160 / 330
三章
百五十二話 決勝大会Ⅲ
しおりを挟む
◇◇◇
第二回戦の相手が田舎から出てきた青二才と知って、しめたものだと思ったんだよ。
あの時はな。
どうせ、あのデカブツが勝ち上がってくるものだと確信していたから、つい油断して機会があったにもかかわらず戦力偵察を怠った。
あのデカブツとは既に2度戦ったことがある。一度目は戦場で、お互い傭兵として。二度目は闘技場の闘士としてだ。
戦場では引き分け、闘技場では俺の勝ち越しだ。
予選での動きも確認したが、あの野郎は更に馬鹿力を強化してきたようだが、それだけだった。
戦場であればそれでも良かったかもしれないが、邪魔の入らない一対一での戦いでは駆け引きと技こそが勝敗を握るってものだ。
だから、あの脳筋が勝ち上がってきたところで驚異にはなりえないと、そう考えていた。
違った。
勝ち上がってきたのは、まさかの青二才。
勿論勝ち上がったということは、運だけではない何かがあるということだろう。見た目だけで判断するほど俺も若くはない。
だがその上で、長年戦場で何千人もの戦士を見てきたからこそ、コイツは恐るるに足らないと判断できる
その肉付きは鍛え始めと言ったところだろうか。戦場に出るにはまだまだ細い。
そして佇まいから圧を感じない。戦場で戦い続けた奴らは、本人の意図とは別に決まって独特の圧を放つ。ただ立っているだけで、周囲への警戒や威圧をもはや無意識で行っているからだ。
だがこの若造からはそれを感じない。自然体と言えば聞こえは良いが、要するに無警戒に突っ立っているだけだ。目の前にすでに戦うべき敵がいるにもかかわらずだ。
気になるとしたら、目くらいか。
他のすべてが落第点にもかかわらず、何故かヤツの視線だけは気にか掛かる。
常にせわしなく俺や周囲を伺うその視線は、俺たち傭兵であればまず見せないものだ。やらないわけじゃない。視線の動きは重要で、迂闊に見せれば相手にこちらの意図を察知されてしまいかねないから普通は視線の動きは隠すものというだけだ。
そういう意味でも素人臭さが隠しきれていないのだが……あれだけ視線を放って、一体何をそんな忙しなく確認しているというのか。
なんにせよ、総じてザコであると判断できる訳だ。
それをあの馬鹿はこんなガキに倒されたという。かつて俺と互角に戦った野郎が、こんなガキに!
笑えねぇなぁ。野郎が誰に負けようが知ったことではないと思ってはいたが、負けた相手がまだ戦にも出たことの無さそうな田舎のガキとくれば、かつて互角と評された俺の株まで下がっちまう。
許せるわけがねぇ。
このガキには恨みはないが、見せしめに踊ってもらう事にしようか。
分不相応な実力で迂闊に大会に首を突っ込んだ事に対する、高~い授業料といったところだ。
偶然の運で勝ち上がったこのガキと、後進に道を譲ったとは言え、戦場で名を馳せた俺。その格の違いを、せいぜい観客に知らしめてやるとしよう。
戦いが始まるまで、間違いなく俺はそう思って居た。
違った。
ぜんぜん違う。
最初の迎撃はかわされた。当然だ。わざと避けられるようにして放ったのだから。
一瞬で終わっては俺が困る。
もっともっと追い詰めて、手も足も出なくなった所を華麗に倒す。
或いはズタボロにして投了させるのもありか。それはコイツの根性次第だから、最悪最後まで負けを認めないかもしれないが、それはそれで力の差が観客にも歴然に伝わるだろうから悪くない。
そして、3度目の攻防辺りから感触が変わった。
驚いて大げさに距離を離していたのが、距離を離さずに捌いてみせた。
まだまだ動きは危なっかしいし、不格好にも程があるが、表情から驚きが消えていた。
5度目まではマグレかとも思ったが7度目で奴が受けながら踏み込んできた事で確信した。俺の動きが対応されていると。
「おやおや、オッサンも歳かね。こうもあっさり技を見切られると軽く凹むねぇ」
「流石にナメて見せすぎっすよ。どれだけ厄介でもこう何度も見せられれば、誰でも対応策を考えるって。それでもやり難いことには変わりないんだけどさ」
対応しようとしても、実際そう簡単に出来るわけがねぇだろうが!
