか。
確かに、この街の大会は有名みたいだし、アピールの場としては最適だろうな。
「兄ちゃん達は腕試しだっけ? 目的はそれぞれ違うだろうけど、当日は手加減しねーからな?」
「そりゃ当然。キルシュくんと当たっても一切手加減なしだから」
「そうだな。競い合いで手を抜くのはやる方もやられる方も萎えるだけだし、やるなら徹底的にだ」
「そうそう、それで良い。じゃあ、その為にもまずは腹ごしらえだよな!」
「今日腹に溜めても明日には空っぽになるでしょうけどね~」
「姉ちゃん、それは言いっこ無しだって!」
次似合う時は真剣勝負だってのに、ここまであっけらかんとしていられるのも、傭兵として人と人とで命のやり取りを繰り返してきたキルシュの価値観なのかね。
チェリーさんの場合はただの無自覚だろうけど、まぁそれで場が暗くなるよりはこっちのほうが全然いいよな。
いくら察しの悪い俺だって、そんな連中の思惑に乗れば、ハメられたっておかしくない……ってくらいの想像はつくわけだ。
ならどうするか。
咄嗟に伸ばしてきた大男の腕を掻い潜るようにして、飛び出した勢いのまま、低姿勢のまま斜め後ろへ駆け抜ける。
大男としては追撃を放ちたいところだろうが……
「さぁ、どうする?」
相手は俺だけじゃない。大男の前にはタッグを組んだ敵が二人。いくら俺が気になっていたとしても迂闊に振り向くことはできないだろう。
案の定、一瞬迷いを見せたが、こちらへの注意は視線を飛ばす程度で、警戒は前方の二人へ向けている。
大男としてはさぞ困ったことだろうが、こっちとしてもハメられた身だからな。気を使ってやる余裕も理由もありはしない。
「デカイの! まずはそのヒョロいのを潰す。手を貸せ!」
今度は隠しもせずに共闘の呼びかけを始めた髭面だが、ソレに乗る程アホではないだろう。
なんせ目の前で共闘を打診したやつを直後にハメたところをこの大男本人が目にしてる訳だからな。
「ふん、まぁ良いだろう」
「おいおい……」
良いのかよ!? 良くないだろう!?
なに思いっきりこっち振り向いてんのコイツ!? 後ろから狙われるって解かんねぇのかよ!?
「目障りなザコから潰す、鉄則だ。何を仕出かしてくるか分からん手合は特にな」
確かに、ゲームとかでも乱戦ではまず弱い取り巻きのザコから減らすのが鉄則だけどさ!
こういう少人数バトルロイヤルとかだと普通強いやつを一致団結して潰そうとしねぇ? 俺の読んだ漫画だと大抵そうなってたんですけど!?
「俺達がまず仕掛ける、アンタは逃げ道を塞いでくれ!」
「ああ」
流石に、俺を引っ掛けた手をもう一度使う気は無いようだな。先に仕掛けて信用を得るって腹か。
左右から髭面と糸目の二人が、その間を埋めるようにして後方から大男が一気に詰めてくる。
こりゃ流石にヤバイ。
多少痛い目見るのは我慢して、先に飛びかかってきたほうをなんとか受けきって、無理やり突破するしか無いか?
「恨むなよ坊主」
「貰ったぞ!」
っていうか、完全同時攻撃じゃねぇか!?
くっそ、こいつは凌げるか?