冗談じゃねぇぞ、俺はこの技で20年近く戦場を渡ってきたんだ。そう簡単に対応できるものじゃないのは俺が誰よりも知っている。
そうでなければ、これと言って身体能力や才能に飛び抜けた武器のない俺が、切り込み隊長としてバケモノ共が蠢くあの戦場で生き抜こるなんて出来やしなかった。
だというのにこのガキは……!
やり難いというのは嘘じゃないんだろう。時折攻めあぐねているような動きが見える。
だが、「やり難い」止まりでしかない。体術のすべてを対応された訳ではないと思いたいが、少なくともこちらの反撃はもう殆ど見切られていると見ていい。こちらの反撃を明らかに狙い撃ちにしようとしている攻撃が見え隠れしてきているからだ。
このままでは何時か捉えられる。出し惜しみなんてしている余裕はない。もっと速度差を極端に、だが悟られないよう巧妙に……
「ぐっ……?」
足運びを変えようとして、足がもつれる。
そこを狙いすましたかのように……いや、間違いなく狙いすまして刈り取りに来た。
咄嗟に身体が反応してくれたお陰で危うく胴への直撃は避けたが、残された足をかなり深く刈られちまった。
今はまだ熱を持っているだけだが、すぐに痛みがぶり返してくるはずだ。
そうなる前に対応手を決めて置かなければ、すぐに痛みに邪魔されてまともに考えることもできなくなる。
さぁ、どうする? 動揺を悟らせないよう、視線を動かさずに相手の顔固定して、そして気がついてしまった。
「……畜生、そういう事かよぉこのガキぃ」
「あ、バレた?」
この野郎……こっちはもう限界ギリギリにやせ我慢を重ねて、さらに奥の手まで切ろうってのに、息一つ乱してやがらねぇ。
俺の動きに翻弄されてるように見せかけて、全く動揺なんてしてなかったってわけだ。
こんな若造の完全に手のひらの上だったってことかよ? 流石に凹むぞ……
「ジジィは敬うもんだって教えられなかったか? 小僧」
「おや、オッサンなんじゃなかったっけ? いやぁ、姑息さが足らないなんて注意されたもんだから、ちょっと意識してみたんだけど、どうよ?」
あぁクソ、確かにそんな事を言った覚えがある。
口は災いの元ってか? 自業自得じゃねぇか畜生が!
◇◇◇
ほら案の定だ。
確かにあの体捌きは厄介だが、あんな動きを維持していて、疲れない訳がないからな。
本来なら、すぐに動かされていることに気付くんだろうが、明らかに俺のことナメてたからな。格下相手にそんな事にはならないとか思ってたんなら油断しすぎなんだよなぁ。
まぁ、今更気づいたところでもう遅いが。
チェリーさん辺りは「戦わないと経験が積めないんじゃないの?」とかツッコミを入れてきそうな気がする戦い方だが、俺はそうは思わない。
戦いを拒否してるわけでもなく、正面からぶつかっても勝てない格上相手の攻略としては罠にはめて潰すという、至極真っ当なことをしているだけだからな。
特に相手がこのオッサンのようなタイプの面倒臭い戦い方をする相手であれば、これ以外の方法ではまず勝ち目がない。
あのオッサンの戦法の持ち味は足運びと体捌き、攻撃の3つの速度差をすべてずらす事で、対処困難な動きを作り出すというものだ。しかもさらに厄介なことにあのオッサンはそのずらした動きの内、攻撃のための動きだけをさらに逆転させてきたりもする。
体の動きはあきらかに回避の挙動。槍を支える右腕も足運びも後退する動きなのに、添え手のはずの左腕だけが猛烈な勢いで槍を突いてきたりするのだから始末に負えない。
しかも両利きなのか、頻繁に構えを左右で切り替えてくる徹底ぶりだ。
実際、やられてみると理屈がわかっていても対処は困難だと思い知らされた。
だから正面からの対策を放棄した。
搦手で来るというのなら、こちらも搦手で対処するだけだ。
カウンターも、攻撃の際のタイミングずらしも、基本的に引きながら行っているという癖を、本人は多分気づいていない。
攻撃中ですら、必ず身を引きつつタイミングをずらす。
おそらく、相手の攻めを出だし狙いやすいから、戦場であれば初手で必殺していただろうから、自然と一番勝率の高いその動きが染み付いてしまったんだろう。
だがそんなたった一つの癖でも、弱点があると判れば、そこを軸に対処の取りようはある。
こと、この手の相手の行動の穴を突いて対処するって行動にかけては、テーブルゲーマーと格ゲー、アクションゲーマーの右に出るものは居ないだろう。一手、1フレーム。その隙間を抜く事にすべてを掛けている人種だからな。
あのオッサンは、一対一のこの試合で、よりによってナメプでカラクリを見せるなんて馬鹿な真似をした。
あの戦い方は、相手が理解し対処される前にハメ殺す『わからん殺し』でこそ真価を発揮するのだろうに。
最初の一撃、あの状況でカウンターを外した時点でナメられてるのは判ったから、後は流れでどうとでも出来る。
こちとら元格ゲーマーだぞ。舐めプと荒らしへの対処なんてもはや日常茶飯事だ。対策だってほぼ無意識にできるってもんだ。
その対策の一つが、間合いに入らないという単純なものだ。
本命の突きが必ず下がりながらの引き撃ちだというのなら、間合いに踏み込まないだけで、主力技を潰せる。
が、それだとあからさま過ぎるから、あえて踏み込んで見せたりもする。当然反撃が飛んでくる前提でだ。
いくら厄介な技でもどう飛んでくるか理解していれば対処は簡単だ。あとはわざと『対応しようとしては居るが、やり難そうにしている風』に振る舞えばいいだけだ。ここで大げさに対応したり、反応しなさすぎない事がばれない秘訣だな。
かくして、見事に騙されたオッサンは、哀れ息も絶え絶えといった所だ。
おそらく、俺の身体がまだ鍛え始めたばかりという事や、戦い慣れていないというのをちゃんと把握した上で、ナメプに走ったんだろうが、運が悪かったな。
多分見立て自体は間違ってなかったと思うが、残念ながらこの体は経験不足など物ともしない、本来の俺の運動不足ボディとは出来の違うゲーム用のアバターなんだよなぁ。
俺自身も未だにこの身体での戦いには慣れきっていないというのは事実ではある。だが、不慣れなのは身体を使った戦闘するこの感覚だけの話で『誰かと対戦する』という点に関してだけは、自分で言うのも何だが結構な結果を残してるぜ? 俺は。
第二回戦の相手が田舎から出てきた青二才と知って、しめたものだと思ったんだよ。
あの時はな。
どうせ、あのデカブツが勝ち上がってくるものだと確信していたから、つい油断して機会があったにもかかわらず戦力偵察を怠った。
あのデカブツとは既に2度戦ったことがある。一度目は戦場で、お互い傭兵として。二度目は闘技場の闘士としてだ。
戦場では引き分け、闘技場では俺の勝ち越しだ。
予選での動きも確認したが、あの野郎は更に馬鹿力を強化してきたようだが、それだけだった。
戦場であればそれでも良かったかもしれないが、邪魔の入らない一対一での戦いでは駆け引きと技こそが勝敗を握るってものだ。
だから、あの脳筋が勝ち上がってきたところで驚異にはなりえないと、そう考えていた。
違った。
勝ち上がってきたのは、まさかの青二才。
勿論勝ち上がったということは、運だけではない何かがあるということだろう。見た目だけで判断するほど俺も若くはない。
だがその上で、長年戦場で何千人もの戦士を見てきたからこそ、コイツは恐るるに足らないと判断できる
その肉付きは鍛え始めと言ったところだろうか。戦場に出るにはまだまだ細い。
そして佇まいから圧を感じない。戦場で戦い続けた奴らは、本人の意図とは別に決まって独特の圧を放つ。ただ立っているだけで、周囲への警戒や威圧をもはや無意識で行っているからだ。
だがこの若造からはそれを感じない。自然体と言えば聞こえは良いが、要するに無警戒に突っ立っているだけだ。目の前にすでに戦うべき敵がいるにもかかわらずだ。
気になるとしたら、目くらいか。
他のすべてが落第点にもかかわらず、何故かヤツの視線だけは気にか掛かる。
常にせわしなく俺や周囲を伺うその視線は、俺たち傭兵であればまず見せないものだ。やらないわけじゃない。視線の動きは重要で、迂闊に見せれば相手にこちらの意図を察知されてしまいかねないから普通は視線の動きは隠すものというだけだ。
そういう意味でも素人臭さが隠しきれていないのだが……あれだけ視線を放って、一体何をそんな忙しなく確認しているというのか。
なんにせよ、総じてザコであると判断できる訳だ。
それをあの馬鹿はこんなガキに倒されたという。かつて俺と互角に戦った野郎が、こんなガキに!