「ああ、貰ったぞ」
「ガッ……!?」
身構えた俺のすぐ横を、髭面が飛び抜けていった。
動揺したのか、一瞬足が止まった糸目のスキを着いて、反対側へ飛び退る。
何事かと確認してみれば、大男が脚を振り抜いていた。察するに、髭面を後ろから蹴り飛ばしたらしい。当然髭面はリングアウトだ。
「テメェッ!?」
状況に気づいた糸目が、脚を振り抜いた体勢の大男へと躍りかかる。
軽快なステップで、一瞬にして片足立ち状態の大男の背面側へ回り込み、軸足を折り砕くようなケンカキックを膝裏に叩き込んでいた。
そう、背後から膝裏へだ。それって要するに膝カックンだな。
糸目にしてみれば蹴り飛ばして髭面の後追いの形でリングアウト狙いのつもりだったんだろうが、その場に腰を落とすように倒れた大男の動きに一瞬反応が遅れた。
気がついたときにはもう遅い。膝から崩れ落ちるように倒れた大男の腕が、蹴り出した糸目の脚をしっかりと掴んでいる。
「クソッ、離せ……!」
「ああ、離してやるとも」
そのままジャイアントスイングよろしく一回転振り回し、そのままリングの外へ放り投げた。これで糸目もリングアウト。
これで残ったのは俺と大男の二人だけなのだが、このチャンスを見逃してやるほど甘くはない。
どれだけガタイが良かろうと、人間をあんな勢い良く放り投げれば当然ながら慣性が働いて体勢が崩れる。
どんなに踏ん張ろうが、勢いよく投げれば投げる程にに放り投げた側に身体が泳いでしまうのは仕方がない訳で、いくら2mを超える巨漢であってもその状態で、こんな風に後ろから突き飛ばされれば……
「ほい」
「あっ……!?」
大男は踏ん張りが効かずに、そのままたたらを踏むようにしてリングの外へ。
どういう目論見があって裏切ったのかは判らんが、共闘を持ちかけられたわけでもないのだから隙は全力でつかせてもらうのが礼儀というものだろう。手加減ナメプは良くないからな、うん。
「…………」
「…………」
とまぁ、少々気不味いというか締まらない決着にはなるが、こんな感じで体格ハンデがあろうが、立ち回り次第でやり様はいくらでもあるという訳だ。
「そこまで! このステージの勝者はキョウ・ハイナとする!」
◇◇◇
そんな訳で、人数調整しながらもう一度バトルロイヤルが終わってみれば本戦出場可能な8人が決定していた。
その中には俺やチェリーさん、キルシュも当然含まれる。
というか、参加者の平均的なレベルが思っていたほど高くなかった。
ソレもキルシュに言わせると
「この大会自体が年に一度の大祭の予選の予選みたいなもんだからね」
という事らしい。
月イチの闘技大会でも大祭直前の方が滑り込みを狙った強者が多く集まる事が多かったりと、参加者のレベルには結構偏りがあるようだ。
ちなみに過去の大会で結果を残した選手は3月に一回の練武祭という大型大会でのシードが決まっているので、小さな大会には顔を出さない。それもあって練武祭直後の闘技大会クラスだとそこまでの強者が集まることはあまりないという事のようだ。
とはいっても、本戦組に残ったメンツはかなりの手練が揃っているように見受けられる。
二度目の予選が思ったより早く終わったせいで、他のステージの様子を見ることができたのだが、純粋なレベルでいえば、残った8人の中で俺は底辺側だろう。
一人だけ俺と同等か、下手するとそれ以下のやつも混じってはいたが、下を見ていても仕方がない。
一番ヤバそうなのはやはりキルシュだ。
傭兵くずれではなく現役バリバリの傭兵で、8人の中でも特に動きが目に見えてよかった。
しかも、常に余裕を崩さず、相手をどうコントロールしようか楽しんでいる節すら伺えた。明らかに実力を隠しているな。
それと、係員の代わりに参加者を読み上げて目立っていたオッサン。アレも中々だ。
キルシュのような派手さはないが、地味かつ確実に相手を叩き落としていた。なんというか効率重視の動き方だ。
おそらく傭兵か兵士崩れ。豊富な実戦経験に裏打ちされた最適行動とか、そんな感じの洗練された動きだった。
多分あの人、ステータスお化けのチェリーさんでも、まともにやったら勝てないんじゃないだろうか。
そこにチェリーさんを加えた3人が、今大会の要注意選手ってとこだな。
残った八人に対して、明後日の本戦で諸注意事項や時間の確認などを行った後、解散したのは昼過ぎと言った感じだ。
アレだけの人数が居ても、バトルロイヤル形式とは言えたった2戦で終わったのだから、さもあらんと言ったところか。
というわけで、丁度運動もして腹も減ってきていたので、キルシュも誘って飯を食うことになった。
場所は他に知らないので当然ながら例の居酒屋だ。
「それじゃ、予選お疲れ様って事で、乾杯」
「「かんぱーい」」
明日は一日休息日が取れるのだから酒を頼んでも平気だろう。というチェリーさんのゴリ押しによって事で昼間から酒はどうかと思いつつも祝いの席だからという事で勢いに流されることにした。
リキュールのソーダ割りっぽい感じの甘みがありサッパリした酒で、以前飲んで以来結構気に入っている。
「にしても、オイラの目に狂いはなかったな。やっぱり兄ちゃん達は予選突破してきたか」
「いや、それよりもキルシュ君こそヤバくない? 完全に回りを手玉に取ってたじゃないの」
「ま、あの程度はね。何人か傭兵くずれの『判ってる』連中も居たけど、まぁウチの傭兵団の連中ほどじゃなかったからね」
「やっぱり現役は違うわねぇ。私達も、この間たまたま緋爪っていう傭兵団といろいろあったんだけど、あそこの団員結構ヤバそうな人多かったのよねぇ」
「緋爪って、最大手の一角じゃないか。そりゃ人材も豊富だろうさ。小規模なウチの団とじゃ規模が雲泥の差だもの。っていうか、兄ちゃん達よくそんな所と繋がりもてたね」
「いや、まぁ色々合ってねぇ……」
実はもう一つ、錬鉄傭兵団ってとこの副団長とも面識を持つことがあったんだが、アレは密談だったから流石に外に漏らす訳にはいかないよな。
「ウチは緋爪ほど大所帯じゃないからねぇ。それでも世帯が小さいなりに粒ぞろいだからね。少数精鋭ってやつ?」
「まぁ、それはキルシュを見れば分かるな」
こんな若い団員ですらアレだけの立ち回りを見せるんだから、隊長とかのレベルになると相当なんじゃないだろうか。
キルシュのところの他の団員の事は知らないが、キルシュ本人だけで言うなら、質でいうなら緋爪よりも上だといえる。
少なくとも宿舎で共闘した緋爪の団員の中でキルシュを抑えられる奴は多分居ない。
というか錬鉄の隊長の人達とか、緋爪でも王城前の最前線で戦ってたバケモノ共クラス……とまでは流石に行かないが、それでも何時かはあのクラスに届くんじゃないかと思わせる程の才気は感じられるんだよな。
「そういえば、キルシュはなんでこの大会に? 傭兵団に所属しているなら、食いっぱぐれるって事はないんだろう?」
そんな状況になっているならとっくに傭兵団なんて解体してるだろうし、キルシュの腕ならいくらでも他の傭兵団に潜り込めるだろうしな。
「前の仕事でちょっとヘマしちまったからさ。ここで一度活躍を見せて、もう大丈夫だって見せつける!」
「なるほど、アピール目的か」
傭兵なんだから戦うのは人だろう。
なら人対人のこの闘技大会で結果を出すことで、自分が戦力になると知らしめようというわけか。
確かに、この街の大会は有名みたいだし、アピールの場としては最適だろうな。
「兄ちゃん達は腕試しだっけ? 目的はそれぞれ違うだろうけど、当日は手加減しねーからな?」
「そりゃ当然。キルシュくんと当たっても一切手加減なしだから」
「そうだな。競い合いで手を抜くのはやる方もやられる方も萎えるだけだし、やるなら徹底的にだ」
「そうそう、それで良い。じゃあ、その為にもまずは腹ごしらえだよな!」
「今日腹に溜めても明日には空っぽになるでしょうけどね~」
「姉ちゃん、それは言いっこ無しだって!」
次似合う時は真剣勝負だってのに、ここまであっけらかんとしていられるのも、傭兵として人と人とで命のやり取りを繰り返してきたキルシュの価値観なのかね。
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