笑えねぇなぁ。野郎が誰に負けようが知ったことではないと思ってはいたが、負けた相手がまだ戦にも出たことの無さそうな田舎のガキとくれば、かつて互角と評された俺の株まで下がっちまう。
許せるわけがねぇ。
このガキには恨みはないが、見せしめに踊ってもらう事にしようか。
分不相応な実力で迂闊に大会に首を突っ込んだ事に対する、高~い授業料といったところだ。
偶然の運で勝ち上がったこのガキと、後進に道を譲ったとは言え、戦場で名を馳せた俺。その格の違いを、せいぜい観客に知らしめてやるとしよう。
戦いが始まるまで、間違いなく俺はそう思って居た。
違った。
ぜんぜん違う。
最初の迎撃はかわされた。当然だ。わざと避けられるようにして放ったのだから。
一瞬で終わっては俺が困る。
もっともっと追い詰めて、手も足も出なくなった所を華麗に倒す。
或いはズタボロにして投了させるのもありか。それはコイツの根性次第だから、最悪最後まで負けを認めないかもしれないが、それはそれで力の差が観客にも歴然に伝わるだろうから悪くない。
そして、3度目の攻防辺りから感触が変わった。
驚いて大げさに距離を離していたのが、距離を離さずに捌いてみせた。
まだまだ動きは危なっかしいし、不格好にも程があるが、表情から驚きが消えていた。
5度目まではマグレかとも思ったが7度目で奴が受けながら踏み込んできた事で確信した。俺の動きが対応されていると。
「おやおや、オッサンも歳かね。こうもあっさり技を見切られると軽く凹むねぇ」
「流石にナメて見せすぎっすよ。どれだけ厄介でもこう何度も見せられれば、誰でも対応策を考えるって。それでもやり難いことには変わりないんだけどさ」
対応しようとしても、実際そう簡単に出来るわけがねぇだろうが!
冗談じゃねぇぞ、俺はこの技で20年近く戦場を渡ってきたんだ。そう簡単に対応できるものじゃないのは俺が誰よりも知っている。
そうでなければ、これと言って身体能力や才能に飛び抜けた武器のない俺が、切り込み隊長としてバケモノ共が蠢くあの戦場で生き抜こるなんて出来やしなかった。
だというのにこのガキは……!
やり難いというのは嘘じゃないんだろう。時折攻めあぐねているような動きが見える。
だが、「やり難い」止まりでしかない。体術のすべてを対応された訳ではないと思いたいが、少なくともこちらの反撃はもう殆ど見切られていると見ていい。こちらの反撃を明らかに狙い撃ちにしようとしている攻撃が見え隠れしてきているからだ。
このままでは何時か捉えられる。出し惜しみなんてしている余裕はない。もっと速度差を極端に、だが悟られないよう巧妙に……
「ぐっ……?」
足運びを変えようとして、足がもつれる。
そこを狙いすましたかのように……いや、間違いなく狙いすまして刈り取りに来た。
咄嗟に身体が反応してくれたお陰で危うく胴への直撃は避けたが、残された足をかなり深く刈られちまった。
今はまだ熱を持っているだけだが、すぐに痛みがぶり返してくるはずだ。
そうなる前に対応手を決めて置かなければ、すぐに痛みに邪魔されてまともに考えることもできなくなる。
さぁ、どうする? 動揺を悟らせないよう、視線を動かさずに相手の顔固定して、そして気がついてしまった。
「……畜生、そういう事かよぉこのガキぃ」
「あ、バレた?」
この野郎……こっちはもう限界ギリギリにやせ我慢を重ねて、さらに奥の手まで切ろうってのに、息一つ乱してやがらねぇ。
俺の動きに翻弄されてるように見せかけて、全く動揺なんてしてなかったってわけだ。
こんな若造の完全に手のひらの上だったってことかよ? 流石に凹むぞ……
「ジジィは敬うもんだって教えられなかったか? 小僧」
「おや、オッサンなんじゃなかったっけ? いやぁ、姑息さが足らないなんて注意されたもんだから、ちょっと意識してみたんだけど、どうよ?」
あぁクソ、確かにそんな事を言った覚えがある。
口は災いの元ってか? 自業自得じゃねぇか畜生が!
◇◇◇
ほら案の定だ。
確かにあの体捌きは厄介だが、あんな動きを維持していて、疲れない訳がないからな。
本来なら、すぐに動かされていることに気付くんだろうが、明らかに俺のことナメてたからな。格下相手にそんな事にはならないとか思ってたんなら油断しすぎなんだよなぁ。
まぁ、今更気づいたところでもう遅いが。
チェリーさん辺りは「戦わないと経験が積めないんじゃないの?」とかツッコミを入れてきそうな気がする戦い方だが、俺はそうは思わない。
戦いを拒否してるわけでもなく、正面からぶつかっても勝てない格上相手の攻略としては罠にはめて潰すという、至極真っ当なことをしているだけだからな。
特に相手がこのオッサンのようなタイプの面倒臭い戦い方をする相手であれば、これ以外の方法ではまず勝ち目がない。
あのオッサンの戦法の持ち味は足運びと体捌き、攻撃の3つの速度差をすべてずらす事で、対処困難な動きを作り出すというものだ。しかもさらに厄介なことにあのオッサンはそのずらした動きの内、攻撃のための動きだけをさらに逆転させてきたりもする。
体の動きはあきらかに回避の挙動。槍を支える右腕も足運びも後退する動きなのに、添え手のはずの左腕だけが猛烈な勢いで槍を突いてきたりするのだから始末に負えない。
しかも両利きなのか、頻繁に構えを左右で切り替えてくる徹底ぶりだ。
実際、やられてみると理屈がわかっていても対処は困難だと思い知らされた。
だから正面からの対策を放棄した。
搦手で来るというのなら、こちらも搦手で対処するだけだ。
カウンターも、攻撃の際のタイミングずらしも、基本的に引きながら行っているという癖を、本人は多分気づいていない。
攻撃中ですら、必ず身を引きつつタイミングをずらす。
おそらく、相手の攻めを出だし狙いやすいから、戦場であれば初手で必殺していただろうから、自然と一番勝率の高いその動きが染み付いてしまったんだろう。
だがそんなたった一つの癖でも、弱点があると判れば、そこを軸に対処の取りようはある。
こと、この手の相手の行動の穴を突いて対処するって行動にかけては、テーブルゲーマーと格ゲー、アクションゲーマーの右に出るものは居ないだろう。一手、1フレーム。その隙間を抜く事にすべてを掛けている人種だからな。
あのオッサンは、一対一のこの試合で、よりによってナメプでカラクリを見せるなんて馬鹿な真似をした。
あの戦い方は、相手が理解し対処される前にハメ殺す『わからん殺し』でこそ真価を発揮するのだろうに。
最初の一撃、あの状況でカウンターを外した時点でナメられてるのは判ったから、後は流れでどうとでも出来る。
こちとら元格ゲーマーだぞ。舐めプと荒らしへの対処なんてもはや日常茶飯事だ。対策だってほぼ無意識にできるってもんだ。
その対策の一つが、間合いに入らないという単純なものだ。
本命の突きが必ず下がりながらの引き撃ちだというのなら、間合いに踏み込まないだけで、主力技を潰せる。
が、それだとあからさま過ぎるから、あえて踏み込んで見せたりもする。当然反撃が飛んでくる前提でだ。
いくら厄介な技でもどう飛んでくるか理解していれば対処は簡単だ。あとはわざと『対応しようとしては居るが、やり難そうにしている風』に振る舞えばいいだけだ。ここで大げさに対応したり、反応しなさすぎない事がばれない秘訣だな。
かくして、見事に騙されたオッサンは、哀れ息も絶え絶えといった所だ。
おそらく、俺の身体がまだ鍛え始めたばかりという事や、戦い慣れていないというのをちゃんと把握した上で、ナメプに走ったんだろうが、運が悪かったな。
多分見立て自体は間違ってなかったと思うが、残念ながらこの体は経験不足など物ともしない、本来の俺の運動不足ボディとは出来の違うゲーム用のアバターなんだよなぁ。
俺自身も未だにこの身体での戦いには慣れきっていないというのは事実ではある。だが、不慣れなのは身体を使った戦闘するこの感覚だけの話で『誰かと対戦する』という点に関してだけは、自分で言うのも何だが結構な結果を残してるぜ? 俺は。
2
あなたにおすすめの小説
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる